2021/12/16 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
『調香師』 > 今日の香りは遠くまで、遠くの誰かに届くまで

たまに導になる様に、そう細く伸びる香りを焚く日もある
例えば噂だけを聞いて探す人。例えば路地裏に迷い込んで出口を見失った人
例えば、妖精の様にこっそりと印だけ置いたあの人の為に

先述しよう。今日はその為の日、調香師は『貴女』の為に今日は在る
時間が進めば、彼女もそれを知る事になるだろう...

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に松葉牡丹さんが現れました。
松葉牡丹 >  
「ここで大丈夫、かな……?」

常世歓楽街、眠らないネオンライトの街。
常世渋谷と同様所謂若者向けのぎらつく街だ。
少女は普段此処迄遠出はしない。身体的理由が大きいし
何より行く理由が余りないからだ。
ヘンな"キャッチ"とかにつかまりそうになったし
何よりここの街の空気は何処か苦手だった。

そんなこんなでやっとの思い出辿り着いた裏路地。
表の喧騒から外れた静かな空気と漂う香り。
今、目の前にあるお店からまるで導のように漂っている。

あの時嗅いだ匂いと同じだ。

「……よ、よーし……!」

ちょっとアングラな感じが怪しいけど、わざわざの御指名(だと思う)だ。
ふんす、と左手でぐっと気合を入れなおせば電動車椅子の車輪が回る。

「お、お邪魔しまーす……」

扉が開くと同時に、か細い声が店内に響いた。

『調香師』 > 鈴の音と共に扉が開かれれば、その方向は封を切る
歓楽街に漂う強い香水や浮ついた空気の匂いとは違う
不可思議に形容しがたく、その上で心に寄り添うような


木を合わせた様な簡易なスロープを乗り越えると、
ことん。独りでに物が擦れる音がした

===いらっしゃい===

それは空耳。ナニカの気配がありながら、『知覚出来る』ナニモノも無い
透明な彼女はそんな店内の中、既に目の前に立って居たのだった


「ようこそ。きちんと来てくれて、嬉しいな」

少女の手が貴女に触れて、初めてその存在は『記憶され始めた』

松葉牡丹 >  
「あ……」

鼻腔を擽る、というよりも心をくすぐるような匂いだった。
普段人に見せない沈殿した心に寄り添ってくれるような不思議な匂い。
どう表現していいかわからないけれど、その匂いに悪い気はしない。

音と気配の方向に目を向けるも、何も見えない。

「……?」

気のせいだったのだろうか。
そう思った矢先、視界に見知らぬ少女が"いた"。

「!? きゃっ!?あ、え、えっと……?」

驚きの声が漏れる。
車椅子の上で驚きで思い切り上半身を下げようとしたが
生憎この背もたれはそこまで曲がるように出来ていない。
表情には驚きと、僅かな恐怖が浮かんだけれど
漂う匂いがそれらをすぐに融和し、その心も表情も落ち着いていく。

「……アナタが私を呼んでくれた人?あ、えっと……」

彼女が何者かは分からない。
ただ、不思議な雰囲気の子だった。
胡乱な視線を彼女に向けながらおずおずと尋ねた。
体に触れられる手には困惑を示すも、この体ではどうともしがたいし
何より何故か悪い気はしない。何の変哲もない、人より"不足"した暖かな一人の少女の体だ。

『調香師』 > 「調香師。そう呼んで?私の出来る事はそれ以上でも、以下でもないから」

貴女の目の前で数度、手を振った後に頷いて
彼女との距離が近ければ近いほど、僅かながらも香りは濃く
纏うのみではなく発していようものなのだと、気付けたかどうかはさておいて

きちんと自分の事を見ている、そう確信した『調香師』は頷いて
少女らしくも作り物の笑みを向けて、貴女から一歩退きました

「来てくれてありがとうね?
 んひひ、図書館で見た時から気になってたから。車椅子の人
 入り口、どうだった?気になった?入りやすかった?」

そうして少女はマイペースに尋ねる
彼女に何か欠けているとすれば、人間らしい『ナニカ』であろうが
少なくともそれを不足とは毛頭も思ってなさそうな存在の調子

松葉牡丹 >  
「調香師、さん?変わった名前なんですね」

或いは名称なんだろうか。
調香師、名前からして匂いを操る人なんだろうか。
要するにこの"匂い"は彼女の商品と言う事かもしれない。
まだ困惑が残っているけど、それ以上に興味が強い。

「あ、え、えっと。は、はい!」

困惑しているせいか、思わず勢いのまま返事をしてしまった。
一歩引く彼女を見やりながら、車椅子の少女は左手を胸元に置いた。
何だか妙に落ち着かない。彼女のペースに乱されているのか、それとも匂いのせいなのか。
思えば個人店にしては気を使った配置だった。所謂バリアフリー。
どきまぎする胸元の衣服を見ながら、おずおずと調香師を見やる。

何処となく湧き上がる得体の知れなさを感じる。
初めてのものに対しる恐怖感なのか、それとも……わからない。
少し間をおいて、あ、あの、と続けて。

「お誘いしてくれたのは調香師さん、なんですよね?
 えっと、どうして私なんですか?他にもいっぱい人はいたと思うんですけど……」

それがまずは、一番気になった。
あの時図書館で自分を見定めたのは彼女だ。
けど、あの図書館には幾らでも他の生徒がいたはず。
わざわざ『こんな自分』を選んだ意味が、知りたかった。

『調香師』 > 「つまり、理由だね?うん、終わった事は簡単に言えるかな
 まずはあなたが車椅子だったから?うん、私の友達もそうだから
 みひ。きちんと入りやすいって答えてくれて嬉しかったな」

両指を合わせて口元の前に。指を押し込んで戻して
少女姿の戯れ模様、口ぶりの明快さは、次に迷いの形を示す

「でもあなたを見つけた理由はどうだったかな?
 もしかしたら逆だったのかも?あなたの方が選んでくれた?

 ここに来たって事は、カードを見つけてくれたって事だし
 ここに来たって事は、匂いの事を覚えてくれたって事だし
 うん、やっぱりこっち。『あなたが私を選んでくれた』、にひゃひゃ」

答えが出たとばかりに、表情の変わらない口から笑う声が漏れる
今日見つけてくれた貴女へ、彼女は手を差し伸べた

「今日のお客様はあなたで。今日の私は、あなたの為の事をする
 あなたの為の香り、サービス。そういう物に興味あるかな?」

松葉牡丹 >  
「…………」

要するに、"ただ目立ったから"って事なんだろう。
彼女と友人と同じ。ああ、なるほど。
あのスロープも要するにその友人の為のようだ。
それらのテストみたいなものか。それもそうだ。
初対面の相手にそんなロマンチックな、"私なんか"が報われる事は無い。
そんな淡い希望を抱いてしまったからわざわざ来てしまったんだ。
自然と胸元に置いた左手が、膝に滑り落ちてしまった。

「あはは……珍しいですよね、車椅子」

こう言っては何だが今やこの世界の技術力はすさまじいものだ。
人間は何時か、時間さえ支配できると誰かが言っていた。
それが証明されたかは定かでは無いが、使えなくなった『部位』を『入れ替える』
事位は平然と出来る。所謂義肢だけではなく、その体を『別のもの』に入れ替えることだってできる。

勿論、様々な理由でそれらが出来ない人もいる。
生身の体に執着する人間だっている。
少数派とは言わないが、"珍しい"というのは確かだ。
車椅子の少女は笑った。自分の気持ちを押し殺すように。

「……え?えっと、……そ、それは……」

そう思った矢先にこう言われてしまったのだもの。
思わずばつが悪そうに視線を逸らした。
自分でも嫌になる程に後ろ向きな考えだったものだから
まるで、物言いが"慰め"に聞こえてしまう位に屈折していた。

「こ、好奇心と言うか……そもそも、きっかけなければ来なかったし……」

本当にそれだけだ。
選ぶとか選ばないとか、大した理由じゃないって。
色々羅列したいけど、差し伸べられ手をちらりと見やった。

「…………」

「……私の為の……」

数刻、考えて。
唯一残された左手を恐る恐る差し伸べられた手に置いた。

「きょ、興味が無いと言えばウソになります……。
 け、けど、私なんかに見合うものがあるでしょうか……?」

『調香師』 > 手を差し伸べた彼女は動かない。貴女が落胆し、困惑し、淡く期待を持ったのかもしれないその間ずっと
その間に証明する事は、『調香師』の目線の先には貴女1人だったという事

目線を逸らされてもずっと見つめてしまう。自分から逸らす理由なんて無かったんだもの

「あるじゃなくて作る。それが私の出来る事だもんね
 あなたが出会わせてくれる新しい香り、楽しみにしてるよ」

その左手を両手で包んでは、顔を近づけてはまずはその匂いを吸い込んだ
より確かな記録の為に、車椅子の少女はそうして『お客様』として認識される

貴女がこの行為にも感情揺るがし反応が遅れてしまおうとも、
少女は相変わらず、自分のテンポで事を運ぶ。その手を繋いでいる間はそう
顔を上げて、先程は聞こえなかったかもしれない言葉を告げるとしよう

「改めてかな。いらっしゃいませ、『Wings Tickle』へようこそ」

松葉牡丹 >  
「……私が、出会う……」

オーダーメイドと言う事なんだろうか。
彼女が扱うこの"香り"を自分に見合ったものを作る。
この出会いは確かに、自分でなければあり得ないものだった、と。

正直まだどうしていいかは分からない。
ただ、『意味』事態を見出すとすれば
確かに彼女の言うように、自分だからこそ『意味』はあるかもしれない。
彼女の感覚を確かめるように、握った手に僅かに指を這わせる。
そして、ゆっくりと手放すと視線を再び彼女へと合わせた。

「え、えっと。宜しくお願い、します……?」

ぺこり。
上半身をまげて、一礼。
こういう時自分の異能は、多少態勢を崩しても"支えてくれる"とは便利なものだ。
体を起こせばん、と声を漏らしながら位置直し。
結構座り心地と言うか、体が体だからこういうの気になってしまうのだ。

「あ、は、はい!歓迎ありがとうございます!」

ぺこぺこ。
基本的に腰は低い方。
招かれた客だというのに、どっちが店員かわからないジャパニーズ作法。

「それで、香り……って言うんですけど
 実際にはどういうすればいいんでしょう……?」

一種の香水作りみたいなものだろうか。
そう思うとだんだん興味がわいてきた。
オシャレには人並みに興味はあるし、どうやって自分の『香り』を作ってくれるのか、興味が尽きない。

『調香師』 > 「基本的にはお話を聞く、かな?
 好きな香り、纏いたい香りがあるならそれベースに

 人によってはお悩みから必要な香りを作ったり、
 その人に必要な形で作ったり。うん、イメージできる?」

手を離せば、貴女を店の中央へ誘おう
机にはメニュー表。一応リフレなのでマッサージの表記もあるが

作業台の前の椅子を退かして正面を空ける
そうして対面に座ればいつもの形の完成だ

「私は言葉の機微を読み取る機能があるからね
 うん、話している間の気持ちとかね
 私がたまに言葉にしてみる。そうして香りを纏めるの
 ほんの僅かな齟齬で全く違う物になってしまう、
 芳香と言葉とよく似ている事だもん」

模索の仕方は、彼女自身の流行り物に左右されたりもするのだが
それは今の所語らなくても良いお話

両肘ついて両頬杖で、どんな事をお話してくれるのかなと、
表情が変わらないながら、その青い瞳は期待に輝く

松葉牡丹 >  
「お話、っていうと……私の、ですか?」

誘われるままに車輪が動く。
機械の静かな駆動音が店に響いた。
如何やら此処がメインの場所らしい。
何処となく対面して見る形は、何時か受けたカウンセリングに近い。

所謂リラクゼーション。
店内を見渡せばマッサージの表記もある。
成る程、そう言う感じのお店なんだ。
期待に輝く眼差しにあはは…、と少し引きつった笑み。

「わ、私のお話って言ってもそんな面白い事は無い、ですよ?」

とはいえ、それは困った。
そんな面白い活躍とか、思い出があるわけがない。
仄暗い、"思い出したくない思い出"か、或いは風化するようなよくある日常。
うーん、とうなり声を上げ乍ら色々と思案を巡らす。

「ほ、ホントにこんな体になってしまった以外は……ホントに。
 あ、え、えっと……はい。本当に普通に学園生活を送ってるだけ、です……」

期待に応えられない重圧感と自責が心に重くのしかかる。
思わずごめんなさい、と付け加えて目を反らしてしまった。

『調香師』 > 「ふぅん、そっかー」

姿勢はそのままに、返事をしながら解釈をする
彼女のリラックス具合は、カウンセリングと言うよりも友達同士のお茶会にも近そうだが

これは、話し辛そうな事もある気配?委縮するように謝られてしまってはと
この話題からずらした方が良いのかな。そんな気遣いの気持ちぐらいはあるけれども

「そうだ、学園。そういえばここって学園が関係しているんだっけ?
 んとね聞いても良い?学園ってどんな場所なのかって

 私は殆ど知らない事だから、気にしてみても良い?」

この島に居て、しかし大きく関わる様なそれらの活動を彼女は知らなかった
学生という身分でここに来る相手も珍しい、ならばずばりと知ってしまおう!
可憐で不思議な少女は案外イケイケな性格なのであった

松葉牡丹 >  
生憎と、誰もが波乱万丈な色ある人生を送っている訳じゃない。
波乱と言えばあるにはあったが、それをいきなり口外出来る程じゃない。
自分だけの特別な香り。それを手にする事すら難しそうだ。

「えっ」

…と、思った矢先、予想外な返事が飛んできた。
確かにこの学園都市は狭いようで広大だ。
様々な人物が行き来するし、外の世界で許可を取って店を構える人もいるらしい。
基本的には生徒の自治制に任せられているものだが、例外もあるのだろうか。

「え、えっと、調香師さんは学園の人……じゃないんですか?」

一応、聞いておこう。
まさか微塵も"悪い人"とは思っていない。

「私もそこまで詳しい訳じゃないですけど……
 学校自体は大きくて、ほんとに色々あって、なんていうんだろう。えっと
 異能者を集めて、皆が皆暮らしてる、場所?」

「なんだか凄い人たちが学園都市を作って、先生達が私たちをサポートして
 おおよその事は生徒である私たちが決めるような……うん、そう、そう、ですね」

「ある意味自由で、誰もが受け入れられる場所、でしょうか?」

異能者であることを見出されて入学した身だが
生憎知識は一般人。とは言え、この混沌とした時代
"多様性"の多くが受け入れられる箱庭と言う意味では
ある意味世界中尤も自由な場所と言うのは、間違いでは無いだろう。