2021/12/29 のログ
ご案内:「女子寮 自室」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
扉を開けた。
暗くて、どこか後ろめたい香りがする。
足を踏み入れれば、そこはがらんとした自室。
後ろ手に扉を閉じ、夜まで続いた急な任務を終えて暗い部屋に戻ってきた。
「……ふぅ……」
それだけで、我知らず溜め息をついた。
疲れているはずではなかったけど……、自分の部屋に戻るだけでも安堵を感じ入る心は残っていたのだろうか。
そこが、自分の部屋と言いはれるほど自身のものがあるとも思えなかったけれど……。
吐く息が白い。
手はかじかむように痺れていたけれど、私が正しい意味で冷たさを感じることはあんまり無い。
少なくとも、最低限の状態に私の異能は“私”を保ってくれる。あるべき形を覚えているかのように。
今日も、別にやることはない。
やるべきことはやったし、報告書も大方出来上がっている。
ただ、ベッドに行き倒れるように眠りに就くだけの、場所。
ただ、入り口からベッドまで歩くだけの、筋道。
その間に――小さな包みが置かれていた。
■藤白 真夜 >
一瞬考えて、たどり着く。
留守の間に届いた荷物であるようだった。
(……? お届け物? 私そういうので買い物はしないんだけど、なにかあったかな……)
もう少し丁寧に届けられるものかと思ったけれど、何か微妙な理由でもあったのか、寮母さんが部屋の中に置いておいてくれたみたい。
何かの間違いでもいけないし、まず宛名を見ようとして――、
「……うそ」
それを見て私は、愕然とした。
いや、まだ信じられない。“私”みたいな人間に――?
逸る手付きで包みを開ければ、そこには赤と黒のストライプのマフラーが入っていた。
……それが冷たいのか温かいのか、私にはもうよくわからない。
けれど、マフラーを手にした私の掌には、……温かい気持ちが確かに宿っていた。
「――ああ……」
何も言えずに、大切そうにマフラーを抱きしめる。本当に温かいかどうかなんて、それはもうどうでもよくなっていた。
差し出し人の名義は……『サンタクロース』
それは、“良い子”にしか届かないはずであろう、贈り物だった。
それが、本当にサンタさんの贈り物なのかはわからない。何か悪戯なのかもしれなかったけど……この高級そうな布地のマフラーを前にそうは思えなかった。
私には、何よりも。
「……私はこれで、良かったんですね……」
それは、私を“良い子”だと認める証だった。
贈り物も、高そうなマフラーも、何よりも。
それは、私は自ら求める良い子になれているんだと。
常に自らの悪性に怯え、善き在り方を求める私にとって……その“肯定”が何よりの贈り物だった。
■藤白 真夜 >
確かな、達成感があった。
サンタクロースなんてものは私には縁が無いと思っていた。
実際に、そういう存在は有り得るのかもしれないと聞いてはいたけれど、懐疑的でもあった。
それは、私の勝手な勘違いかもしれない。
けれど、もしかしたら。
私の、みっともない足掻きめいたモノや、誰かのためと祈った努力が。
どこかに……“良いこと”として届いていたのでは、ないだろうか。
それが、冬の寒空を駆ける滅私奉公の赤い聖人へなのかは、解らなかったけれど。
暫しの間、大切にマフラーを抱き続けた。
……高そうなマフラーが少しほぐれて、かすかな私の体温が移るまで。
感じ入るものがあったけれど、涙は流さない。
……大切なマフラーに染みになってしまいそうだったから。
「――はっ。
い、いけません、シワになってしまいます……!」
しばらくして。
ひとしきり自分の中に湧き上がるものを噛みしめたあと、宝物のようにマフラーをクローゼットにしまい込む。
中はほとんどいつもの服で、私物はあんまりない。
でも。
「……ふふ」
クローゼットの奥。開ければいつでも見える位置に、赤と黒のマフラーは確かに在った。
サンタさんには悪いけど、あんまり身に着けることはないだろう。
私に防寒具はさほど必要無いし、何より……それで汚れたりしたらそっちのほうが問題だ。
宝箱を見つめるような面持ちでクローゼットを閉める。
これだけで、胸の中に温かな火が灯るような想いだった。
……そして、私はひとつ……確信を持った。それは、幼心地に抱く幻想のようで、しかし。
(サンタクロースは、実在しました……!)
確かに、私の心に温かな灯を届けたひとが居ることを、意味していた。
ご案内:「女子寮 自室」から藤白 真夜さんが去りました。