2022/01/03 のログ
ご案内:「純喫茶『和』」にイェリンさんが現れました。
■イェリン >
『エリー、3番のお客さん立つからバッシングお願い』
呼ばれた幼い頃の呼び名にピコンと髪が反応する。
「バッシング……? バッシングね。分かったわ?」
去り行く客を打ち倒せと、店主に笑顔で命じられて暫し困惑。
されどこれも仕事、と槍を取り出そうとすれば調理場の方から布巾が二枚飛んできた。
『分かってねぇ! これでテーブル拭いて食器提げて来いって意味だ!』
怒鳴るようでいて笑い混じりの同僚の声を受け、むぅと声を漏らす。
窓際の席、客の居なくなった席の食器をお盆に回収して、
空いたままの片手で濡れた布巾と乾いた布巾で二度拭き。
胸元についた研修中の札は取れるのだろうか……
■イェリン >
慣れぬ極東の島での初めての労働。
穏やかな店主に声をかけられて踏み入った社会経験の場。
村育ちで世間らしい世間の狭かった自分を改める為の学びの機会。
などと色々とそれらしい言葉を並べてみることはできるのだけれど、
――端的に言えばお金が無くなった。
魔術道具やスクロールの類をやりくりしている内は特に困る事も無く
悠々と過ごしていたけれども、それもストックと素材が尽きて久しい。
年明け、冬に入り閉山した故郷から受電した
『うまくやって行けてる?』
というメッセージに背中を蹴られるように求人のチラシを手に
学生街を彷徨っていた所を、店主に拾われて早二日。
大衆酒場くらいしか無かった村の育ちとはいえ、住み始めて2か月は経つ。
何となく、の手応えと感覚は掴みつつあった。
■イェリン >
「お待たせ。パンケーキとカフェモカ。
たまごサンドは30分後に包んでレジで持って帰れるようにするから」
それじゃあごゆっくり、と。
後ろに一歩引きながら、揃えた足で小さく一礼。
笑顔でありがとうと受け取ったお客様相手におぼんを片手にひらひらと手を振って。
「成し遂げたわ」
自信満々にスタッフオンリーの暖簾をくぐる。
『いや店長、言葉遣いヤバイっしょ、なんであれクレームなんねぇの!?』
むぅ。
ケラケラと笑う店主と忙しなくふわふわの卵を焼く事に余念の無い調理場からの声に
口元に手をあてる。
難しいのね。
■イェリン > 大盛況とまでは言わずとも客足の途絶える事も無く。
今まで人手の少ない日は二人で店を回していたらしい
店主たちがいる手前自分の仕事量など大したものではないと知りながらも
任される事が少しずつ増えて、常連のお客様から面白い物を見たと
言いたげに笑顔を向けられるのは楽しくもある。
文字通り拾ってきた、あるいは捕まえて来たといった具合に
転がり込んできたこの喫茶店、言葉遣いや振る舞いは幸いトラブルに繋がる事も無く。
捩じり、束ねて巻き上げて。
最後に蒼のシュシュで纏められた夜色の濡羽のような髪をふりふりと揺らしながら、
藁半紙のような紙束に教わった事を書き留めながら。
人もまばらな学生通りで白い息を吐きながらドアベルを鳴らすお客様に笑顔を向けて
「よく来たわね、何にするか決めたら呼んで頂戴」
おしぼりと水を差し出しながら、メニューを添えつつ言い放つ。
ようこそ【なごみ】へ。
『いや、やっぱあれおかしいっすよ!?』
厨房でチンと、トースターの鳴き声が聞こえた。
今日も今日とてそこそこの客入り加減。
気の良いお客様と笑い上戸の店主とツッコミ気質な調理場と共に、
CLOSEの札が下がる時間まで、世間知らずの大真面目な接客は続いた。
ご案内:「純喫茶『和』」からイェリンさんが去りました。