2022/01/16 のログ
杉本久遠 >  
「む、たはは、今日はチートデイだから、ついな」

 普段のトレーニングや減量の食事制限に挟む、『好きなものを食べていい日』。
 今日のために久遠は調整してきたのだった。

「そうそう、付けすぎるとしょっぱいから気を付けてな」

 食べる様子を、少しハラハラと見守る。
 魚卵と言えばなかなか難しい食材のはず。
 彼女の口に合うだろうか?

「ん、じゃあオレも頂くか」

 片割れが居なくなったイクラの軍艦を一つ取って、一口で頬張る。
 これはかなりうまいイクラだ。
 しっかりと着けられていて、味が濃い。

「――ん、美味いな。
 こんないい店で食べる事なんてないが、こんなに違うものか」

 むう、と唸る。
 普段、寿司と言えば回る寿司や、バイキングの食べ放題だ。
 こんないい寿司を食べる機会はめったにない。

「あ、どうだ?
 イクラはわりとクセがあると思うが」

 と、やはり隣の様子が気になった。
 

シャンティ > 「ああ……スポーツマン、だ、もの、ね、え? ふふ」

チートデイと聞いて、くすくすと笑う。

「で、も……この、あいだ、の……ラジオ、なんて……結構、堂に、いって、た、と……思う、わ? 案外、そっち、も……似合って、る、のか、し、らぁ……?」

いたずらっぽく、笑う

「ん……そう、ねえ……食、感……いい、わ、ね? ぷちぷち、って、ね? ちょ、っと、塩味。潮、の、かお、り…?」

しばし咀嚼して、いくらの感想を口にする。適度に塩味のついた魚卵が、ぷちぷちと舌の上で踊り……生臭さは感じられない。それだけ丁寧な仕事ぶりである。


「う、ん……いい、わ、ね。ふふ。ところ、で……久遠、の、おすすめ、は?」

次に手を伸ばそうとして……そこで、止まって――聞く。

杉本久遠 >  
「――え、聞いてたのか!?
 あーいや、ははは。
 あらためて聞いたと言われると、なんだか恥ずかしいな」

 笑う彼女に、恥ずかしそうに笑って返す。
 ここまで来て、目の前の彼女が食べ放題の当選者だと思わないのだから、いっそ大したものかもしれない。

「そうかそうか、それならよかった!
 うーむ、そうだなぁ。
 大体どれも好きだが――うん、魚卵が大丈夫そうなら、もう少しクセの有るのもいってみるか?」

 そう言って、小皿に取り分けたのは、ウニの軍艦。
 たしかに旨味も凄いネタではあるが、その分クセも強く好みがわかれる食材だ。

「鮮度が勝負のネタだから、一度こういう所のを食べて見たかったんだよ」

 回る店やバイキングでは、なかなか美味しいウニは食べられない。
 ここが島だからこそ食べられる、特別感のある食材だろう。

「――む、すごいな。
 まるで溶けるように旨味が広がる――しかも、まるで臭みがない」

 一口で食べてしまえば、思わず感動してしまう。
 こんな機会がなければ出会えなかった感動だ。
 そこでふと、首を傾げた。

(そういえば、どうしてオレを誘ってくれたんだろうか)

 彼女のようなヒトならば人気もありそうなもの。
 自分以外にも誘えるヒトだっていそうなものだが、とトボケた事を考えていた。
 

シャンティ > 「ええ、聞いて、いた、わぁ……興味、ぶかぁ、い……オハナシ、も、聞け、た、しぃ……? 一緒、に、いた……え、ぇ、と……おこん、先生……だった、かし、らぁ? あの人、も……ふふ。面白、かった、わ、ねぇ……」

くすくすと笑う。

「ふふ、いい、コンビ……だった、けれ、どぉ……ねぇ……仲、いい、の……?」

じ、と……まるで見つめるようにして聞く。

「そう……これ……うに……ね? ふぅ、ん……?」

自分でも手にとって、醤油をつけ……口にする。


「ん……」


広がるのは独特な匂い。ただ、臭みはない。とろける一方で、濃厚な味を残していく。


「……濃い、の、ねぇ……悪く、無い、わぁ……?」


嫌味のない味のそれは、たしかに舌を満足させて……さて、次は何に手を出したものか……おっと、いけない。目的は見失わずに。

杉本久遠 >  
「たはは、おこん先生は学生想いのいい先生だぞ。
 ちょーっとやり過ぎる事が、まあまあ――いやうん、かなりあるが。
 仲は、確かにいいな。
 ほら、オレは学園生活が長いから、昔から知っているしさ」

 おこん先生とコンビを組むようになってから、年末は毎年ドタバタと楽しくて仕方なかった。
 おかげで、エアースイム以外の色んな技術も身に付いたものだ。
 様々な方面に繋がりも出来、いずれ就職が必要になってもその先には困らないだろう。

「お、そうかそうか、口に合ったなら良かった。
 これが大丈夫なら――うん、後は納豆巻きくらいか?
 好みは有ると思うが、どれも食べられると思うぞ」

 最初にインパクトの大きいものに手をつければ、他はきっと食べられないとい事はないだろう。
 とはいえ、食感で好みは出るところだろうが。

「――しかし、なんだ。
 誘ってもらえたのは嬉しいんだが、オレでよかったのか?」

 口に残った濃い旨味をお茶で流しつつ、何の捻りもなく直球で訊ねる。
 

シャンティ > 「ふ、ぅん……? それ、は、それ、はぁ……」

唇に人差し指を当て……しばし考える。なかなかどうして……なるほど。
ひとりごちて、考えを打ち切る。

いつもの通りの、いつもの感じ。本当にフラットであった、

「ん……そう、ねぇ……じゃ、あ……これ、なん、て……どう、か、しら……?それ、とも……こっち……?」

真っ白なえんがわと、茶色のうなぎなど……まだ手のついていないネタを確認する。
其処に、飛び込んでくる質問。


「随分、まっすぐ……ねぇ……まあ、久遠、らしい、けれ、どぉ……」


一呼吸置く


「もち、ろん……貴方、で、いいの、よぉ……久遠? そう、ね、ぇ……いくつ、か……しりた、いこと、ある、しぃ」

真顔で、応える


「あなた、は? あな、た、は……なぜ――呼ば、れた、と、思う?」

杉本久遠 >  
「お、エンガワにウナギか。
 どっちもうまいぞー」

 そうやって握りを選んでいる様子を見ているのも、なかなか楽しいもので。
 すっかり和んではリラックス状態だ。
 所謂スキだらけというやつで、この時間を心から楽しんでいた。
 だからこそ、余計に、『どうして自分だったのだろう』と気になったのかもしれない。

「ん、むう。
 なぜかと聞かれてもなぁ――さっぱりわからん!」

 どん、と腕を組んで堂々と言い放つ。

「いや、誘ってもらえたのはもちろん嬉しいんだが。
 んー、あれか、友人だからか?
 あー、んん?
 でも知りたい事ってなんだ?
 オレが教えられるような事か?」

 そして、腕を組んだまま不思議そうに首を傾げるのだった。
 

シャンティ > 「そう、ねえ……一言、で……説明、は……むず、か、し、い……わ、ねぇ?」

人差し指を唇に当てる。少し、考えるように。


「ああ、そう、だった、わ、ねぇ…… アドバイス。 じゃ、あ。まず、はぁ……」

一貫、えんがわを取る。醤油につけ……

シャンティ > 「あー、ん?」


男の口元に寄せた。

杉本久遠 >  
「む、そんな複雑な事情なのか?
 何か困ったことがあるならいくらでも――」

 何か考えるような様子の彼女に振り向く。

「――は?」

 なぜか、彼女は久遠に向けて寿司を差し出している。
 状況が呑み込めず、久遠はぽかんと、呆けたように口を半開きにしていた。
 

シャンティ > 「ん……これ、でも……だめ、か、しら、ねぇ……?」

せっかくやってみたものの、反応が薄い。思わず肩をすくめる


「やっぱ、り……アテ、に、ならな、い……かし、ら?」

少し考える。

「久遠。き、っと……ええ。貴方は、わから、ない。だから、すこし……ね。きく、わ?}

じっと

「久遠に、とって、私、は……本当、に……友人? 妹、とか……そう、いうの、じゃ、なく……?」

ささやくように

「それ、とも……慣れ、すぎ、た……?あぁ……」

あまく

「じゃ、あ……おし、たおさ、ない、と……だめ……? 」

とろけるように

「ふたり、の……アドバイス、どおり」

くすり、と笑った

杉本久遠 >  
 久遠は混乱していた。

(ダメ? いや、なにがだ?)

 今、目の前の彼女――大切な友人と思っていた彼女の取った行動。
 それがなんなのかまで知らないわけじゃない。
 ただ、ソレをされているのが自分だという現実に頭が追いついていかないのだ。

(本当に? そりゃあ、シャンティは大切な友人だ。もちろん、妹とは違う――)

 慣れ過ぎたとは、なんだろうか。
 声に香りがあれば、味があるとするなら、甘いとしか言い様のない響き。
 混乱した頭がどこかぼんやりとしてくるようだった。

(おしたおす――? なにを言って――)

 いやまて、と何かが脳裏をかすめる。
 何か今、聞き逃してはいけない言葉があったような。

(――アドバイス?)

 そこで、はっと、久遠は気づいた。

「ああ――――ッ!?
 SS本好きさんっ!?」

 そこじゃなくていいだろうって所に。
 

シャンティ > 「ふふ……ほん、と……鈍い、わ、ねぇ……?」

やや離れて、くすり、と笑う

「ま、あ……それ、なら……押し、たおさ、なくて、も……平気、かし、ら?ふふ……残念、だった?」

くすくすと笑う

「どう……だった、かし、らぁ……? なに、か……変わった?」

女は笑う。口元を三日月のように歪め、薄く笑う。男の心に渦巻く感情を眺め。目まぐるしく混乱する様子を覗いて笑う。


「しり、たかった、のは……その、あたり……ね」

手にして、やや乾いたえんがわを口に収めた。

杉本久遠 >  
「え、いや、ちょっと待ってくれ。
 あれが君だってことは、その――」

 貰った投稿の中身を思い出し、自分と彼女に当てはめて噛み砕く。
 眉間にしわまで作りながら、しばらく考えてそして。

「ン゛――ッ!」

 声にならない声を上げて呻き、顔を耳まで真っ赤にした。

 

シャンティ > 「あら、あら」

百面相、とはいかないが。それでも考え込んで複雑な表情をする男の様子を面白そうに、"見る"。

「ふふ、どう、した、の……かし、らぁ……?」

奇声を発して耳まで真っ赤になった相手を前に、穏やかに声をかける。ある種の拷問だろうか。


「オトコノコ……って、本当……ふふ」

くすくすと

杉本久遠 >  
「――ど、どうも、こうも、だな」

 やけに顔が熱く、心音が煩い。
 限界まで泳いだ時でも、多分こうはならなかっただろう。

「めちゃくちゃ恥ずかしい――」

 両手で顔を覆って俯いてしまった。

「――その、オレは、だな。
 君を大切な友人だと思って――」

 そこまで言いかけて、言葉を飲み込む。
 そうじゃない、と今自分がこれだけ動揺している理由が浮かんでくる。

「――友人でいたかったから、女性として意識しないようにしていた」

 そうだ、初めて会った時から美しい女性だとは認識していた。
 それでも、女性として極端に意識せずにいられたのは、出逢いがエアースイムだったからだ。
 そうでなかったら――いや、きっと久遠は変わらなかったかもしれないが。

「オレが好きなものを理解してくれる、友人だから、だろうな。
 ただその、オレは君を意識していなかったわけじゃなくて、えっと――」

 うっすらと開いた眼は彼女の顔を真っすぐ見れず、逸らされる。

「――君はその、とても魅力的な女性だと思っている、ぞ」

 なんとかそれだけは、口にした。
 

シャンティ > 「あら、かわい、い、わ、ねぇ……?」

くすり、と笑う。男の本音の漏れる瞬間。動揺した心。火照る顔。どれもが心地良い。


「ふふ、それ、は――どう、も。」

大切な友人――その点については、女も同意見だった。今までは、興味の対象としてもいなかったエアースイムという競技。その楽しさと可能性を、たまたまでも教わることになった男。それはかけがえのない出会いであり、かけがえのない友人であることは間違いない。

「私、も……大切な、友人、と……思って、る、わ?」

だからこそ
嘘と欺瞞と一匙の真実を込めて……あれをしたためた


「あら……そこ、まで……いわ、なくて、も……よかった、のだ、けれ、どぉ……ふふ。で、も……魅力的、と、いわれ、るの、は……悪く、ない、し……ありが、とう……ね?」

小さく微笑む

「聞き、たい、ことは……ま、あ……大体、聞け、た、かし、ら……ね、え? 久遠は? 疑問……解消、できた?」

落ち着いた、穏やかな声がそう訪ねてきた

杉本久遠 >  
「――あ、ああ」

 微笑む彼女を見れば、また胸が痛む。
 これが嫌な痛みでない事はわかり切っていた。

「疑問は――うん、わかった、わかったん、だが」

 がっくりと肩を落として、横目で彼女へ視線を向ける。

「――今度は、これから、どうやって君と顔を合わせればいいか、わからなくなった」

 口元を手で覆いながら、なおも恥ずかしそうに言う。

「その、な。
 オレは女性と、男女として向かい合った事がない。
 君をこのまま女性として意識していいのか――わからないんだ」

 この羞恥は、さっきまでとは少し違っていた。
 久遠はこれまで、ずっとエアースイムしか見てこなかった。
 それに青春と情熱の全てを捧げると決めていたからだ。
 だからこそ、簡単に言えば――自信がない。

「オレは、エアースイムしか能がない。
 それだって、アマチュアどまりで――今後も一流には成れない」

 自分の限界――そして限界を超えた上での、限界。
 自分がどこまで行けるのか――それがもう見えてしまっている。

「君は本当に素敵な女性だ。
 何か隠し事があるのもわかるし、オレに見せてくれている部分だけが君じゃないのもわかっている。
 それでも、君は間違いなくオレが出会った中で一番魅力的な女性だと思う」

 ふぅ、と息を吐いて、また肩を落とす。

「だから、君にはきっと、もっと相応しい相手がいるだろうと思うんだ。
 オレみたいな半端ものじゃ、きっと君に釣り合わない。
 そう思ってしまうんだ」

 それは珍しく、久遠が漏らす真っすぐな弱音だった。
 

シャンティ > 「あら、あら」

くすり、と笑う

「私、は……ね。別に、どち、ら、でも……いいの、よぉ?」

現実的に感じている事実を、それらしくしたてあげて投稿する。そこに含意はあっても、本意はそこまでなかった。どう転んでも、別に、構わない。それも、また事実。


「けれ、ど……ね、え。久遠。貴方、ひとつ、だけ……間違い、よ?」

かつて、彼自身からすでに聞いていた言葉。彼の実力は底が知れていて――決して高みには届かない。それでも、エアースイムに賭けて自分は進むのだと、そのような意味の話。


「えぇ、そう、ねぇ……貴方、には……エアースイム、の、能、は……足り、ない、の、かも。そ、れ、でも……貴方、は、続け、ると、いった。それ、も……一つ、の、能」

ある人は無意と。ある人は無価値というかもしれない。それでもなお、意思を貫けるとすれば。其れも一つの才能といっていいだろう。

「それ、に……そも、そも」

其れ以前に

「相応、しい、とか……相応、しく、ない……と、か。誰、が……決め、る、の、かし、らぁ……? それ、にぃ……」

もしその前提で考えているのなら

「どこ、を……ゴール、に……考えて、いる、か……しらな、い、けれ、どぉ……それ、が、理由、な、ら……トモダチ、やめ、る?ふさ、わしく、ない……の、で、しょう?」

やや首を傾げる

「それ、とも――ふふ。ああ、逆……か、しら……俺、が……本気、を、だせ、ば……こん、な……女、すぐ、おとせ、る、と……? だ、から、ふさわ、しい……とか、気に、する……と、か?」

くすくす、と笑う

杉本久遠 >  
「――はぁ」

 ゆっくりと。
 彼女が返してくれた言葉を咀嚼した。
 それで分かったのは、自分がやはり冴えない男だという事。
 男女の機微なんて、欠片もわかりやしないという事だ。

「あんまり、意地悪しないでくれよ。
 泣きたくなるだろ」

 むすっと、拗ねたような顔を、普段と違う子供のような顔をしてごちる。
 そして、皿の上の少し乾いてしまった寿司を無造作につかんで、口に放り込んだ。

「――ぶはっ!」

 勢いよくお茶で流し込んで、大きく息を吸う。

「シャンティ! 君が好きだ――――ッッッ!!」

 そして、防音室がどうとか考えもなく、大声で叫んだ。
 直接、彼女の耳に届けば良いとばかりに。

「――だがッッ!
 オレは君と友人でもあり続けたい!」

 自分の頬を、両手で強く張る。
 頭に上った血が、少しだけ下がった気がした。

「相応しいとかどうとか、そんな考えがそもそも烏滸がましかった!
 それにオレは、もともと細々としたことなど考えられん!」

 勢いよく、彼女の方を向き、その光のない瞳を見つめる。

「オレはこれからも君と友人でいたい。
 だが、それ以上にもなれるよう、努力をしたい」

 彼女は本当に、どちらでもいいのだろう。
 それは――聞こえていた。
 本心だというのもわかってしまった。
 きっと、望めば一足飛びに関係を深める事も許されてしまうのだろう。
 そんな確信めいた予感が、久遠にはあった。
 だからこそだった。

「オレは器用な人間じゃない。
 だから、常に君を一番に想い続ける事は出来ないだろう。
 オレの心が向いているのは、エアースイムの世界だから――両方を同じように想い続けるのは、きっとできない」

 それでも、少しずつ彩づいていた感情に気づかされてしまったのだ。
 それを忘れる事だって――できやしない。

「だが、その上でオレは、君の手を引き、隣を歩き、時には君を背負っていけるようになりたいと思っている。
 だから――」

 彼女の手をそっと取って、優しく握る。
 これまで以上の――愛情をもって。

「君がオレを頼っても良いと、一緒に居ても良いと思ってくれるようになったら、その時は――」

 だがこの男は、杉本久遠である。

「――オレの妻になってくれないか!」

 頭のブレーキが、どこか壊れているのであった。
 

シャンティ > 「あ、は――」

笑いが漏れる。それは常のものとは違う。どこか純粋な。

「あは、あははは、ふ、ふふ……あはは、はは……」

大笑、というには控えめな。それでも、大きな笑い。

「本当、不器用、ね、ぇ? 思わ、ず……笑って、しまった、わ?ふふ。いき、な、り……一足、飛び……する、なん、て……ね。妻、は……さすが、に……予想、外……」

笑いを収め……手にした本を、消す

「でも、勇気を出した貴方に少しだけご褒美。ええ。不器用な貴方に」

流暢な声が響く

「私にとっては、まだ"どちらでもいい"のだけれど。それはきっと貴方の本意ではないわね。」

シャンティ > 「そのために、頑張ってみるといいのではないかしら? せいぜい、後悔のないように」

手元には本が戻っている。


「ふふ――それ、にして、も……いい、たべっぷ、り……ねぇ?」

くすくすと、笑った。

杉本久遠 >  
「う――そんなに、笑うことないだろう?」

 また、頭に熱が昇ってくるようだった。
 それでも、しっかりと想いを告げた事でか、頭の中はすっきりとしている。

「ご褒美――?」

 本が消える――それは、彼女が少しだけ、本当の事を伝えてくれる合図のようだった。

「――後悔は、するだろうな」

 彼女のささやきを聞きながらも――はっきりとわかる事がある。

「それでも、オレは君を愛したいと思ったんだ。
 だから後悔したって一向にかまわん!」

 彼女がどんな人物であっても――それをもひっくるめて、彼女を愛したいと思ったのだ。
 ただの学生である自分に何が出来るかだとか――そんな事を考えるのは自分らしくないと。
 杉本久遠は、ただ愚直に、信じたものを信じ続ければいいのだ。

「頑張るさ、君に愛想を尽かされないようにな。
 それにまだ、カッコいいところだって、見せられてないんだ」

 彼女にはいつも、かっこ悪いところばかり見られている気がする。
 そして、彼女になら――そんな自分を見られても良いと思えてしまう。
 きっと、これが心を許しているという事なのだろう。

「はは、仕方ないだろ?
 オレがこの短時間でどれだけカロリーを使った事か!」

 なんて、胸を張って言ってみれば、鳴るのは大きな腹の音。

「――く、ははっ」

 可笑しくて涙が出そうだった。

「よし、まだまだ食べるぞ!
 そうだ、折角だし君の好きな食べ物も教えてくれ。
 ほら、ここには色々あるから、君の故郷の料理もあるんじゃないか?」

 そう言って、端末を手に取って、彼女に自分から距離を詰める。
 そこにもう遠慮はなく、これまでより確かに一歩踏み込んでいた。
 

シャンティ > 「ふ、う……久、しぶり、に……笑った、わ、ねぇ……」

一息をつく。まるで吐息のように。

「そう……後悔、する……の、ね?」

きっとそれは嘘偽らざる正直な気持ち。普通であれば、誤魔化してしまうか、そんなことはないと打ち消してしまうようなそれが。見えを張ることもなくさらけ出される。


「な、ら……あと、は……好きに、すれ、ば、いい、わ。"bon voyage"」

そこで、鳴り響く腹の虫


「あら、あら……そん、なとこ、ろま、で……正直、なの、ねぇ……ふふ。どう、せ、食べ放題、です、もの……好き、に……食べ、れば、いい、わ?」

くすくすと、さらに笑う。

「ん……好き、という、よ、り……そう、ねぇ。故郷……と、いう、な、ら……これ、だ、けど……多分、故郷、の、とは……ちがう、わ、ねぇ……?」

そこにはすし飯に合わせたカレー、なるものが書かれていた。

「その辺、は……いずれ、でも……いい、かも、しれ、ない、わ……ね。でも、頼んで、しまう……?」

どうせ、食べるのでしょう?そんなことを言外に含みながら端末とにらめっこの時間がはじまったのであった。

ご案内:「完全個室制高級お寿司屋『寿司惨昧』」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「完全個室制高級お寿司屋『寿司惨昧』」からシャンティさんが去りました。