2022/11/03 のログ
マルレーネ > 「………それでも。
 もう少しだけ悩むつもりでした。」

本音は、と、彼女は笑う。
身体も心もボロボロで、明るく振舞いながらも罪を感じないわけでもない。
ここを出て、それからゆっくりと考えたいと、そんな風に考えていたけれど。
でも、そういうわけにもいかないらしい。

「………相手は、本当に強い。
 私にできることは、何でしょうね。」

絞り出すような声。本当に悩んでいる声色なのは伝わるだろうか。

「本来のこちらの世界の兵器を使うなら、もっともっと、適任の方はいると思います。
 ………丈夫な、特殊な衣服は準備してもらいましたが。

 ………正直、アテはありません。
 私は比喩ではなく、本当に祈ることで力を得るので。 必死に祈ろうとは思っていますけれど。」

ノーフェイス >  
「あれ、応援しちゃったから? ゴメンね」

戯けるように眉を跳ね上げる。
自分が、と思うほど、実際は思い上がってはいない。
誰かに、期待されてしまったのだろうか、信じられてしまったのだろうか。
"それでもあなたならば"と。

「んん」

できることは何、と訊かれると、少しなやむ。

「"キミがやる"という前提だと、なかなか難しいね。
 挑戦というのはただ無謀かつ無思慮にやればいい、というわけでもないからね」

もちろん、ただ跳んでみるのも大事だが。

「これちょっと変な話になるんだけどサ」

組んだ脚をぷらぷらと揺らしながら。

「なんでアイツは強いと思う?」

マルレーネ > 「ふふ、応援されちゃいましたから。」

ころりと笑う。相手の冗談に冗談を返す。冗談が通じない聖職者ではない。
頭は固いが。

両手を合わせ、そっと祈りを捧げる。
彼女の力は、神に与えられた奇跡ではない。

"彼女の想いが強ければ強いほど"力を発揮する。

………だから、ひたすら思いを強く鋭く。それくらいしか解決策はない。


「………なぜ強いか、ですか?
 目的に対して手段を択ばず。
 そして、移動手段と攻撃する兵器、でしょうか。

 ……少なくとも、私はそう感じました。」

ノーフェイス >  
祈りの姿を眺めていた。
画になる子だな、とは思う。
信仰とは、祈りとは、祈る者のためにあるものだと考えている。
だからそれについてとやかくは言わない。

無信心者が口を出せる世界ではなかった。
できることは喇叭を吹くなり、聖歌を謳うことだけで。

「フフフ、そうだね。
 情けや容赦、っていう点でブレーキがかかっていなくて、且つ。
 目的を遂行するための手段もある。
 アイツのスペックって点で考えるならそれは正しい。
 キミと照らし合わせたら、キミには手段……手札が足りてないってトコか」

両手でフレームをつくり、修道女をとらえながら。

「えっとね……そーだな。
 アレだ、ア・レ。 キミの普段いた修道院って、アレある?
 これからの時期欲しくなる……そう、暖炉。
 薪ストーブとかでもいい、それとも電気式や魔力式のヤツだった?」

マルレーネ > 「嵐ではなくて戦としたのも、あの人には明確な目的があったからです。
 自然のように、ではなく。
 あの人は作為的に無作為な破壊をしていた。」

……手札が足りない。
それは、確かに。

一人旅をしていたとはいえ、大きなモンスターと戦うときはチームを組んでいたし。
修行や訓練はしていても、あのような相手と戦うことは想定されていない。

「…………暖炉ですか?
 そう、ですね。あったはずです。 壊されてしまっていなければ。……修復がそこまでされていれば、ですが。
 ……寝室にはその、電気のを置きましたけど。」

それなりに自分の部屋は快適に過ごしていた修道女。
こっちの世界すごいな、を一通り楽しんではいる。

ノーフェイス >  
「イイね。戦は人の意思で起こされるもの……そう、そうだ。
 アイツが破壊にかける願いと、キミが神に捧げる祈りとでは、
 どちらが強い想いかな……質や正しさの話ではない。
 単純に天秤に乗せてみてどちらに傾くか、って話だケド。
 正解を導こうって話じゃない、キミはどう思う?」

次第に、女の言葉は、
"相手に思考させる"という方向にシフトしだす。

「便利だよね、指でふれるだけで暖かくなるんだもん。
 持ち運びなんかできたりして。
 ボクは逆に、便利なほうから不便なほうに行ったからな……いやこれはどうでもいっか。

 ああいうのってさ、火に薪を投じて燃えるじゃない。
 火種だけあっても、燃料がなきゃ燃えない……っていうのカナ」

指は天井に向けて、くるくると回った。

「燃料……たとえば……ホラ。
 死を畏れない者が命を賭けることと、
 どうしても死にたくない人間がそうすることでは、
 どちらがよく燃えるか……とか、キミはどう考える」

マルレーネ > 「………分かりません。」

おそらく、ずっと前なら自信を持って負けないと言い切ったであろう。
でも、身体をいいように弄られて、壊されて。一度目の地獄ですでに神へ声は届かないと刻まれてしまった。
私らしくも無い。
自嘲するように苦笑を浮かべて。

「でも、届かぬならそれ以上に祈るだけ。それでも届かぬならば、私がそこまでの者だったということ。」


相手の言葉に、少しだけ考える。
考えて、考えて。

「………燃料として人の命を考えたことはありませんが。」

前置きをする。聖職者に対しての質問、にしては不謹慎であれど、怒った様子もなく。
じっくり、じっくり考えて。


「同じではないでしょうか。
 過去、殉教者はたくさんいましたが、嫌がっていたから。 死にたくなかったから。 だから尊く、強い願いになるかと言われればそうではない。

 死を軽んじてしまうのならばそれは意味を失いますが、死を厭わない、己の命も駒にできることはそれはそれで、その人の持つ種火です。

 ………やめてくださいよ、この話。 燃えるの私じゃないですか。」

くすくす、と笑う。不謹慎も怒ったりはしなかった。

ノーフェイス >  
「聖職者の視点で話を訊けるのって、すごく新鮮だな。
 そういうヒトたちとはあんまり個人的に親交を持てない立場だったから」

ほう、と感嘆の息を吐いて。

「ありがとう。
 殉教……確かに、まさに文字通り燃やす話だな。
 燃やされる命が命である以上、等価である……。

 ボクがしてる話は、もっと感覚的なところでさ。
 慣れてることよりも、慣れてないコトのほうがイイ、っていうか。
 痛みがあればあるほどに、よく燃えるものだって思ってる。
 嬉し恥ずかし、はじめての時なんて特に……だ」

みずからの唇に、人差し指をあてて。

「もしキミが死んでも。
 ほかの誰かがアイツを斃すだろう。
 風紀委員かもしれないし、キミみたいに違う立場のヒトかもしれない。
 でも、アイツは違う。
 アイツの願いは、死んだら終わりだ――少なくとも彼の目線では。
 まったく理論的でもないけど、だからアイツは強い」

たとえどれだけ鋼鉄の暴威が人の命を奪っても、逆境に在るのはどちらか。
眼の前の修道女の決意は本物だ。願いの強さも賞賛に値する。
だが厳然として、そこは――気楽な立場でもあるのだ、と。

「ボクから見た考えを前提にして訊かせてもらうけれど。
 キミが目的を遂行するための手段として求められたら、
 自身を燃やす覚悟ってあったりする? あと、どこまでなら燃やせるとか」

マルレーネ > ………

「少しだけ理解はしても、私は理解してはいけない立場ですね、それ。」

ふふ、と僅かに微笑みを浮かべる。

「願い、想いは。……恨みや憎みも含まれます。
 覚悟ができている人間とそうではない人間の、その思いの強さを天秤に乗せると、そう言っているのでしょう。

 ………………。」

そこからは何も言わなかった。穏やかに微笑むだけの修道女は、口をつぐんで。


「追い詰められているからこそ強い。
 甘えが無いから強い。 油断ができないから強い。
 そういうことですね。」

相手の言葉を自分なりにかみ砕く。
ただ、相手の目的も意図も、彼女にはやっぱり分からない。首を横に振って。


「………………。」

言葉に詰まった。
親しい人の顔が浮かんで。旅をしてきた光景が浮かんで。
死んでいった人の顔が浮かんで。崩れた修道院と、燃えた村の光景が浮かぶ。
最後に、小さな小さな、田舎の修道院の光景が浮かんで。

仕方ないなあ、と、首を横に、少しだけ振った。


「私を燃やすことが一番の正解だと、私が思ってしまったら。」

「私は、私を燃やすことを厭わぬでしょう。」

「どこまでも。」

彼女はいつも通り、微笑んだ。

ノーフェイス >  
「もちろん、願いや想いの強さだけで決まる話じゃないケド」

彼女が言う通り、彼の持つ兵装も並のレベルではない。
そこに更に決意という推進力が乗っているから、だ。

「それくらいしか支払えない。
 ……だったらもう、そうするしかないんだよな」

死力を尽くす、すべてを賭ける、とは。
文字通り身を切ることなのだ、と。

「キミが受け取ってくれるかどうかはわからないけど」

平然と――平然と見えるように微笑む彼女に対して、
身体を曲げ、乗り出すような姿勢になった。

「"手段"の調達にアテがある」

炎色の双眸で、じっと見つめる。
燃やすにはお誂え向きの輝きで。

「キミもまた、この"事件"の一部だから」

自分がノる理由は、それ。

マルレーネ > 何が正しいのだろう。
自身を燃やすことが怖くないと言ったら、嘘になる。
心残りも、後悔も、たくさんある。
楽しみと言えばあたたかな布団と食事だけという世界から、この世界にやってきたのだ。
知らないことも、楽しいことも、……この年になってから、初めてのことがたくさんある。

でも、彼女はここで身を燃やす生き方しか、知らない。
昔より、ほんのちょっとだけ胸が痛い。
昔より、ほんのちょっとだけ身体が重い。


「………聖職者に、悪魔の取引ですか?」

苦笑をしながら、相手の言葉を聞いて。

「……聞くだけ、聞きましょう。」

変わらぬ笑顔で。

ノーフェイス >  
「悪魔呼ばわりはちょっと傷つくかなぁ?
 でも"善意"でないことは確か。
 ここでウソついても不誠実だし、意味もないし」

ちょっとごめんね、と一言ことわり。
ふたきれめの梨を口に含む。
水分をいっぱいに含んでいて、ちょうどいい。

「燃やす覚悟があるのなら、キミが手段を持つ手伝いができる。
 ボクにはそういうのが備わってるみたいだ。
 なんでか……っていうとちょっと判らないんだけどね」

こくり、と呑み込んだ。
この世界には、そういう人間が多くいる。
増えたのだ。大変容という大事件から――爆発的に。

「手段を持つことそのものに対価はない。
 キミ自身の意志で使うと決めた時、燃やす必要がある。
 ……"そういうもの"。

 いきなり信じろというのも難しい、悪魔のほうがまだ信憑性はあるだろ。
 ノーと言ってもボクは傷つかないから、気楽に返事してくれよ」

マルレーネ > 「それを持ってきて、傷つくも何も無いでしょうに。」

ころりと笑って、女は目を伏せる。

「………」

「貴方は正義の徒、ではないでしょう。
 義憤で動いているようには見えません。

 そして、おそらくすべてが嘘というわけでもなく、……むしろ、真実を持っている。


 なぜ、その話を?
 そしてなぜ私に?」

目的が分からない。意図が掴めない。
許せないという怒りを感じなかった。むしろ、目的すら強くは感じなかった。

目的と、そこに至るという強い意志を持って歩き続けてきた彼女からすれば………正反対かもしれない。

ノーフェイス >  
「オイオイオイ、さっきから何度も言ってるだろ?
 シスター・マルレーネ、ひょっとしてまだ本調子でない?
 凝り固まった頭とカラダへのマッサージならぜひ、いまからでも」

顔を近づけた。
互いの唇の間に、立てた人差し指を置いて。

「ボクは、この事件を、追っている」

一言ずつ、きっちりと区切って、伝えた。
彼女はあくまで、パラドックスを主体に考えているのだろう、と。

「あいつと一戦交えたという意味では、ボクも間違いなく関係者だ。
 キミよりも前に、ね――義憤はないが、関わりたおす動機はあるだろ?
 行きつけの料理屋の店主が吹っ飛んで、あの出来の悪い炒飯が食べられなくなったとか。
 ……そういう個人的な恨みもあるっちゃあるけど、それが理由でないのは確かだ」

問われれば、真摯に応える。
真摯な相手には、真摯に。
無数の貌は、そのように。

「なぜこの話を振ったか。
 キミには手段が足りず、こちらは手段を得るための手伝いができるから。
 そうすれば"事件"が動くだろ?
 ……同じように敗ける、なるべくしてなるものを追っているんじゃない」

紡がれる言葉は、義などないかもしれないが。

「なぜキミか?
 まず接触する候補はふたりいた。
 市井の島民、一般生徒でアレに立ち向かった存在。
 キミを選んだ理由のひとつめは、新聞に搬送先が書いてあったからってだけ。
 とはいえ、こっちもこっちで用事があったから、
 キミが入院中に来れるかは怪しいとこだったね。
 ……リハビリ中のオーバーワーク? 都合が良かった、実にね」

悪ふざけかもしれないが、大真面目に。

「ふたつめは――まぁ、キミの評判はちょっと歩けば聞こえてくる。
 たとえ"ボクのような存在"に対してでも、
 とりあえずおはなしは聞いてくれるかな、と思ったから」

目を伏せて、身体を離す。
善を気取らず、そうして自らの居場所を気遣う様は、決して表側の住民ではないということ。

「みっつめは本当に些細な理由だけど、聞きたい?」

マルレーネ > 「貴方は動機を口にしていない。」

「彼に関わって何をしたいのかを語っていない。
 倒したい、殺したいとはっきり口にしていない。

 追っている、関わりたいとしか言っていない。」


「貴方の最終目標を、私は聞いていない。」


顔が近くなっても、まっすぐに見つめ返して。
此方も少しずつ言葉を区切って、見つめ返す。


「私である理由は、理解しました。
 貴方は"その力"で事態を動かしたいのも分かりました。

 ……その上で、もちろん全て聞きたい。」


話を聞けば聞くほど、じっとりと手の先から崩れていくような気がして気分が悪くなる。
でも、彼女は話を遮ることも、拒絶することもしなかった。

ノーフェイス >  
「ちょっと違う」

ちっち、と指を左右に動かして。

「話を遮ってゴメンね。
 でも誤解なく伝えようというのなら、ちゃんと正確に伝えておこうか。
 ボクは"事態を動かしたい"んじゃない」

その指は天井を向いた。

「しつこいようだけど、前提としてボクはこの事件の関係者だ。
 ……本来"ただ観るだけでは飽き足らない"ようなヤツでさ?
 こういうコト、やっちゃうんだよね」

獰猛な笑みが浮かぶ。
内側に宿る炎、生命力の塊、抑えきれないほどの熱量。
それを運用するために、理性も理知も、すべてを動員することを厭わない。

「ボクは観たいだけだ」

断言する。

「"最終的にどうなるか"を決める権利はボクにはないし、
 "どうなって欲しいか"のために行動するのは、ボクとしては違う。
 万事が万事思い通りなんて、面白くもなんともない。
 この事件を構成する者すべてが絡みあった結末こそ、正しいカタチだ」

腕を組む。
そこは、くだらない美学の話。
くだらないからこそ、大真面目に向かい合ってる部分の話。

「みっつめの理由は――単に好みだったから、ってだけで」

赤い唇に、ぬるり、と蛇ののたうつように舌が這う。

「使うかどうかはキミの自由、どう使うかもキミの判断。
 そのうえでここまでちょっかいかける理由として、まだ聞きたいことはある?」

マルレーネ > ………。

そういうことか。

自分には理解できないはずだ。けど、そういう人を見たことはある。
ただ、自分が見たのは老い、枯れ果て、その上で遊興を求めての動きだった。
この人は違う。今、事態を動かせるにも拘らず、それを是としていない。

寒気が走って、それでいて。

だからこそ、怖気づく顔を見せることは無かった。


「最後に冗談とか、ホントもう。」

手を伸ばして、舌で唇を舐める相手に、こーら、と。
くすくすと笑って、足を揺らして。 そこだけはなぜか本気にしない女。
幼いころから見られてきたからか、視線に関してはやっぱり鈍感。
気が付いているのかもしれないが、さらりと流してしまう。


「ありませんよ。
 ………どんなものか、見てみたいのですが。 その手段とやら、を。」

ノーフェイス >  
「全部本気で本当さ、キミが聞きたいっていうから」

こだわるところでもないので、笑みを向けるまま。

「…………ん」

しかし、手段を見せろ、と言われると、少し難色を見せた。
思案のあとに首元まであげられたジッパーを下げると、
下にはシンプルな黒いシャツ。寛ぐ形に。

「"みせる"のは難しい」

誤魔化すというよりは。
試しにやってみせろ、と言われてできるようなことではない、というもの。
それが引き起こす事態を鑑みれば、気安い業ではないのだ。
真っ直ぐ見つめながら語るのは、虚偽でも韜晦ではなく、事実だ。

「口頭での説明になる。
 たとえば、そう。目を閉じて……集中できれば、なんでもいい。
 "想像してごらん"」

自分の心臓のあたりに手をあてて。
静かに、染み入るような、――気を抜けば染み入ってしまいそうなほどの声で。

「キミが欲しいもの。
 鎧を打ち砕く槌か、心臓を抉り取る槍か……なんでもいい。
 口には出さなくてもいい。
 "想像するだけでいい"、しかし、イメージは確かなものをもって欲しい。
 やってみせて。そしたら、教えてあげる」

マルレーネ > ……………。

「………それは、たくさんの人に渡し続けるのでしょうか。
 それとも、私に受け渡すようなもの?」

尋ねながら、相手の言葉に耳を傾ける。
違う不安が心をよぎり、特に意識もせずに目を閉じて。

「………イメージを。」

考える。
ああ、そういえばあったな。
世界樹とも呼ばれる木で作られたもの。

それは槍よりも鋭く。
槌のように強く。

祈りに半生を。そして旅に半生を捧げてきた人間である。

そのイメージはイメージだけにとどまらず、様々な経験から色付いて、鮮やかに脳裏に浮かび上がる。

ノーフェイス >  
「ん……濫用できるものじゃ……ああ、フフフ。そういうことか」

問われたことに対して、思い出そうとするように視線を巡らせたあと、
訊かれた意図に思い至って、彼女を視界にとらえる。

「安心して。
 キミに使えばしばらくは使えなくなる」

濫用も多用もできない。
"そういうものだ"と、告げた。
しかし、ここで使わなければ、使える状態のまま。
この聖域から解き放つことになるのもまた確か。

しばし。
邪魔はしない。
目を閉じて、呼吸もひそやかに。

やがては、頃合いを見て。

「できたかな。
 しっかり思っていて。
 ……あとは、単純」

息を吸って、吐いて。

「ボクがキミのためだけにうたうだけ。
 それで、それは起こる。
 ……どう?冗談みたいな話だろ。ホントにただの冗談かもな」

フフフ、と戯けるように肩を竦めた。

マルレーネ > 「………冗談のようですね。」

現実だろうと思いつつも、それでもイマイチふわりとした、はっきりしない感覚。
少し居心地の悪いそれに包まれたまま、その上で尋ねる。

「………それで、何を燃やすことになるんです?
 ……スコップ一つで命3人分くらいとか言われても、困りますよ。」

じ、っと見つめる。
本気であるが、全て真実を語っているとも、やはり思えない。

改めて強く見つめる。

ノーフェイス >  
女は告げた。

「――かな、たぶん」

そう言うのは。
すべてを思い通りにできる能力ではない、ということでもあった。

あくまで、今までのマルレーネを見て、そう推測した、という。
なにが代償になるかも、対象によるのだということだった。

マルレーネ > 「………………。」

しばらく、沈黙があった。

「………。そうですか。」

「その上で、遭遇する前に貴方を呼ばなければ、意味が無い、と。」


ついに、彼女は悲し気な表情を浮かべた。
指を震わせ、その震える指をきゅ、っと握りしめて、青い顔のまま、それでも悲し気だったのは一瞬だけ。


「………。」

「どちらにしろ、退院するまでは考えます。」




いざとなったら、自分はきっと"それ"をいくらでも焼くだろう。
同時に、……そうなったらもう、自分ではなくなっていくのだろう。
それがもう、手に取るようにわかったから。

マルレーネ > ああ、きっと私は死ぬんだな。 それだけはよく分かった。
ノーフェイス >  
「いつでも」

"その覚悟があるのなら"。

越えがたいハードルを跳ぶ"挑戦"はそこに。
決断するのは、彼女自身。そうでなくては意味がない。

この女は、どこにでもいて。
狂騒とともに、寄り添ってきた。
ずっと。

「熟慮の末であればあるほど、それは望ましい。
 それまでキミの心を支配できちゃうというだけでも、ゾクゾクするね」

立ち上がり、微笑みで見下ろした。
そして、ひょい、と指をさす。

「それ、すごく美味しかったよ。
 ちゃんと食べて、しっかり治してね。
 ……"これから"のために」

言って、軽い足取りで踵を返す。

「お大事に、マリー」

マルレーネ > 「………。」

珍しく、何も言えなかった。
何も言わぬまま、目線を落として。

扉から出ていく後ろ姿を、目の端にちょっとだけ入れて。

ご案内:「病院個室」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「病院個室」にマルレーネさんが現れました。
ご案内:「病院個室」からノーフェイスさんが去りました。
マルレーネ > 震えて、1人きり。
ご案内:「病院個室」からマルレーネさんが去りました。