2020/11/04 のログ
神宮司蒼太朗 >  
「つまり、心当たりはない、と。君は兎も角、私を狙ってくる様な者となると、結構絞られそうな気はするけどねえ」

じっと、部下である少年を見つめる。
彼が襲われるのならば、まあ、分からなくもない。
そういう仕事を与えているし、彼自身もそういう行動を常にとり続けているのだから。
しかし、私が襲われるとなれば話は別。
前線に出た事などなく、表舞台に立つ事も少ない私が狙われたとなれば、必然的に落第街への対処を知る者となるだろう。
そして、彼の。神代理央の、この態度。
『異能殺し』の一件から細々と届けられる、報告書。

「……もう一度、聞こうか。神代理央。
君は本当に襲撃犯の正体を見破れず、気付かず。
私に報告する事は"何も無い"
それで、良いんだね。本当に」

それは、彼への最期の情け、というか。
これまで、そしてこれからの手駒としての功績に対する恩情の様な問い掛け。
彼が何と答えようとも。いや、彼の答えは予想できたとしても。
この問い掛けは――彼への免罪符であり、ギロチンだ。

神代理央 >  
彼の問い掛けに対して、即答する事は、出来ない。
長い沈黙。その沈黙こそ、明確な答であると分かっていても、言葉が、出ない。
神宮司は、色々と気に食わぬ点こそあれ、それなりに恩義のある相手でもある。水無月沙羅の査問でも手を回してくれたし、己や彼女へ不利益にならない様に手を回してくれたのは、彼であるのだ。
そんな彼を裏切り、法を守り、ルールを守り、体制に殉じる己が、それを、破るなどと。


「………わかりません。正体は、わかりませんでした。
これから、捜査に当たり、襲撃犯を必ず捕えます」


吐き出した言葉は、己への呪詛の如く。
苦悶の色を滲ませた言葉が、吐き出された。

神宮司蒼太朗 >  
「…………そうかい。なら、仕方ないねえ。
最近の認識阻害の技術は凄いからね。我々も導入しようかな。
個人を特定されずに、落第街に対して武力行使が行えるのって、素敵じゃない?」

予想出来た答えと言葉。
なら、もう彼にかける言葉は無い。
襲撃犯の正体など、正直どうでも良いのだ。
大事なのは――神代理央は、神宮司蒼太朗に、嘘をついた。
互いの了承の元に。互いが分かった上で。
それは、隷属と従属の証でもある。
それが分からぬ男でも無いだろうに、と。少しだけ、目の前の少年を哀れんでしまう。

「あー、いや。捜査はまあ、程々でいいよ。それは刑事課の仕事だ。
君は落第街で聞き込みするには、些かヘイトを溜め過ぎた。
それは、何時ぞやの…なんだっけ、あの、ほら。
ディープブルーとかいう組織への対処で、君が一番理解した事じゃ無い?」

『鉄火の支配者』が聞き込み調査を行ったところで、何かしら情報が出る訳でも無し。
そもそも、その調査には"意味が無い"
ならば、与える仕事は別に、ある。

「それよりもさぁ。違反組織への締め上げ、もっと強くしとこうか。
ばんばん前線に出て、どんどん殺して。風紀委員会に逆らう愚を、知らしめてやらなきゃ」

「その為には人員が必要だね。手配しておくよ。
当面はそうだね……日ノ岡あかねが残したあの組織、書類上はまだ有効だ。
あそこ名義で、適当に引っ張っておこう」

『元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊』だったか。
結局は、日ノ岡あかねの思惑を叶える為の道具になってしまっていたが――適当に人員を引っ張り込むには、最適なカードだ。

これまでは、彼一人だったから許されていた事も、人員を得て、明確に『組織』となれば、もう逃げられない。
精々、落第街でヘイトを稼いで、死を振りまいて貰おう。

その為の『特務広報部』
その為の『英雄狩り(ヘルデン・ヤークト)』なのだから。

神代理央 >  
「……了解です。必ず、ご期待に沿う結果をご覧にいれましょう。
元より、鉄火場が私の仕事場。それをより大きく、過激にと仰るならば。
神宮司さんの意に沿う様に。御望みの儘に。
私は、あの街に死と鉄火を振りまきましょう」

そう、もう逃げられない。
逃げる訳には、いかない。
己の為すべき事は、此れで定まった。
それを覚悟した上で――こうして、嘘をついたのだから。

「…あの部隊から、ですか。となれば、私の部下は皆落第街上がりだと?
何ともまあ、因果なものです。後ろから寝首を掻かれない様にしなければなりませんね」

落第街を業火に包む己の部隊の構成員が、元違反組織の構成員達とは何という皮肉だろうか。
此れでは、園刃に顔向けも出来ないな、と溜息交じりに力無く笑う。

「では、人員編成については神宮司さんの御許可と御指示を得てから、此方で取り掛かります。
その為の準備に取り掛かりますので、本日は此れにて。
……ああ、そうだ。見舞いの品ですが、其処の鞄に入っておりますので。お気に召して頂けると良いのですが」

見舞いの品は、ラ・ソレイユの焼き菓子と――紙幣の束。
それが入った大きな鞄を彼の手元に置いて。
恭しく一礼すると、少年は病室を去っていくのだろう。
もう、立ち止まることは許されないのだと、昏い決意を固め乍ら。

神宮司蒼太朗 >  
じゃーねー、とひらひら手を振って彼を見送った。
手元の鞄を開けてみれば、其処にあったのは焼き菓子と札束。

「律義だねえ。別に、此処迄しなくても良いのに」

焼き菓子を貪りながら、札束を掲げて苦笑い。
彼なりの謝罪の気持ちなのか、と思わなくも無いが、そういう所がまだ甘いのだと思ったりする。

「あーーーーしかし入院退屈だよなー。学園祭でメイド喫茶巡りしたいから、早めに退院したいんだけどなあ…」

ごろん、とベッドに寝転がる。
学園祭では大概ギリギリを攻めるセクハラ祭りを楽しんではいるのだが、今回はそれが出来るかどうか。

「神代にも何かさせるかねえ。ちょっとくらい恥かかせても罰はあたらな……あいたたた!傷!傷が疼く!」

何これ天罰?
神様、私は敬虔な風紀委員ですけども。

そんな風に宣う太った風紀委員の姿が、豪奢な病室の中にあったのだとか。

ご案内:「常世学園付属総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。