2020/07/02 のログ
ご案内:「【回想】2年前、武楽夢十架と…」に武楽夢 十架さんが現れました。
■武楽夢 十架 > 異邦人街にある『普通の人』向けの木造アパート。
こちらでの一般的な家の生活に慣れてもらう目的も考えて作られた敢えて古臭く作られた木造住宅は、家賃が安いから青年は選んだ。
雨音は徐々に激しくなりつつあり、今日は気まぐれで数時間雨の中を歩いて帰ったせいでずぶ濡れだった。
返ってきて部屋の四隅に空いた小さな穴からお隣さんの蛇人のお子さんが顔を覗かして折角塞いだ穴をまた開けたとこの子の両親は怒られるんだろうなぁと微笑ましく思いながらシャワーを浴びた。風呂はない。
浴槽は共用で大風呂が建物の奥に存在しているが、たまに利用するくらいだ。
そう言えば、ずぶ濡れに成っていたがポケットに入れていた携帯端末は無事だろうかと取り出してみれば、
―――星座占いランキング、今週の最下位も蟹座。ラッキーアイテムは六法全書。
どうやら普通に画面は映し出される。
髪の毛を乾かすのも面倒で今日はもうベッドで寝てしまおうと携帯端末を充電することもせずに、横になった。
■武楽夢 十架 > 気がつけば、晴れた空の下で暑さは感じない。
これは夢なんだなと、分かるのは、眼科に地面が広がり笑い合う少年少女がいるからだ。
そう、先日不意に思い出した過去を夢に見てしまっているようだ。
僕と彼女の出会いは、
一度目は本当に偶然で。
二度目は会えたらいいな、と思っていたら会えて。
三度目は会う約束をして。
四度目からは、決まった場所に大体の時間に集まった。
僕らは、友達以上にはなっていたけど恋人ではなかった。
そこにはなんだか『線』があって、越えてはいけない気がしていた。
■武楽夢 十架 > そんななんとも言えない歯痒さが心地よくもあって、
だから、暑い夏の日に
―――彼女が何も言わずに突然居なくなって、僕は後悔したんだ。
誰に聞いても分からない―――連絡先は知らない。
委員会にしつこく問い合わせてみれば―――恐らくこの少女の登録情報は偽造だ、と言う答え。
それでも委員会の人に頼み込んでようやくその嘘の住所である異邦人街の木造アパートに着くが住人はいない空き部屋だった。
僕は彼女がいわゆる、『二級学生』だと知った/認めた。
■武楽夢 十架 > 入学した時から先輩方に色々と噂だけは聞いていた。
二級学生とそう呼ばれる者たちがいる場所について。
曰く、歓楽街の奥にある路面バスも走っていない奥にそこはある。
曰く、落第街―――この学園の闇で何があってもおかしくはない危険な場所。
曰く、不正入学……正規の手続きなしでこの島に来てしまったものから厄介な犯罪組織まで隠れる闇。
興味本位で近づくな。
学生生活を楽しみたいなら噂を楽しむ程度にしておけ。
案内地図にはそんな場所はなく、歓楽街とされる場所だとだけ知っている。
僕にはそんな場所を確かめに行く気はこれまでなかったというのもある。
農業と学業だけでクタクタだったというのもある。
けれど、僕の世界を変えてくれた人に会いたいという『願い』が、
突き動かす、この足を。
■武楽夢 十架 > 学園の裏側―――この場所の報を得たいのならば、まずは落第街の情報屋や事情通を頼ってみろ。
歓楽街から徒歩でこの場所に向かってる途中に居酒屋から出た男に言われたセリフ。
それはアドバイスだったのか、誘導だったのか。
後になっても分からないが、ただの学生の姿に何か思うところがあったのかも知れない。
たまに落第街でオンナ遊びをしているという先輩は「作った野菜や果物でも交渉はできる」と自慢していたのを聞いたことがあった。
騙されたと思って持ってきてきていた野菜や果物は―――有効だった。
そもそも、ここにいるヒトにとっては『僕のような者』が求める情報なんて言うのは大した情報ではないのかも知れない。
しかし、新鮮な野菜や果物というのは実は貴重だった。
何もここにいるのは全てが偽造証などを持っているわけじゃない。
彼との取引に応じたのはそう言った事情で、ここから出られない者たちがわざと食料を持つ彼が話しかけやすいように動いた結果である。
こんな場所に、『影のない』ような学生が来るって事はそういうことだと彼らは熟知している。
■武楽夢 十架 > 辿り着いたのは落第街の路地裏。
色々なことを知っているという人物がいる場所を紹介された。
「あなたが情報屋で間違いないか?」
厚手のローブで姿を隠してはいるが小柄なのと隙間から見えるきめ細かな黒の長髪から女性と察しが付く。
「そうだ」
問いかけに対して、一言ではっきりと。
少し興奮して、感情気味に一歩近づいて僕は叫んだ。
「女の子を探している。二級学生の、異能で変質したっていう緑色の長髪と■■■の女の子なんだ!」
■武楽夢 十架 > そう問えば、情報屋はやや思案するように頭を揺らしてから答えた。
「……その娘には覚えがあるのう。住んでいた場所にも心当たりはあるぞ」
知っている。だが、教えはしない。
私は情報屋、情報が欲しければ相応の対価を差し出せと言外に出し惜しむ。
「俺に払えるのは……このプリペイドカードと残り少しの野菜くらい」
カードは金銭取引のために持ってきていたがここまで必要なかった。
生活費なんかを全額詰め込んだ二十万前後の金額が用意出来るすべてだった。
「―――すべて置いてゆくが良い」
どれかを、なんて思っていた僕は一瞬あっけにとられた。
■武楽夢 十架 > ローブに隠れて見えないが、相手は面白そうに笑って続けた。
そして、言葉を紡ぎながらゆっくりと指を少年の――――背後へ。
「なに、それらは今から不要になるゆえに妾が貰っておこう。
―――なに、お主が求める場所への案内人はすぐ後ろじゃ」
「……え?」
一瞬何を言っているのか分からず、後ろを振り向けば、目が血走りその下に真っ黒な隈作った大男がいて、
僕の腹部に穴でも開けそうな拳を叩き込んだ。
悲鳴を上げることもなく、僕の意識はそこで途切れた。
■武楽夢 十架 > ―――ッ!!
「……っ、はぁ…はぁ……」
息苦しさに目を覚ました。
最早見慣れた木造住宅の天井。
悪夢から目を覚ましたのを喜ぶべきか―――この腹の上でとぐろを巻いて寝る蛇人の子供を連れてお隣さんをこんな未明の朝早くに起こすべきか……。
四隅の穴は日に日に大きくなるな、と悪夢が終わった事に安堵しながら苦笑した。
この調子じゃ、今はまだ腕に収まる小さなこの子もほんとにご両親のように俺より大きなヒトガタになるんだろうな。
「……今日は、仕方ないだろ」
この日、二年ぶりに畑仕事に遅刻した。
ご案内:「【回想】2年前、武楽夢十架と…」から武楽夢 十架さんが去りました。