2022/11/23 のログ
■マルレーネ > 「いいよ。」
言葉はその3文字だけ。
押しのけようとする力に負けることもなく、その紅すら体で受け止めようとする。
「病院に行く、ってわけでもないんでしょう。」
そんな気がした。
だから、少しだけ間をおいて、そんな言葉を投げかける。
「大丈夫。ちょっとだけ無理をしたのよね。
ほら、私もそうだったもの。わかるわかる。」
合間合間に軽口を入れながら。
背中を叩くような所作はしない。頭を撫でたのも、一度だけ。
そこから先は黙っていた。
それこそ、落ち着くまで1時間でも2時間でも、そのままでも構わないといった空気。
本当に毛布か何かのように、包み込むだけ。
こうしている方が、自分もまた落ち着くから。
■ノーフェイス >
「………」
薄っすらと眼を開ける。黄金の輝きが消え入る炎のように細くなっているが。
みじかい言葉にすら、ただ僅か、触れた彼女の服の布地を掴む。
「ぅ……」
問われた言葉には、ただ頷く。
自分の格好つけを尊重してもらえたようで、ならばそれに応えるのみだ。
身を預けない、縋らない、ただほんの僅か……貸してもらうだけ。
心残りは――ない。それをもたないように生きてきたつもり。
なんだか、この世界にもどってきて、ひとつみつけた気がするが、喪ったばかりだ。
うっかりと意識を手放しかけるほどの安心感を、しかし享受しようとした自分に鞭打った。
せめて俯いて溢れさせぬよう、それでも修道服に赤黒い染みを零すだろう。
ぼたぼたと長椅子の座面をつたい、床を濡らすその鮮赤、漏れ出ていく魔力と生命。
撫でられた瞬間伝った涙は、呼吸の苦しさがもたらした生理現象か。
「…………、……」
僅か、目元に隈を浮かべながらも、吐き出した数分後には、呼吸が落ち着いた。
「……汚すなら別の体液のが良かったよねぇ」
顔をあげると、へへ、と笑って、顎まで伝う紅を、手の甲で拭った。
他人に代償を強いるなら、こちらも代償を支払う必要がある。
都合のいい話はなかった。奇跡を押し付ける側にも相応のリスクがある、というだけ。
僅かにだけ身体を離す。もう大丈夫だ、と。ありがとうは、言わない。
「いままではここまでにはならなかったんだけど。
美女のまえだからかなぁ、興奮しすぎちゃったかも。
……ねぇ、どうだった?」
背もたれにしなだれながら、彼女のほうを向いて。
汗で濡れる髪をかきあげると、またべたりと汚れてしまうが。
表情はだいぶ、調子を取り戻してきた。
■マルレーネ > 「なーに言ってるんですか。」
こつん、と指で額をつついてやりながら、全くもう、とため息をついて。
相手がどのくらいのダメージを受けたのかは分からない。
分からないけれど、おおよその当たりがつく。
だから………、何かの言葉を求めるようなことはしない。
「……ふふ、そうですか?
全く、口が上手いんだからもう。」
ぐしぐし、とちょっと頭を撫でて返すのは、普段の表情。
元の調子を取り戻すならば、べったりとくっついておくのはやめよう。
少しだけ間をおいて、座り直す。
「………………私はまだ、よく分かりません。
ですけれど。
………ふふ、貴方の"本気"だけは伝わった、って感想だと、おかしいでしょうか。」
そっと手の甲で、口元をぐい、と拭ってあげて。
■ノーフェイス > つんと突かれるだけでくらりと頭が揺れるものの。
どうにか正体を取り戻すと、長い深呼吸、のあとに笑った。
「あー、ちょっと、手が汚れちゃう。
コドモ扱いしないでってば。もうりっぱなオトナなんですから。
……次は明るいところで、でしょ?」
追いかけることはしない。距離が交わるのは今だけ。
これ以上は過干渉。今は。お互いに。
成すべきことはした。
「…………」
笑みが、深まる。
伝えたいことは伝わったらしい。やっていることは悪ふざけ。
善行ではない。むしろ悪行。
でも、命がけで――本気だ。それは間違いなかった。
託した期待と奇跡の重みをわかってくれれば、それで。
「……うたの感想」
そこで目を閉じ、ふてくされたように低い声。
■マルレーネ > 「でも、私の方が上だもの。
先輩らしいこと、させて頂戴?」
微笑む。明るいところで、と言われれば。
「明かりを消さないと恥ずかしいわ?」
なんて、冗談で返す女。
修道女と呼ばれていても、どうにも俗っぽいところは変わらない。
いやまあ、荒くれ者とたっぷり一緒に過ごしていましたからね。
「………それはそれ。
耳に残ったけれど、私だって緊張していたのだから。
今度は普通に聞かせてもらえる? 私はそれが聞きたいな。
もうちょっとリラックスして、ね。」
ふてくされた頬をつつきながら、ね、と笑う。
何も言わないけれど。つまるところ、それだけ。
気持ちが伝われば、と穏やかな言葉。
■ノーフェイス >
「……年功序列制はんたーい。
それは旧い考え方だとおもうな、ボクは」
力のない返答しかできない。
魔力は精神力だ。
消耗してしまえば、気勢はどうしても緩んでしまう。
実際いまもどうにかこうにか――
「……うん。
いってなかったんだけど、本業はミュージシャンでね」
未だに不整脈と拍動を繰り返す胸元に、手を当てながら。
「修道女様と違って、より俗人ではあるケド。
……だからこそ、お互い生きてたら、素敵なステージをご覧にいれましょう。
お行儀のよいゴスペルやクラシックではないから、
清楚な修道女様には――ちょっと刺激が強すぎるかもだけどね?」
確約できることはない。
明日、一秒先、どうなるかわからないから、お互い生きていたらと。
ぎ、と片手を背もたれにかけて、立ち上がる。
余裕の表情をつくって、見下ろした。
「……じゃあ」
別れの挨拶にも、余計なことは言わずして。
歩けそうだ。闇に乗じ、住処に戻るまでは保つだろう。
彼女も――心配することはあるまい。ずいぶん歩き慣れている様子でここまできたのだから。
■マルレーネ > 「それがまかり通る施設を待ち合わせに指定した貴方の負けでーす。
ここでは私がルールでーす。」
ああ言えばこう言う。大人のようにふるまいながら、子供染みた言葉を返して。
疲れ切ってることは伝わるけれど、直接の心配はきっと無用だろう。
「………あーら。
ふふ、まだ私を清楚な修道女として見てくれるんです?
私の修道院はジャンルを問わないわ。」
ころころと笑いながら、立ち上がる彼女を見上げて。
「ええ。」
本当はまだ心配もある。
いつもの癖で手を伸ばしそうになって、いいや、違うと心でブレーキをかける。
■ノーフェイス >
教会の扉は開かれていた。
それをくぐって、夜空の下にまろび出れば。
「…………恐い女」
傷む内臓、暴れる心臓を引きずりながら。
声をかけたものの、色んな意味での危険度に、
そんなことをぽつりと呟いて。
■マルレーネ > 「………ふぅ。」
静かに吐息を漏らす。
何が起こるかと思ったが、………いや、何かは起こっているのだろうけれど。
それでも、目の前で手を差し伸べる対象がいたから、平静のままでいられた。
こうやって後悔すらするタイミングを見失っていくのだろうけれど。
まあ、それもいいか、と割り切って。
「………さあて、使うタイミングが無いといいんですが。」
呟く。
己が身を燃やす時に、大きな炎になるのなら。
それもまた仕方あるまい。
ご案内:「落第街-十字架の欠けた廃教会」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「落第街-十字架の欠けた廃教会」からマルレーネさんが去りました。