2019/02/05 のログ
ご案内:「路地裏」に傀儡女の柰さんが現れました。
傀儡女の柰 > 夜。路地裏の一角。

ドラム缶の上に腰を据えているのは華奢な少女であった。

黒を基調とした和装は闇に溶け込んでいるようであるが、艷やかな桃色の髪は吹きぬける風に靡いて、薄汚れた路地裏の空気には到底似つかわしくない彼女の美貌の象徴となっていた。

顔は暗がりに隠されがちであったが、切れかかった街灯が断続的に、微かに彼女の整った面を映し出す。

齢は、12,3といった未成熟な少女のそれであろうか。

幼さを十分に残したその顔立ちはしかし、覗き込めば覗き込むほど
のめり込んでしまいそうな妖艶の色を湛えている。
羞月閉花。月が恥じらい花も閉じる美しさとは、よくいったものである。

そんな彼女の細い指が琵琶を優しく撫でるたび。
低く和やかで心地の良い音が、流れては路地の闇に吸い込まれるように消えてゆくのである。

社会が生んだ冷たい闇の中に在りながら、彼女は確かに実在する幻想的な美としてそこに在った。

静寂の間に、時折奏でられる琵琶の音。路地裏の幻想が奏でるそれは、延々と続くと思われた。

傀儡女の柰 > 「おい、誰の許可を得てここで演奏してやがんだ? おい、聞いてんのか、ぶっ殺すぞ!」

そこにふらりと現れたのは、見るからにガラの悪い男であった。

桃色の髪を流す雅な少女とは対照的である。周囲の者全てを疑いながら見下している目は鋭く、吊り上げた口端から剥き出されている歯はまるで獰猛な犬のそれである。

「あぁん? 何だ、すっげぇ上玉じゃねぇか……へへ、へっ……」

桃色髪の少女を認めた男の目は、いつしか獲物を定めた肉食鳥のそれとなっていた。

断続的な灯がこの間、ちかり、ちかり、と美しい少女の顔をニ、三度照らした為であろう。

男の声は素直な驚きに満ちていた。なかなか見かけないレベルの美少女だ。

特に、この路地裏では。

「ククク、ちょうどいいぜ。俺、溜まってたんだよなぁ、すっげーよぉ。ここ一ヶ月は女を襲ってなくてなぁ」

琵琶の音に混じり、桃色髪の少女は小さくため息をついたようであった。

もっとも、男はそれに気づく様子がない。

腕を大きく広げて芝居がかった口調で少女に近寄ると、その小さな肩にぽん、と手を置いた。

「好き放題荒っぽく遊ばせて貰うが、あの世で恨むんじゃねぇぞ、ヘヘヘッ」

男の指から、小さな金属音が響く。

一瞬の内に男の爪が伸び、鋭いナイフになったのだった。

男は今から自分の『物』になる哀れな獲物の、そのか弱い命を握った高揚感から愛おしそうな笑みを浮かべながら、少女の細い首にその刃をあてがっていた。

対して少女はといえば、怯えるでもなく驚くでもなく、何の色も浮かべずにただ琵琶を撫で続けるのみであった。

傀儡女の柰 > 「前の女はすぐ死んじまったからなぁ……ま、死んだ後もかなり楽しませて貰ったが……でもよ、やっぱり、悲鳴が聞きてぇよなぁ。
 特に、澄ました顔をした女が涙で顔を崩しながら、絞り出すように放つ悲鳴……最高だぜぇ」

男は頭に浮かべた。

眼前の強情な少女が泣き叫びながら命乞いをする様を。

そしてその命乞いを足蹴にして、その命を奪う瞬間を。

それは、彼にとってとても、とてもそそられるものであった。

生者と死者の、揺るがぬ上下関係。

美しい女が、ただのモノに成り果てるその瞬間に。

そしてそのモノを玩具のように弄んでいる時に。

彼は社会や世界といった枠組みに囚われない、より大きなものから自分の存在を認められるような、そんな気分になるのであった。

傀儡女の柰 > 「今宵の別れの惜しきかな――」

凛、凛。

再び少女の小さな、そして潤いのある唇から発せられた音色。

常人が聞けば思わずうっとりと呆けてしまう心地よい声であるが、今の男にとっては、ただただ彼を苛立たせる雑音に過ぎなかった。

彼が求めているのは悲鳴なのだ。こんな、余裕たっぷりの音など、一秒とて聞いていたくないのだ。

苛立つ思考は、彼の頭に都合の良い解釈を始める。

自分が、こんな少女に恐れられぬ筈がない。

認められぬ筈がない。ならばこの少女が口にしているのは、命乞いでこそないにしろ――。

「ハッ、『辞世の句』でも詠もうってのか! くだらねぇ……さっさとあの世に送ってやるぜ! 泣いて叫びやがれってんだァァァッ!」

首にあてがっていた刃をあえて離し、男は全力で後方へ右腕を振りかぶった。

その瞬間、彼の肘から先はあらゆる肉を切り裂く刃となる。既に、彼女で楽しむことなど彼の頭にはない。

自分を馬鹿にする存在を、今すぐ目の前から消し去ってやりたい、自分の力を証明してやりたい、と。

そんな浅はかな獣の思考が、彼の内で暴れ狂っていたのである。

傀儡女の柰 > 「――秘曲・流泉」
口にされる、艶やかな声。

その刹那。

琵琶と男の腕に眩い光が迸ったかと思うと、辺り一面にどす黒い赤色が散らばった。


「がっ、あ゛……あ゛ぁ……お、俺の……俺の……う゛、でっ!? ガァァッ!!!?」

獣のような呻き声をあげながら、男は膝をつく。

あるべき筈の腕を失った肩口からは、血がどくどく、びゅうびゅうと流れ出ていき、路地裏の地面を暴力的な色に染め上げていた。

「ぬし様は、己の内の獣に心を奪われているようダ。獣はきちんと飼いならさないと、身を滅ぼすのサ。時には獣に身を任せるのもまた一興だけれどネ……ま、今更ぬし様に言っても遅いけれどモ」

ゆったりとした、ぞっとするほどに色気のある声であった。
そしてその声は、聞いた者にとって腰に氷をあてがわれるような冷たさを感じさせる恐ろしさも備えていた。

「このクソメスガキがーーーッ! その首落として、ぶち殺し犯してや……!?」

二度《ふたたび》。
琵琶から発せられた光が男を貫いた。男はその時、ようやく視認した。

琵琶から放たれた光の刃を。
そうしてその先に見える、禍々しい彼女の表情を。

それはまるで、昔話に語られた――

「――お、に……」

そう呟いた男は、夜空を見上げていた。
見たくて見た訳ではない。

彼の頭はどう、と地面に鈍い音を立てて転がっていたのだった。

男には、四肢がなかった。

そして今や男には、命すらなかった。

傀儡女の柰 > 「ふぅム……」

懐から扇子を取り出し、右から左へ顔を隠すように大きく振るう。

扇子から顔を出したのは、二本の角が生えた鬼の顔であった。

「ご明察。あちきは鬼。傀儡女の柰サ。ああ、そうそウ。「あの世」の奴らによろしく言っておいてくレ。旧くからの顔馴染みでネ」

くすり、と笑う少女の表情は何処までも蠱惑的で、淫靡なそれであった。

ただ笑うだけで、おぞましいまでの色気を醸し出してしまう。

まさに人外、幽世を匂わせる昏き美の権化である。

「――いつかは人をながらえて見し」

再び、静寂が訪れたその空間。

柰と名乗った鬼は最後にそう唄う。

そうして。

切れかけの街灯がチカ、と一瞬の暗闇を作り出したその後には。

血を浴びたドラム缶と、かつて男だったモノが、永久に思われる静寂の中で、ひっそりと残されるのみとなったのであった。

ご案内:「路地裏」から傀儡女の柰さんが去りました。
ご案内:「路地裏」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
「なに、これ───」
『さっきまではなかったの?』
『わからん、それほど時間は経っていないはずだけど…』

その現場を目撃した風紀委員達は口々にその異様を語る

「違う、私がいた場所とそんなに離れてない。
 その時は、こんなに濃い…血の匂いはしなかった」

一度落第街から戻り、病院で姉妹ともども手当て受けて、
現場の再確認と、検証と…所謂報告書作成のための地検を行うために、他の風紀委員と共に戻ってきた
時間にしてほんの2、3時間といったところで…

その間に、"この死体は造られた"のだろう

伊都波 凛霞 >  
『どうする…?』
『どうするって…』
『服装からして二級学生だろ…?放っておいても』
「そんな……」

遺骸の状態が酷い
事件後の検分を任された風紀委員達は皆、それほど経験が深い生徒ではなく
完全に現場の状況にショックを受け狼狽えてしまっていた

「ほ、放っておくわけにはいかないよ。
 応援呼んで、私達だけで事に当たらないほうがいい…と思う」

もしかしたら犯人がまだ近くにいる
そんな可能性もなくはない
ベテラン…少なくとも風紀委員としての歴が長い生徒に応援を求めたほうが良い

伊都波 凛霞 >  
『報告書はどうする?』
『…ありのまま、書くしかないよね』
『と、とりあえず状況の保全、保全しないとな…』
『うう…写真、撮らなきゃダメ…?』

各々が自己の責任感と、恐怖との狭間で揺れながら、行動を開始する

「………」

近寄って…遺骸へとその手を触れる
折角持ち得た異能の力、少しでも役に立てたい
惨殺された遺体を見慣れている、という程ではない
それでも他の生徒よりは、まだ耐性があるだろう

そっと触れたその指先から、残留思念を読み取ってゆく

ご案内:「路地裏」に水無月 斬鬼丸さんが現れました。
水無月 斬鬼丸 > 「すんすんすーん♪」

鼻歌交じりの少年は、落第街のバッティングセンター帰りであった。
少し汗をかいたので、近くのランドリーでの洗濯を終え、シャワーまで浴びてスッキリ爽快。
あとは寮に帰るだけ。
路地裏は危険だと聞くが、ここからさっと歓楽街に抜けるのが近道。
通り抜けるだけだ。なに、大した面倒など起こるわけもない。
通るだけなら時間にして三分もかからない。
実際何度か通ったことあるし。
妙な人だかりがあるけど…まぁ、自分からかかわらなければ平気平気。

伊都波 凛霞 >  
ああ、なんとタイミングの悪いことか
風紀委員の現場封鎖作業中にその少年は現れてしまった
なんの関係もない一般人…ということなら身分を確認して通すこともできるのだけれど

『あ、ちょっとまって、君!』
『今ここは封鎖中だぞ、…ん、何を持ってるんだ?』

「…え?」

残留思念の再生に気を取られていると、ちょっとした騒ぎが起きていた
竹刀袋…らしきものを手にした学生が踏み入ろうとしていたらしい
正確には、通り抜けようと…なのかもしれないが

『怪しいな…荷物を見せてもらおうかな』

風紀委員の一人がそう少年に詰め寄っているところへ、自分もまたぱたぱたと駆けていって

水無月 斬鬼丸 > 「え?え?なんすか」

風紀委員がこんなところで一体何を…?
異能喧嘩の仲裁か、その手の問題の現場検証か。
こんなところで足止めを食らうとはついていない…が、逆に考えれば
風紀委員がここに集まっているということは、ここは今安全ということだ。
後ろ暗いことなんてないんだからツイてると言える。

「怪しいってなんだよ、オレはただここ通ろうとしただけで…」

ツイてるとは言え、横柄な態度は少し鼻につく。
が、下手に逆らって問題になっても困るので素直に竹刀袋を渡す。
刀のはいったそれを。
そういえば、鼻につくと言えばさっきから焦げた錆鉄のような臭いが充満している気がする…。

伊都波 凛霞 >  
『普通の学生が訪れるようなところじゃないだろ』
『これ…刀か?おい、なんで帯刀してる?』

ざわざわ

「待って、待って…ふぅ…」

駆けてきて、一息
足止めを食らっている少年の顔をまじまじ、と見て

『こいつ、刀を持ち歩いていたぞ』
『本部まで一緒に来てもらうか…』

口々に、怪しい怪しいと少年を囲う、が……
じーっとその少年の顔を見つめていた凛霞が、安堵したように言葉を漏らす

「……大丈夫、違うよ。この子は犯人じゃない」

それだけ述べて、はーっ、と、疲労感を感じる大きな溜息をついた
他の面々も凛霞の異能が高精度なサイコメトリーであることを知ってか、
なんだ違うのか、紛らわしい、こんなところをうろつくな、と口々に言いつつ、竹刀袋は少年へと返される

水無月 斬鬼丸 > 「え、え?これはその、異能関係のあれで、許可もとってるっつーか
な、なんだよ!?ついてこいって…こんなとこで点数稼ぎとか、不良警察かよ!」

実際、異能の関係で帯刀している生徒も少なくはないことは知っている。
無論グレーゾーンではあるだろうが。
しかし、今まで放置されていたものをいきなり取り締まられると面食らうもので
つい語気が荒くなる。

「あん?なんすか?あぁ?」

しかし駆け寄ってきた少女…ポニーテールと泣きぼくろが印象的な可愛らしさを感じる顔立ち…
囲まれたまま、見つめる瞳をつい見つめ返してしまう。
そして漏れた言葉は犯人じゃない…とのこと。犯人?なんのことだ?

「なんだよ、人違いで疑っといて…いいご身分だな。なんかあったのかよ…」

竹刀袋を担ぎ直せば風紀委員達の苛立たしげな態度に腹を立てる。
美少女に見つめられたのはラッキーであったが、これはこれで気分が悪い。

伊都波 凛霞 >  
「ちょっと、陰惨な殺人があってね…みんな少し気が立ってるの」

まわりの人間をそれとなくフォローしつつ、そう弁明する

「私達も公安に引き継ぐまでは現場の保全義務があるから…、無関係者の立ち入りはさせられないし、
 何より、その…遺体が、刀傷によるものかもしれなかったから、余計に…ね」

説明不足だったのは、現場の人間も余裕がなかった…ということだろう
そうなると少女の一声で疑いが晴れたのも疑問だろうが、少年がそう感じるかどうかはわからない

「それはそれとして、腕に覚えがあっても…というかあるなら尚の事、このへんは通るべきじゃないよ?」

水無月 斬鬼丸 > 自分を犯人じゃないと言った少女。
彼女の発言を疑いもせず、ろくに事情聴取もなしに解放したということは
おそらくはそういう異能の持ち主なのだろう。
捕まっていたら、おそらく面倒なことになっていただろうし、感謝せねばなるまい。
…って、今なんて言った?

「は?え?殺人?」

学園の敷地内で殺人?そりゃ異能を使えば人殺しなんて簡単にできるなんてやつはごまんといるだろう。
自分もふくめて。
だが、普通に学校生活を送る街の中で、いきなり殺人などと言われれば面食らう。
だが、彼女の声色、現場の状況、立ち込める臭い、そしてピリピリとした風紀委員の面々。
冗談どころの騒ぎではないらしい。

「あっはい、ご忠告どーも。つか、そんなんがうろついてんならあんたらも危ないんじゃ…」

伊都波 凛霞 >  
『君、転入生か何かか…?』
『一般の生徒でこのへんに近寄ろうって生徒はほとんどいないよ』
『僕らは風紀委員だから、このへんを見回りもするけれど…』

少年の反応に、口々にええマジかよといったような反応をする方々
認知が行き届いていないなら、改めてそのへんは注意喚起しなければいけないのではなかろうか

「そう、私達も危ないの。
 刀を持ってて、踏み込んできた君に大騒ぎしちゃうぐらいには気を張ってるってこと…」

わかってくれたかな?とその表情を伺って…

「なのでどうしても通り抜けなきゃいけない時はなるべく大通りを通って、すぐに歓楽街のほうに抜けたほうがいいよ…?」

さてこの少年、落第街の危険性自体を認識していなかった感じがある
呑気というか…豪胆というか……

水無月 斬鬼丸 > 「む」

何だこの反応…。
確かに知らないこっちも悪かったかもしれないし、危険性も理解していなかった。
転入生であることもあっているし、彼らの言うことは何も間違ってはいないのだが…
知らないことにこのような反応をされればあまりいい気持ちではない。

「そーっすね、今度から立入禁止の看板でもはっといてくれりゃ気をつけますんで」

かといって、自分から殺人だ何だに首を突っ込むような真似をしたいわけではない。
ポニーテールの少女くらいに対応が柔ければ、こちらも素直になれるだろうに。
治安を維持する組織というのは、えてして偉そうになりがちだ。

「おねーさんもご忠告どーも」

この人の言うことは素直に聞くとしよう。
他の委員と違って、気分の悪くなる物言いでもないし、気遣ってくれているようだし。

伊都波 凛霞 >  
やれやれ人騒がせな…と他の風紀委員達は散り、封鎖テープを張ったりといった作業に戻ってゆく
その場にはとりあえず二人が残されて…

「ふぅ…あ、君。本当に気をつけてね。近くに犯人がいる可能性はないわけじゃないし…」

とはいえ余り口酸っぱく言うのも、鬱陶しいだろうとこの辺にして…

「この辺りは、学園に見捨てられた人達がコミュニティを作って住み込んでたりしてて、治安は良くないの。
 明確な立入禁止看板なんかも、立てられればいいんだけど、すぐ壊されちゃうだろうから…」

とりあえずどういう場所かの説明だけをしておく
違反部活や違反組織の横行などもあるといえばあるが、
一般生徒には治安が悪いの一言でもとりあえずはOKだろうと

「…歓楽街の入り口あたりまで、送ろうか…?」

なんとなく少年がちゃんと帰れるか心配になったのか、そう提案をしてみて

水無月 斬鬼丸 > 作業に戻る風紀委員の背中に中指でも立ててやりたかったが
ポニテ美少女が残っていたのでそれは我慢することにした。
それに、殺人なんて大事になれば、苛立つのも何となく分かるし…態度は褒められたものではないがこれ以上刺激してもいいことはないだろう。

「あー、犯人…そっすね」

死体があってそれが他殺ならば、犯人という存在がいる。
当たり前であるが、疑いが自分に向けられたこともあって失念していた。
彼女の言う通り、気をつけるに越したことはないだろう。

「よくそこらでたむろってる連中っすかね。
まぁ、他の連中はともかく、おねーさんに面倒かけるのもどうかと思うんで、素直に従っとくっす」

やれやれと肩を落とす。
普通に学生やっているだけでは、この島では生きていけなさそうだ。気をつけねば。
と、気を引き締めると少女から以外な申し出。これはツイてる。

「あー…よろしくおねがいしてもいいっすかね」

いわれのない文句をつけられたのだ。
これくらいの役得はもらってもいいだろう。

伊都波 凛霞 >  
「ん、それじゃちょっとだけ待ってて」

ふわっとした笑顔を浮かべてそう言うと、他の委員の元へ駆けていって、2、3言葉を交わし、戻ってくる
少年に同伴して歓楽街まで、ということを伝えてきたのだろう

「お待たせ、それじゃあ行こうか」

そう言って横に並ぶようにして、とりあえずは歓楽街へ続く大通りへ向けてゆっくりと歩を進めはじめる

「そういえば君…ってばっかり呼ぶのもなんだし、名前は?
 私は伊都波、伊都波凛霞って言うの、3年生」

移動中無口なのもなんなので、世間話でもしよっかなとそう切り出して

水無月 斬鬼丸 > 「うっす。あざっす」

少し待ち、あるき出した少女に従うように歩みだす。
ついてきてくれることに気持ち礼を言う…が、あとが続かない。

この学校に来てから彼女どころかトモダチもおらずひとり上手を満喫してたこともあって
いきなり、ポニテ泣きぼくろ巨乳かわいいおねーさんと一緒に歩く自体など想定してはいなかった。
嬉しい誤算であるし、望んだことであるが…非常に気まずい…

「へいっ!?」

などと思考を巡らせようとした矢先、不意打ち気味に彼女から声をかけてきた。
彼女はどうやらコミュ能力が高いようだ。

「は。あー、伊都波センパイ…でいいんっすかね?
えーと、オレは水無月 斬鬼丸っす。呼び方はおまかせするっす」

美少女効果もあって、さっき以上に緊張している気がする。

伊都波 凛霞 >  
「斬鬼丸くんね。転入生なんだっけ?」

私のことは好きに呼んでいいよー、と笑って

「学園に転入してきたってことは魔術師?それとも異能者なのかな。
 帯刀してるし何か異能に関連するものなの?」

歩きながら、そんなことを質問してゆく
間が持たないどころか話っぱなしである
だというのに、横を歩くこの先輩に、一切隙がなく感じられた …かもしれない

水無月 斬鬼丸 > 「そっす。えーと、異能の方っすね。
魔術もできなくはないけど…まぁ、得意ーって言うほどじゃ」

質問に答えつつも、少しばかり緊張してしまう。
女っ気のない生活のせいもあるが、美少女と連れだって歩いているのだ。
それもむりからぬことだろう。
だが、やはり、殺人事件があったということもあってか
少女の表情は少しばかり固く感じた。
隙もあまりみられない。

「えー、センパイはやっぱ…こう異能側なんっすかね?」

伊都波 凛霞 >  
「そっか、異能者なんだねー…」

転入してきたばかりなら、きっとこれから色々大変なこともあるだろう
自信の異能の力との向き合い方や…どう使うかといった選択
それはすなわちこの島での自信の生き方にすら直結してゆく

「せっかくの縁だし、何か悩んだり行き詰まったら相談に乗るからね」

そういってふんわりとした笑みを向ける
先達であることをひけらかすつもりもないけれど、先輩とはきっと、そうあるべきなのだ
自信も異能者であるのかと問われれば、んー、っと口元に指先をあてて、言葉を選択する

「うん。私もそう。
 物質の残留思念を映像化して読み取ることが出来るの。
 だから、君が犯人じゃない、ってことはすぐにわかったよ」

犠牲者の残留思念の映像には…異様な雰囲気を身に纏う少女の姿が映し出されていたのだから
他の風紀委員がすぐに少年の潔白を認めたのも、やはり彼女の能力あってのことだったようだ

水無月 斬鬼丸 > 「うっす、あざっす。
やー、転入してきたばっかりでダチもいねーし相談する相手とかもいないんで助かるっす。
センパイみたいなかわいい人に相談に乗ってもらえるなら。さっきの道通ったかいもあったっす」

やわらかな声と表情。
今日この日のためにこれまでぼっちだったとすれば、神も粋なはからいをするものだと思う。
冗談交じりに笑い返す自身の問いに答えてくれる彼女の様子を思わずまじまじとみてしまっているのだが。

「残留思念。はーそれで…
やけにあっさり引き下がったんで不思議に思ってたんっすよね。
それにしても、殺人犯や被害者の残留思念なんてな…あまり気分のいいもんじゃねーっすよね…
ごくろうさまっす」

あの現場の臭いだけで、こちらは気が滅入ったというのに
思念まで読み取るとなれば、普通の神経ではやっていられまい。
やわらかな表情をしているが、風紀委員たるだけの能力がある…ということなのだろうが。

伊都波 凛霞 >  
「あっはは、時期外れだと大変だよねー。
 春になれば新入生も増えて、出会いも一杯あるよきっと」

にこにこと、柔和な笑顔を浮かべながら受け答え。人の良さが滲み出ている

「そうそう、気が滅入ることも多いんだけど、
 それでも風紀委員の活動にはお役立ちでしょ?
 折角持って生まれた力なら、誰かの役に立つほうが嬉しいもんね」

──実際には少女には裏の顔があって、それ故にああいった状況への耐性もあるのだが
当然のようにそれを誰かに語ることはせず。少年の想像の中だけに答えと留めて…
そうこうしているうちに歓楽街と落第街、その狭間が見えてくる
明確な線引がされているわけではない、けれど、どこか雰囲気といったものや、壁の落書きの数など…
ちょっとしたことから、ここからと、ここからは違う世界だと言っているようにも感じられるだろうか

「はい到着ー、何事もなくて良かった良かったー、駅まではわかるよね?」

水無月 斬鬼丸 > 「そーっすかね?
なんか、敬語で話されたり避けられたりしねーっすかね?」

時期のずれた同級生というものはなんと言うんだろう
こう…はれもののように扱われそうな気がしてならない。
それよりも、笑顔になるとよけいになんというか…美人というよりは可愛らしいという風情だ。
パーツ単体で考えれば、美人要素が多いだろうに。
不思議な少女だ。

「はーん…センパイっていいひとなんっすね」

異能が誰かの役に立つ…そりゃいいことではあるのだが
それで殺人現場の矢面に立とうなんていうのは相当のお人好しでなければできない。
素直に感心しつつも少しばかり周囲が明るくなった気がする。
名残惜しいが所詮路地。そんなに長いわけでもない。

「うっす、さんきゅーっす。えーと、なんか手伝えることがあったら言ってくださいっす。
オレの異能なんてなそう人の役に立つもんじゃねーっすけど…まー、それこそ『せっかくの縁だし』」

礼を言いつつ、彼女の方へと向き直り

「あー、改めて自己紹介しとくと水無月 斬鬼丸…異能は…そっすね、なんでも断ち切る能力…みてーです。
これが役に立つようなことがあったら声かけてくださいっす。そんじゃ、今日はあざっした!」

伊都波 凛霞 >  
「そういうこともあるかもしれないけど、くだけた感じに接すれば相手も気にしなくなるものだよ。
 初対面で気を使わない人なんてそんなにいないんだから」

つらつらと言葉を返して、足を止める
同伴はここまで、ここから先は常駐警邏をしている風紀委員も多い歓楽街
学生街などとは比べるべくもないが、落第街とは危険度がまるで違う、比較的治安の良いエリアの筈だ

「ふふっ、いい人かなー? 斬鬼丸くんがそう思うならきっとそうなんだね。
 ───ん、ちゃんと覚えとく。それじゃあ、"またね"」

自分も、何かがあったら手伝うという嬉しい言葉
そして自らの異能の力を明かした少年に、そう別れの言葉を告げる

手を振ってバイバイすれば、くるんと踵を返して、薄暗い印象立ち込める落第街をのぞむ

「(………おに、かぁ)」

被害者の残留思念の最後に聞こえた、おそらくは被害者本人の言葉
鬼、おに…此処のところ、よくよく縁のある言葉だった───

水無月 斬鬼丸 > ひらりと手を振る少女に見送られつつ、路地をあとにする。
なんか変な事態が起こっていたようだが…あれもこの学園の日常だというのであれば
とんでもないところに来てしまったのかもしれない。
気が滅入る…といいたいところであるが…
優しげで親しみやすく、可愛らしいセンパイと出会えたことが何よりも大きな収穫と言える。
非モテ男子には殺人事件よりもそちらのほうが重大であった。
歩く足取りも軽やかに、風紀委員に捕まる以前の上機嫌さで歩きだすのであった。

「すんすんすーん♪」

ご案内:「路地裏」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「路地裏」から水無月 斬鬼丸さんが去りました。