2020/07/16 のログ
■神代理央 > 己の存在を認識し、よかった、と微笑む少女。
そんな少女の髪を撫でながら、視界に映る少女の横顔をぼんやりと見つめる。
己を包む少女の細い腕に、身を委ねながら、此方も少女の躰を緩く引き寄せるだろうか。
「…何故、お前が謝る。別に謝る様な事などしていないだろうに。我儘を言ったのは、俺の方だというのに」
幼児の様に、己に謝罪の言葉を繰り返す少女。
そんな少女の髪を撫でながら、罪悪感に苛まれる思考を蹴飛ばして理性へと置換する。
先ずは少女の身を清めなければならないだろう。懇親会の直ぐ後だから、お腹は空いていないとは思うが。取り敢えず疲労はしているだろうから、何か飲みやすいものを準備するべきだろうか。
思考が回転する。理性が息を吹き返す。少女に接する【大人】としての己が、行動を起こそうと身動ぎしかけて――
「………な、に?」
泣かないで、と少女が、告げる。
思わず己の頬に手を伸ばす。涙は、零れてはいない。
今迄散々に涙を流していたのは少女の方だ。それなのに何故この少女は、己に泣くなと告げるのか。
まるで、己を子供の様に。庇護するべき存在であると言う様に。頭を撫でる、少女。
「……泣いてなど、いない。泣いていない。泣くことなど、許されるものか。俺が、涙など流すものか。俺は、俺を誰だと…!神代理央を、鉄火の支配者を、何だと思っている!」
激昂。余りに唐突な、堪えていた何かが噴火したかの様な激昂。
身を起こし、少女の両肩を掴み、強い口調で言葉を紡ぐ。叫ぶ。
嗚呼、それは少女の思う通り。駄々を捏ねて啼き叫ぶ幼児の様な。
■水無月 沙羅 > 「あ、ぅ……」
子供の様になった少女には、少年の言い分は分からない。
大人びた振りをする少年が、何を怒っているのかが判らない。
唯一つ言えるのは、必死になって否定するのにはそれなりの理由があるということで。
……怒りと悲しみは、時にして=であることを、彼女は経験から、たとえ子供に戻ったとしても覚えていて。
「だって……、りおは、りおでしょう? わたし、助けてくれる、そのために泣いてくれるのが、りおじゃないの……?」
自分のために、繰り返し謝りながら、お前のためにと束縛しながら、そんな風に暴虐を尽くすしかできないことが。
辛くないはずがないじゃないかと、誰かのためにと行動できるなら尚更。
子供の感情に、論理も、理屈も通用はしない。
「だから、今は泣いていいんですよ……りお。」
うっすらと戻ってくる意識に、まだ幼さを残しつつも。
大人びた少女はそれでも彼を肯定し、否定した。
白く汚れて皺になったドレスと、べたべたにお互いの体液で塗れた身体を見て、少し赤らみながら。
本当にお腹に命が宿っていたら、さてどうしようかと、ふと思案して。
くすりと笑うのだ。
■神代理央 > 「分かった様な、口を…!俺が、お前の為に……な、く…」
泣く訳がない、と言葉は続かなかった。
そもそも、泣き方が分からないのだ。最後に涙を流したのは何時だったか。
幼少の砌、父親に施された厳しい異能の訓練の時か。過剰な期待を寄せる曾祖父に迎合し、困った様に笑っていた母に絶望した時だったか。独逸で初めて得た友と引き離された時だったか。異能のテストと銘打たれて、武装勢力の支配する街を焼き払った時だったか。己を気に掛けてくれていた兵士の乗った車輛が、目の前で吹き飛ばされた時だったか。神代家の将来の跡取りとして、親類縁者の歳近い少年少女の想いや家庭を踏み躙った時だったか。
それら全てで流した涙を、父親に否定され、叱責された時、だったか。
嗚呼、思い出せない。思い出せない。わから、ない。
「……泣かない。泣かない泣かない泣かない!辛く等無い。苦しく等無い。悲しく等無い。そんな軟弱な涙など、流さない!俺は、立たねばならないんだ。立って、後の者を導かねばならないんだ。俺は、俺は――!」
だが、此の少女は。
己を好きだと言ってくれた少女は。
泣いていいのだ、と告げるのだ。
「……おれ、は。ないちゃ、いけないんだ」
少女の両肩を強く掴み、揺らし、叫んでいた少年は。
ほんのりと赤らんで、小さく笑う少女の肩に、顔を埋めた。
少女のドレスが。その肩口が、ほんの僅かに、濡れた。
■水無月 沙羅 > 「……。」
己の為に、犠牲を払い、獣を装う少年が吠えている。
自分に言い訳をしながら、呪われたように、そんな感情などないと宣う。
なんて悲しい人なのだろう。 なんて、寂しい人なのだろう。
同情ではない、これはきっと、過去の自分を見ている。
「……理央先輩、どうして、泣いちゃいけないんですか? なんで、辛いといけないんですか? 辛くもないのに、苦しくもないのに、怒る人はいないんですよ。 理央先輩。」
怒りは、それ単体では成立しないということを、自分は知っている。
負の感情の渦に呑まれて、幾人もの人間を屠ってしまった自分の過去が、そう言っている。
彼の過去に、どんなことがあったのか、少女は知らない。
彼がその決意を、心に作った大きな壁を、どのように作り上げたのかは、少女は知らない。
けれど少女は我儘で、だから臆面もなしに言葉にしてしまう。
「辛くて苦しいから、泣きたい気持ちを怒りに代えてるんじゃないんですか……?
……私の前でくらい、本当の顔を、見せて下さい。
そのために、ここに来たんだって言ったじゃないですか。」
沙羅は確かに少年に告げた。
貴方を知ってもいいですか、と。 少年は肯定した。
もちろん構わないと、そのために呼んだのだと。
ならば、もうそこに遠慮なんてものは必要ない筈で。
肩口が濡れたことに、少し安堵しながら、それしかできない少年に、また涙腺が緩む。
「良いんですよ先輩、良いんです……私が、沙羅はここにいますから。
本当の先輩で、居ていいんです。」
抱き寄せて、少年の肩口を涙で濡らした。
■神代理央 > 感情の整理が追い付かない。普段は鋼の様に強靭な理性が悲鳴を上げている。
正しく呪いの様に、泣いてはいけないと己の中から叫ぶ声がする。それは、父親の声か。己の声か。それすらも分からない。
それくらい、感情が暴風に吹き荒れている。快楽を求めるだけの獣でいた方が、まだ余裕があったかもしれない。
「……俺は、俺は。支配者、に。指導者に。人々を導く存在、に。だから、惰弱な感情に、自らが支配されては、いけない」
譫言。或いは、内面から響く声――呪い――が、そのまま口から零れ落ちた様な。
意志の籠らぬ言葉が、壊れた機械の様に漏れ出すばかり。此の侭なら、此の侭であれば。まだ己は呪いに囚われた儘でいられたかも知れない。惰弱な思考を振り払って、彼女の身支度を整えて、それで、それから――
「………いい、のか。俺は、お前が理想とした様な、強い男ではないかもしれないのに。お前が憧れる様な、支配者ではないかもしれないのに。お前が好いた、男の儘ではいられないかもしれないのに」
それが根源なのかもしれない。
己の内面を、ありのままを、本当の姿を。曝け出す事が怖い。
きっと、皆が求めているのはそんな己では無い。尊大で、傲慢で、鉄火の暴風を叩き付けながら、暴君の様に君臨する風紀委員。
それが、皆が望んでいる姿。それが、彼女が望む恋人。
――それが違えてしまう事への、恐怖。
それでも。それでも少女は遠慮なしに。我儘に。臆面もなく。
己の内心に踏み込んで来る。曝け出してしまえ、と囁く。
だから、ほんの少しだけ。泣く為の、勇気を。
「……寂しいんだ。一人は、嫌なんだ。友達が欲しいんだ。誰かを傷付けるのは嫌なんだ。大切な人が傷付くのは、嫌なんだ。
おれは、つよくなんか、ないんだ」
抱き寄せられた少女の肩で、ぽつりぽつりと言葉が零れる。
一言、一言言葉が紡がれる度に、はらはらと瞳から涙が零れ落ちる。何年かぶりに、涙腺が正しく感情の儘に機能する。
決して、泣き叫ぶ事は無い。静かに、静かに。溢れ出した感情が一つずつ涙となって、少女に零れ落ちる。
それは今だけの。今夜だけの。彼女だけに見せる、神代理央、という一人の少年の姿。
■水無月 沙羅 > 「支配者は泣かないなんて、だれが決めたんですか、指導者が弱音を言わないなんで、だれが決めたんですか。
どんな人だって、人間なんです、心があるんです。」
少年の子供の様な、夢のような言い訳を容赦なく切り捨てていく。
過去のどんな暴虐の王も、支配者も、人間であり、感情を持った生き物だ。
なら、そこには涙だってあったはずだろう。
「私を、水無月沙羅を舐めないでください。 好きな男が、少しくらい弱くなったからなんだっていうんですか。
少しくらい泣いたからなんだっていうんですか。 そういうのを受け止めるのが、女の器量って、言うんでしょう?」
良くは知らないけど、大人の恋愛のイロハは分からないけれど。
好いた男の感情くらい受け止められなくて、本当に惚れているなどと言えるわけがない。
少なくとも自分は、そんなことすら出来ないと思われるのは癪だった。
「大丈夫ですよ、理央さん。 私が此処にいます、ずっと傍に居ます。 たとえあなたがどんな辛い目にあっても、その半分だけでいい、私に分けてくれませんか。
友達にはなれないけれど、傷つくことはきっと辞められないけれど。
それでも、貴方の強さを支える私で居ることを、許してくれますか。」
少年が押しつぶされないように、壊れてしまわないように、どうか、私の願いを叶えてほしいと、懇願する様に。
静かに泣く少年を抱き寄せた。
肌蹴た衣服も、汚れた身体も、気にする事は無く。
ただ、今はここに一緒にいるパートナーとして、彼をそっと抱き支える。
■神代理央 > 泣かない為の言い訳は。呪いを継続しようとする言葉は。
いとも容易く否定され、打ち砕かれた。相手が彼女でなければ、或いは未だ反論する事も出来たかもしれない。しかし、しかし。
「……そう、か。そうだな。俺は、お前の強さを信じられていなかったのかも、知れないな。お前を守る事ばかりで、お前に強さを見せようとするばかりで。お前の強さから、想いから。目を背けていたのかも知れないな」
彼女から向けられる想いと言葉は、唯只管に純粋で真直ぐで。
だからこそ、己の頑迷な殻を。暗渠の様な鎧を打ち砕いたのだろう。
己の紅い瞳が、流した涙で深紅に染まる。その瞳を彼女に向ける事を、もう躊躇う事は無い。
「………お前が、そう望むなら。いや、違うな。そうじゃ、ない。
…俺の側に居て欲しい。俺と共に、歩んで欲しい。
きっとまだ、俺はお前が傷付く事を許せない。他者を傷付けて強さを誇示する事を止められない。憎悪と恐怖を、向けられる儘なのかもしれない。
それでも、それでも。俺は、沙羅と一緒に、いたい」
華やかに着飾り、財と威光を示す為の二人の礼服は、しわくちゃで、汚れていて、実にみっともない。他の者にはとても見せられないくらい、本来の用途を満たしていない。
それでいいのだろう。共に進めるのならきっと。そんなみっともない姿を見せあう事も、必要なのだから。
「…だから、その。あの、な。もしよかったら。いや、本当によかったらで構わないし、嫌だったら別に断ってくれても構わないんだが。
――………その、沙羅。俺と……俺と一緒に、此処に住まない、か?」
抱き寄せられた少女の躰に身を寄せて、ふと視線を合わせて、ちょっと口ごもりながら尋ねてみる。
傍に居てくれると告げた彼女に初めて見せた、甘える様な言葉。
■水無月 沙羅 > やっと、自分の彼氏が仮面を外す。 ようやく、これで二人は対等になれた。
少なくとも精神的には。きっとまだ、あのおっかない街中には連れ出してくれないだろうけど、今はそれでいい。
自分が力不足で、足手まといなのは十分に理解しているから。
だから、私が強くなればいいだけの話。
「はい、私は先輩と……ううん、神代理央と、ずっと隣を歩いていきます。
貴方の傍に、居続けます。 まだ、貴方の背中を守ることはできないかもしれないけれど。
一緒に居ましょう、理央。」
なんだか、プロポーズみたいだなと、少し恥ずかしくなって顔を赤らめながら宣誓した。
彼の隣に居られるのなら、どんなに恥ずかしくたって構わない。
いや、そう思ってはいたけれど。
「え、あの……それって、つまり……えっと。
あ、ぁー……。 一緒に、ですか。 わたしはとっても嬉しいですけど。
えっと……。」
思わずうつむいて、さらに自分が今どんな状態で向き合っているのかに気が付いて。
顔が耳まで赤くなっていく。
心拍数がどんどん跳ね上がって、口から心臓が飛び出そうだ。
「……その、こちらこそ。 お願いします。 あの、ところで、お願いがあるんですけど……。」
一緒に住むという想像から、どんどん脳内の妄想は飛躍して。
「ベッド……行きませんか。」
せめて、初めてくらいもうちょっと、ムードとか味わってみたいと思ってしまって。
初めての夜くらい、遅刻するまで甘えても許されるだろうか、なんて、年相応に性欲が沸き上がったりして。
我儘に、恥ずかし気な顔を上目遣いで少年に向け、袖を引く少女がそこにはいるのだった。
■神代理央 > 「……随分と大袈裟な事だ。永久の誓いの様じゃないか、沙羅。
だが、まあ。それも、良いものだな」
クスリ、と泣き腫らした瞳の儘笑う。
感情を露わにすれば気持ちが落ち着くものだ――と、誰かが己に告げた事が有る。それが真実だと理解出来たのが、彼女と一緒で良かったと心から、思う。
「……あ、あまり戸惑われると、俺が困るんだが。いや、その。部屋は余ってるし、御互いのプライベートは或る程度守れるし、俺はそもそも本庁に泊まり込む事も多いから、お前の生活リズムは崩さないし…」
そう言う事を言っているのではない、ときっと怒られるのだろうが。初めて、他者からの好意に期待し、甘える己は、それが分からない。分からないから、少し焦った様に、わたわたと言葉を紡ぐのだ。
しかして。彼女が己の提案を受け入れてくれれば、本当に嬉しそうに破顔する。花咲く様に笑みを浮かべ彼女と向かい合う様は、まるで少女が二人、じゃれ合う様ですらあるかもしれない。
――だが、己は男で、彼女は女。だから、灯す欲望の色が同じでも、浮かべる表情には、きっと差異が現れる。
「……そうだな。泣かされた礼を、してやらねばならんしな。
覚悟しておけ。明日の授業は、諦めた方が良い」
袖を引き、上目遣いで此方を見上げる少女。そんな少女に返す言葉と笑みは、再び雄としての情欲が灯ったものになるだろうか。
そうして、彼女を抱き抱えて――魔術は、何とか使わずに見栄を張った――大事そうに抱えながら二人は広々としたベッドルームへ。
暫く後、再び少女の嬌声が響き渡るのだろうが――それを聞いていたのは、少し汚れたソファだけ、だったのかもしれない。
ご案内:「学生街 高級マンションの一室」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「学生街 高級マンションの一室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「メンテナンス施設」に咲坂くるみさんが現れました。
ご案内:「メンテナンス施設」に月神 詠さんが現れました。
ご案内:「メンテナンス施設」から月神 詠さんが去りました。
ご案内:「メンテナンス施設」に月神 小夜さんが現れました。
■咲坂くるみ > ファミリア用メンテナンス施設。
場所はファミリアたちもよく知らない。
ただ、必要があったり来たいと思えば、なぜか来れる。
そんな施設だ。
なぜそうなっているかは、彼女たち自身が認識できないし、しようとも思わない。
何故か都合良くそうなっているだけ。
せれなを相談のためによびだした。
そんな施設でも中規模設備のここは、メンテナンスだけでなくボディなどの換装も可能でテストルームなど完備されている。
くるみはせれなを呼び出し、作りの良いテストルームのダブルベッドの上でがたがたふるえていた。
先日のマスターとの会話もあったというのに、相変わらずエインヘリヤルはやりたい放題。
正直、打てる手が物理的にない。
……こんなの、誰にも話せない。
■月神 小夜 > ファミリア用メンテナンス施設。
場所はファミリアたちもよく知らない。
今日はくるみからの呼び出しでこの施設を訪れていた。
相談したい事がある、と言われて聞かないという選択肢は小夜には無い。
あまり記憶に残らないテストルームに入ると、当のくるみはベッドの上で震えていた。
「やっほ~、来たよ……って、くるみ? どしたの?」
メンタル乱高下に定評のある彼女が落ち込んでいるのはよく見る光景だが、いつもとは少し様子が違うように感じた。
自分のこと、というより何かに怯えているようにも見て取れる。
■咲坂くるみ > 「……まずいかも、しれない」
震える体を抱きかかえるようにしても震えが収まらない。
コレというのもエインヘリヤルのせい。
彼女が来てからというもの、統制権も取り上げられ、良いように使われているにも関わらず、なにも成果があげられない。
「このままだと……消されるかも」
せれなにしか見せない顔で、もう、泣きそうだった。
■月神 小夜 > くるみのマスターに対する入れ込み具合は相当だ。
同じ"首輪"をされているのに、その差はだいぶ顕著に感じる。
彼に捨てられることをひどく恐れていることは、小夜もよく知っていた。
まぁ、それがルームメイトの父親だとは夢にも思わなかったけれど。
「パパさん……じゃなかった。マスターと何かあった?
それとも、最近デカい顔してるちびっこの方かな」
ベッドに乗り上げて、そっと寄り添うようにしながら訊ねる。
ちびっことはエインヘリヤルのこと。
自分が人間からファミリアになったことと、直に顔を合わせたことがないのもあって、そのくらいの印象だ。
彼女についてはネットワークを通して情報だけ仕入れている。
もっとも、小夜が今一番注目しているのは某マスターの観察記録だが。