2020/08/12 のログ
ビシュク > 「………………」

穏やかな話題をぴたりと止め、受けた衝撃を緩和させるべく、より深刻な衝撃を受けるべく思考の海へ潜水している理央を、じっと見つめている。その思考の行きつく先まで。

「――正解よ、理央くん。
沙羅ちゃんをしっかり見てくれているのが分かるわ。」
それを好ましく、痛ましく思いながら、ブルーラインのティーカップをゆっくりとソーサーに置く。
ビシュクの声以外は、クーラーの音だけが聞こえる保健室は、理央にとって嫌な心音だけが響くかのようなほど静かだ…

「説明しなければいけないことが多岐に渡るから、大事なことから話しましょうか。」
愕然とした様から未だ完全に抜けられない理央の前で居住まいを正す保険医。

…確かに、至急伝えられなければいけない重大案件だったようだ。

神代理央 >  
「…正解、か。教師からの問い掛けに、正解であって欲しくなかったなどと、思いたくはなかったよ…」

最早、優等生のフリをする事も出来ない。
深く椅子に身を預けて、ぼんやりと置かれた儘のカップに虚ろな視線を向けた後。
それでも聞かねばならない、と身を起こして彼女と向き合おう。

「……頼む。事実確認と、問題点に対する改善案。次善策。
先生が知っていて話せる事は、全て、知りたい」

畏まった敬語もどこへやら。
それ程に、必死になっている、という事なのだろうか。
己が被るべき仮面を取り落としている事に気付かぬ儘、縋る様な声色が静謐な保健室で彼女に向けられる。

ビシュク > 「本当ね。私も、こんなヒトの業が煮詰まったような事実を、沙羅ちゃんの彼氏に伝えるのは非常に気が重いわ。
……でも、伝えなければいけなかった。それも、早急に…ね?」

優等生の仮面を投げ捨てた少年を、鼻白むどころか好ましい視線を向けて。理央がこころを据えるのを、待つ。

「ええ、勿論。そのために来てもらったのだもの。
…なら、そうね。聞かせたくないところから話しましょうか。

今の沙羅ちゃんの身体は、年齢差の異なるパーツの寄り集めといった状況になっているわ。
心臓は十歳未満、血管の各所は10歳前後がほとんど、一部が16歳ね。臓器各所も同じく。構成する骨も、筋肉も、バランスが無茶苦茶になっているの。
不整脈も多々、沙羅ちゃんの身体の状態からして、不整脈による心停止も数えきれないほど起こしているでしょうね。だから、心臓の発達が一番致命的なの。
ほかの部分が二次性徴に至ってるのに、そこに血脈を送り出すはずのポンプとパイプの輸送力が致命的に足りてない…ということね。さらに付け加えると、血脈を送り出す段階で血管が破れ弾け、即座に修復された箇所も見受けられたわ。」

沙羅の時と同じく、少年の目の前に引き出されたホワイトボード。
……理央の目の前で描かれた、白板に刻まれていく簡易人体図に書き込まれた情報は、目を背けたくなるほどに残酷で怒涛のリアルに満ちていて。とても、おひさまのような笑顔で理央の傍に寄り添っていた愛らしい少女の身体の情報とは、思えない。思いたくないほどに…

神代理央 >  
「…いえ、寧ろ伝えて頂けて助かります。アイツは、自分から俺に言う事、無いかも知れないから」

或いは、伝えてくれるのだろうか。それとも、彼女の中でずっと、秘密にしておくつもりだったのだろうか。

そうして、ホワイトボードに描かれる情報を、じっと眺める。
恋人が『死に続けている』という事実が、具体的な情報となって露わにされていく。
突き付けられる。突き刺さる。情報が。事実が。恋人が、決してこのままでは『幸福』になれないのだという事実が、思考を殴りつけて――


鈍く、大きな音がした。
音の出どころは、テーブルを叩き付ける少年の拳。
揺れるテーブル。跳ね上がるカップ。それらに一瞥する事も無く、煌々と焔の灯る様な瞳が、彼女を睨み付ける。

「結論を」

喉から発せられるのは、驚く程熱く――冷たい声。

「沙羅は助かるのか。助からないのか。普通の生活を送れるようになるのか。ならないのか。
その条件を満たす為に、必要な物があるのならそれは何か。
――答えろ、狐」

…己が恋人に願っていた事は、唯一つ。
『幸せになって欲しい』ただ、それだけ。
それが叶わぬのなら。それが満たされぬのなら。
恋人が、幸せになれないのなら――

様々な感情が、彼女へ向ける言葉からも余裕と理性を失わせる。
教師に。いや、一個人に向けるには余りに乱暴で無礼な言葉を、彼女に投げつけてしまうだろう。

ビシュク > 「そうね。あの子から話すとしたら、『どうしようもなくなった』時だけだと思う。」

ぞくり…と想像だけで怖気立つ言葉。この上なく残酷であり、端的に情景が思い浮かぶそれは、妖狐の優しさであり、鉄火の英雄であらんとする少年への戒めである。

「…お上品にしているより、よっぽどいい顔をしているわ。理央くん。」
『不幸』を運んできた狐教諭へ、射貫き殺すかのような無礼な視線を受けても…無礼ながらも『ヒトの輝き』を煮詰めたような視突を受けて、穏やかに微笑む。
悠久の流れに身を置いた存在(もの)が、平穏に、愛慕に恋い焼き焦がれる姿へ―――

「結論は『可能性はある』わ。条件つき。
ただし、この先平穏な生活を送るのならば100%。沙羅ちゃんが絶対に認めないだろうけどね。」

端的に単語を寄り重ね、希望と絶望、事実を冷厳に織り交ぜて理央に伝える妖狐。その朱目は真摯に理央に向き合い、伝える。
この教諭も、沙羅を助けたいのだと。

神代理央 >  
「……そうならない為に、取るべき行動があるのなら」

『どうしようもなくなった時』
そんなものは認められない。
そんなものは、己の鉄火で焼き尽くす。
何なら、不得手な魔術を使ってもいい。今からでも、ドイツに飛んで母方の実家に頭を下げてもいい。

「…世辞はいらん。世辞を吐き出す暇があるなら、情報を寄越せ」

穏やかに微笑む彼女とは対照的に。
睨み付ける様な視線が、彼女を射抜き続ける。
それは敵意、とはまた別のもの。例えるなら、憎悪。
恋人から平穏を奪う世界への、憎悪。

「……可能性でも良い。100%なら、尚良い。
その方法は何だ。幾ら必要だ。何を手に入れれば良い。誰を殺せば良い」

激昂に至らぬまでも、最早発する言葉に理性は感じられない。
それだけ、余裕を失っているという事が、彼女には容易に伝わるだろうか。
――沙羅を助けたいという思いだけは伝わったのか、瞳に籠る世界への憎悪は、僅かに薄らいではいるが。

ビシュク > 「そう焦らない。私は私に出来る也の全力を尽くすもの。あの子を助けたいのは私も同じだしね。」

性急極まりない、想い人へのココロが暴走する煉獄と成っている少年を諫め、苦笑いの溜息。そこまで愛されている沙羅ちゃんは幸せものね、と心の中で呟き。

「お金でどうにか出来る事象ではないわね。在るとすれば『存在を入れ替える異能』とかかしら。その時点で元の沙羅ちゃんじゃなくなるでしょうけど。」
そんな事を聞きたいのではない、と理央が分かっているだろう事を伝える狐。激昂しかかる少年へ

「…ああ、そうそう。私が今沙羅ちゃんに施している治療の事で一つ。

理央くんが出来ることの一つに、不用意に無辜の民を殺すのはおやめなさいな。『また』沙羅ちゃんが死ぬわよ。」
―――まるで過去の現場を見てきたかのような、妖狐の射貫くような視線。
理央の視線が憎悪で彩られているとすれば、嵋祝の視線は『伴侶を想うならば』という諫言。ココロは共にしているはずなのに、アプローチは真逆である。

神代理央 >  
「……そうだな。焦っても仕方あるまい。けれど、事を急いてしまうのもまた、仕方あるまい。私が死ぬ、くらいならまだ落ち着いていられるがね」

諫める様な彼女の言葉に、深い溜息を吐き出す。
確かに、此処で焦っても仕方がない。仕方ないと分かってはいるが――それでも、焦らずにはいられない。

「…そんなもの、救ったとはいえぬ。スワンプマン以下だ」

と、存在の入れ替えは案の定ばっさりと切り捨てて。
彼女の発言を促す様に、変わらず睨み付けた儘。

「――…その点については、その為に私も動いている。無辜の者を殺さぬ儘、犯罪者共に畏れられる存在であれば良い。私とて、無用の虐殺を好む訳では無い」

痛い所を突かれた、と一瞬言葉を詰まらせるが、彼女の発言を否定する事無く、素直に頷く。
既に多くの業を背負っている。それを今更悔いようとは思わない。
しかし、此れからは。細やかな幸せを願う人達を殺める様な事はしない――どうしても、という場合は兎も角――と。
己が宿す感情と真逆に。慈愛にも似た感情で此方に告げる彼女に、言葉を返すだろう。
憎悪と慈愛。同じ者を救おうとしていながら、灯す感情は、真逆。

ビシュク > 「……はぁ、ほんと理央くんは自分が見えないのね。
ほぼ確信に近い推測だけど、理央くんが死んだら沙羅ちゃんも死ぬわよ?
沙羅ちゃんのあの異能は、不死という名の体を模した情報の『引き寄せ』だから。…ただ、自分にしか適合できない…のかしら。他者への『引き寄せ』が発動を為すとすれば…ううん…推測でしかないわね……ごめんなさい、待たせたわね。」

口の中で、閃いた推測を重ねること刹那。すぐに理央の方へ向き直り。

「至極当然ね。続けましょ。」

状況の重さを投げ出したくなる戯れだったといわんばかりに、その懸念を頭の端に置きながらも閑話休題し。

「業は、ね」

小さく、呟くように、紡ぐように。

「背負うものであり、積まれるものなの。どう生きていたって、そう。肝要は、そこからなにを学べるか、想えるかどうか、為せるかどうか。
…貴方は、今までの業から十二分に学べたはずよ。鉄火の支配者さん。」

詠うように、想うように――――思い出すように。
先刻までの言葉以上に万感の願いと思いの籠った言葉を、過去の過ちを愛しい伴侶に諫めてもらった少年に贈り。

「…今、数日置きに沙羅ちゃんの心臓を始めとした臓器や内部組織を成長させる方法で施術を始めているわ。
置換手術は不可能だったから、ね。」

聞いてみれば、めちゃくちゃながらにシンプルな解決方法。
手段や沙羅の異能特性…『すぐ再生する』ことをクリアしなければ不可能なモノではあるが、納得には至るだろう。

神代理央 >  
「その時は、周囲の者に止めて貰うしかあるまい。私が死んだからと言って、沙羅が死ぬのはお角違いだろう。
――いや、構わぬが。推測と仮定の話を進めても意味はあるまい。今の沙羅を救う方法を知らねばならんからな」

推測を重ねる彼女を責める事は無いが、話を続けようと少し前のめりになるのは仕方ない事だろうか。
危うい感情の灯を宿した瞳が、彼女を見上げる。

「………学びはした。されど、背負った業は、轍の様に私の道の前にある。だから、今迄通りの私を演じる必要がある。裏の者達が恐れる、私を。――いや、すまない。これは、蛇足だったな」

恋人から。多くの人から。
学んだ事があり、伝えられた想いがある。
しかしそれでも。過去の己を求める者達がいて、背負った業を恐れられなければならない。
他者の痛みを理解した上で、他者を傷付ける役割を演じる。
それでも、恋人に諫められたあの時を無駄にしない為に。彼女の言葉に頷いて。

「…成程。異能によって成長から取り残された体内を、元の年齢まで戻す…いや、強引に進めるという訳か。
難しい施術だな。沙羅の異能を考えると、困難な施術である事は理解しよう。
しかし、既にその施術が始まっているのなら。それに口は出さん。素人目にも、順当な治療であると思う。
………手間をかけるが、宜しく、頼む」

彼女の告げる『治療』の内容を咀嚼し、理解し、頷いて。
瞳に灯した憎悪は薄れていき、深く、彼女に頭を下げるのだろう。
恋人を救う手段を持つ彼女に縋る様に、机に頭がぶつかる事も違わずに、深く、頭を下げる。

ビシュク > 「………そうね、そのあたりの推論について纏め上がったら、再び理央くんに話すと思うわ。」

今は話しても仕方がない推論を打ち切り、抜身の刃めいて愛に狂い哀に満たされた瞳を見返し。

「……ふふっ。其れを自分のナカで納めて、飼い慣らせていればいいの。幸い、理央くんだけじゃなくても諫めてくれる大切な子…いるでしょ?」

伴侶が、輩が宿した光が、歪んだだけでない業の道標になっていることを確認して、緩やかに微笑んで、指と足を組む。

「その上で、伴侶たる理央くんやその友達には協力を要請したいと思ってる。あの子を守ってあげることと…自身がなるべく危険な目に合わないこと。あなたたちが死の危機に瀕するような事態が起これば、あの子は躊躇無くその身を投げ出すわ。成長した器官の一部ならばまだ助けようはあるけど…全身が吹き飛び得るようなコトすら、この学園ならあり得るでしょう?」

理央の痛いところを、千里眼めいた紅眼で見据えた後…ふ、っと空気を緩めて、深く微笑む妖狐。

「――任されたわ。施術に関しては誤り無く実施することを約束する。
この名に賭けて、ね?」
―――一瞬、空気の色ががらりと変わったような錯覚。
空気のみならず、ビシュクの姿や装い、保健室だったはずの場所すら、別世界のように…空間が変わったかのような圧を感じたのは、本当に錯覚だろうか…
深い願いを、それこそ神頼みめいた切なる想いをぶつけてきた少年が思い描いた、ひとときの空間はすぐ掻き消えて。

神代理央 >  
「……そうだな。以前の私なら兎も角。今は、私は一人じゃない」

孤高と孤独に重きを置いていた嘗ての自分は、今はいない。
足を組み替えて此方に視線を向ける彼女に小さく頷いた。

「…当然だな。沙羅を守る事など、言われる迄も無く当然の事。
贅沢を言えば、治療を終える迄は沙羅に前線に立って欲しくは無いが……まあ、こればかりは、本人と相談しなければなるまいな。
沙羅の友人についても、危険が及ばぬ様に手を尽くそう。その為に沙羅が死ぬ様な事は――認められぬ」

こくり、と小さく頷く。
恋人を危険な目に合わせない。そして、恋人が自ら危険を犯さぬ様に、自らと、彼女の友人を守る。
中々に難儀な事だ、と苦笑いを浮かべながらも、はっきりと言葉にして了承の意を返すだろう。

「――……信用に足り得る、と判断した。狐、だなどと暴言を吐いた事は謝罪しよう。その上で、改めて取り繕った姿を見せるのもやめる。沙羅がその身を預ける程信用したお前になら、優等生のフリをする事もないだろうからな」

頭を上げて彼女に視線を向けた瞬間。
部屋の空気が――いや、此の部屋の空間そのものが、彼女と共に変化した様な、感覚。
されど、その感覚は不愉快ではない。寧ろ、彼女に恋人の事を任せるに足り得ると安心感すら抱く様な、そんな、強い圧力。

だから、顔を上げて彼女を見る己の表情には、安心した様な笑みが。勿論、まだ恋人が助かった訳では無い。しかし、彼女に任せれば安心だという様な、そんな笑みが浮かんでいるだろう。

そのまま気が抜けてしまったのか、再び椅子に深く身を預けてしまう。大きく吐き出した吐息には、張り詰めていた精神が緩んだが故の疲労が滲んでいるだろうか。

ビシュク > 「そ、そ、そ。自分だけで為せないなら、友を頼りなさいな。…いい友人、多いみたいじゃない?」

微笑んで、ウィンク。飄々とした様で、知己を想起する少年を見やる。

「私もねー、そう思う。
…でも、絶対沙羅ちゃんは首を縦に振らなさそうなのが頭の痛いところでね。あの子、頑固じゃない…」

はぁ~…と深い溜息をついて、沙羅ちゃんの彼氏に愚痴る保険医。
そう、ある意味それが一番の難題なのだった…

「ふふ、いいのよいいのよー♪言動のせいかしらねぇ、胡散臭いって思われることも多いし?ね?
ええ、勿論。どんどん素を見せてちょうだいな。そちらの貌(かお)のほうが私的にも好ましいわ。

……あらあら、安心して気が抜けちゃったかしら…大丈夫?」

椅子に深く腰掛け、脱力すら感じる体になった理央の目の前に屈み、白魚めいてたおやかな指で理央のブロンドヘアを撫でる狐。

………ふ、っと顔を上げれば……
むち……みちっ……たぽ、だぷっっっ…v…そんな音が鳴りそうなセーターの『圧』が視線に飛び込んできてしまい…青少年に、ものすごく良くない…!!!!

神代理央 >  
「……不思議な事にな。沙羅は兎も角、こんな私でも友だと言ってくれる者がいる。本当に、不思議な事だ」

言葉はぶっきらぼうだが、口調は穏やかに。
彼女の言葉に、小さく笑みを浮かべて頷くだろうか。

「…本当にな。アイツは一度決めたら中々梃でも動かん…。
というか、危ない場所に来るな、と言っても勝手についてきそうな気がする……」

と、恋人の愚痴を告げる保険医には苦笑いを浮かべつつ。
しかし一体どうしたものかと、悩まし気な溜息を吐き出すのだろう。

「胡散臭い、か。得てして狐とは、妖の象徴の様に思われている節もあるからな。酷い偏見であるとは思うが。
……良く言うものだ。そうやって、何人の男子生徒を誑かしたのか、風紀委員として取り調べた方が良いかね?」

と、冗談と軽口の入り混じった口調で笑っていたのも束の間。
深く椅子に身を預け、欠伸すら零しかけたところで、髪の毛を撫でる感触。此の侭寝てしまいそうだ、と思いながら顔を上げて。

――視界に映るのは、先程までの荘厳とすら思える雰囲気とは180度異なる『圧』
散々偉そうな事を言っても、所詮は16歳の少年。先ず、ポカンとした様な表情で。しかしその視線は、直ぐにあてどなく彷徨う。
彷徨っても視界を彼女の豊かな胸部が埋め尽くしているので、結局見上げる様に、彼女の顔を見るしかない。

「………その、何だ。疲れたから、1時間程ベッドを借りる。他の生徒が来たら起こしてくれ。頼んだぞ」

がばり、と立ち上がって――立ち上がりかけた時、彼女の胸に触れそうになったのは全力で回避した――僅かに頬を赤らめながらびしっ!とベッドを指差して早口。
そのまま彼女の返事を待つ事無くずんずんとベッドに歩み寄ると、ぽいぽいと靴を上着を脱ぎ捨てて、がばり、と布団に潜り込んだ。

そうして暫く羞恥心と戦っている間に――気が付けば、少年は小さな寝息を立てている事だろう。
ぴったり1時間後に起床して再び『風紀委員』となるまで、疲れ果てた精神を休めるかの様に、静かな寝息を唇から零しながら――

ビシュク > 「…まったく、本当に自分を顧みないのねぇ…」

穏やかに、でも友が寄り添ってくれることを不思議がる理央くんへ、微苦笑して。

「…ああ、そんなところは二人ともよく似ているわねぇ…理央くんもそういうところあるでしょ?」

似たもの夫婦でしょ、と言外に伝え、呆れた気配を深めるだろう。

「あらあら?まだそんなにおいたはした覚えは無いのだけど……んー、そうねぇ……ん、ん、ん……v」

一瞬……どころでなく数秒、視線が自身の縦セタたわわに集中していることに気づき…

「…誑かされる『一人目』になっちゃうー?v」

妖艶媚態を、むせ返りそうなほどに振りまき、吊り目をつつぅ…と細める…頭がくらくらしそうな香りを振りまき…

だぷゆんっっっvv
隠すどころか、二の腕で挟んで協調してきた、この狐…!!!!


「…ふふ、冗談冗談♪はいはーい、ゆっくりおやすみなさいな♪

…今は疲れを癒して、ね。いつでも待っているから。」

存分に誘惑した挙句、顔を赤くしてベッドに逃げてしまった青少年をくすくす見送って。
ふっと悪戯好きな笑顔を和らげ…寝息を立て始めた理央くんが寝苦しくないように、消灯して。

―――鉄火の支配者と、千変万化の妖狐の初邂逅は、おおむね平穏に収まったのだった。

ご案内:「保健室」からビシュクさんが去りました。
ご案内:「保健室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1」に軍服の少女さんが現れました。
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1」から軍服の少女さんが去りました。
ご案内:「三年前、落第街」に軍服の少女さんが現れました。
ご案内:「三年前、落第街」に雨夜 賢瀬さんが現れました。
軍服の少女 > 落第街。
常世島の一角に在る存在しないとされる街。
退廃や暴力に満ちた街は、硝煙と死に満ちていた。

助けを求める呻き声や要救助者を探す叫び声、火事を収めようとする風紀委員や有志者の声かけが飛び交う中
あまり目立たない街の外縁部で一人の少女が瓦礫にもたれて座り込んでいた。

俯き前を見ていない少女はわずかな返り血と煤で汚れ、頭には打撲の傷跡が残っている。
誰もが必死な中、死体以外では少女だけが静かにそこに有った。

雨夜 賢瀬 > 現場急行。
すでに風紀委員の便利屋として自分を位置づけ始めていた賢瀬。
連日騒ぎになっている大きな案件に関連した一件の多数の応援のうちの一人として、
現場近くにバイクを留め、それから向かう途中のことだった。

「……なんだ?」

瓦礫にもたれ、座り込む少女。
被害者の関係者か、それとも被害者そのもの──いや、あれは。
事前に目を通していた資料に、一致する存在がある。

万が一を考え、拳銃嚢に手を添えたまま近寄って、その姿をよく観察する。

軍服の少女 > 賢瀬の声か、足音か、それとも拳銃のわずかな音か。
その何れか、もしくは全てに少女は反応を見せた。
軍帽の端からはみ出た片方が赤くなった耳が小さく動き、つい先程まで一切の動作が無かった頭が僅かに動きを見せた。

頭部が俯いた状態から持ち上がり、軍帽の影から薄く開いた瞳が覗く。
鈍く、生気の無い、死んだ瞳。
この世の全てに絶望し、諦め、死を望む者の瞳。
そんな瞳が、覇気がなく、不気味な瞳が賢瀬を数秒見つめて、すぐにまた軍帽の影へと消えた。