2020/09/09 のログ
ご案内:「スラム・ボロアパートの一室(過激描写注意)1」に妃淵さんが現れました。
妃淵 >  
雨が続いていた
まだまだ日が高いうちは暑く、冷房もないこんな部屋じゃ
することもないからってゆっくり寝てられるワケもない

「──…あッつ…」

じっとりと汗ばむ、白い肌を晒して
少女がゆっくりと、簡素なベッドから起き上がる

──今日は何日だ?帰ってきてから、どれくらい経ったっけ

妃淵 >  
コッチに戻ってきてからは退屈な毎日だった
当面を過ごせる金はもらっていたし、何もすることがない
適当に飯を食って、だらだら、して眠くなったら寝る

溜まり場でくらだねえ会話に興じることすら退屈に感じた
どこの誰がヤられただの、盗品の自慢だの、喧嘩の自慢だの
余りにもくだらなすぎて、足を運ぶことすらなくなった

「フー……」

暑い

床に散らばった中からタオルケットを拾い上げ、とりあえず汗を拭く
シャワーは一応部屋についてはいるが、水が出たり出なかったりするので使えたものではない

むしろ変な虫が出てきたりするから使いたくない

妃淵 >  
身体を拭き終われば、これまた適当に散らばっていたシャツに袖を通す
まだ日は落ちはじめたところ、どこかに出かけるか…と思いはしたが、どこに?となって、考えるのをやめる

どこにいったって同じだ
此処にはもう退屈しかない

二度寝するか…とベッドに横になろうとすると、部屋の入口のドアが開いた
ノックなんかあるわけもなく

部屋に上がり込んできたのは、まぁ…よく知ったカオだった

妃淵 >  
『よォ、フェイ。全然溜まり場にもカオ見せねーでどうしたんだよ』
『しばらく見かけなかったから心配してたんだぜ?何処行ってたんだ?』

馴れ馴れしく話かけてくる男二人
この二人は二級学生だ
質の悪い偽造学生証で犯罪紛いの片棒を担がされて、生計を立てている
娯楽なんて喧嘩と、アルコールと、女を抱くことしか知らない。レベルの高い猿程度の知能の持ち主だ

「…別に、つまんねーカラ」

溜まり場に行かなくなったのは、単純にそれだけだった
頭のおめでたい二人はそれをどう勘違いしたのか、そもそも人の話を聞いてねーのか…

『へへ。カネと結構いいブツが手に入ったんだよ。んで、探してたんだ』
『つまんねーなら俺らと遊ぼうぜー』

──そういうのがツマンネーって言ってるんだが

妃淵 >  
「消えろヨ。もう、そーゆーのヤめたんだ」

くだらない、と吐き捨てるように言葉を投げ放つ
それを聞いた二人の男子生徒は…実に、意外そうなカオをしていた

『なんだよ…いつものフェイならお高く止まって値段釣り上げて来るトコじゃねーの?』
『お前さては何かあったな?此処にいない夏の間に、ナニしてたんだよ?』

うぜえ
何回だったか忘れたけど相手して遊んでやっただけでこの馴れ馴れしさだ
お前らとオトモダチだったことなんて一秒たりともないんだが

「お前ラに関係ねーから、とっとと失せロ」

取り付く島もなし
まるで興味も見せず、視線を窓の外へと外す

──まぁ、こんなので引き下がらないから、猿程度の脳みそと評したんだが

妃淵 >  
『つれねえなあ…わかったよ。いくら欲しいんだ』
『俺らちょいと羽振りイイんだぜ?ホラ』

そう言って二人はポケットからくしゃくしゃの金を出して見せる
相当な額面だった。何をして儲けたか知らないが、めったに見れる額じゃない
人でも殺ったか、それにしてもそんなものを女をマワす為に使うなんて、イカレてる

横目に彼らを見つつ、大きくため息を吐く
まともに言っても、通じないのだろうか

「なァ、興味ねーんだッテ。さっさと消えねーと力づくで追い出すぞ」

ややスゴんで見るものの、彼らは動じもしなかった
まァ、当然かもしれない
彼らの中での自分は、カネさえ払えば誰にでも股を開く、便利なガキ
そんな程度の認識しか持っていないはずだ

『なにをチョーシに乗ってんだよ』
『お前の兄貴なんか、こわかねーんだぞ?』

ズカズカと、土足のままベッドまで近づいてくる猿2匹

──めんどくさい。血溜まりに沈めてやるか
少女の背からドス黒い、揺らめきが───

妃淵 >  
『俺らだって毎日必死に稼いでお前なんかに貢いでやろーってんだぜ』

…必死?
見ず知らずの二級学生の女の為に全力で人生棒に振って、
気に入らない相手に頭まで下げるほど必死な斬鬼丸<ヤツ>とじゃ
比較にもならねーよ

ふつふつと苛立ちが募る
自身の身体から、途方も無い力が溢れ出るのを感じる
こいつらをここで瞬殺して、床のシミに変えるくらいは、造作もない──

妃淵 >  
まずは手前のヤツの顔面に風穴でも開けてやるかと肩をいからせた、その時に

"もし僕らんとこにそう言う話が来るようだったら
君だけじゃなくて隣の彼にも迷惑掛かるんだってこと、覚えておいてね"

あのポンコツ風紀委員の言葉が、脳裏を過ぎり──動きが止まる
震える、握りしめた拳からゆっくりと、ゆっくりと力が抜け、それを降ろした

目の前の二人には意味のわからない動作だっただろう
そもそもこの二人はフェイエンの、怪物的な力のことすら知らない

「………」

大きく深呼吸し、自分自身を、落ち着かせる
──ドス黒い揺らめきが、薄まり…消えはじめて

「…もうオマエラとは生きる場所が違うンだヨ。
 カネなんざいらねーから、とっとと帰レ」

顔を上げ、澄んだ紅い瞳で──
哀れみにも似た感情を孕んだ言葉を、口にしていた

妃淵 >  
その言葉と表情に、目の前の二人の二級学生は苛立ちを顕にした
気持ちは…まあわかる
かつての自分が今の自分を見ていたら、殴り殺したいくらいにムカついていただろうから
そう、彼らは自分達が見下されたと、思ったのだ

なぜなら相手は、自分を、対等な存在であると思って言葉を吐いていたからだ
それが相手にされず、歯牙にもかけられなかった時…
彼らの中では、何かが音を立てて切れたのだろう

思いつく限りの罵声、罵倒を浴びせられ
乱暴にシャツを引き裂かれ、組み伏せられても抵抗はしなかった

そりゃそうだ
こんな弱っちい相手に抵抗なんかしたら──死んでしまうかもしれない
そうなったら、最悪──アイツの必死が、全部無駄になるじゃないか──

………

……


 

妃淵 >  
『はぁ…ッ、ったく。最初から大人しくそーしてろっての…』
『お高くとまってるだけあって孔の具合はイイんだよなコイツ』

…好き放題なこと言いやがって
俺が堪えたから命拾いしてんだってこと、ちゃんと理解してんのか──

「…オワったらさっさと消えろヨ。そんで二度と来ンな… ──アッ、ぅ…!」

髪は引っ張るわ、折れそうなぐらいに腕を捻り上げるわ‥噛み付くわ、引っ叩くわ…
こいつら、まともな女の抱き方すらも知らねーのか?

『心配すんなよ。ちゃーんとカネは払ってやるって』
『なぁ、こいつケツも使えるんだろ?』

──…やっぱ、殴り殺しときゃ良かったか

妃淵 >  
………

……



「…ゥ……」

気怠げに、汚れたシーツに四肢を投げ出し、突っ伏す少女を二匹の猿が見下ろす
満足気に、どこか得意げに、見下していた
こうすることでしか、彼らは彼らの、くだらない安いプライドを守れなかったのだろう
つくづく、終わってる街だ

『ハッ…ハァ…オマエも俺らと同じ穴の貉なんだって、よくわかったろ…』

人の尻を足蹴に、偉そうに言うセリフがそれかヨ
うつぶせに臥せったまま、睨みつけてやるが、それがまたお気に召したようだった

投げ捨てるようにカネをベッドと、少女の身体の上にバラ撒いて、猿どもは満たされたのだろう
それ以上は何も言わず、何もせずに部屋から出ていった

「──……」

ゆっくりと身体を起こそうとするも、ダルすぎる
随分好き放題に翫んでくれたらしい。何もしなくていいなら寝てりゃいーや、と思うほど無抵抗は楽じゃなかった

ごろんと仰向きに身体を横たえて窓の外へ視線を向けると、ほんのりとした月明かりだけが部屋の中を薄暗く照らしている
…随分長い間ヤってたらしい、猿め

ご案内:「スラム・ボロアパートの一室(過激描写注意)1」に斬鬼丸さんが現れました。
斬鬼丸 > 男たちが帰ったあと。
月明かりが照らす部屋の中。
電子音が響いた。
フェイエンの真新しいスマホが震えて、鳴っていた。
着信は…おそらく一人しか考えられないだろうが…

妃淵 >  
「…シャワー、出っかな……」

全身汗とアレまみれ、あいつら好き放題してったおかげで口の中までキモチワルイ

──よく、わかった

ここがターニングポイントってやつだ

アイツと一緒にいくと決めたなら、もう此処には戻ってきてはいけないのだと
完全に、この場所は捨て去り、決別しなければならないのだ

そうと決まったら、こんなボロアパートに用はない…スラムにだって、もう未練はない
──……とっとと、出てくか…

そんなことを思っていると、ベッドの脇に雑においてあってスマホが震え、音を鳴らす
誰だ?と思うまでもなく、連絡してくるヤツなんてアイツしか浮かばないが…

けだるいカラダを引き摺って、それを手にとり……

相手を確認すると、少しだけ気持ちが和らぐ

ゆっくりとタップして、耳元へ──

「……よォ、どうした?」

斬鬼丸 > 『あ、フェイ…やっと出た。
あー、えっと夕方くらいからかけてたんだけど…
寝てた?だったらごめん』

いつもと変わらぬ声。
少女の返事があることに安心したような
少し申し訳無さそうな。

『えーっと、家のことなんだけど…
堅磐寮ってとこ、男女兼用の寮でさ。
お金もかからないし、いまだと防音の部屋も空いててさ
丁度いいかなって』

妃淵 >  
「あァ…ゴメン。ちょっと、寝てたヨ」

聞こえてきた声に、安堵する
すっかり聞き慣れた声だ
こっちに戻って来てからは…数日ぶりだろうか

「へー…いいジャン。
 …で、ナンで防音にコダワリ?」

理由はわかっているけど、今の気分的に…少しからかってやりたかった

「ジャア…」

「いよいよ俺も、こんなトコにいる必要ねーナ……」

斬鬼丸 > 『そっか、ごめん。
でも、いい部屋があったから…
その、マークも消えそうだったし』

少してれたように笑う。
彼女がつけたあとはだいぶ薄くなっていて
一晩寝ればなくなってしまうそうなほどだ。

『…あー、えっと…防音ってのはほら…
その、二人で暮らす、わけだし?
いろいろ、あるとおもうから、外の音漏れしてたりすると落ち着かないと言うか…』

歯切れはわるいが、だいたいフェイの思っている答えが正しいことが伺えるだろう。

『ともかく、えっと…フェイの準備が良ければ
こっちはいつでもいけるからさ。
はは、約束通り…消える前に探せてよかった』

フェイが今、どんな目にあったか全く知らない少年の声は弾んでいた。

妃淵 >  
予想通りの答えが帰ってきて、思わず口元が綻ぶ
ここではっきり言えないのが、実に彼らしかった

「──いつでもイイヨ。
 もうスラムには飽きちゃったしナ。
 バカと猿しかいねーンだもん」

これからのこと、そして約束を守れたことに弾む少年の声
ああ…くだらねー、どうでもいいコトは伝えなくてイイ

これまでの生き方と決別するんだ、捨て去るんだ
これくらい、屁でもねーよ、と

「…俺、こっちに戻ってから風紀委員につつっかれるよーな問題とか全然起こしてねーから。
 喧嘩もしてねーし、盗んだり、人殴ったり蹴ったりもしてねーから。ア、これは喧嘩と一緒か…。
 まぁ、とにかくひんこーほーせー、問題起こさねーよーに、してたカラ…」

「まァ…安心してくれヨ。俺も約束守る」

くだらないことで、アイツの頑張りを無駄にするのは死んでもゴメンだった
そう思えるようになった自分が、やや誇らしくもある
誇るには、やや人に見せられない姿を今はしているが

斬鬼丸 > いつでもいいという返事。
それもそうか。
部屋に呼んだときも似たようなもんだった。

『そっか、じゃあ今から歓楽街に来れる?
そっちにエアコンないって言ってたし
まだ暑いからさ、俺が引っ越すより先に
フェイが部屋にいてくれててもいいかなって思ってさ』

絶対すぐに見つけろ。彼女はそういった。
だから、この数日は部屋探しに奔走していた。
彼女は約束を守ってくれていた。
だから、こちらも守る。
それだけじゃない

『…そっか…うん、ありがとう。
えっと俺も守るからさ。
約束だけじゃなくて…えっと、これから、フェイのこと…』

問題を起こさないようにと我慢してくれているフェイ。
その声は少しだけ誇らしげ。
だから、それに応えるし、彼女に降りかかる問題から彼女を守りたい。
そう伝える。
もちろん頼りないだろう。
現に、今起きたことも知らず、彼女を守れてはいない。
しかし、愚かな少年は決意を強くしていた。

妃淵 >  
「──…ウン。じゃあ、すぐ、行く」
「シャワーだけ、浴びてくヨ」

荷物は…もういいか
カラダを流して、着替えて…着の身着のまま、此処を去ろう

「頼もしいじゃン」

彼が、今日のことを知ったらどう思うのだろう
幻滅…するか?アイツが?

「……なァ」

悲しみは…するだろうナ
それでも多分、笑って受け入れるンだろう
ああ、そんな辛い笑顔は、さすがに…見たくナイ、な──

「イヤ、なんでもナイ。
 すぐ準備するヨ。待ってて。
 …夜の歓楽街だからって、ヘンな女に引っかかンなヨ?」

斬鬼丸 > 『わかった。じゃあ俺も今から部屋出るから…
ゲーセンの前で』

多分自分のほうが先につくだろう。
数日ぶりに聞いたフェイの声
いつもよりも少しだけ低く聞こえる。
寝起きだからだろうか。

『フェイのほうが強いかも知れないけどね。
それでも…俺が守るからさ…』

いつか言っていた虚勢と見栄の話。
今は見栄ではあるものの
自分は少女の安心となると決めたのだ。
彼女にはわかってるだろうけども、それでも。

『なに?どうかした?』

不意にフェイがなにか聞きたそうに声を出す。
だが、それをすぐに引っ込めた。
電話越しに首でもかしげただろうか。不思議そうな声が少女の耳に届くだろう。

『なんかあったら今更遠慮なんてしないでね?
まぁ、うんまってる…っていうか、逆ナンとかありえないから!!』

妃淵 >  
「わかってるヨ」

笑いの交じる声で、そう応える

理屈じゃない、そうしたいから…守ると宣言してくれている
男の子の意地というか、なんというか…向けられるのは、悪い気はしないじゃないか

「ン…じゃ、ゲーセンの前デ」

ピ、と通話を切る

遠慮、とは違う
これは…配慮だ
知らないほうがイイことは、言わなくてイイ
言ったら、確実にアイツは責任を感じるだろうから

ただただ、自分がスラムという世界にいられなくなった代償を受けた
それだけで終わる話なのだ

シーツの汚れていない部分へスマホを放り投げ、けだるいカラダを今度こそ起こす
シャワーの水がちゃんと出ればいいが

「──にしても逆ナン、っテ。
 カモにされそーだから言ってんのに、ヘーワなヤツだヨ」

ふ、とベッドの上のスマホを一瞥し、シャワー室へと向かう

カラダの汚れと共に、全て流しきってしまおう
もうこの場所とは、サヨナラだ──既に、居場所はなくなっていた

水音が続き、それが止むと…身体を拭き終え、
いつもの服装に袖を通したフェイエンはそのままスマホだけを手に、玄関へと向かう

最後に、長らく世話になった部屋をもう一度だけ眺めて、鍵のかかってないドアを締める
──それから、少女がこの部屋へと戻ってくることは二度と、なかった

ご案内:「スラム・ボロアパートの一室(過激描写注意)1」から妃淵さんが去りました。
ご案内:「スラム・ボロアパートの一室(過激描写注意)1」から斬鬼丸さんが去りました。
ご案内:「深淵の水底」に松葉 雷覇さんが現れました。
ご案内:「深淵の水底」から松葉 雷覇さんが去りました。