2020/10/06 のログ
■日下 葵 > 「へへ、そういうのがご所望なら、
私にべったりと染みついた汚れを洗い流してほしいものですねえ?
もし、明日の私が裁かれるような、狩られるような存在になり果てたとして、
私を切り刻んでくれる存在を私が自身の意思で選べるのであれば、
あなたを候補の一人に入れておくくらいはしておいてあげましょうか」
私にとって、貴方は今のところそういう存在のようです。
そして、もし彼女が私に囁く甘い言葉が本物だとして、
それはまだ私の心を揺さぶるには足りない。
心根にべったりとついた過去の記憶も、言葉も、
たった一度殺しあった程度で拭えるものではないのだから。
死んでしまうよりも深い痛みと、その痛みで身についた”空虚”は、
そう簡単には揺るがない。
「貴方にとって、今日であった私が特別になったように、
今のところ私にとっても貴女は特別ですよ」
――でも、まだ足りないですかね?
「まだこの島の事、よく知らないんですか。
なら案内しましょう。
といっても、私の趣味の紹介の様になってしまいますが。
あら、そんな綺麗ごとを言っていると、
いつまでたっても私は貴女になびきませんよ?」
欲しいものを手に入れるのに、手段を選んでいる余裕なんてあるんです?
なんていたずらに言って見せる。
勝利をつかむために、それがたとえ訓練だとしても、
それがどんなに卑怯でも、汚い手段だったとしても、
必要なことなら迷う余地なんてない。
「ふふ、私は手足を失って。
血にまみれた姿が自分には似合っていると思っているんですけどね?」
自分を美しいとは思わない。
しかし、血にまみれた己の姿は、
どんなに着飾った自分よりも自分らしいと思っていた。
「逆にさみしくなって覗いたりしたら、
貴方を燃やし尽くしてしまいますからね?」
そんな軽口を叩き返して、立ち上がる。
ボロボロになったスポーツウェアのままシャワー室に向かう姿は、
まるで殺人鬼の犯人のような風貌だった>
■ジーン・L・J > 「体の汚れのことからシャワールームへご一緒しようか、内面のことなら、まだ出来ない。
君と私は出会ったばかり、君の今日の朝食だって知らないんだ。何も見てないのに安請け合いはしたくないね。」
今すぐ落としてあげよう、なんて優しく囁いてそう出来るなら何よりだが、彼女が抱えているのはそんな生易しいものではないだろう。
化け物を自称し、いかなる痛みにも動きを鈍らせることなく、足を落とされた直後に順応した行動を取る。そんな人間、永劫を生きる超越者でもないただの10代の少女がそれほどまでの存在になってしまった。
その原因を彼女が言う汚れとするなら、気安く扱うことは彼女への愚弄だ。
「それは光栄だね。私も全力を以ってお相手するよ。でも繰り返すけど、そんな未来は望まない。君には人間のまま生きて、幸せになって、人として死んで欲しい。」
その時傍らに私が居たら最高だけど、と一瞬真顔になりかけたのを冗談でかぶせて隠す。
「君の特別の一つ、といったところかな?まだ足りないだろうね。
唯一の特別にはこれからじっくりとなっていくことにするよ、でもそれは形振り構わず奪い取るような手じゃない、君の趣味を楽しく聞いたり、君の好きな料理に舌鼓打ったり、そういう手さ。
これは私の矜持(スタイル)でね、人と付き合う上で騙し騙されは無しって決めてるんだ。例え君を手に入れるためでも、自分を偽るつもりも、君を欺くつもりは絶対にない。例え君が望んだとしても。」
手の内は真っ白、とでも言うように手をくるくると回して両面を見せる。血の汚れはすでに落ちており、純白と漆黒、そして差し色のような紅だけの姿に戻っている。
「それはどうだろう、まだ私は走る姿と血に塗れて片足と腹が吹き飛んだ姿しか見ていないからね、君の他の面も見ないと意見が言えないよ。シンデレラだってガラスの靴と綺羅びやかなドレスを身につけるまで誰も魅力に気付かなかったじゃないか。」
自虐めいた言様はかるく肩をすくめるだけでかわす。軽薄な例えは矛先をずらすのと同時に本心でもあった。
まだ相手のことを何も知らない。ただ戦いの最中浮かべる笑顔が美しいと感じた、それぐらいだ。
「おお、怖い怖い。本相手にその脅し文句は効き目抜群だよ、他の本には言わないでよ。恐怖の動悸を勘違いして君を好きになられたら困る。」
本当に恐れているのかいないのか降参のポーズでシャワー室に向かう背中を見送ると、すぐそばの喫煙所へ向かって煙草を取り出して時間を潰そうとする。
しばらく後、シャワーを終えて出てきた日下が見たのは。
「やぁ、より綺麗になったねハニー。彼らに私達がどういう関係か教えてあげてくれないかな?」
殺し合いをしている生徒がいる、との通報を聞きつけてやってきた風紀委員にグラウンドに押さえつけられるジーンの姿だった。
■日下 葵 > 「ふふ、そういう軽口、嫌いじゃあないですよ」
ぜひ、私の内面のこの歪さをいつかまっすぐに矯正して、
この血にまみれた両手を、見えない傷に塗りつぶされた身体を――
「どうでしょうか。
貴方や私がそれを望まなくても、抗えない未来もあるかもしれません」
不死身と呼ばれた恩師が死んだのだ。
望まない未来、あるいは予想だにしない未来、
あるいはあり得ないと言われた未来が、ありえるかもしれない。
――あり得ない未来があるなら、あるいは。
「私にとっての特別はまだまだたくさん余っていますから、
他の誰かにとられないうちに、ね?」
私を欺くつもりは絶対にない。
そういいきる彼は、いったいどうしてそこまでのことを言い切れるのだろう。
先ほどまでの血みどろの両手をきれいさっぱりの様相に替えて見せるその姿は、
まるで何者かに化かされているかのようで、とても不思議な感じだ。
「私もまだあなたのことを何も知りませんから、
本で言うなら、棚に並んでいる状態から背表紙だけを見て取ったようなものでしょうか」
――本の中身が面白いかは、これからに期待ですねえ?
「本にも吊り橋効果ってあるんですか?
私は心臓が破裂しても元に戻ってしまいますから、
動悸をときめきに勘違いする経験は金輪際なさそうですけど」
妙に心地のよい減らず口を叩きながら、訓練場から消える。
数十分後、タオルを肩にかけて訓練場に戻ると、
地面に押さえつけられるジーンの姿と、数名の同僚。
「どういう関係って、そりゃあ……
――殺し合いをして楽しむような関係でしょうか?」
そんなことを口走れば、二人そろって連行されて、詳しく取り調べをされるのだった。
「死なない者同士が殺し合いしたっていいじゃないですかぁ」
なんて屁理屈を言う当人は、
風紀委員になってから何度目かの謹慎処分を受けたとかなんとか>
ご案内:「訓練施設」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」からジーン・L・Jさんが去りました。