2020/10/16 のログ
■レイチェル >
ベッドの上、二人はちょこんと並んで座る。
月の光だけが二人の少女を照らしていた。
時計の針の音だけが、ただ静かに部屋の中に響いていた。
ちく、たく。
ゆっくりと、時は刻まれて。
それでも少しずつ、動いていて。
―――
――
―
「それを当然のように、言ってくれるからお前はすげーよ」
へへっ、と笑ってやる。
ったく、ほんとこいつはさ。
いつだってそう在ろうとしてくれる。
だからこそ、オレはオレで居られる。
きっと、他の奴らも……家族だって言ってた沙羅も
同じだったりするのかね。
きっと、色んな奴らが救われてるんだろうな。
でも、救うってことは、手を伸ばすってことは。
同時に、傷つくことも沢山ある。
それは、手を翳《のば》しちまう呪いを
背負ったオレにも、少なからず分かることだ。
「そか……凄く痛かった、とかじゃないんだな……?
それなら良いんだ。
でも、お前が……耐えてくれてたのも伝わってきた。
もし、本当は辛いって……言うんだったら、ちゃんと
言ってくれよ。お前を傷つけちまったオレが言うのも
なんだけど……オレは、お前を守りたいから」
そう口にして、ベッドの下から救急箱を取り出す。
ぱかりと開ければ、まずは絆創膏をベッドの上へ置き、
ガーゼを取り出していく。手慣れたものだ。
だって。
「……昔は、貴子が吸血に付き合ってくれた」
手早く、しかし丁寧さを心がけて傷の処置をしながら、
華霧の方をオレは見やった。
■園刃 華霧 >
「そう、かな?」
すげー、と言われるけれどあまり実感はない。
大したことはしていないし。それしかできないし。
「……辛い、ねえ。
いや、うん。だいじょうぶ だよ」
受けたものは、全然
今までの経験からすれば、大したこともなく
だから、つらいことなんてなにもない
「……うん、なんか。なんとなく、わかってた」
治療を素直に受けながら、告白するようにかけられた言葉に
正直なところを返す。
■レイチェル >
「すげーの。少なくともオレはすげーと思ってるよ」
ふぅ、と息を吐くと共に思わず笑いが漏れてしまった。
「……大丈夫なんだな? 本当に?」
何度も彼女が自分へと問いかけたように。
オレだって、彼女へ問いかける権利はある筈だ。
だって、その裏側にあるもの……すべてを知ってる訳じゃない。
詳しいことを知っている訳じゃない。
それでも、こいつが無茶してるってことだけは、知ってたから。
分かってたから。
だから、しっかりと見据えた上で、そう問いかける。
貴子、という名前。
そうして、語る言葉に返される言葉。
ま、しらねー訳ねーよな。
風紀委員会で一緒に居たんだから。
一緒に日常だって、過ごしたんだから。
「……あいつも、お人好しだった。
オレに平気な顔して血を、分けてくれて。
ごく普通の日常を送りたいんだー、なんて言いながらさ。
本当に良い……親友だった。
それで、貴子を通じて、
お前と出会って……ああ、懐かしいな」
それはもうずっと昔のことに思えた。
『あの日』のことも。
三人で話して、日常を送っていたことも。
もう二度とは帰ってこない過去だ。
■園刃 華霧 > 「ん……
間違いなく。アタシのことについちゃ、平気だよ」
それは間違いない
だから、そこは真摯に答える。
吸血されたときの感覚は、別に大したことはなかった
「あはは、貴子ちゃんはね。
ほんと、お人好しだったねー。
アタシにも散々説教してきたもんだよ」
なにしろいい加減な態度の自分だったから。
なにしろおふざけが多い自分だったから。
それはもう、色々大目玉を食らったものだ。
それも大分懐かしい話。
「あぁ……懐かしいなあ」
思わず遠くを眺めるようにする
「ま……だから、さ。
レイチェルの様子がなんか変だなって、いう理由もなんとなく思い当たったんだけど、さ。」
■レイチェル >
「分かった。お前の言葉、信じるよ」
今度は安堵の息と共に笑顔が漏れちまった。
良かった。本当に。
「あははっ、そりゃな。
華霧、すっげーふざけてたもんな。
でも、お人好しだからこその説教だった。
オレだって、怒られたことはあったさ」
あまり危険なことはするな、だとか。
心配してくれたこともあったな。
ああ。
「……うん、懐かしい。今頃どうしてっかな。
島の外で、幸せにやってりゃいいが」
少しだけ一緒に遠くを眺める。同じ時を、眺める。
けど、はっと気付いたオレは目を、すぐに華霧の顔へ向ける。
……少しだけ心配そうな表情、出しちゃったかな。
「……オレの様子、って。血が足りてなさそう、ってことかね。
オレに血をくれる……そんな貴子の在り方に気付いてたから、
オレにあれだけ血は足りてるかって……
お前はそう聞いてくれた……んだよな」
確認する。
華霧の方をじっと見つめるオレの首は、自然と斜めになっていた。
そしてそれこそが、
今夜の約束に繋がったのだと。
■園刃 華霧 >
「……うン。幸せだと、いいナ……」
アタシの手から、もう離れてしまった。
アタシの眼から、もう外れてしまった。
もう、なにもできないだろう
だからせめて
幸せだけは 祈りたい
「ん? うん、そうだよ?
だってそりゃ、気になるじゃん」
あの別れから、しばしのとき
もうひとりの友人の様子がおかしいとあれば
それが気にならないわけがない
そこから、答え、らしきものに至るのもそんなに手間のかかることではなかった。
「他に、わけなんて無いよ。
流石にそんなエスパーじゃないさ」
■レイチェル >
「……ほんと、どうしようもねぇほどお人好し。
でも、そんなお前が居たからオレはまた前に進めたんだ」
華霧の言葉を全て受けてから、その思いを伝えた。
に、と笑って。
そうして。
どうしても、気になっていたことを。
「……なぁ。本当は貴子のことも、零したくなかった?」
幸せを願った華霧に、オレは静かに問いかけた。
先の浴室で彼女が口にした言葉が、
まだ鮮烈に残っていたから。
そしてオレ自身も当然、
親友を失いたくないと思っていたから。
その気持ちは痛いくらいに、あったから。
幸せを願う気持ちは本物だ。
でも、親友として一緒に居たかったという気持ちだって、本物だった。
■園刃 華霧 >
――本当は貴子のことも、零したくなかった?
……………
…………
………
……
…
だいじょうぶ
もう それは
「……変、だよなあ。
だって、卒業して
島の外、でて
新しい人生を 過ごしてるんだよ?」
のみこめて……
「……なのに、なくした、なんて……
いうの……」
のみこんで…
「おかしい、よね……」
吐息を吐いた
■レイチェル >
「変なんかじゃ、ねぇさ!」
レイチェル・ラムレイは否定《ほうよう》する。
彼女が自身を誤魔化すそれを、力強く、優しく。。
「おかしくなんか、ねぇさ!」
レイチェル・ラムレイは否定《ほうよう》する。
彼女が自身へ向けている嘘を、力強く、優しく。
「オレだって、同じだ。
オレの目の前からあいつが居なくなるのなんて、
嫌だった。幸せを願っていたとしても、だ。
けど、引き留めることなんてできなかった。
前へ進んでいくあいつを、ただ零すしかなかった」
一緒に居たい。
そんなのは我儘だって、分かってる。だから黙っていた。
『ごく普通に結婚して、ごく普通の生活を送りたい』。
そんな風に口にしてる奴に、
ずっとここで、友達で居ようだなんて、そんなこと言えなかった。
それは、前へ進もうとする彼女の未来を、殺すことになるから。
「なくして、辛くて、傷ついて。
そういう気持ちでいる奴がすぐ近くに居ることに、
オレは気付くべきだった。
なのに、オレは風紀の歯車になって……
『そいつ』を置き去りにして……
オレが知ってる『そいつ』も、
どうしようもなくお人好しだから。
言えなかったんだろうさ。言えないんだろうさ。
『そいつ』に目を向けずに、
オレが離れていこうとしていたことも。
近づいているようで、ずっと離れようとしていたことも」
自然と。
オレは手を華霧の方へと、伸ばしていた。
ただ、翳《のば》すだけじゃない。
翳《のば》すその手の先は、見えなくなってしまうから。
だから、ただ救おうとするんじゃないんだ。
オレも、一緒に。
もう一歩、踏み込んで。
オレが開くその手は、
否定《ルーツ》を超えた、セカンドステージ――『受容』。
今のオレの、在り方だ。
「……今はまだ飲み込めなかったとしても、さ。
乗り越えよう、一緒に」
身体全てを寄せてその手を伸ばした。
好きだとか、恋だとか。
今は、そんなものではなくてさ。
ただ一人で背負おうとしている『そいつ』を。
ただ一人で零さないように頑張っている『そいつ』を。
ただ一人で喪失に悲しんでいる『そいつ』を。
このレイチェル・ラムレイが二度も放っておくと、思うなよ。
■園刃 華霧 >
「は……はは……」
思わず、笑いがこぼれ落ちる。
せっかく、おしこめてたのに
せっかく、なっとくしたのに
また、ほりだされて
「……ったく」
ため息を一つ
「ほんとなら……
そいつは、アタシの。
アタシだけの、ものだって……
言うトコ……なんだけどさ。」
失ったものは自分の手からこぼれたもの
誰のものでもない
自分だけのもの
それを背負うのも自分だけ
それを定めるのも自分だけ
だけれど
――"分かち合う"
ああ、そう、だよな……
それに
「……そうだな。
レイチェルなら……まあ、いいか」
呆れたような笑いを浮かべた
■レイチェル >
「お前は……オレの呪いを分かち合ってくれた。
オレだって……お前の呪いを分かち合うぜ」
笑いをこぼす華霧に、レイチェルは笑みを返す。
太陽の如く。満面の笑みを。だってまた一つ、気付いたから。
『時間を止めていては叶わない願いに、
あんたは今「変わっている」』
なるほど、そういうことかよ。
分かってきたよ、紅蓮先生。
共に歩む……向き合う……その、意味が、また一つ。
「だか、ら……さ」
ふらり、と。視界が揺らぐ。
手を伸ばしたまま華霧を
抱きしめようとして。
「安、心……」
……あ、れ?
ぐらり、と。しかいがかたむいて。
『レイチェルなら……まあ、いいか』
さいごにきいた、そのことば。
あきれたような、かぎりのわらいが。
しかいのはしへ。
―
――
―――
「ふ、あ……?」
そのままぽすん、と。
レイチェルは横に倒れた。
体力の消耗は、相当なものだったらしい。
華霧を求めて伸ばされた手はそのままに、
ベッドの上ですうすうと、穏やかな寝息を立て始めるのだった。
■園刃 華霧 >
「って、おい?!」
言うだけ言って倒れ込む友人
まえにも これを アタシは
「……」
ついで、聞こえる寝息
ひとまずの無事は確認できた
「……もー……まったくさ」
ため息を一つ
「締まんないじゃん、ばーか」
笑って口にする。
■園刃 華霧 >
思い返してみれば
今日のレイチェルは、それはそれは
あれやこれやと目まぐるしかった
部屋に来てから
風呂場に入ってから
そして、今
「ほんと、ころころと顔が変わって、まあ……」
思い出して、また、笑う
わらう
「…………」
あのときの
あれは
よく しってる
おもいだした
むかしの
ああ
あの なつかしい かんじ
それは とても
「 」
■園刃 華霧 >
思わず口をふさぐ
思わず周りを見る
そこには寝息を立てるレイチェルだけ
安堵の息をついて、
静かにあわてて部屋を後にした
ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」から園刃 華霧さんが去りました。