2020/10/16 のログ
レイチェル >  
ベッドの上、二人はちょこんと並んで座る。
月の光だけが二人の少女を照らしていた。
時計の針の音だけが、ただ静かに部屋の中に響いていた。
ちく、たく。
ゆっくりと、時は刻まれて。
それでも少しずつ、動いていて。

―――
――


「それを当然のように、言ってくれるからお前はすげーよ」

へへっ、と笑ってやる。

ったく、ほんとこいつはさ。
いつだってそう在ろうとしてくれる。

だからこそ、オレはオレで居られる。
きっと、他の奴らも……家族だって言ってた沙羅も
同じだったりするのかね。
きっと、色んな奴らが救われてるんだろうな。

でも、救うってことは、手を伸ばすってことは。
同時に、傷つくことも沢山ある。
それは、手を翳《のば》しちまう呪いを
背負ったオレにも、少なからず分かることだ。


「そか……凄く痛かった、とかじゃないんだな……?
 それなら良いんだ。
 でも、お前が……耐えてくれてたのも伝わってきた。
 もし、本当は辛いって……言うんだったら、ちゃんと
 言ってくれよ。お前を傷つけちまったオレが言うのも
 なんだけど……オレは、お前を守りたいから」

そう口にして、ベッドの下から救急箱を取り出す。
ぱかりと開ければ、まずは絆創膏をベッドの上へ置き、
ガーゼを取り出していく。手慣れたものだ。
だって。

「……昔は、貴子が吸血に付き合ってくれた」

手早く、しかし丁寧さを心がけて傷の処置をしながら、
華霧の方をオレは見やった。

園刃 華霧 >  
「そう、かな?」

すげー、と言われるけれどあまり実感はない。
大したことはしていないし。それしかできないし。


「……辛い、ねえ。
 いや、うん。だいじょうぶ だよ」

受けたものは、全然
今までの経験からすれば、大したこともなく

だから、つらいことなんてなにもない




「……うん、なんか。なんとなく、わかってた」

治療を素直に受けながら、告白するようにかけられた言葉に
正直なところを返す。

レイチェル >  
「すげーの。少なくともオレはすげーと思ってるよ」

ふぅ、と息を吐くと共に思わず笑いが漏れてしまった。


「……大丈夫なんだな? 本当に?」

何度も彼女が自分へと問いかけたように。
オレだって、彼女へ問いかける権利はある筈だ。
だって、その裏側にあるもの……すべてを知ってる訳じゃない。
詳しいことを知っている訳じゃない。
それでも、こいつが無茶してるってことだけは、知ってたから。
分かってたから。
だから、しっかりと見据えた上で、そう問いかける。


貴子、という名前。
そうして、語る言葉に返される言葉。

ま、しらねー訳ねーよな。
風紀委員会で一緒に居たんだから。
一緒に日常だって、過ごしたんだから。

「……あいつも、お人好しだった。
 オレに平気な顔して血を、分けてくれて。
 ごく普通の日常を送りたいんだー、なんて言いながらさ。
 本当に良い……親友だった。
 
 それで、貴子を通じて、
 お前と出会って……ああ、懐かしいな」

それはもうずっと昔のことに思えた。
『あの日』のことも。
三人で話して、日常を送っていたことも。
もう二度とは帰ってこない過去だ。

園刃 華霧 > 「ん……
 間違いなく。アタシのことについちゃ、平気だよ」

それは間違いない
だから、そこは真摯に答える。

吸血されたときの感覚は、別に大したことはなかった


「あはは、貴子ちゃんはね。
 ほんと、お人好しだったねー。
 アタシにも散々説教してきたもんだよ」

なにしろいい加減な態度の自分だったから。
なにしろおふざけが多い自分だったから。

それはもう、色々大目玉を食らったものだ。
それも大分懐かしい話。

「あぁ……懐かしいなあ」

思わず遠くを眺めるようにする


「ま……だから、さ。
 レイチェルの様子がなんか変だなって、いう理由もなんとなく思い当たったんだけど、さ。」

レイチェル >  
「分かった。お前の言葉、信じるよ」

今度は安堵の息と共に笑顔が漏れちまった。

良かった。本当に。


「あははっ、そりゃな。
 華霧、すっげーふざけてたもんな。
 でも、お人好しだからこその説教だった。
 オレだって、怒られたことはあったさ」

あまり危険なことはするな、だとか。
心配してくれたこともあったな。
ああ。

「……うん、懐かしい。今頃どうしてっかな。
 島の外で、幸せにやってりゃいいが」

少しだけ一緒に遠くを眺める。同じ時を、眺める。
けど、はっと気付いたオレは目を、すぐに華霧の顔へ向ける。

……少しだけ心配そうな表情、出しちゃったかな。



「……オレの様子、って。血が足りてなさそう、ってことかね。
 オレに血をくれる……そんな貴子の在り方に気付いてたから、
 オレにあれだけ血は足りてるかって……
 お前はそう聞いてくれた……んだよな」

確認する。
華霧の方をじっと見つめるオレの首は、自然と斜めになっていた。
そしてそれこそが、
今夜の約束に繋がったのだと。

園刃 華霧 >  
「……うン。幸せだと、いいナ……」

アタシの手から、もう離れてしまった。
アタシの眼から、もう外れてしまった。

もう、なにもできないだろう
だからせめて
幸せだけは 祈りたい


「ん? うん、そうだよ?
 だってそりゃ、気になるじゃん」

あの別れから、しばしのとき
もうひとりの友人の様子がおかしいとあれば
それが気にならないわけがない

そこから、答え、らしきものに至るのもそんなに手間のかかることではなかった。


「他に、わけなんて無いよ。
 流石にそんなエスパーじゃないさ」

レイチェル >  
「……ほんと、どうしようもねぇほどお人好し。
 でも、そんなお前が居たからオレはまた前に進めたんだ」

華霧の言葉を全て受けてから、その思いを伝えた。
に、と笑って。
 

そうして。

どうしても、気になっていたことを。



「……なぁ。本当は貴子のことも、零したくなかった?」



幸せを願った華霧に、オレは静かに問いかけた。
先の浴室で彼女が口にした言葉が、
まだ鮮烈に残っていたから。

そしてオレ自身も当然、
親友を失いたくないと思っていたから。
その気持ちは痛いくらいに、あったから。

幸せを願う気持ちは本物だ。
でも、親友として一緒に居たかったという気持ちだって、本物だった。

園刃 華霧 >  
――本当は貴子のことも、零したくなかった?

……………
…………
………
……


だいじょうぶ
もう それは

「……変、だよなあ。
 だって、卒業して
 島の外、でて
 新しい人生を 過ごしてるんだよ?」

のみこめて……


「……なのに、なくした、なんて……
 いうの……」

のみこんで…


「おかしい、よね……」

吐息を吐いた

レイチェル >  
「変なんかじゃ、ねぇさ!」

レイチェル・ラムレイは否定《ほうよう》する。
彼女が自身を誤魔化すそれを、力強く、優しく。。

「おかしくなんか、ねぇさ!」

レイチェル・ラムレイは否定《ほうよう》する。
彼女が自身へ向けている嘘を、力強く、優しく。

「オレだって、同じだ。
 オレの目の前からあいつが居なくなるのなんて、
 嫌だった。幸せを願っていたとしても、だ。
 
 けど、引き留めることなんてできなかった。
 前へ進んでいくあいつを、ただ零すしかなかった」

一緒に居たい。
そんなのは我儘だって、分かってる。だから黙っていた。
『ごく普通に結婚して、ごく普通の生活を送りたい』。
そんな風に口にしてる奴に、
ずっとここで、友達で居ようだなんて、そんなこと言えなかった。

それは、前へ進もうとする彼女の未来を、殺すことになるから。

「なくして、辛くて、傷ついて。
 そういう気持ちでいる奴がすぐ近くに居ることに、
 オレは気付くべきだった。
 
 なのに、オレは風紀の歯車になって……
 『そいつ』を置き去りにして……
 オレが知ってる『そいつ』も、
 どうしようもなくお人好しだから。
 言えなかったんだろうさ。言えないんだろうさ。
 
 『そいつ』に目を向けずに、
 オレが離れていこうとしていたことも。

 近づいているようで、ずっと離れようとしていたことも」

自然と。
オレは手を華霧の方へと、伸ばしていた。

ただ、翳《のば》すだけじゃない。

翳《のば》すその手の先は、見えなくなってしまうから。

だから、ただ救おうとするんじゃないんだ。

オレも、一緒に。

もう一歩、踏み込んで。


オレが開くその手は、
否定《ルーツ》を超えた、セカンドステージ――『受容』。

今のオレの、在り方だ。

「……今はまだ飲み込めなかったとしても、さ。
 乗り越えよう、一緒に」

身体全てを寄せてその手を伸ばした。
好きだとか、恋だとか。
今は、そんなものではなくてさ。


ただ一人で背負おうとしている『そいつ』を。
ただ一人で零さないように頑張っている『そいつ』を。
ただ一人で喪失に悲しんでいる『そいつ』を。


このレイチェル・ラムレイが二度も放っておくと、思うなよ。

園刃 華霧 >  
「は……はは……」

思わず、笑いがこぼれ落ちる。

せっかく、おしこめてたのに
せっかく、なっとくしたのに

また、ほりだされて


「……ったく」


ため息を一つ


「ほんとなら……
 そいつは、アタシの。
 アタシだけの、ものだって……
 言うトコ……なんだけどさ。」


失ったものは自分の手からこぼれたもの
誰のものでもない
自分だけのもの

それを背負うのも自分だけ
それを定めるのも自分だけ

だけれど

――"分かち合う"

ああ、そう、だよな……

それに

「……そうだな。
 レイチェルなら……まあ、いいか」


呆れたような笑いを浮かべた

レイチェル >  
「お前は……オレの呪いを分かち合ってくれた。
 オレだって……お前の呪いを分かち合うぜ」

笑いをこぼす華霧に、レイチェルは笑みを返す。
太陽の如く。満面の笑みを。だってまた一つ、気付いたから。

『時間を止めていては叶わない願いに、
 あんたは今「変わっている」』

なるほど、そういうことかよ。
分かってきたよ、紅蓮先生。

共に歩む……向き合う……その、意味が、また一つ。


「だか、ら……さ」


ふらり、と。視界が揺らぐ。
手を伸ばしたまま華霧を
抱きしめようとして。


「安、心……」


……あ、れ?
ぐらり、と。しかいがかたむいて。


『レイチェルなら……まあ、いいか』

さいごにきいた、そのことば。

あきれたような、かぎりのわらいが。
しかいのはしへ。


――
―――

「ふ、あ……?」

そのままぽすん、と。
レイチェルは横に倒れた。
体力の消耗は、相当なものだったらしい。
華霧を求めて伸ばされた手はそのままに、
ベッドの上ですうすうと、穏やかな寝息を立て始めるのだった。

園刃 華霧 >  
「って、おい?!」

言うだけ言って倒れ込む友人

まえにも これを アタシは 


「……」

ついで、聞こえる寝息
ひとまずの無事は確認できた


「……もー……まったくさ」

ため息を一つ

「締まんないじゃん、ばーか」

笑って口にする。

園刃 華霧 >  
思い返してみれば
今日のレイチェルは、それはそれは
あれやこれやと目まぐるしかった

部屋に来てから

風呂場に入ってから

そして、今


「ほんと、ころころと顔が変わって、まあ……」


思い出して、また、笑う

わらう


「…………」


あのときの
あれは
よく しってる

おもいだした
むかしの

ああ
あの なつかしい かんじ
それは とても

「         」

園刃 華霧 >  
思わず口をふさぐ
思わず周りを見る

そこには寝息を立てるレイチェルだけ

安堵の息をついて、
静かにあわてて部屋を後にした

ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」から園刃 華霧さんが去りました。