2020/11/05 のログ
日下 葵 > 「寒いのはちょっと嫌ですねえ。傷は治っても風邪はひきますから」

雪は降っても、除雪のしっかりしているこの島ならツーリングは可能だろう。
ただ、冬のバイクは過酷だ。デートを楽しむにはもう少し余裕が欲しい。

「ええ、そんな生半可な気持ちで私を手に入れようだなんて、
 こっちから願い下げです。
 私はいつも命のやり取りをしているんですから、
 相手にもそれくらいしてもらわないと燃えません」

燃えない、何て言うが、実のところは心が動かないのだ。
それくらい、恐怖という感情と、それに起因する感情を欠落している。
この欠落した感情が戻るかどうかはわからないが、
少なくとも何もしないままでは心は揺らがない。

「獣に恋をした狩人ですか。
 それはそれで素敵ではあります。 
 下手なロマンスよりも、私はそっちの方が好きですかね」

ようやっと右腕が肘の辺りまで回復してきた。
しかし回復を待つ間もなく、彼女が動いた。
彼女の右手のナイフがこちらの左手を狙ってくる。
今ナイフを手放せば自傷行為が制限されてしまう。
つまり回復の可能性を大きく奪われることを意味している。

彼女のナイフの動きをよく見てコンバットナイフの柄を当てれば、
ディスアームを回避。
そして電撃を纏う左足の蹴りは躱すことも、受けることもせずに身体で受け止める。
肋骨が何本か折れるような音が響くと、筋肉の萎縮を使って足をホールドしようとする。

「残念ながらですね、
 私は電撃には”思い入れ”がありまして……
 思い出すようですよ、昔を。
 私が痛みを克服する為に一番使われてましたから……」

――電撃を選択したのは間違いでしたね。

そう呟くと、彼女の左手のナイフの刺突を受けながら、
両者の身体を地面に倒そうと彼女の足を引っ張る。
下手に距離を取られてはナイフに対処しなければならない。
それなら、ナイフすら使えない超近接戦に持ち込まなければ、
勝ち目はない。そう踏んだのだ>

ジーン・L・J > 「なるほど、病気にはなると、ならやっぱり日取りは気をつけたほうが良いね、晴れた暖かい日にしよう。」
蹴りが受け止められる、これだ。自身の被害を全く気に留めない戦い方、牽制が通じないのは酷くやりにくい。
電流を纏わせていたのはほとんど見せかけ、先程与えた動きを止めるほどの威力はない。筋力を十全に使えるならそのまま抑え込めるだろう。

「君は人だよ、少なくとも私の定義では。私の見てきた"獣"は言葉を喋るかもしれないが会話出来ない、ましてやデートの約束なんて猿とチェスをしようとするようなものさ。」
足を引っ張られるまま倒れ込めば、こちらが上になるだろうか。2人の体重が乗った足が不自然に曲がり、関節の砕ける音が皮膚越しに感じられるだろう。ほとんど密着したショートレンジ。ナイフの有効射程を外れたと判断、左はナイフを突き刺したまま、右のナイフを落として拳を握る。

「私の一番得意な系統なんだけど、耐性があると思わなかったよ。痛みはともかく、筋肉の硬直を嫌がって避けるかと思ったんだけ、どっ!」
右腕を振りかぶって、グラウンドパンチの構え。

日下 葵 > 「ええ、暖かい日にお願いします。
 寒いのは苦手ですから。暖かいところがいい」

蹴りを受け止めると、都合が悪そうな顔をする彼女。
その表情がとてもいい。
人の形をしていて、生き物としても最も基本的な防衛本能を棄てている。
異能や格闘の強さよりも、この特徴が私の最も強力な武器なのだ。

「しつこいですね。
 私は人じゃないんですよ。
 人じゃない。何度も言いますが人じゃない。
 獣じゃなないなら化け物です。
 自分が何者かなんてどうでもいい。
 でも人じゃない。
 人なら、異能を持っていても普通に学校に行って、
 友達と遊んで、ゲームして、ご飯食べて、
 恋人を作って、遊びに行った先で景色を見て感動して。
 そんな生活を送るような存在です」

二人して倒れ込むと、抱えていた足が折れたのか、間接外れたのか、
鈍い音が鳴った。

「一番嫌ですよ。
 動けなくなりますから。
 だから師匠は電撃で訓練をした
 相手が講じてくるであろう対策を、一通り。
 私は異能に慢心して、死んだりしないッ!」

初めて怒気のような、感情をはらんだ声を出した。
組み敷かれる形でマウントポジションをとられると、
振り下ろされる右腕に、受け身も防御も採らずにこちらも殴り返そうとする。
その捨て身の暴力性は、普通の人間には人外に見えることだろう

ジーン・L・J > 「わかったよ、でもまずはバイクを買わないとね。出来れば排気量の大きいやづっ!」
右拳を顔面に振り下ろすと同時に顎を撃ち抜かれる。脳が揺れる、だが止まらない。こちらも止まらない。
左手のナイフを脇腹に刺し、折れた右足とまだ無事な左足で挟み込んで体勢を固定する。

「君は人だよ、これは譲らない。」
攻撃に全てをかけてくるならこちらもやりようがある、殴ってくる拳を受け止めて指を絡める。恋人握りにも見えるそれを即座に捻って指を折ろうとする。
「私と遊んでくれただろう?私とお茶をしてくれただろう?今景色を楽しむ約束をしたばかりだろう?そして、私が勝って君を恋人にする。
そして一緒に学校に行って、あとはゲームは私は詳しくないから教えてくれれば達成じゃないか。私はもっと悍ましい化け物が人を名乗るのを見たよ、葵。
君は人だ、風紀委員として島の治安を守っている、どうして君は人を捨てようとする?人でいると不都合なのかい?」
折れた足から激痛の信号、だが無視する。ダメージを負っていることを理解するためだけのものだ。動きを鈍らせるものではない。

「ああ、君は慢心していない。自分の全てを使っている、君は美しいよ。異能に驕らず、自身の強みを理解して適切に使う、君は強い、強く、美しい。だから私も、"最後の名"を明かそう。」
ナイフから左手を離し上体を倒して、まるで押し倒すように顔面を近づける。

日下 葵 > 「人だった!
 どこにでもいるような人だった!
 捨てようとしているんじゃない!
 捨てたんだ!

 偶然手に入れた力で助かって、
 それをうまい事使うために訓練して!
 人の形をしたまま外れていった!

 不都合?いいや!
 不都合なんかじゃないさ、人に戻れたらどれだけいいか!
 アンタが元に戻してくれるのか!?この私を!本当に?
 私は、現にこうして恐怖せずに戦っているぞ!」

脇腹に刺さったナイフが、筋肉と横隔膜を突き破って血を流している。
片方の肺が上手く空気を吸い込めずに酸欠を起すが、それでも叫び続けた。
普段の人を小馬鹿にするするような白々しい敬語とは違う、
まくしたてるような乱暴な言葉遣い。
自室にいるときじゃないと出てこない荒々しい語気。
彼女が一発殴ってくれば、こちらも一発殴り返す。

しかしそんな応酬の中で、こちらの拳が受け止められると、指を絡められた。
恋人同士がやるようなつなぎ方、といえば聞こえはいいが、
そんな温いものじゃない。
あっという間に指が折られると、いよいよこちらから反撃の選択肢が少なくなってくる。

そして未だに治りきらない右手にいら立ちの色を表すと、折れた左手を握りこんで再び殴ろうとする。
しかし、彼女が顔を寄せてくると、思わず攻撃の動きが止まってしまう>

ジーン・L・J > 血を吐くような叫び、彼女が押し隠していたもの。やっと聞けた。やっと聞くことが出来た。
何度にも傷つけられ、かさぶたが積み重なるように厚い鎧を纏った彼女の心の内を、覗くことが出来た。
「ああ、戻してあげよう。だから君に恐怖を与える。味わってくれ、あらゆる生物が持つ原初の恐怖を。」

鼻が擦れ合うほどの距離で、万感の思いを込めて、最後の名前を解き放つ。
「獣を放つ1つの名は、『ブラックドッグ』」
空に黒雲が現れ月を覆い隠す、黒衣の異形が物理的に膨らんだかのような威圧感を放ち、暴風が吹き荒れて白い花畑が一気に薙ぎ倒された。

目元を覆う包帯が一人でに解け、その下が顕になる。漆黒の目の中に金色に輝く瞳孔、闇夜に浮かぶ月のような目が真っ直ぐ葵を見据える。
肉食獣の気配が更に濃く、もはや人の姿をしているとは見えないほどに濃厚になり、吐き気を催すほどの血の臭いが鼻をつく。
食われる、猛獣に組み伏せられたような感覚を与えるだろう、それほどまでに今のジーンは"獣"だった。

「さようなら、葵。」
その気配に似合わぬ優しい声で囁き、左手を抑え込んだまま、優しい手付きで自分の左手を相手の胸元に添える。

筋肉を動かしているのは電気信号による命令だ、だから電流を流されれば硬直し動きが止まる。
それを全て中和する、膨大な魔力を、繊細で微小な操作で扱うことを求められる故に、全力を出さなければ出来なかった。これで脳がどれほど命令しようと心臓に命令が届くことはない。少しずつ少しずつ、血流が滞り、体を動かす酸素が欠乏していく。
「さようなら……。」
酸素を求めてあえぐであろう口を、自分の口で塞ぐ。

日下 葵 > 「――ッ!与える?何を偉そうに」

まさしく目と鼻の先、そんな距離でお互いに見つめあう。
包帯に隠されて見えないが、彼女の眼がこちらを捉えているのは間違いない。
――そして彼女が最後の名前を口にした瞬間、包帯が解けた。

まるで嵐の中で突風が吹いたかのように周囲の花が散ると、
思わず目を見開いた。

”ああ、いつかの師匠と同じ目だ”

人を手に欠けるときの――いや、生き物を殺そうとする時の目。
私が嫌いな目。
私が、命を奪わない理由になった目。
そんな目が、すぐそこにあった。

彼女の左手が、優しく胸元に添えられる。

”さようなら?”
”さようならってなんだ?”
”サヨウナラ?”

「待っ――」

気付けば心臓が、拍動が止まっていた。
急激に意識が遠くなる。
いつも通りならこのまま心臓が止まって死ねば転移魔法で転送される。
しかしこの場所はどうだろう。
時空の歪んだ転移荒野、転送の保証はどこにもない。

――ああ、対策を怠ってしまった。

「はっ……はっ……はっ……んッ」

酸欠が進むと、身体は酸素を求めて呼吸を早める。
しかしどれだけ肺を動かしたとしても、
血液によって酸素が運ばれることはない。
そしてだめだしするように彼女の唇が、己の唇に重ねられると、
いつかの煙草の味と匂い。

――少しずつ、視界が霞んでいく>

ジーン・L・J > 焦点の合っていない目を見つめながら、唇を離す。
「まだ楽しいかい?続けたいかい?その顔を見ると打つ手がないみたいだけど。それが死の恐怖だよ、葵。」
細胞の破壊が再生のトリガーならそれを起こさなければいい、心臓が止まるのは細胞の破壊ではない、ただ動かないだけだ。
それによって末端は死んでいくことで再生が起きるだろうが、酸素が送られなければ動けない。"人の体"はそう出来ている。

マウントポジションを解いて、隣に寝転がる。
「でも私も限界だ。ほら。」
霞んでいるであろう視界に手をかざせば、指先から砂が風に吹かれるように崩れ落ちていく。
「私達には一種のセーフティがかけられていてね、人間を、そう認識している相手を手に掛けると自滅するようになってるんだ。
最初に言っただろう、君が『死にたくない』と言う以外の結末は全て私の負けだって。このまま君が死ねば君の勝ち。
受け入れるなら目を閉じて、気付けば死者の国さ。それが嫌なら、"死にたくない"なら、私を睨むなり、殴るなりしてみるといい。」どっちでも構わない、と昼寝でもするように体の力を抜く。

日下 葵 > 「――はぁッ!!」

唇が離れて、心臓の鼓動が再開すると息を吹き返す。
むせた様にゲホゲホと咳込むと、いつの間にか両手は回復していたようだった。
そして隣に寝転んだ彼女を見れば、次いで聞かされる言葉に耳を疑った。

「なんだよそれ……
 本当に私を人間だと思ってんの?
 アホくさ。こんな使い捨てみたいな風紀委員一人のために身体なんて張って。
 最初っから負けたら死ぬつもりで勝負してたわけ?」

――アホくさ。

徐々に回復していく視界で彼女を見ると、徐々に崩れていく身体があった。

「確かに恐怖はした。
 恐怖ってこんな感情だったなってのは思い出した。
 でも自分の生き死にに関してはまだ、”どうでもいい”って思ってる。
 歪んだ空間での転移魔法の対策をできなかったのは後悔だけど、
 これで死んでも誰も文句は言わないだろうし」

慢心で死んだとは言われないはず。
だから、どうでもいい。

「でも、私にこれだけの感情を抱かせて、
 散々調子の良い事言っといて死なれるのは癪。
 私のせいでアンタが死んじゃうなら」

――私は死にたくない。

そういって身体を起せば、
今度は逆にこちらが彼女にマウントポジションを取る。
そして治ったばかりの右手を振り上げると、
言われた通り彼女を思い切り殴ろうか>

ジーン・L・J > 思い切り顔面に拳を振り下ろされる。
「ははは、やっと言ってくれた。」

鼻から血を流しながら笑う、いつもの薄い笑みではなく、満面の笑み。普段は包帯に隠されている目、禍々しい満月の目も笑っている。

「そうだよ、君は人間だ。そして、私にとっては唯一の愛しい人だよ。君が他の人にどう扱われようと関係ない。
君のためにここまでする必要があったからこうしたんだ。」
相手の鼓動が回復すると同時にセーフティも解除された、体の崩壊が止まった。とはいえ魔力を大量に消費したのに変わりはないし、再生は酷くゆっくりで、まだ動けない。

「価値観はすぐには変わらないさ、君の練り上げられた動きを見ればわかる、君は自分の命を捨てる前提の人生を長いこと生きてる。
でも変えられないわけじゃあない、これからゆっくり自分の命を惜しくなるようになってもらおうか、"マイ"ハニー。」
死にたくない、その言葉を言わせた。少々卑怯な手を使ったが、All is fair in love and war.恋と戦いでは全てが正当化される。
決闘はジーンの勝ちだ。

日下 葵 > 「恐怖を思い出せば、あっさり人を好きって思えると思ってたけど……
 実際はそんなことないんですねえ」

徐々に口調がいつもの口調に戻っていく。
そして包帯をに隠されていた目が見える状態で、
満面の笑みを浮かべるジーンを見ると、
なんだか終始手のひらの上で踊らされていたような気になって気に食わない。

「ねえジーン。ちょっとこっち向いてください」

彼女の上に乗ったまま、名前を呼んだ。
さん付けではなく、呼び捨てで。
そして回復した両手で彼女の顔を包むように頬に手を当てると、
鼻から滴る血を親指で拭った。

数秒の間彼女の満月のような眼をじっと見つめると、
何の前触れもなく唇を重ねた。
さっきジーンにやられたような、
呼吸を止めるためにただ唇が触れ合うようなモノではなく、
がっつりと舌を入れようとするディープキス。

「これが”私の味”。
 煙草じゃなくて、私の味です。
 ちゃんと覚えといてくださいね」

煙草の匂い、そして、殴られた時に切って出血したときの血の味。
そんないろんなものがごちゃごちゃになった味。
煙草の匂いは私の師の匂いだが、これは私のものだ。

「ここまでして、私を人間に戻したんです。
 ”戻してしまった責任”はとってもらいますからね?
 これからも私が人間であり続けるために、
 ジーンさんには私のことを塗り替えてもらわないとですから」

価値観は少しずつ変えていけばいい、なんて彼女は言うが、
恐怖を思い出した今となっては、すでに価値観は180°変わってしまったも同然。
何を今更、と笑って見せようか>

ジーン・L・J > 「おやおや、これが劇なら2人で愛を歌いながら幕なんだけれど、やはり現実はそうはいかないか。」
なんとか指が数本回復した手で煙草を取り出そうと緩慢な動きでジャケットに手を伸ばす。

「なんだいマイハニー。煙草を取ってくれるのかな?」
普段なら即座に回復するような鼻腔の傷もやっと塞がる、指が血を拭き取ると、口紅のように赤い血化粧が微かに残った。
しかし煙草を取るでも追撃するでもなく、目を見つめられるだけ。
「何を」と開いた口を塞がれる。

舌まで侵入してくれば、目が大きく見開かれるのを至近距離で見ることが出来るだろう。
絡め合うどころか、しばらくされるがままに口中を蹂躙されて、2人の顔が離れても呆けたように宙を見つめていた。

「あ、ああ、君の味、そうだね。君の味か、覚えたよ……。ねぇ、仕返しのつもりかい?」
味覚が鋭敏に作られていなくても、こんなことされたら忘れようがない。
どこか恨みがましく、半目で見つめる。丁度瞳の月が半月になった。

「それは当然さ、ここまで関わっておいて、よかったねはいさようならなんて無責任な真似やらないよ。
それに君の全てを貰ったんだ、日下葵の全てをね。それを放り出すほど私は馬鹿に見えるかい?」
ジーンが全てを賭けたように、葵も全てをこの決闘に賭けた、それに勝った今、日下葵はジーンのものだ。
「君のパートナーとして最初にお願いしたいんだけど、もうさん付けはやめてくれないかな。ジーンで良い、君にはそう呼ばれたい。」

日下 葵 > 「前に言ったじゃないですか。
 残念ながら私は”本物”ですから。
 劇の様にすぐに好きになるほど単純じゃないんです。
 もっと複雑でややこしい存在ですから」

そう、まだ彼女に対して”好き”とはっきり認識はできない。
しかしそう認識できる日も、遠くない気がするのだ。

「仕返しが二割、気持ちの表現が四割、独占欲が四割、ってところでしょうか」

恨みがましい視線を向けられるが、そんなのどこ吹く風。
してやったりと言わんばかりの表情を向けてみせる。

「ええ、私の全てです。
 もしジーンさんのてから私が離れる日が来るなら、
 それはきっとどっちかが死ぬ日でしょうか。

 ――何ていうと、少し重いですかねえ?」

けたけたと笑って見せると、
思い出したかのように左の脇腹に刺さっていたナイフを引き抜いた。
そして彼女の上から身体をどかして、隣に横たわると、大きく息を吐いた。

「呼び捨てですか。
 まぁ……ご所望とあらば、仰せのままに。
 これから、悠久の時を共にするんです。
 よろしくお願いしますね、ジーン」

さっきは呼び捨てしたくせに、改めてお願いされるとなんだか恥ずかしい。
この呼び方も、少しずつ慣れていかなければ>

ジーン・L・J > 「難しいね、でも諦めないよ。次は君に好きだと言わせてみせる、私を人質に取ったりしないでね。
ああ、ちなみにというとなんだけど、私の方はとっくに君のことが好きだからね。」
そうでなければ心中一歩手前まで行くものか。最初は戯れの殺し合いから始まった恋、自分自身ここまで入れ込むとは思ってなかった、奇縁という他ない。

「意外な比率だね、舌を入れてくるぐらいのキスが4割感情表現で、まだ私のこと好きじゃない?それに競争相手も居ないのに独占したいのかい?
はてさて、私はどう受け止めたものかな。」
仕返し10割かと思ったら意外な答えが返ってきた。
ほとんど告白のような言葉に、今度は目を細めてニヤニヤし始める。

「一般的な基準からすると空間が歪むぐらい重いんじゃあないかな、でも私はもとよりその覚悟だから、全然構わないよ。
あるいは君が私に愛想を尽かす時だけど、それは来て欲しくない。
最期まで幸せに、しわくちゃのお婆ちゃんになるまで生きてほしいかな。そして逝く時は私も一緒さ。ああ、こっちも重いかな?」
は、は、は、と弱った声で笑うと、ゆるゆると煙草を取り出そうとして、やめた。まだ口の中に残る味をかき消したくない。

「ああ、いいね。敬語も出来ればやめてもらいたいけど、まぁそれはおいおいかな。私ももう何度も呼んでるけど、葵って呼んでいいかな?あとはマイハニーとか、スイートハートとか、そんな感じで。あは、は、は。」
恥ずかしい呼び方では負けていない。一般人なら冗談でしか言わないようなことを平気で言ってのける。
「そろそろ、包帯しなきゃ……。」
手探りで解いた包帯を探して、顔に巻きつけようとする。

日下 葵 > 「掛け値なしに貴……ジーンのことを好きといえるように、私も努力します。 多分、努力しなくてもそうなるんでしょうけど。
 今はまだ、感情の整理がついていないので。

 言われなくてもわかってますよ。
 最初は本当、
 誰にでも調子の良いこと言って口説いている人なんだと思ってましたけど。
 まさか心中覚悟でここまでやるとは思いもしませんでした」

ちょっと呆れた様に言って見せるが、表情はまんざらでもなさそうだ。

「まだ気持ちが整理できてないんです。
 戦いの興奮が冷めやらぬ状態で好きって二つ返事するのは、
 いかがなものかと思ったので。
 ただ、今の心境としては……好きといっても、差し支えないのかもしれません。

 私、意外と重い女かもしれませんよお?
 なんせ10年近く、死んだ人間の歪な教えを頑なに守ってたんですから。

 逝くときは一緒ですか。
 私に負けず劣らず、重いですねえ」

軽口を叩けるくらいには、お互いの調子が戻ってきた。
私がおばあちゃんになるまで。
それはきっと、普通の人間よりも遥かな未来のことだ。

「敬語は……追々ですねえ。
 出来れば葵と呼んで欲しいですね。
 そういう……マイハニーとかそういう呼び方は人前でしてほしくないです。
 恥ずかしいですし、私の柄じゃないので」

本当に恥ずかしいのか、最後の方は怒気にも似た声色。

「私が巻いてあげますよ。
 ほら、こっち向いてください」

包帯を巻きなおそうとするジーンを見れば、その包帯を渡すように言う。
そのまま渡してくれればお互い身体を起して、
彼女の目元に優しく巻いていこう>

ジーン・L・J > 「そうだね、私もまだ君を手に入れたって実感が湧かないよ。
最初はね、こんなに深入りすることになるとは思ってなかったよ。調子のいいこと、私にとっては自然な挨拶なんだけど、それをやって楽しい遊び友達になるかなと思ってた。
でも気付いたら君を放っておけなくなって、君のことばかり考えるようになった。だから君が自分のことを消耗品みたいに扱うのが許せなかったんだ。」
空に浮かぶ月はとっくに中天を過ぎて、深夜の冷気に白い息を吐きながら言葉を紡ぐ。
達成感と疲労が混ざり合って心地よい、やりきった顔で応える。

「そうだね、お互い今は興奮状態だ。アドレナリンが切れて、冷静になってから考えてよ。
今日は君の感情をたっぷり吐き出してもらったから、これ以上受け止めると私は役得過ぎてバチが当たってしまうからさ。ふふ。」喜びを噛みしめるように大きく深呼吸、やっと体の再生が終わった。足の骨折は治り四肢も揃い、全身に響いていた警告としての痛みも引いていく。
「重い物同士引き合う定めだったのかもね、引力ってやつさ。なんて、あはははは。」
笑い声もようやっと掠れた弱々しいものではなく、いつもの軽薄な調子が戻ってくる。
ジーンが知る限り自分達に寿命は設定されていない。不慮の事故で死ぬか、添い遂げる日が来るまで彼女に寄り添うことが出来るだろう。

「おおっと、"人前では"嫌かい。じゃあ、2人きりの時だけにさせてもらよ。マイハニー。」
怒気を物ともせずに早速呼ぶ。丁度今は2人きりだ。

「それじゃあ、お願いしようかな。殺気を抑えるの結構キツくてさ……。」
のそりと上体を起こして包帯を渡す。黒い空に浮かぶ金色の満月は、今夜は見納めとなるだろう。

日下 葵 > 「私に、そこまで肩入れしてくれる人もなかなかいないですけどねえ。
 それこそ、不死に近い存在は少なくないですし、
 皆私の過去についてはあまり深く知ろうとしませんでしたから」

こういう言い方をすると、誤解されがちだが、
私自身が自分の過去を不幸だとか、不憫だとか、
そんな風に感じていなかったのが大きいだろう。
『本人が大丈夫って言っているなら、大丈夫なのだろう』
そういうのが多かった。
だというのに、彼女は放っておかなかった。
最初はそれをお節介だと思ったことも、もちろんあったが。

「どうせ今から私のことをたくさん知ってもらうことになるんです。
 バチが当たることを気にしてる余裕なんてありませんよ。
 重いのもそうですし、似た者同士類が友を呼んだんでしょうか。
 同族嫌悪じゃなくてよかったですねえ?」

そんな意地悪なことをいって見せるが、
続けて彼女がマイハニーなんて言えば表情が曇った。
”言葉の選び方を間違ったな”なんて。
それでも、まんざらではない気持ちがあるのは、
すっかり彼女の虜になっている証拠なのだろうか。

「その殺気が、私を人間に戻してくれたんですよねえ。
 なんだか複雑です」

そう、彼女の殺気が、彼女が与えた恐怖が、私を人間にしたのだ。
これは紛れもない事実だ。
包帯を巻いて、その満月のような瞳を隠していく。

――月が、綺麗ですねえ。

包帯を巻きながら、有名な一節をつぶやいた>

ジーン・L・J > 「この島の人間の目は節穴なのかい?こんな美人が自分の体をなんとも思ってないなんて、世界の損失だよ。」
異常な人間、悲哀を抱えた人間がこの島には多すぎる。それに慣れてしまえば自分自身が気にしていないことまで関わろうとしなくなってしまうのかもしれない。
ジーンが葵に踏み込んだのは島の新参で、住民たちの異常性を知らなかったのが幸いしたのだろう。

「ははは、違いない。そして私はそれを独占出来る。ああ、嬉しいな。
重いのも似ているけど、私も独占欲が強いのかも知れない。
本当に良かったよ、君に嫌われたら私は生きていけない。石のように固まった心を抱いて禁書庫に戻って永久に眠ることになるだろう。」
相手の顔を曇らせながらそんなことを言うのは、ある種の信頼。あるいは意地だろう。
2人きりの時は遠慮なく呼ばせてもらう、貴方はまるで私にとって蜜の如く甘く心地よい存在なのだから。

「君が恐怖を求めていたからね。でももう必要ない、君は恐怖を思い出して、人間に戻った、私にとってはずっと人間だったけどさ。
もう二度と解く必要のないことを願うよ。君がまた見たいと言わない限りね。」
目を閉じて包帯が巻かれていくのを受け入れる。

――死んでもいいよ。

対比として出されるもう一節を返す。

日下 葵 > 「美人かどうかは知りませんが、
 この島では”よくある話”なんじゃないですかね」

人の形をしているだけで、皆違う異能や魔術を持っている。
生い立ちも価値観も違うこの島では、
私という存在の在り方なんて、数多あるうちの一つに過ぎないのだろう。
そんな中から、私を見出して人間に戻してくれたジーンは、
ある意味私の王子様といって差し支えないだろう。

「私も、ジーンに嫌われたらきっと人の形をした化け物として悠久の中を生きていくんでしょうね。
 それは少し悲しいし、寂しいです。

 殺気はもう必要なかもしれませんが、
 この瞳はまた見たいかもしれません。
 とても、綺麗でしたから」

――お互い、ひどく死に難いのにね。

包帯を巻き終えて彼女からの返事を聞けば、
その両手を背中にまわして抱きしめよう。

「少し、寒い。
 そろそろ帰りましょうか。
 暖かい場所に」

そういって、白い花が咲く花畑の中で、
不死身が二人、月夜に照らされながら帰るのだろう>

ご案内:「転移荒野 白い花畑の遺跡」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「転移荒野 白い花畑の遺跡」からジーン・L・Jさんが去りました。