2021/01/18 のログ
ご案内:「学生アパートの一室(過激描写注意)1」に比良坂 冥さんが現れました。
比良坂 冥 >  
『……ただいま』

小さな声
そしてガチャリと、鍵が差し込まれて
古い金属の錆擦れの音と共に、部屋の入口のドアが、開いた

…玄関には、靴が一揃え
その横に自分もまた靴を脱いで、トン、トン、と足音を立て、アパートの部屋の中へと入ってゆく

カーテンは締め切られ、昼間にもかかわらずその中は、薄暗かった

比良坂 冥 >  
薄暗い中
カーテンを開ける素振りも見せず、少女はブレザーに手をかけ
薄い絹擦れの音を発して、上着を脱いだ

「……お留守番、ご苦労様」

再び発せられる小さな声
その声が向けられるような相手は、その部屋の中には見当たらない

比良坂 冥 >  
「……貴方のこと、理央がとても気にしてた。
 ずっと、連絡が途絶えてる、って」

少女一人分の気配のみが佇む空間の中
そこに誰かが本当にいるかのように、着替えを勧めながら言葉を零してゆく少女

「……連絡、してあげたらいいんじゃないかな。
 あんまり彼の気を引いちゃダメ。

 ……あ、でも連絡がついたらついたで、理央は君のことをもっと気にかけるかな…」

「……じゃあ、やっぱりダメだね」

するりと全ての衣服を払い落とすと、少女はなぜか部屋の隅に向けてしゃがみこんだ

比良坂 冥 >  
「……せっかく理央と一緒にお話してたのに、
 途中で君のことを気にかけて、私から彼の視線が離れたの」

「……せっかく、二人きりで…料理も美味しいって言ってくれたのに。…あっ」

一糸纏わぬ姿で、部屋の隅にしゃがみこんでぶつぶつと独り言を零す、異様な光景
言葉の途中で何かに気づいたように、少女は視線をあげた

「……そうだ。忘れてた…。
 理央に温かいお料理を食べてもらえたのは、君の異能のおかげだったっけ…。
 …うん、そうだね…じゃあ、君にはお礼しなきゃ…、かな……」

比良坂 冥 >  
「……何か、考えておくね」

すっと立ち上がり、部屋の中に乱雑に放られている部屋着に袖を通してゆく

「……君の異能。すごく便利だったけど……そろそろ時間みたい」

少女が背を向ける、部屋の隅
そこには人影などはなく

──小さな、燃えた木片のようなものが、ただただ異臭を放っていた

「……何か食べる?もう、お腹減らないんだっけ…?」

返事のない独り言が続く

比良坂 冥 >  
「……そっか」

「……じゃあ…私は理央のところにいくから…」

「……えっ…?」

「……ううん。理央は、私のこと可愛いって言ってくれるよ」

「……君みたいに、気味悪がって逃げようとしないよ。勇利」

部屋全体が軋む
空気が重くなるような、錯覚?
否、その場に他の生きた人間がいれば…すぐに気分を害しただろう
じっとりとした湿度の増加
明らかに、超常のナニカが、部屋の中を支配していた

「……勇利は同じだったね。他の人達と」

比良坂 冥 >  
「……最初はみんなそう。でもすぐに『コワイ』『ツイテイケナイ』」

「……みーんな、おんなじコト、言って、私から離れようとするの」

「……勇利も言ったよね?私のこと、『気持ち悪い』って。
 …私は今の君のほうが気持ち悪いけど…臭いし……」

着替えを終えて、大きめのバッグに替えの制服を丁寧に、畳んで押し込む
後、何か持っていくもの…あったかな──なんて部屋を見回して

比良坂 冥 >  
「……他はもういいかな──…あんまり荷物を抱えていくのも、なんだし…よい、しょ…」

ガタン

おもむろに、部屋の中にあったファンヒーターの灯油タンクを引っ張り出す

「……あ。知ってる…?
 サスペンス映画なんかで、よく床にたくさん灯油を撒いて火をつけるよね」

「……灯油ってそれじゃ燃えないんだって。何かに染み込ませてはじめて、燃えるの」

言いながら、少女は出窓にそれを置き、窓のカーテンを給油口へと押し込む

「……この部屋。
 君が私の監視担当になって用意してくれた部屋…。
 君との思い出も沢山あるから…全部、燃やしておくね。
 ……私には、理央との新しい生活があるから…邪魔、でしょ…?」

比良坂 冥 >  
バチン
マッチを擦る音、そして
…カーテンに灯油が染み込む、ゆっくりとした速度に合わせて炎はじわじわと燃え広がってゆく
じっくりと、部屋の中の全てを舐め尽くすように──

玄関でローファーのつま先を叩き、外へ出た
ガチャリ、外からドアに鍵をかけ───

パキッ…

鍵穴に刺したまま、その合鍵を折った

「……人とさよならするのって寂しいよね。
 でも、良かったね……これで私からはちゃんと逃げ切れるよ…ふふ」

比良坂 冥 >  
──折れた合鍵をポケットに突っ込み、昏い瞳の少女はアパートの部屋の前から踵を返す

足取りは、ゆっくりながらも軽い
新しい生活に向けて踏み出す、というのは不安であると共に、気分が高揚するものだ

「……次は理央、いつ帰ってくるのかなあ…」

今度は何をしてあげよう
またご飯を作ってあげるのもいいな、喜んでくれたし……
それともやっぱり、もっとお互いのコトを知り合うために…?

ほんのりと頬を染めて、少女は歩いてゆく

──途中、路面バスに乗り、理央の自宅に向かう道すがら消防車とすれ違ったりもしたが、
少女はそれを気にかけるどころか、気づいた素振りも見せなかった

比良坂 冥 >  
──………

その日、学生アパートの一室が全焼

登録されていた生徒の遺骸も見つかり
風紀委員所属『立花勇利』のものと確認される

死亡した『立花勇利』の異能は『限定未来視』
自身の近くの人間の、少し先の未来を見通す異能者だった

火の出処は不可解な点が多く
まるで部屋の住人である立花勇利が突然発狂したかのように、
火の点いた灯油缶を振り回し延焼を早めた──と、異能による現場検証で証言された

ただしその検証にも不可解な点が多く、
同じ部屋を利用していた監視対象である比良坂冥にはより緻密な監視が必要である…と判断された

───……

ご案内:「学生アパートの一室(過激描写注意)1」から比良坂 冥さんが去りました。