2021/06/14 のログ
藤白 真夜 >  
「……は、ふっ……!」

崩折れて、湿った床に尻もちをつく。

痛みは、無い。傷跡も、すぐに掻き消える。
けれど、肉体にはダメージが重なっていく。
私の血肉なんていくらでも修復できるけれど、酸のような、火傷に類するダメージは私の身体を蝕んでいく。
血液そのものにダメージが積もっているからだ。
……結局、私の身体よりも、私の血のほうが、私そのものなのだから。

ああ――そろそろ、集られて終わりかな。
そんなふうに、弱虫な私が覚悟を決めるころ。

違和感が、あった。
何かが、変わっている。
スライムはたしかに動きは鈍いけれど、にしたってこれは悠長にすぎるから。
自らを食われているようで直視出来なかったけれど、私にへばりついたスライムに寄ってたかって、群がる個体がある。
……結局のところ、お腹が減っているんでしょうけれど。
私なんて食べても、ロクなことにならな――、

そこまで考えて、理解した。

(……スライムが二匹、赤い……)

……ああ、決まっている。
下水道に住む怪異なんて、それは悪食だろう。
でも。
私を飲み干せるほど、汚穢に染まってはいなかったというコト。

藤白 真夜 >  
「……戻って」

ふわりと浮かせた血液の塊を、スライムたちの真上で形を崩す。
ばしゃばしゃと降り注ぐ血液に、スライムはやはり、群がる。
消化できないとわかっているのに。
届かないとわかっているのに、手を伸ばすように。

そして私だけは、そこに手が届く。

何かを持ち上げるように、手を掲げる。
ぞぶり。くぐもった音をさせながら、すべての血液を吸ったスライム達が浮き上がる。
ぐねぐねと動いて気持ち悪かったから少し力を込めると、縮まった。

私の血液操作は、自分の血にしか作用しない。
仮に蚊やコウモリに血を吸われても、こんなことは出来ない。
持っていかれた時点で異能が自分の血だと認識してくれなくなるからだ。
スライム達が、純粋に液体の属性を持ち……私をそのまま取り込もうとして、失敗したからこそ、こんなことが出来る。
……あるいは。
その貪欲な汚物に、混ざることが無かったからだろうか。

今までの絶望感と無力感は、どこかへ消えた。
……ただ。

「……どう、壊しましょうか」

目前の獲物を前に、口元を緩める。
考えなくてはいけない。ただの衝撃じゃ増えるだけだから、潰せない。
……ああ。
どう、壊そうか。

私は、きっとそれを考えるのが楽しいのだ。

藤白 真夜 >  
「……なんとか、なったかな……」

かこん。
金属音をたてて、床に小さな結晶が転がる。
スライムだったもの――半透明の粉になるまで圧縮した残り滓は、空気に触れると燃え上がった。自らの酸で焼けたのだろうか。
結局、残ったのはコアのような何か、だけ。
……スライムとは言っても、ちゃんとした怪異だ。
何より、その性質が甘く見れないのは身を持って体験した。
だから、ソレが遺したモノも、多少は価値はあるだろう。
何より、祭祀局へ持ち込んで検査する、管理部門へ持ち込んで実験する――どちらも、大事なことに思えたけれど。

私は、それをつまらなさそうに見下ろして、

ぐしゃり。
残ったソレも、今度こそ血液で出来た爪がねじり潰した。

「……。
 ……はぁ。
 物資の管理より、怪異の消滅を取るなんて。
 ……禁室の職員失格ですね」

興味を失ったように、踵を返す。
拾い上げようとした雨合羽は、焦げ付いて使えたものじゃなくなっていた。

……帰ろう。
今はとにかく、シャワーを浴びたかった。

藤白 真夜 >  
帰り道。
地上に出ると、しっかりと雨が降っていた。
もう雨合羽は着れないし、傘は無かった。

仕方なく雨の中、歩を進める。

長い髪が顔に張り付いて落ち着かず。
服は纏わりついて、身体は重い。
歩く度がぽがぽと音を立てる靴で、歩き辛い。
身体が火照るせいで、雨は余計に冷たく感じた。
雨音の中、他に何も音は聞こえない。
何故かざわつく心臓の音が聞こえるような気がした。

忘れていたことを、思い出した。
なぜ、雨は降るのだろう。
なぜ、神霊とやらが雨を降らせているのだろう。
それに目的など、無いのかもしれなかったけれど。

私は思うのだ。

それは、汚れた者を流し落とすためではないのかと。

雨粒を受けながら、淀んだ空を見上げる。
打ち付けるように、火照った身体に雫が落ちた。

……ああ。
やっぱり、雨は、……好き。

ご案内:「◆下水道(過激描写注意)」から藤白 真夜さんが去りました。
ご案内:「下水道」にフィーナさんが現れました。
フィーナ > 「はぁ…こんな所に人が来たの?」
下水道を歩く人影が、一つ。
それは、杖を持ち、一つのスライムを従えていた。

目の前に広がる光景。

スライムであった残滓と、焼け焦げた衣類の数々。

「んー、命令が行き届いてなかったのかなぁ」

コアの残骸は無い。結晶の残骸だけが残っている。つまり、これは私が作り出した『分体』だ。

そもそもこいつらに明確な攻撃方法は持たせていなかったのに、いつの間に酸なんてもの持ってたのやら。悪食もすぎるとこうなるのか、と少し学び。

フィーナ > 「ともかく、検分だなぁ。対策を練らないと」
この『敵対者』は麻薬の収集が目的ではない。
別の目的を持って私達に攻撃をしている。

分体がいくら死のうが目的が達成されれば問題はない。

そうなれば増えるのは私達なのだから。

「…焼け焦げた跡があるにしては、皮膚片とか血痕がないわね…」

再生能力だろうか?いや、それなら血痕がついているはず。

「…血に関する異能、かしら」

推測。もしもスライムが血液を取り込んだとして、内側から破壊されたのだとしたら。

「…ありえるわね」

事実、粉塵となるまで徹底的に破壊されている。行使したと思われる魔力はなぜか下水道の底にある護符のようなものだけ。

考える。方策を。

フィーナ > 「……まず麻薬の注入、効果がなければ血液の蒸発を目的とした酸の攻撃が有効、だろうか。」

何であれ、異能や魔術を制御するのは人の意志だ。そこをかき乱せば異能も型無しとなる。
それを狙って初手から麻薬を注入するのは良い手段かもしれない。

もしそれがダメなら、相手の根幹であるであろう血液を損失させる。

取り込んでもダメなのであれば、取り込まず『使い物にならなくすればいい』。

「よし、これでいくか」

手を、前に。

ぽたぽたと、手から雫が落ちる。

それは、下水を吸って膨らんでいく。


新しく学びを得た『分体』のスライムが、下水道を使って、各地に散っていった。

「さーて、私は私の研究しなきゃ」

前回読んだ術式はあまり参考にならなかった。新しい術式を考えなければならない。

参考になる文献があればいいのだけれど。

そう考えながら、下水道を後にするのだった。

ご案内:「下水道」からフィーナさんが去りました。