2021/11/02 のログ
ご案内:「落第街」にノアさんが現れました。
■ノア > 「ほら、約束の品だ。
――もう、無くしたりするな」
薄汚れたレンガ造りの汚い路地の奥、
泣きじゃくる制服姿の少女に包みを渡すアッシュの髪が揺れていた。
紫色のリボンをかけられた小さなそれは贈り物らしく、
可愛らしいキャラクターのプリントされた用紙でラッピングされていた。
されていた、のだろう。
オレンジのラッピング用紙は無残にも半ばから乱雑に破り捨てられ、
リボンの巻かれた周囲だけが僅かに残るばかり。
紙の内に秘されていた筈の紙箱もえぐるように開けられた形跡が見受けられる。
「前金が4万、成功報酬で残りの6万ってぇ話だったか」
言いつつ、受け取ったぐしゃぐしゃの千円札の束を器用に指で挟んで数えて行く。
依頼の対価、下手な武力よりも強い力。
こんなゴミ溜めの中でも、一定以上の価値を持ち続けるのが表舞台の共通通貨だ。
学生の身ですぐに捻出できる物では無かったのか、前金として渡された小ぎれいな4万円と比べると
随分見てくれの悪い支払いだが、どんな手段で稼いだのかを深く問うのも野暮という物だろう。
■ノア > 「3、4、5……こんなもんか。
残りは返す。アンタの依頼通りの形じゃねぇだろ、ソレ。
成功報酬満額なんざ受けて取れるかっての」
手元に揃った額を一通り確認すると、おもむろにそこから数枚を抜き取るそぶりを見せると
包みを抱いてうずくまる少女に強引に押し付ける。
「常世にスラムなんて"存在しない"んだよ。誰かが助けてくれるなんて思うな。
分かったら二度と足踏み入れるんじゃねぇ。底意地張って守った貞操まで無くしてぇのか?」
触れた金から、少女から漂う空気が、伝えてくる薄ぼんやりとした陽炎のような思念の残影。
幸せそうに包みを受け取る姿、夜闇の中で鞄ごと持ち去られる姿、なりふり構わず取り戻すために尽くした中で、
必死に守り通したらしいか細い一線。
襲われ、汚され、傷ついただけのただの少女を、薄暗がりから蹴りだすように追いやる。
何度も振り返りながら何かを言いたげにする少女を手の動きだけで追い払うようにあしらい、
光の当たる通りの筋まで見送る。
「……クソッ、気分わりぃ」
大赤字だ。
押し付けた千円の紙幣と、"なぜか"たまたま用意していた万札が入れ替わっていた。
前金すら回収できちゃいないなんて話では済まない痛手だ。
世の中不思議な事もあるんもんだ、などとうそぶいてそれをポケットに押し込む。
元よりスラムの小悪党どもにカモにされている少女が所構わず前金ありで
依頼している姿を見かけて痺れを切らしたのが運の尽きだ。
スラム街の端、回収されているのかも分からない青色のゴミ箱に八つ当たりをする。
ソレは軽そうな見た目に反してゾムッと重い音を立てて倒れ、
中から何重にもゴミ袋で包まれた何かが転がりだす。
「あぁ……気分わりぃ」
出てきた物が何かという事に思い至ると、男は髪をかき上げるようにガリガリと掻き、
男は路地の奥へと姿を消した。
ご案内:「落第街」からノアさんが去りました。