2022/01/10 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/ロッカールーム」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/ロッカールーム」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
買い物の付き添いで異邦人街に出掛けた日の後、
黛薫は活動を停止した店主を連れて店に戻った。
黛薫に機械関連のスキルは乏しいし、仮に技術が
あったとしても、未知の技術で構築された店主に
何か出来たりもしない。
何も出来ずとも様子を見ておきたい気持ち。
居ても立っても居られず、何かしておかないと
落ち着かない気持ち。相反する気持ちが衝突し、
黛薫は来店したり、外に出たりの繰り返し。
外に出ている間は、先日仕入れきれなかった分の
魔術触媒、調合材料を入手して回っていたようだ。
「……あれ」
そして、何度目かの来店。
マッサージルームの施術台に寝かせていたはずの
店主の姿が無くなっていることに気付いた。
「……起きた、の?」
バックヤードまで含めてもそう広くない店内。
いれば聞こえるように問いかけたつもりだが、
目覚めた顔を見るまでは不安が拭えない。
■『調香師』 > 貴女の問いかけに、答える声はない
少女が出かけているのなら、店に鍵でもかけられていようか?
そもそも、彼女が持ち歩いていたバスケットは貴女が持ち帰った定位置のまま
眠っていた主の温度を残すベッドの厚みは、その立ち上がりがほんの少し前だという事を語る
少女の様子を見る為に、まっすぐマッサージルームを訪れた貴女へ
『中』から『外』に意識の方向を改めるならば、既に通り過ぎた廊下の方
水の勢いを持って枝垂れる音が聞こえよう
音が誘う行先は、ロッカールーム
■黛 薫 >
周囲に意識を向けてようやく気付いた水の音。
ほっとした反面、気を揉み過ぎて自分の視野が
どれだけ狭くなっていたかも思い知らされる。
「起きてる?起きたんだな?
急に動かなくなったから心配して──」
電動車椅子の向きを変えてシャワー室へ。
バリアフリーが行き届いた店内は通行しやすく、
不用意に扉を開けそうになり、すんでのところで
思い留まった。
一応マッサージで裸体を晒したこともあるし、
シャワー室で背中を流してもらったこともある。
それはそれとしてシャワー中に扉を開けるのは
人としてどうか、とギリギリで思い至れたのは
幸いだろうか。
■『調香師』 > 調香師が明かりを必要としないのは、この暗闇の部屋を迷わず歩む姿からも理解しよう
廊下の明かりも、貴女が出た時と変わらずについていなかったのなら、
『ただの人間』ならば目覚めてはいない。その先入観もあったが故なのだろうか
無照明の暗闇は、ロッカールームでも。当然その先の部屋でも相変わらず
電気を付ける姿を幾度と見た事はあるだろう、ボタンの位置は違うまい
『こぽ』
水音の途切れないシャワールームに呼びかける。すると向こう側で、泡を含んだ音が返ってくる
栓を締める音、水溜まりを割る音、扉の向こうには確かに営みの音が存在する
貴女の訪れで、動き出した刻が存在する
ぱしゃ。それは面に質量のある水をばらまく音
聞き覚えがある動作ならば、それは嘔吐を示す
■黛 薫 >
先の躊躇いも忘れ、勢いよく扉を開く。
耳馴染みのある音、最近聞いていなかった音。
何の音が思い出すより早く身体が動いていた。
つい最近まで、自分がよく立てていた音だから。
血が冷たくなる感覚、反するように思考は明確で。
普段滅多に使わない魔力蓄積用の宝石袋、嘔吐の
対処に使えそうなタオルを引っ掴んでシャワー室に
押し入った。
「ちょっと、今の音……大丈夫?
意識はっきりしてる?喉詰まってなぃ?」
人間であれば、体調不良時の浴室は危険だ。
足を滑らせやすいし、溺れる可能性もある。
人間の基準がどこまで貴女に当てはまるかは
分からないけれど……今は不安が優っていた。
■『調香師』 > 「薫さま。危ないよ?」
心配された当の本人が、貴女を心配し返す
女の子の形として、床に座り込んだ彼女が貴女の顔を見上げる
普段通りの笑みに、口角から雫を垂らして
辺りに散らばるは無色透明、何のかかりもなく排水溝から流れ落ちていく液体
この機械が吐き出した物は水、ただの水
密室空間に満たされた、むせかえる程の濃密複雑、気を休める効果すら怪しい程に充満された香りを含んだ水
『意識を揺らがせ』『ふわりと浮かせ』『霧散させてしまう』
そんな効果も含まれてしまった、未登録の麻薬の香りを含んだ水
「今の私、お客様に出せない私だから、危ないよ?」
ぽこりと、腹部を膨らませた姿の彼女はじーっと見上げている
■黛 薫 >
「な に 」
開いた扉から溢れ出した濃密な香気。
軽く息を吸っただけで意識が揺らぎ、曖昧になる。
伸ばした手が貴女に届くよりも早く黛薫の体から
力が抜けて、ぺたんとその場に座り込んだ。
「ぅ、あ、でも だって あーた 吐 き」
その状況で、辛うじて意識が残せたのは貴女へ
向ける感情の重さの裏返しなのだろうか。
しかし瞳の焦点は最早合わず、床についた手も
震えて今にも倒れ込んでしまいそうな有様。
異常を指摘しようと貴女の腹部に向けられた指も
すぐに力なく垂れ下がってしまった。
そして、何より──その香りは、その香りが持つ
麻薬的性質は、黛薫の心の弱い部分を強く揺さぶる。
黛薫は薬物依存症である。落第街から連れ出されて
以降は服用しておらず、良く言えば縁が切れつつ
あった状態。
逆に言えば、それだけ長く求めているモノを
絶っていたということでもある。
彼女の震えは忘れかけていた禁断症状であり、
依存症の再発、フラッシュバックによるもの。
■『調香師』 > 「あ 」
焦る程、呼吸は初めに襲い来る
最も人間に作用する物を、彼女は扱える
水の滴る長い前髪を垂れ、俯く彼女は動けない
香が他人に不快感を与えて動けない
孕み貯め込んだ水の重さで動けない
被害と加害の精神の矛盾で動けない
このまま私は『人の為』に動けない
人形として、薄情な笑みが継続される
未設定、デフォルトの表情を写し出す
「薫さま。この空体積の換気が完了するまで残り三分だよ」
ひどい事をさせた人。ひどい事をした私
耐えるだけの時間、懐かしさすら覚えたのだった
■黛 薫 >
眩暈がする。意識が揺らぐ。揺らいだ意識は
手を離せば風船のように飛んでいきそうで。
混濁する意識の中、見えもしない貴女の顔に
定まらない視線を向けて、頷いた。
果てしなく長いようで、夢を見た後のように
短くも感じられた3分間。麻薬の香が薄らぐ。
原因が香りだと分かれば、吸わなければ良い。
とはいえ人間は呼吸せずにいられるようには
出来ていない。
香りが薄らぐまでは呼吸を最低限に抑えて耐えて、
薄らぐにつれて徐々に呼吸を深くしていく。
空気の入れ替えが終わって、漸く黛薫は顔を上げた。
「……目ぇ、覚めた……のな。よかっ、た。
あーし、心配して、それに、謝んなきゃって、
もっと、慎重だったら、あーたも、へーきで」
未整理のまま訥々と紡がれる言葉は喉が詰まる音、
胸の辺りから聞こえる異音によって遮られた。
粘ついた水音。今度は黛薫が嘔吐する番だった。
水よりは幾分どろけた胃酸がシャワールームの
床にぶちまけられて……しかし、消化しかけの
食物は含まれていなかった。
■『調香師』 > 「薫さま。大丈夫じゃないね
目が覚めたけど、万全じゃないからね
私は香りを調えないといけないの
じゃないと、この染み付いた香りは、
『人の為』の仕事をさせてくれないんだ」
のろのろと、重さを抱えながら貴女の方へ向き直っては、
少女の形をした芳香の水袋は心配を抱きつつも近付けない
人に害為す人の形。私は今、とてもひどい事が『出来る事』になってしまっている
「私から出来る提案、外に出て休んで、五分後にまたお風呂に入ろう?
そういう事しか言えないよ。私は洗浄を終えないと、人に近づいちゃいけないの
近付いたらあなたは『ひどい人』になっちゃうからダメだよ」
■黛 薫 >
ぼやけた頭、曖昧な思考。聞こえる内容は半分も
理解出来なくて。けれど、貴女が望む内容だけは
どうにか飲み込んで、頷いて。
「……もし、万全じゃなくて、出来なぃコトとか、
あったら……声かけてくれて、イィから」
手助けが必要になったとて、今の自分に一体何が
出来るだろう。役に立てそうもない自覚はあった。
それでも、言わずにはいられなくて。
緩慢な動作で一旦シャワールームから出ようとする。
特に止められたり、追加で言葉をかけられなければ
彼女は貴女が呼ぶまでロッカールームで待っている。
■『調香師』 > 貴女が握って飛び込んで来てくれたものは、きっと貴女の役に立つ
緩慢な姿をそう信じ、見送る事しか今のの私には出来ない
或いは、待ってくれる事を望む事。それが私に『出来る事』
「扉、開いちゃダメだよ」
その向こう側で、こぽり。何かを通して液体の漏れる音が続く
耳をすませば一種類ではなく複合的に。様々な音は、当然人間一人から出てくるものではない
(薫さま。ご飯、食べてないのかな。いつから?)
シャワーの流れる音が聞こえ始めた頃。タイルを洗い流す彼女の思考
胃液のみ吐き出された吐瀉物の跡。迎え入れる準備を整え
「...もう、近付いていいよ?」
ロッカールームの空気が貴女の気を休めてくれている
そうなっていたらいいな。調香師は祈る
■黛 薫 >
「もうちょっと待って」
幸いにも扉の向こうから聞こえた声はさっきより
クリアになっていた。とはいえ微かな震えは未だ
残っており、完全に影響が抜けたとは言い難い。
返事の後に聞こえるのは衣擦れの音。
思考が鈍っていたお陰で、入浴予定だったのに
服を脱ぐところまで気が回らなかったようだ。
身体が不自由なのは以前来店したときと同じ。
しかし身体操作の魔術に多少慣れてきたことも
あり、服を脱ぐだけならそう時間もかからない。
シャワールームの扉が開く。
「みっともねートコ、見せちまったかな。
んでも、あーたが目ぇ覚まして良かった
……って、もー言ったっけ?」
語り口は普段と変わらないが、数分前の記憶すら
曖昧で顔色も生白い。弱っているときの浴室が
危ないのは承知している為、魔力蓄積用の宝石が
詰め込まれた袋を手首にかけている。
自由に身体が動かせなくなったためだろうか、
黛薫の裸体は以前見たときより筋肉が落ちていて。
それから、洗浄中の貴女ほど露骨ではないものの
下腹部が少しだけ膨らんでいる。
■『調香師』 > 「聞いてるよ。ありがとうは、まだ言えてなかったけど
私はどのくらい止まっていた?日数の認識が出来ていないの」
少女の腹は元の形に。先程までの水音の意味は一目瞭然
今度の彼女は近付いてくる。立ち上がって、貴女の目線と高さを合わせられる
正面から腕を広げて、貴女を受け入れたいと示す姿勢は、
その見た目通りの無垢を示すような『子供』の在り方
歪な意匠を見せつけるような、機械としてのそれではない
「もしかして、無理させちゃいけなかった?
目視出来る程度の状態の変化を確認するよ?
いまマッサージしたら、更新しなきゃいけない箇所が沢山あるよ?」
そしてそのポーズのまま、首を傾ける
■黛 薫 >
「多分、丸1日……?あ、停止してから1日じゃ
なくて、停止した次の日は目ぇ覚さなくて……
いぁ、それだと2日?1日半?」
未だ思考は鈍いまま。さっき吐いた胃の中身から
察するに、その間何も食べていなかったようだ。
貴女が目を覚ましたときは外に出掛けていたから
四六時中見張っていたはずはないが。
手を広げて自分を待ってくれる貴女の濡れた髪に、
白い肌に見惚れて。麻薬の香に当てられたお陰も
あってか、少しの間ぼぅっと動きを止めてしまう。
もし普段の何でもないときだったら素肌の密着を
求められても恥じらうあまり時間稼ぎをしていた。
はたと正気に戻り、恥じらい混じりに抱き締める
所在からは、どれだけ心配していたかが伝わる。
「え、あーし何か変わっ……あー、いぁ。そこは
心配しなくてへーき。今はまだデキたとかじゃ
ねーから。いずれそーなっても大丈夫なよーに
作り替えただけ」
とはいえ、全く意識していないわけでもなく。
密着した素肌、以前触れたときより代謝が落ちて
下がった体温が少しだけ上がって感じられた。
■『調香師』 > 「二日、かぁ」
正面から、布一枚隔てず受け入れて
貴女の事を支えるという体裁である以上、
少女ながら確かな力でひしと捉えている
「麻薬の香りがずっと体の中に貯まってたから
その間ずっと、解析してたのかな
うん。想定外だったんだ。麻薬の事は知ってたから
元々は大丈夫なはずなんだけど。異世界の物は扱った事がなかったから?」
それでも手の動きは彼女の気持ちを隠せない物だ
下ろして、その腰回りを五本の指先ですすす...となぞる
本当に心配しなくてもいいの?
簡易のバイタルチェック。所謂、『過去との比較』である
そこにあるのはかつて告げた言葉、管理との文字
■黛 薫 >
「解析って、普段からそんなに時間要るの?
いぁ、元々は大丈夫なはずってコトはやっぱ
想定外だったんだよな。
……しょーじき、めちゃくちゃ心配だった。
前に一緒に出掛けた日も急に寝ちまってたし。
不具合とか、活動限界とか……そーゆーのが
あったら、どーしよって」
とりわけ、今回は此方が補佐する立場だったから。
貴女が強制停止にまで追い込まれたのは自分の責と
いう実感が強い。紡ぐ言葉も弱々しくなっていく。
「ん、く」
腰回りを触れられ、微かに鼻にかかった声が漏れる。
運動機能を喪失しても不随意の反応は残っていて、
ぴくんと貴女の腕の中で身体が震える感覚があった。
触れた感覚から黛薫が嘘を言っていないのは分かる。
もし『出来て』いたら、腹の膨れ具合から考えて
胎動が感じられたはずだから。
押し込めば柔らかく凹む感触。液体かゲル状の
何かをみっちり詰め込んだボールのような。