2022/03/09 のログ
■見知らぬ男 > 『……おい、そんなとこで何やってんだ?随分寒そうにしてるみてえだけどよお』
■皋嶺 冰 > 瞬間、悲鳴が上がった。
「ひッ?!」
――野太い声が聴こえて、次にはぬぅっと、暗闇の中から、明らかに学生ではない恰好をした、それなりの体格の男が現れる。
それを一連に、緊張と恐怖で固まっている所にとなれば、腰も抜けてその場に崩れ落ちる。
「ぁ……あ、ぁの…………」
……視線が合う。野放図に伸びた髪、不精髭、作業着のような恰好。
――まぁ、明らかに、ここの住人であろう男性の姿に、心の中の警鐘は鳴りっぱなしになる。
「……こっ、この、へんで……わ、私と、おなじくらいの、背丈の、女子が……こな、こなかっただろう、か。ここに迷い込んだ子がいると、クラスの、男子から……っ」
■見知らぬ男 > 『……女子ぃ?こんなところに独りでくるなんて、そら幾ら何でも……――』
漢は、目の前で悲鳴を上げられたことよりも、酷く怯えられていることよりも、質問に対して怪訝な顔を浮かべていた。
が、崩れ落ちた少女の姿に数秒ほどの間を開けて、顔をそっぽ向きに顎の髭を触る。
『…………いやあ、違うなぁ。もしや、そうか……?ああ、そうだそうだ。だとすりゃあ』
『――ああ、見たかもしれねえよ。その女学生とやらよ』
■皋嶺 冰 > 「……ほ、本当か?」
――思いもよらなかった。目の前の男の仕草、顔の陰り。
嫌な気配以上の、飛び込んできた情報に思考が明るく傾いた。
立ち上がり、スカートの臀部を払うと、男の元へ足が向く。
「その子がそうなら、早く連れていってあげないといけないんだ。ここは危ない場所だと聞いているし、それにその子は私のクラスメイトなんだっ!もし知ってるなら、そこに案内してほしい!!」
――良かった。思ったより早く見つけられそうで。
■見知らぬ男 > 『――ああ、そうだなあ。ここはアブねえし、碌でもねえ。早いところしねーと危ないかもなあ。よし、運がいいなぁ嬢ちゃんは』
――近寄ってくる女学生の手、腕を。
がしりと男の太い手が掴む。
『急いでんだろ?案内してやるから、おら、こっちだこっち。そのまんま進んでちゃあいつまでも追いつけねえから、裏の道を案内してやるさ』
横顔の笑みの――ちょっとした歪み。
暗闇が深くなる道へと、ぐい、ぐい。
引っ張っていき、暗くなっていき、そして、
ご案内:「落第街」に紅龍さんが現れました。
■皋嶺 冰 > 「――え、ちょ、っと……待ってくれ、少し、掴む力が……ぃ、痛っ……そこまで、強く引っ張られるのは、怖――っ!!」
グンッと、表に見える道通りから、暗闇の中へ女学生の輪郭が引っ張り込まれ、消える。
ばたんっと、近くに鞄が放り落とされて、中のものが散らかった。
■曇空の苦悶 > 「――嫌、嫌ッ……やだ、離……っぁ"うッ!!」
……どうして、こんな目に。
『騒ぐんじゃねえッ!くそ、こんな上玉久々なんだ、逃さねえよ……!』
抗う力は、容易く押さえ込まれた
痛い。 無理矢理、太い腕が押さえ込んできて、首が嫌な音を立てた。
「ッ痛い、痛ッ……嫌ぁッ――ンむ、んぅぁ……ぐ、ぅぇ……!!」 鈍い音がする。殴られた。
やだ、誰か。
『ッへへ……ハハハ、んだよこいつ……こんだけしか着てねえなんて、御誂えだなぁ……ッ!!っ、暴れんなよ!!』
柔皮が、晒される。 ああ、大事な制服なのに。
「――っ、ゃ……めて、おねが、ぃ……ッ……ッ……!!!」
きもちわるい。
きもちわるい。
いたい。 『ハぁ……はははは、っはは!!嗚呼良いなァ!!俺はツイてる!!』
くるしい。
■曇空の苦悶 > 『……もう我慢できねえ、ッヘヘ、ハハハッ、元々、我慢できてねえんだ、最初っから……!!』
気持ち悪い。 臭い。
痛い。 寒い。
「ッ……ン、ゥ"ッ!!ゥ、うぅうぅううゥッ……ッ、ゥ……!!」
みちり。 ぐちゃり。 身体の奥で音がする。
瞬間、身体が自分の意識と、何かと、つながりを喪った。
「ゥウゥウ"ゥ"ゥ……ッン、ゥゥ"……ぁ、ぁぁ……!!!」
■曇空の苦悶 > ――空の向こう、曇りの中、一瞬。
紅く明滅する何かがあった。 何かが、その瞬間に起こったと認識するのは、容易かった。
■紅龍 >
『仕込み』のために街を調べなおす必要があった。
そのためには、目立った装備はしていない方がいい。
だから普段着で歩いていたっていうのに、そんな日に限って、余計なモノを見つけちまう。
――路地、散らばったカバン、中身は女生徒の物。
そんなもん、見つけちまえば何が起きたかはすぐにわかる。
きっと手遅れになっちまうだろうが――見つけちまった以上、放置するにはあまりに気分が悪ぃ。
――あれか。
組み伏せている薄汚い男と、小奇麗なガキ。
今すぐ飛び出せば間に合うかもしれねえが――下手をするとガキの命が危ねぇ。
命と女、天秤に掛けてもらうしかねえか――くそ、手ぶらで歩くんじゃなかった。
可能な限り気配を消して、男の背後に近寄っていく。
目の前の『餌』に夢中になっている所を、一撃で昏倒させられるように――男の首筋を狙って――確実に――
■皋嶺 冰 > ――貴方が、そこに辿り着いたとき。鼻をつく生臭い匂いが立ち込めて、鈍色の空の下で。
小汚い大柄な男に組み伏せられた女学生は、既にぐったりとしていた。
「――…………ぅ…………ぇ、ぅ……ぁっ……」
男が下劣に嗤っていた。身に纏う物は乱暴に脱がされたのか、敗れたブラウスとスカートは、彼女が常世学園の、表側の学生であることの証。
それらが既に白く濁ったものに汚れながら破れて、晒された雪のような肌の下半身は、男の醜い肉杭によって貫かれている。
幾らか、もうそこは汚されている。荒い呼吸で腰を降るのにあわせ、上下する腰と、焦点を結ばない瞳が揺れる。
濁った音、耳障りな粘着質の音。
――その音は、貴方の手刀と共に止む。それまでの幸福の絶頂のような、醜い笑顔から白目を剥いて大柄な男が崩れ落ちると、
肉杭も抜けて、その女学生と離れた。
ごぽりと、音がした。
「――――…………」
組み伏せられていた恰好のまま微動だにせず、晒された胸も、下半身も、痣と、白濁と、血に汚れている。
ほんの数刻前まで、何も受け入れなかっただろう処女な女陰は、穢され切って晒されていた。
■紅龍 >
「――遅くなって、悪かったな」
転がった男を蹴り飛ばして、ガキから引き離す。
晒されている姿は――あまりにも不愉快で吐き気がした。
――紅い雪、か。
出来るなら二度と見たくない色だった。
それが示すのは、ガキが『雪女』である事実と――
「――生きてる、な。
聞こえてるか?」
それ以上は近づかず、声だけを掛ける。
下手に手を伸ばしたり、近づくのは、被害者を怖がらせるだけでしかない。
――手遅れになるのはわかっちゃいたが、ひでえもんだ。
■皋嶺 冰 > 「………」
返事は、何も返らない。首に、頬に、薄く紫色に、痣。
こひゅ、と、喉の奥で、呼吸が裏返ったような音。それから、
「っ……ぅ、っ」
――喉が震えて、身体を、横に、向けようとしていた。
そこから、耳に障る湿った音と、
「ッうえ"、ぅ、ぅぁ、ぉッ……ぅ、ぶ……っ」
――吐瀉して、身体をくの字に折り曲げる。
何度か咳き込みながら、何度も、何度もえづいて、吐き散らした。
「ッ……ぁぁ」
生きている。生きているが、生きている分、酷い。
――理不尽な暴力が、欲望が、自分の身体を穢して、犯して、
疵となったことに、心が耐えきれなくなっていた。
ちらついた。空から、曇りの雲から、はらり、はらり。
"赤く色づいた雪"が降ってくる。街の、この一角のみに降りたということは、後日、誰かが知り得ること。
その中心がここ。そこにいる少女が、
「……ど……っ……じ、で……」
――瞳が揺れて、潤んで、枯れた声で零す。声の中の痛みは、きっと、紅い。
「……どぉ、し、で……ぇぇ……っ!!」
――なんで、自分が。こんなことをされたのかを、理解できなかった、悲嘆と、苦悶の言葉が、応答となる。
■紅龍 >
「――運が悪かった。
お前さんに、答えてやれるのはそれだけだ。
すまねえな、もっと早く見つけてやれたらよかったんだけどよ」
自分のジャケットを脱いで、ガキに放り投げる。
今の姿を晒したままにされるのも辛いだろう。
「お前さん、名前は?
学年と、年齢。
風紀委員に連絡してやろうか?」
屈んで、なるべく視線を低くして、ゆっくりと声を掛ける。
これに答えられるくらいならいいんだが――
■皋嶺 冰 > 「ッ……」
"運が悪かった。"
己に降りかかった、この『残酷』は、そんなあっさりとした言葉によって終わらせられてしまう。
……自分が、ただ、不幸だった?不幸だっただけで、こんなことをされてしまう。
投げ渡されたジャケットが身体にぶつかり、折り曲げた身体を隠すように、震える手でそれを掴んで、可能な限り身体を隠す。
その一枚だけが今、自分を守ってくれる物。掴んだ場所が、ぐしゃりと皺になるほど強く握られている。
「…………さ、つき、みね」
さつきみね。辛うじて、答える。
落ちていた学生証の名前と、その名前は苗字で一致している。
あの荷物は、この女学生のものだろう。
「……」
ジャケットに、身体を必死に隠す。穢された部分も全部その一枚で。
身体を起し、背に出来る壁にまで、芋虫のように這って。
……貴方からは離れるが、壁に背がつくと、それ以上は動かなかった。俯いたまま、顎がほんの少し、縦に揺れる動きで肯定する。
「……」
……学生証の顔写真と、今目の前の少女は一致する。
笑えば、優しく儚げな、目を見張る程整った顔立ちだろう。
それが今は、降りしきる赤い雪と、痣で汚れて、暗く澱んだ瞳が、地面を睨んでいる。
■紅龍 >
「――よし、上出来だ」
返事がある――今はそれで充分だ。
「あー、少し近づいても大丈夫か?
お前さんの荷物、拾ってきてんだ。
それと、なんだ。
そのままだと、キツイだろ」
今のガキには、相手が男ってだけで恐ろしいかもしれねえが――。
怪我がないかくらいは診てやれるし、応急的な対応には慣れてる。
それに――今の姿のまま、風紀に放り出すのも、あんまりってもんだろう。
ご案内:「落第街」に清水千里さんが現れました。
ご案内:「落第街」から清水千里さんが去りました。
■皋嶺 冰 > 「――っ」
近づく気配がした瞬間には、身体が強張っていた。
弾かれたように上がった顔。歯がカチカチと、震えて、音を立てて、恐怖心が刻み込まれているのが解る。
――もう一度、同じことを、違う人間からされそうになる位なら。
壁につけた背が、どんっと、一度大きくぶつかってから、横に倒れ込む。
「っ……ゃ、嫌……嫌……ッ!!」
――平静が欠ける。ほんの微か、恐怖心が擽られた位ででも、呆気なく失われる理性的なもの。
今は余りにも過敏で、臆病でいる。
だが、逃げようにも動けなくて、最後には結局。
その場に蹲って、呻くような声を零すのみとなる。
「ッ……こ、っちに、こない、で……!!」
■紅龍 >
「ああ、そうだよな、わかった。
近づかないから、少し拭っとけ。
そのまま助けられるよりは、マシだろ?」
ガキの反応は予想通りだった。
そりゃそうだ、今のこいつにとっては『男』ってだけで恐怖の対象だろう。
それこそ、今後の生活にすら影響しかねない、精神的外傷になりうる。
「ほら、お前さんの荷物だ。
風紀には今連絡しといたから、しばらくしたら駆け付けてくるはずだ」
そう言って、鞄を目の前まで滑らせる。
ついでに、持ってたタオルも一緒に。
ちょいとおっさん臭いかもしれねえが、そこは勘弁してもらうしかねえな。
「そこのクソ野郎は、オレが預かってく。
殺しはしねえが、きっちり落とし前はつけさせてやるよ」
様子を見ながら、急に動いて驚かさないように、ゆっくりと男の方へ動く。
男自身の服で腕を縛り上げて、逃げ出さないように。
■皋嶺 冰 > ……鞄が目の前に、タオルも渡される。
拭っとけ、という言葉に、意味を理解する。
恐怖に支配された瞬間の、ほんの一瞬だけでも刻まれる感覚。
忘れがたい、痛みと、苦悶。
降りしきる赤い雪の勢いは弱まりつつある。それが、今のところ、周囲を汚し、良くも悪くも、行為の痕跡を消しつつあったが。
「……、……っ」
伸ばされた手が、鞄とタオルを引き寄せる。
タオルで、自分の穢された場所を、あちこちを拭いとる。
……触れる都度に、押し殺したような、
「ぅぁ」
堪えるような、
「ッぎ、ぅ」
……震えている。やがて、彼女がそれを忌々し気に、乱暴にタオルを手放したとき、絡みついた白いものと、真っ赤な血と、
吐瀉物の濁った色がついていた。
それを目に映すのも苦痛なのか、閉じられた瞳、その目じりからは、また大粒の涙が落ちていた。
――――自分のことを穢した人間のことなんて、どうでもいい。
……ただ、だけれど、
「……ぁの」
初めて、言葉らしい、言葉で。
「……私、以外に……女の子、いなか……たか……」
――これだけのことをされて尚も、その言葉が。
「……たの、まれてっ、探し、てる……私、くらいの、女の子……くらす、めいと、なんだ……っ」
自分より他の誰かのことを心配しているのが理解る。
それ故に――きっと、もっと残酷な事実もある。
ここに駆けつけてくるまでに果たして、"この少女以外に此処に訪れた女学生なんて端から痕跡もない。"
――いるはずのない誰かを探して欲しいなんて、頼むような奴がいるとしたら。
■紅龍 >
「――そうか、わかった。
安心しろ、そいつは代わりに見つけてやる。
お前さんは先に帰ってな」
――きっとそんな女生徒はいない。
こいつが、悪意を持ってハメられたって事は間違いないが――それを今ここで教えるほど残酷な事もねえ。
「――風紀が来るまで、もう少しかかるか。
オレは風紀に出くわすと、ちっとばかし具合が悪いんでね、悪いがそろそろ退散させてもらうぞ」
そう言いながら、男を担ぎ上げる。
「落ち着かねえなら、その内ポケットにタバコのニセモンとライターが入ってる。
火を付けりゃ、ちっとは気がまぎれるだろうよ」
鎮静作用のある、多様なハーブを合成したタバコの形をした薬だ。
火を付ければ落ち着いたハーブの匂いで、少しは気を紛らわしてやれるだろう。
ジャケットの方にも、その香りが沁みついている。
「そんじゃ――もう、こんなところに来るんじゃねえぞ。
こっち側で困るような事があれば、まあ、連絡しな。
そんときゃ、それなりに世話してやるからよ」
それだけ言い残して、さっさとその場から立ち去る事にした。
オレが残っていても、ガキ――『サツキミネ』には良い事がねえだろう。
ジャケットにゃ名刺も入れっぱなしだ。
何かありゃあ、連絡でも来るだろう――何もないに越した事ぁねえが。
■皋嶺 冰 > 「…………お、願い」
――騙されていたことを、知ることになるのはあとどれくらい先だろう。
健気にも、居もしない誰かを、これだけあって尚、想い憂う。
余りにも、何も知らなくて、鈍くて、純粋だったから。
それなら確かに、"ただ不幸だったから"と言えるもの。
視線を外し俯いた顔だが、耳はそれを聴き届ける。
……男が立ち去る間際、小さく。
「…………助けて、くれて」
「……あり、がとう」
――――紅い雪の中心に、風紀委員が駆けつけた頃には、
香草の匂い、燃えカスの痕跡。
その中で、虚ろに座り込んだ姿で少女は発見され、保護される。
ここであった残酷な仕打ちと、その犯人の行方は、いずれ明かされようとも。
少女の身体に刻まれた凌辱の苦悶は、決して消えることはない。
そんな、或る日の不幸なお話。
ご案内:「落第街」から紅龍さんが去りました。
ご案内:「落第街」から皋嶺 冰さんが去りました。