2022/04/08 のログ
神樹椎苗 >  
 周囲に歩かせた『種』はすぐに戻ってきた。
 あまりありがたくない情報を引っ提げて。

「――ふむ、やはりまだとどまっていますか。
 となると、気軽に『起爆』はできねーですね」

 この施設内に、まだ侵入した知人たちと、生存者が残っている。
 一人はほぼ不死とみて間違いないけれど、他はそうはいかない。
 入力された命令では、被害を問わずとされているが、椎苗としては、可能な限り巻き込む事は避けたいのだ。

「それも取捨選択になっちまいますが――これを放っておくわけにもいかねーですしね」

 知人を巻き込みたくはないし、不要な死を増やすのは教義に反する。
 けれど、この場所を放置すれば――今後どれほどの被害が出るか予測できない。
 少なくとも、先日の『暴動』の比ではないだろう。
 

神樹椎苗 >  
 
『――――――』

「――でしょうね。
 ですが、この先増える被害を無視は出来ねーです。
 大と小を選ぶ必要があるのなら、迷うわけにはいきません」

 だからこそ、彼ら、彼女らには退いて貰いたい所なのだが――。

「――可能な限り待ちましょう。
 いざとなれば、しいが残業すればある程度は何とか出来るでしょうし」

 幸い、椎苗に対して実験体たちは手出しをしない。
 それこそ、資料にある⊿型の制御用個体には手こずるかもしれないが、それくらいだろう。
 ある程度の時間を稼ぐ事は出来るはずだった。

「目的が何かまではわかんねーですし、どれだけ死人を減らせるかもわかりませんけどね」

 それでも少しはマシな結果になるには違いない。
 あとは、彼ら彼女らに、メッセージを残すくらいだろうか。

【26時を目途にこの施設を完全焼却します。
 死にたくなければ、研究区画にある隔離部屋に逃げ込むか、施設から出る事をオススメしますよ。
 ――超絶美少女ロリより】

「――うん、まあこれでいいでしょう。
 届くかはわかりませんが」

 メモ帳に走り書いたメッセージを複数の『種』に括りつけて、再び走らせる。
 無事に知人らに届くかはわからないが、届かなかったとしたらそれまで。
 運がなかったと諦めてもらうしかないだろう。
 

神樹椎苗 >  
 出来る事はした。
 椎苗に残されているのは、命じられた『業務』だ。

『――――』

「あまり不満そうな顔しねーでください。
 これでも、納得してやってるんですから。
 というか、しいの他に出来るヤツなんかいねーでしょう」

 今、椎苗の身体には特殊な儀式術式が刻まれている。
 本来は複数の人間で行うものだが、椎苗の場合、体そのものに儀式術式を書き込む事で、椎苗の生命力を吸い上げて起動させる事が出来るのだ。
 刻まれているのは、極大の炎魔術。
 この地下施設の一切を焼き払うための術式だ。
 『暴動』を終わらせたものと同じモノと記せば、その威力は知れるだろう。

 それでも、この施設にあるいくつかの収容室や隔離室などは燃え残るだろう。
 魔術的にも強固な隔壁で構成されているものだから、燃やした後もまた、丁寧に見て回らなければならないのである。

 そんな『業務』も、強制されたわけではない。
 単純に、椎苗が恩を返すために自ら志願したのだ。

「さて。
 とりあえずは、生きてるやつを探しに行きましょう。
 一人でも二人でも、生き残れるに越した事はねーですから」

 そしてまた、椎苗は悠々と惨劇の中を歩きだす。
 ――この気まぐれな『死神』によって、いくつの命が救われるのか。
 それは、救いを待つ者の運しだいだろう。
 

ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1『蟠桃会』拠点 収容区画」から神樹椎苗さんが去りました。