2022/11/26 のログ
ご案内:「◆落第街路地裏 違反部活根城(過激描写注意)」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
 ──それは数十分ほどの前。

 
「♪~」

 落第街を、唄いながらあるく。
 持て余す両手を背後に束ね、無邪気に跳ねる子供のように。
 開いていない唇を鑑みるに、それは唄というよりハミングだったか。元より、音楽などろくに知らないソレは、歌とも呼べなかった。
 
(おっと、いけない。こっちは久々だし最近“数”がいい具合っぽいから愉しくなっちゃった。
 もう少し、バカっぽく……無防備に振る舞わないとね)

 自らの振る舞いが辺りから浮いているから自省した、というわけでもない。
 鼻歌をやめても、全うな学生の姿をした人間がこの落第街で周りから浮くという事実は変わらない。
 辺りを興味深そうに眺めたり、かと思えば朽ちた建物の染みをしゃがみこんでじっと見つめていたり。
 どちらにせよ、その女はマトモに見えることはなかっただろう。
 あるいは、それが狙いだったか。
 
 落第街で、呆けたように遊び回る正規学生の女をどう判断するか?

 この街で多少警戒心のある人間なら、すぐに気づく。
 それが落第街に迷い込んだ人間であることなんて、そうそう無い。都合の良い獲物なら少しは慌てているはずだから。
 つまりそんなものは、たいていが“成り上がり”の風紀だ。あるいは──

『おいおい、迷子か?
 それとも……遊びにでも来たのか?』

 ふらつく女に、ゴロツキめいた数人の男達が声をかける。親切な地元住人──にはどう頑張っても見えなかった。主に、口元に貼り付けた下卑た笑みが。

(──来た来た! 釣りってこんなカンジなのかな、やったこと無いけど。)

 ──あるいは。
 落第街の住人よりも、質の悪い何かだ。
 
「そうそう♪ 遊びに来たの!
 オニーサンたち、どっか面白いところ知らない?」

 見下される男の顔に向かって、満面の笑みで答えた。男たちが期待に浮つくのを感じる。
 ……少し、バカっぽすぎたかもしれない。
 でもしょうがない。
 “獲物”として人間を見るのは、随分と久しぶりだったから。
 

藤白 真夜 >  
『ぐぁああッ!?』

 先程までの、“始まる”前特有の甘ったるいぬかるんだ雰囲気と暴力的な空気は何処にも無い。
 話は単純だ。
 女に飢えた違反部活の人間が、落第街に紛れたバカそうな女をナンパしてきただけのこと。
 ナンパが合意で無いパターンはともかく、合意されることはごく珍しいがたまにある。
 今回も、そんなバカな女だろう──そう、思ってしまったのだろうか。

「……そんな美味しい話、あるワケないでしょ?」

 先程までベッドに押し倒されていた女が、ゆっくりとカラダを起こす。
 はだけたセーラー服を顧みることもなく、顔に跳ねた血を……べろりと赤い舌で舐め取った。
 
(……血に慣れてる反応じゃないなぁ。
 こーゆーコト専門かな……?)

 私がヤッたことと言えば、押し倒してきた男の腕を切り刻んだだけ。
 ご丁寧に、出血死しないよう動脈を避けて。
 それなのに、斬られた男は大声を上げて、周りの連中も竦んでいた。
 ……まあヤれると思ってた女に反撃されたらそうもなるのかもしれない。

「ほら、どうしたの? それだけ?
 力で女をモノにしようとか、そういうのは居ないカンジ?」

 思わず、煽りと侮蔑が同時に飛び出した。
 一瞬の、硬直。

『~~~~~~~ッ!!』『~~~~~~!?』

 ……もはや、私の語彙じゃなんて言ってるのかもわかんない、キレ言語。
 同時に顔面へ向けて振り抜かれる拳が──

「ふふ♪ ありがとー♡」

 ずるり、と“何か”に食い込んだ。
 それは、カミソリのような微小な刃だ。これなら、死にはしない。
 ……また何言ってるのかわかんない言葉でそこらへんを転がりまわってるあたり、痛くはあるのかもしれないけど。
 

藤白 真夜 >  
「乱暴されそうになったので、自分を守りました。
 ……うんうん、十分な理由だよね。コレなら怒られない。
 男女のアレコレはそーゆーの多いってよく聞くし。
 ……ま、私はキョーミ無いけど」
 
 立ち上がった女の周りに、男たちの流した血が渦巻くように吸い込まれていた。

(ああ──これこれ。やっぱり、こうじゃないと。
 ちょっと薄いけど……うん、いい~……っ♡
 まあ、文字通り前戯にはなったのよね)

 周りにはキレたを通り越し呆然とする男たちが数人、その中で──女は恍惚の笑みを浮かべていた。
 あるいは、数十分前には男達が浮かべていたのを同じ──獲物を手に入れることを確信した笑みだったか。

 ──落第街で違反部活をやるにあたって、欠かせないモノが必ずある。

「あれ、もう終わり?
 私に手出したり、したくならない?
 私からは手は出せないからさぁ……せめてもーちょっと──」

 ──それは、暴力だ。例えばそう、銃火器であるとか。
 
 惚けたように甘い声で言葉を続ける女が、数発の銃声とともに横合いに吹っ飛んだ。
 
 音は不必要なまでに大きい。数人の男が一斉に発射したそれは、威嚇目的に使われる大型のハンドマグナムだ。
 取り回しは悪いが、無駄に威力の大きいそれは当たれば人間ぐらい吹っ飛ばせる。
 事実、打たれた女は壁に杭でも撃たれたかのようになっていた。
 ──夥しい量の血をブチまけて。

 間違いなく、死んでいる。
 

藤白 真夜 >  
 繰り返そう。
 
 落第街を堂々と彷徨く生徒など、そう居ない。
 落第街に馴染みのある風紀委員、あるいはそれに準ずる腕利きか。それを除けば、そう──

 自らの命を顧みることのない、異常者だけだ。

 
 壁にうち捨てられたかのように倒れ伏す女のカラダから、赤い煙が立ち上がる。
 辺りに広がった血が、わなわなと歓喜するかのように波紋を立てた。
 死人のように濁った瞳。
 もはや脈打たぬ心臓。
 そこに、紅い光が瞬く。

 死んだはずの女が、踊るように立ち上がっていた。

「──ふふ、……ふふふっ。
 あははっ! なぁんだ、いいのを持ってるじゃない! じゃあ、私からもあげる……!」

 女が腕をふるうと、赤い血飛沫がねばつくように跳ね回った。──弾丸のような速度で。
 ぶちぶち、と肉に食い込む音がする。
 それは異能で蠢く血。切れ味や威力などあるわけでもなかったが、人の肉程度になら食い込むものだ。──それを求めているかのように。

 銃を撃った男達の手があらぬ方向に曲がり血をふきあげるのを見て、いよいよその場は恐慌状態に陥った。
 ……いや、本当に怯えていたのは死んだ女が立ち上がったことに対してだったか。
 いずれにせよ、男たちは逃げていく。
 女の“糧”になる血を溢しながら。
 逃げる男たちとは裏腹に、流した血は逃れることも出来ず女のほうへと赤い痕を残して引きずられていった。

「あら。もういっちゃったの?
 ……うーん、まあそうだよね~」

 ……そもそも、釣れる時点でその程度の相手である覚悟はしていた。
 女の異常を見切れない蒙昧。
 あるいは──

「で?
 キミはパーティには参加しないタイプ?」

 妙に広い空間に声を投げかける。
 誰も居ないように見えて、その目線の先の天井の隅にはカメラが備えてあった。

 ──ただ命令に従い率いられるのみの三下。
 この街で、こんな愚行を冒すプレイミスを帳消しに出来るほどのリーダー格が居るか、のどちらか。
 
 答えは無い。
 が──
 

藤白 真夜 >  
「──!?」

 驚いた。
 私は、戦闘や負傷に対してネガティブなモノを何も感じていない。
 ただ貪り、殺し合えれば良い。
 それが、私の戦闘であって“愉しみ方”だ。
 恐怖など、いつ感じたのか思い出せない。
 その私が、驚いた。

 気づけば、私の胸に短刀が突き刺さっていたから。
 きっちりと心臓に届いている。致命傷だ。

「……なんだ、遊んでくれるんじゃない」

 そして、それを笑い捨てた。
 
(ふふ、ふふふ。
 これだから……異能者との戦いは面白い……!)

 透明化の異能を想起した。
 すぐさま、硬質化した赤い爪が辺りを薙いだ。
 殺したいが殺せはしない。殺す必要も無い。殺す威力よりも速度を求めた、範囲攻撃。
 赤い風が舞うかのように、広い部屋を埋め尽くすように広がり──

 どすり。
 また、私の腹部にナイフが突き刺さった。

「ごほッ、……へえ……」

 ただ腹に刃物を突き立てられただけで吐血など私はしない。
 外傷への異常な耐性がある私にも通ずる、物理的攻撃。
 ──どうやった……?
 本当に、わからない。
 私の傷は、すぐに埋まる。カラダが貪欲に生きることを求めているから。
 なのに、内蔵に達するまでその攻撃に気づけなかった。
 ……わからない。
 相対する相手の異能が、わからない。居場所も、わからない。
 それは、致命的な後手と危機を意味しており、だからこそ──

「……ふ、ふふふふッ……!」

 女は、心底嬉しそうに笑みを浮かべた。男たちに声をかけられた時よりも、狂おしく。
 その瞬間、腕に斧が、太ももに槍が突き立てられる。──いや、“そのようにして現れた”。
 血飛沫が上がる。
 相手も居ない。姿も無い。だが攻撃が現れる。
 一方的な殺戮が、始まった。
 ──その最中ですら、笑い声をあげたまま。
 

ご案内:「◆落第街路地裏 違反部活根城(過激描写注意)」にジョン・ドゥさんが現れました。