2022/11/27 のログ
藤白 真夜 >  
 ──しばらく時間が経った。
 数分程度の、しかし戦闘として考えれば致命的な時間。
 
 女はもはや、立っては居なかった。
 釘付けにされるように、自らの内側に出現する凶器の数々に、縫い付けられていた。
 血の流れる量はおびただしく、広かった部屋の半ばまで血に濡れている。気の所為か、出血から生じた赤い霧が辺りを漂うほどに。
 
 女はもはや声をあげることもなく、ただ死んでいた。
 それでも、攻撃が止むことは無い。──それだけ、その状況が異常だと相手に伝えていたのか。
 しかし、再び“現れた”ナイフは、女の体内に収まることなくただ落ちていき……からんと音を立てた。

「──あら」

 ──そして、それを待っていたかのように。死に体の女は声をあげる。
 まるで、待ちわびた恋人の足音を聞いたかのように、弾んだ声色で。

「もう、場所が無いの?」

 女のカラダには、無数の武器が突き刺さっていた。
 もはや、血に濡れた武器のほうが“体積”が多いと言ってもよかったか。
 だから──場所が無かったのだ。

「──みつけた」
 
 そして、私の体から溢れた血も、十二分に流れていた。
 例えば──妙に広いその部屋の地下。
 “空気穴”以外繋がってもいない隠し部屋に赤い煙を送り込める程度にまで。
 隠し部屋に流れ込んだ煙は、あっという間に赤い鎖となって広がった。
 その男の、体を貫きながら。

「キミ、テレポーターでしょ?
 逃げてみてもいいよ。
 ……私の血、連れていけるなら」

 異能の指先が、男の致命的なモノを捉えている実感をもたらしていた。
 ……相手の苦悶の声が聞こえないあたり、この闘い方はちょっと美味しくなかったかもしれない。
 
「空間転移って、結構難しいのよね。
 術式だと絶対座標の指定が病的だし、……それを異能でこなせる時点で破格なんだけど。
 でも、キミじゃ出来ない。……でしょ?」

 鎖は、確かに男の肉を貫いたまま。それが“突然消えたり現れたり”することは、無い。

「私の血ってさ、遺伝情報がやたらと入っててね。100人分くらい。
 ……ねえ? キミ、100人連れてテレポート出来る?」
 
 つい先程まで瀕死の磔刑者であった女は、今や勝利を確信し敗者をなぶるだけの、優越感に満ちた嗜虐的な笑みを浮かべていた。
 何かの仕掛けが動いたのか、地下に通じる扉が開く。
 監視カメラと武器が並んだ、仕掛け部屋。いわば、遠隔の殺人部屋か。
 しかし、もう所狭しと並べられた武器を転移させることは無い。
 その違反部活でただ一人残った異能者の男は、赤い鎖に貫かれながら命乞いをしていた。
 

藤白 真夜 >  
「ふふ、私の勝ちー♡
 結構手のこんだ殺し方だったね。こういう武器じゃ足りなさすぎるけど。
 ……うーん、このあとどーしよっかな……」

 転移異能者の男は、もはや抗うことも無かった。その気になればいつでも■せるけど、そうもいかない。
 ……こーゆー時、風紀の連中とかどーしてんだろ?
 
 傷だらけだった女の体は、見る間に癒えていた。
 ただ痕跡を物語るかのように、セーラー服がズタズタに千切れ、虫食い様になっているだけで。

(……この格好で戻るほうが襲われそーだなー……)

 見るだけならば、違反部活を取り押さえたように見えなくもない。鎖だし。
 

ジョン・ドゥ >  
「……うわ、すごいなこれ」

 暇つぶしに徘徊……じゃなかった。路地裏を巡回してたら、銃声が聞こえるだろ?
 それを聞いて来てみたら、大が付く惨事になってるわけで、だ。

「すげーな、超回復か?それとも不死身か?
 最高に色っぽい衣装が似合うってのも、考え物だな」

 あっという間に傷が無くなっていくのを見れば、そんな能力もあるんだろうなと頭に浮かぶ。この惨状で唯一無事と言えるのはこの女……奥にも一人いるな。隠し部屋……か?

 BDUの懐から拳銃を出したはいいが、こりゃ、出番はないかもな。必要なのは後始末か。

 軽い足音を立てながら、無遠慮に飛び込んでみた物の。すっかり片が付いた後みたいで、微妙に居心地が悪い気分だ。
 

藤白 真夜 >  
「ちょっと、踏まないでね」

 足音。
 闖入者への対処の前に、ただそう告げた。
 薄暗い部屋に濃く蟠る血の臭い。
 部屋には人間一人分で足りるかも怪しい量の血の海が広がっていた。
 その血溜まりに男が足を踏み入れる前に──潮が引くかのように血が一箇所に凝集していく。
 未だ血の浮かぶ傷があった体が、その血を吸い上げて今度こそ傷一つない体に戻っていった。

(……ふふ、結構はいったんじゃない?
 やっぱり生じゃないとね~!
 異能の殺し合いも久々だったし、まんぞくまんぞく♡)

 未だ男のほうを振り向くこともなく、ひとりで満足げに笑みを浮かべてから──

「で。
 ……まだ居たの?
 貴方以外、みんな逃げちゃったけど」

 銃を持った男へ、無造作に振り向いた。
 まだ、一応服としての体裁は保ったずたずたのセーラー服を纏った格好で。
 視線に敵意は無い。
 でも、やられたらやりかえす。そう、誘うような紅い瞳が訴えていた。
 なにせ、腕章もなしで銃を構えているのだから。
 

ジョン・ドゥ >  
「地味に傷つくなあ……一応助けに来たつもりだったんだぞ」

 血が吸い上げられていく光景は、何とも興味深かった。あんまり見る能力じゃないな。血液操作系、そのかなり上位の能力だな。

「いい女がソソる格好で目の前にいるからなあ。是非とも遊んでもらいたいもんだけど……」

 襲ったらあっさり殺されそうだな。まあこればかりは合意がないと、殺されても文句言えないけどさ。
 とりあえず、奥にあるはずの隠し部屋の方に銃口は向けようか。

「……そっちにもいるだろ、一人。どうすんだ?殺すのか?
 片付けに困ってるなら手伝うぞ」

 左手で頭を掻きながら、とりあえず聞いてみよう。もしかしたら、案外始末に困っていたりするかもしれないしな。
 

藤白 真夜 >  
「え? ……本当にコイツらの仲間じゃないの?」

 あれ、勘違いしたかな?
 と思った直後のセリフでまた思い直す。
 この違反部活、ナンパばっかりやってそうだったし、本当に仲間かもしれない、なんて。
 格好については何も自覚していなかった。
 むしろ、たった今私は殺しと死に昂ぶっているのだから、それ以外に興味なんて無いのだ。元からだけど。

「……殺しはやらない。すごいヤりたいけどー……やるなって言われてるし」

 不機嫌そうにそう応えると、何かを引っ張るように腕を引き上げた。
 すると、紅い鎖に腕を貫かれた男が引きずられてくる。

「うわ、気絶してる。
 バカだね~……ちゃんと忠告したのに」

 男の意識はすでに無かった。おそらく、無理に異能を行使しようとしたのだろう。……止めたのに。
 意識の無い男を、嬉しそうにしばし見つめた。

(うんうん、やっぱり異能持ちのほうが味が良い気がする。ちょっとチキンにすぎたけど──)

「変なこと聞くね。……貴方、もしかして風紀委員?
 殺さないなら、あげてもいいけど……」

 ようやくまともに男を見たかもしれない。
 確かに、この部活にはそぐわない……気がする。多分。
 ……いや、さっきの発言といいやっぱりそこらへんのゴロツキ感が残ってるような──。
 

ジョン・ドゥ >  
「ちがうちがう、通りすがりの凡人ですよ?」

 にっこりスマイルで答えてみよう。

「……おおう、女からヤりたいって聞くとなんかイイな」

 うん、我ながらスマイルが台無し。でも仕方ないだろ、目の前に餌ぶら下げられてるわけだしな?

 なんてしょうもない事を考えてるうちに、男が引っ張られてきた。……便利な能力だな。汎用性トップクラスって感じか。回復、再生力も見た感じだと、総合的に見てもかなりのスペックだ。いいねえ。しかも見た目も絶品ときた。

「……ん?そうだ……ってやべ、腕章つけるの忘れてたな」

 BDUのポケットから、ぐしゃぐしゃの腕章を引っ張りだして、ひらひらと見せよう。大事な証拠。

「殺しはまあ、必要ならするけどな。とりあえず、引き渡してくれればそれなりの対応するぞ?」

 言いながら銃をしまって近づこう。……参ったな、近づくとますます白い肌と敗れた服のコントラストがとても好い。

「……うん、やっぱりいい女だな」

 しみじみと思うね。ちょっと子供っぽい雰囲気だが、それも悪くないな。
 

藤白 真夜 >  
「……」

 ……もしかして、またナンパに引っかかってる?
 男を見る目は、すごく微妙だった。
 ナンパ男を引っ掛けてこんなコトをやった手前、私もなんとも言えないのだけれど。

「なんだ、本当に風紀委員なのね。
 ……ほんとにふーき?」

 じとー、と疑いの目をむける。
 ……まあ、風紀委員もテキトーなの多いし、そんなもんなのかしら。

「殺す必要があるならしょーがないでしょ。私の前でやらないでねーってだけ。……こいつ、すぐ逃げそうだけどね。
 あー、うん、じゃあ……えーっと、一応正当防衛。いちおうね。
 私はやったからやられただけ──って言い訳しとく。
 これ、通じる?」

 男の腕を貫いていた鎖が、がぢりと噛み合い手錠のようなカタチになった。……気絶してるし必要も無いかもだけれど、そのまま違反部活の異能者を男に引き渡す。
 ……むしろ、この場を風紀に見られたほうが問題だったか。
 弁解か言い訳じみて言葉を並べる姿は、むしろ女のほうが犯人のようでもあったけれど。

「貴方、変な性癖してるのね。
 ……いや、前も言われたかも。そう、おじさんに。
 つまり、貴方も感性がおじさんなのね」
 
 呆れるのを通り越して、少し微笑みながら応える。
 ……この場合のおじさんは特定の個人を指していたが、この場合──あなたエロ親父なの? と問うていたのだ……!

「ねー。それより、服貸してくれない?
 帰りたいんだけど……この格好だと貴方みたいなのがいっぱい寄ってきそう」

 そして、ある種の罵倒をしながらも相手にねだることを躊躇わなかった。傲慢に。
 

ジョン・ドゥ >  
「ほんとほんと、あいあむふーきいーん」

 へらへら笑いながら一応恰好つけなくちゃいけないから腕章は付けておこう。うーん、視線が痛い。これは相手にしてもらえないヤツだな。かなしいね。

「……お、助かる。ほんとに便利な能力だなあ。
 ああ、正当防衛ね、それじゃそういう事で。
 一応学生証確認してもいいか?」

 床に転がってる男のほうは足先で踏んでみるが、見事に気絶してるな。他の連中も死んではいないらしいし、取り締まるほどでもないだろ。
 とはいえ、右手は差し出す。まあ一応身分確認はしとかないと、後で怒られそうだし仕方ない。
 しかし、変な性癖……それほど変か?

「……そうか?いい女がそんな恰好で居たら、結構ソソると思うけどな。俺は欲情するね、素直に」

 おじさん感性かは知らないけどな。まあ、そのおじさんとやらも、いい審美眼をお持ちのようだ。
 
「えー、貸すの?家まで送ってくとかじゃダメか?ほら、この場に居合わせた役得、って事で」

 なんて冗談を言いつつ、BDUを脱いで、肩に掛けてやるけどな。流石にこんないい目の保養を、その辺のやつらにさせるのは勿体ないだろ?
 

藤白 真夜 >  
(……便利、ねぇ。真夜に聞かせてあげたいところだった)

 男の言葉に、心の中で応え。しかし言葉にすることはなく、小さな引っ掛かりは過ぎ去っていった。

「ん、ありがと。
 はい、これー」

 ちゃんと風紀委員らしい振る舞いも出来ることにちょっと見直しながら、学生証を手渡す。
 祭祀局所属、三年。藤白真夜。
 学生証の写真は些か覇気が無かったが、証明写真なんてそんなものだろうし。バレないバレない。

「……はあ。男ってバカねー。
 ヨクジョーとか言わないの。そんなんで応えてくれるの肉食系の女だけなんだから。
 私もそうだけど、今は禁欲中だし。……」

(……それに。
 セックスは私の担当じゃないのよねー)

 言葉には出さないものの、男を見つめながらため息をついた。

「ふふ、ありがと。
 そーやってまず紳士的に、頼りがいあるオトコを見せてくれないとね♪
 ほら、いこいこ。さすがに女連れの風紀委員に寄ってくるヤツはいないでしょ。
 ……、……いや貴方腕章あっても風紀委員に見えないかも……」

 おねだりを断らない男に、上機嫌に微笑んだ。
 言葉では男を貶してはいたけれど、内心は嫌うことも無かった。その姿勢に好くわけでもない。
 ただ、色恋のような感情が薄いだけ。結局のところ、気にしていないのだ。
 証拠というわけでもないが、すぐに男の腕を掴み歩き出す。
 親しげに、馴れ馴れしく、……あるいは恋人のようにも見えたのだろうか。

「……んー……。
 『落第街で娼婦を買う怪しい風紀委員』ってカンジ?
 あはははっ」

 男に触れ合っても、女は何も気にしない。
 ただただ、楽しそうにころころと笑っていた。
 

ジョン・ドゥ >  
「いや、紳士ぶってもなあ。するもんはするんだから、仕方ないだろ?」

 美女、って言うには少し早い。所謂美少女か?こういう女を相手にして勃たないようならそりゃあ不能か、それこそ性癖歪んでるだろ。
 ……っと、祭祀局の藤白真夜……三年って先輩かよ。年下の先輩多いなあ。

「うし、おーけーだ。俺は一年、ジョン・ドゥ。事務仕事が嫌だから、いつも外回りだ。また会うかもな?」

 そう頻繁にこっちを出入りされると、風紀委員的には困るんだろうが。俺からすれば、そこは自己責任だろう?
 身を守れる能力があるならなおさら、好きにすればいい。……しかし禁欲中とか、聞いたらわくわくするだろ。無意識かよ。

「……お、役得はくれるわけか。いいですよ、風紀委員のわんちゃんらしく――っておい」

 見えないのかよ。いや、俺も似合ってるとは思ってないけどさあ。しかし残念、これは脈がないな。
 しっかし距離近いな……無意識かよ。
 襲うぞこのやろう。

「……はは、間違ってないな。でもそれじゃ、あんたが娼婦役になっちまうぜ、藤白先輩」

 片腕を掴まれて、もう片手で寝てる男を引きずって。まあとりあえず、無事に先輩を送り届けるとしましょうか、治安をまもるわんちゃんですからね。
 藤白もなんだかんだ楽しそうにしてるし、ま、これはこれで一つ、めでたし、って事で。
 

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