2023/07/08 のログ
ご案内:「◆扶桑百貨店」に黛 薫さんが現れました。
ご案内:「◆扶桑百貨店」にメロウさんが現れました。
黛 薫 >  
考える余裕がある、選ぶ余地があるというのは
快いばかりではない。時々そう思う。

選べない不自由を比較対象とするなら当然自由に
選べる方が良いものの、それは収支を量っての話。

贅沢な悩みも悩みであり、嬉しい悲鳴も悲鳴であり、
つまるところ差し引きでプラスになるだけであって
本来発生し得なかったマイナスも確かにあるのだと。

冷たい珈琲が入っていた紙コップ……今は氷だけを
底に残すそれが、手の中でからから音を立てる。

青く透き通った色彩を思わせる香りを纏う少女──
黛薫はやや人気のない、しかし彼女にしては珍しく
物陰でもない休憩用のベンチで人を待っていた。

以前待ち合わせた日、人目に付かない陰で交わした
触れ合いを思い出す。未だ忘れられないあの感触が
如何に嬉しくとも、卑しく待っているかのように
振る舞いたくはない。さりとて嫌でもないのに
露骨に避けたくもない。

纏う香りにしてもそう。とっておきの白い香りを
来たる日のために取り置いた判断は正しいのか。
特別があるからと安心を与えてくれるこの香りに
無意識の序列を作っていないだろうか。

どう転んでも、会えるだけで嬉しくて。
どっちの方が、ではなくどちらの香りも好きで。

それはそれとして、乙女は悩むものなのだ。
特に考え過ぎるきらいのある黛薫のようなタイプは。

悩んで、迷って、待っている。

メロウ > 「こんにちは、かな?」

意図せずして、その声は背後から距離を縮める事になったという
普段は物陰で待ち合わせていたので、『後ろ』に余地などなかったのだが

難しい例ばかりでなくとも、想定外を示すだけなら簡単な一挙動にて完結する
考えすぎるが故に、選択肢を狭める方向に長けた貴方には想像もつかないか


...と、不意をうつような状況ばかりが羅列されてはいるものの
澄んだ香りで誘った目線には発見が常に伴い、その上メロウの側も『あなたの為』との香を纏う
先入観さえ除けたのなら、その会合も普段通りなのだろう

「忘れ物しちゃっててね。急いだけど、待たせちゃったみたい」

黛 薫 >  
「んゃ、言ぅほど待ってなぃ」

振り返る仕草は緩慢に。視線に敏感な彼女が
声を掛けられてから振り返る相手、要するに
背後を取られても警戒しない相手は数少ない。

返す言葉に慮る意図が無いとは言えないものの、
事実として余計に待った時間はそう長くなかった。
自販機で買える紙コップの珈琲1杯が空になる時間、
さりとて爪先サイズの氷の山が形を失わない時間。

飲み残し用のダストシュートに落ちていく氷の音は
冷たい珈琲1杯分の時間が随分短かったことを──
即ち、夏が来たのだということを教えてくれた。

「何かあったんだろーなとは思ってたけぉ。
 そか、忘れ物だったか」

機械らしい時刻管理の精妙さはメロウの得意と
するところ。待ち合わせ時刻を1分過ぎた段階で
何かしらの想定外が発生したのは目に見えていた。

とはいえ、アクシデントがあったのなら急かすのも
気が引ける。連絡を入れるなら何分経過してからが
適切だろうかと考えるのも束の間、わざわざ連絡を
入れるまでもなくこうして合流できた。

「で。今日の用事は事前に連絡してたけぉ。
 服を買ぉーと思ぃます」

嘘は言っていない。しかし厳密でもない。

今日買いにきた "服" はこの時節ならではの品
──水着である。往来で口に出す勇気はない。

メロウ > 「そう答えるとは思ってたけどさ。傾向を辿っていれば、もっと時間かかったかも
 偶然に助けられるくらいに慌てちゃうなら、思いつきも程々にしないとね」

なんともまぁ、イメージされたの精密さとはどこかズレるような人間臭さ
そもそも、忘れ物等とのたまう時点で相当なものではあろうが

『暑かったね~』と呟く彼女に汗の一滴も見られない部分に唯一、『らしい』と考えられなくもない
そんなメロウは、予定を把握してか出会った当時のゴシックドレス。つまりは扱い慣れた格好だ

「事前に調べてはある、けれど。それも随分と種類があるよね
 私は初めてって言うのは前提だけど。薫さまは...」

愚問であるような気がした。しかし、比較的思考が零れがちなメロウは首の傾く軽さと共に落としてしまうものである

黛 薫 >  
思い付き。言い方から察するにメロウの忘れ物は
元々持ってくる予定だった物を置いてきたのでは
なくて、出立してから思い付いて一旦取りに戻った
と考えるべきだろうか。

ロク公像の前で待ち合わせた日は時間ぴったりに。
喫茶店の前で待ち合わせた日は5分ほど早く。
今日はほんのり遅れて。未だに無意識の印象や
決め付けがあるのかも、と認識を改める。

「何忘れたかって、聞ぃてイィヤツ?」

思い付きの内容次第では質問がお披露目の機を
挫く可能性もあるので、確認を挟んで問いながら
ファッションエリア特設の水着コーナーへ向かう。

「あーしもちゃんと選んで買ったコトは無ぃよ。
 学園来てからもそーだけぉ、来る前もド田舎で
 海どころかプールだなんて小洒落たもんも
 無かったし。

 川とかならあったけぉ、フツーの服だったな。
 濡れたって別に……ってカンジだったし」

大きく貼り出された店頭ポップを前に若干の気後れ。
つくづくキラキラした空間に弱い黛薫ではあるが、
メロウの後ろに隠れなかっただけ頑張った方だ。

メロウ > 「そだね。聞いても良いし答えても良い
 すぐにでもいいけど...」

隣で歩いて、貴方の方を見て
仮に違和感があれば支えになる位置取りもしていたのだろう
しかしながら、メロウも歩む速度を整えていたとはいえ、
二人の間に不自然な隔たりもなく。会話の調子も問題なく

心配も杞憂。出来ている事に意識を向け続けるのも、相手はきっと悟ってしまう
だから出てきた話題に合わせて早々に、メロウは思考を乗り換える

「ちょっとだけ、時間を貰って良いのなら
 お店に入る前にお試しさせてもらってもいい?
 その答えはこの中に」

揺らしていた肩掛けの鞄から、取り出したのはタイマー付きのタンブラー
会話の中に、また興味をそそられる内容が含まれてはいたが...その応答は、返事を聞いてからでもようだろう、と

隣に立つのが当然と思考を切り替えていた所、後ろに隠れなかった点がぴったりと合致して正しく提案されたのだった

黛 薫 >  
語気も歩調も、健常な人間と遜色なく。
そう振る舞えるまでに積み重ねた血と汗の量は
傍目には分からない。少なくとも今この場では、
見て、聞いて、触れた貴女だけが知っている。

当然、外出に際してリソースは多めに確保して
あるのだろうけれど、使い切るのは常人の疲労と
訳が違う。四肢を動かす魔力を失えば歩くことも
叶わないのだから。

「ん、構わなぃ」

それでも、限られた時間の提供は惜しみなく。

魔術師の端くれらしく観察に慣れた黛薫の目は
真っ先にタイマーに向く。だが折角のお披露目に
過剰な推測は無粋。タンブラーの外観だけ軽く
流し見て、視線を貴女に戻した。

メロウ > 「よかった。だったら、時間ぴったり」

相変らず、硬直したような笑みからの安堵の声
その『時間』が何を示すかと言うと、0に近付くそのタイマーから察する事は難しくあるまい

店頭より少し離れた、二人で並んで座るのに丁度いいベンチにメロウは促す
本来はテーブルの席を探してもう少し歩いても良かったのだけれど
...提案を飲んで貰ってから、一分一秒が待ち遠しいとでもいうように
表情には形に出来ずとも、浮かれた歩調は隠しようもあるまい

「にしても、意外と言えばそうだよね
 薫さまが『気にしなくてもいい』って態度だなんて
 今までの傾向からすると、まず気にする点を無視してる
 そこに『つまり』があると思うんだけど。それは何か、色々答えがありそうだよね?」

座った彼女はタンブラーを手に、タイマーをかちりと外して細工中
時間をかけるつもりもないのか、ここで慌てる様子は見られない

黛 薫 >  
「あー、まぁな。年齢、知識、人の数、全部が
 足んなかったから。そゆ目で見てくる相手も
 いなかったし、居たとしてもあーし自身が
 幼かったから……理解、反応? 出来てたかも
 分かんねーのよな」

当たり障りなく答えているようで、ほんの少し
濁している。"足りなかった" から問題なかったと
いうのは、翻ってそうでなくば無理だったとも
受け取れる。

他者との関係性、人間が形成する社会性が無くば
向けられる視線は単なる触覚。幼子は触れられる
行為そのものにはさしたる好悪も抱かない。

ある程度成熟したか、何らかのきっかけで知識を
得てからは水遊びなど出来ようもなかっただろう。
彼女が基準として語るのは、遠く幼い日のこと。
見られる/触れられることを忌避しなかった頃だ。

会話の傍ら、黛薫の視線は再びタンブラーへ。

調香を前にしているときもそうだが、細工する
手元を眺めるのは嫌いでないのだろう。
分野は違えど細かい作業にはシンパシーを覚えて
いるのかもしれない。

メロウ > 「年齢、知識、人の数...話には度々、聞くけれど」

手元の作業は決まった物。例え呟きから目線を宙に向けても滞るものではない
見えない何かを指で切って、後は馴染むまでの時を待つ

その間に思い浮かべるのは『かつて』の有様
田舎、自然という物は、以前に青垣山を訪れた際の滝壺を思い浮かべ、香りを呼び起こし、イメージするのは容易いまでも
その真ん中で無邪気に水を浴びる自身の主人の姿という物は、当てはまりそうで直ぐに色とりどりのノイズに飲まれゆく
『今』ではありえない。その見解は合致した。即ちピースは欠けたまま

僅かに唇を尖らせたこと、さて観察できたかどうか

「...お待たせは、してないかな?待つのはいつも上手だもんね
 これが今日のサプライズ。試作品、私の選んだ豆のコーヒー!!」

じゃーん、と。今度こそきちんと差し出したタンブラー
『選んだ』という点で、凡そ何を重視したのか。そしてこの時点で、何を推測出来ていなかったか

冷めの無い、淹れたて熱々の品でありました

黛 薫 >  
「そいぇば、前に聞ぃたコトあったな」

『香り』というキーワードからふと思い立って
問うた日を思い起こす。友人の好みから興味を
抱いた珈琲という飲み物。辿ってみれば今日
ショッピングに来たのも、その友人の紹介に
託けた『独り占め』の権利を見据えてのことで。
単なる要望以上の繋がりを感じる。

受け取る直前、僅かに尖らせた唇に気付いたか否か。
気付いていても密かに濁した話題。丁度良い切欠も
手にして、掘り返さなければ煙に巻かれるのは目に
見えている。尤も、そういう小賢しい意図の有無に
関わらず、彼女は『香り』の話題を優先した筈だが。

「んじゃ、いただきます」

待ち時間のお供に自販機のアイスコーヒーを
チョイスしたのは間違いだったかも……という
ありきたりな後悔はタンブラーに口を近付けて
すぐに霧散した。

夏のはしりに淹れたて熱々の珈琲というのは
何も気が利かなかったからではなく。
冷たい珈琲では感じられない、熱気混じりの
芳しい香気のためであると思い知らされる。

確かにアイスコーヒーは暑い夏に嬉しいが、
感じ取れるのは風味止まり。夏になると
ラインナップが冷たい物に総取り替えされる
自販機にあってなお、ホットコーヒーだけは
熱いまま残されるのも然もありなん。

口を付ける前から感じ取れる差に驚いたのか、
思わずメロウの方を振り返る有様だった。

メロウ > 「興味は湧いていたけれど、簡単に出来るものでもないし
 調合の為のテナントも用意して、暇な時間を費やして
 1つ、売りに出せるような...ううん、出さないけどね
 あのお店だと、望んだようには届けられないから
 私の満足を求めちゃうと、それはとても限られた条件下でしか達成できない
 例えば時間、例えば気密。出来る範囲で、頑張ったつもりだけど...」

普段彼女が望む『出来る』を越えた範囲にも僅か、踏み込んだような努力の証
ところが貴方を見て、言葉にされない機微に迷う表情を見せたのはこちらの方

「...やっぱり、味覚的な整合は取れてない?」

問われたその内容は、口にする前に反応して見せた貴方にとっては疑問に思うかもしれないが
決して的外れな内容ではない事は、続けて行動をとってしまえば理解できるのだろう

嗅覚に秀でた一方、味覚に於いては拘りの少ない調香師。決して飲めない物は作らないが
しかし、良く言えば優れた部分に補われるように...正確には足を引っ張るように
嗜好する側の感性へと、この不整合を問いかけてくるのである

その様子、気が気でない。流れた話題など遠い過去の事

黛 薫 >  
「いつまでも保存しとけるよーな物じゃねーもんな。
 いぁ、それ言っちまぅと調香の材料もそーだけぉ」

条件が同じでも、扱いの差は違ってくる。
香水であれば注文を受けて、必要な素材を調達、
何日もの時間を掛けて次回来店時に引き渡す、
という工程でも問題はない。

だが珈琲の場合1杯のために何日も待たせるのは
非現実的。保管、保存の工程を他の専門家の手に
委ねっぱなしには出来ない。

香水とは別のベクトルで特別な一品。
香りを堪能してから、軽く冷まして口を付ける。 ▼

黛 薫 >  
「味自体は、うーん……あーしが判断できるほど
 詳しくねーっつーのもあっけぉ。
 そもそもが味よか香り目当てなんじゃねーかな。
 味は砂糖なりなんなりで自分好みに出来っけぉ、
 自力で香りをどーにかすんのは難易度高そーだし」

珈琲の味を占める要素は主に苦味と酸味。
味に焦点を絞るなら、初めて口にして真っ先に
美味しいという感想が浮かぶ物ではない。

それでも珈琲が世界的に嗜好品として定着して
いるのは、大勢に好まれているからに他ならない。
黛薫は門外漢なりにその理由の一端を見た気がした。

「珈琲って苦ぃ物で、苦ぃ物って慣れねーと
 美味しくはねーワケで。あーしだってそんな
 得意だと思っちゃいなかったんだけぉ。

 んでも、素直に美味しぃって思ぇたのよな。

 理屈とかは分からん。でもよく聞く話だけぉ、
 風味も味の一部っつか、味覚だけじゃなくて
 嗅覚でも味わぅって話、あんじゃん?
 多分、そゆコトなんだよな……苦いから嫌、
 って単純な感想になんねーんだもん」

味が苦手なら砂糖に頼っても良い、とは言った。
言ったが、仮に今この場に砂糖があったとして、
味の代わりに香りが崩れる可能性を考慮したら
入れたいとは思わなかっただろう。

珈琲の味に詳しくなくて、正解という形での
良し悪しを語れなくとも。結局はこの暑い日に
そう時間もかからずタンブラーを空にした事実が
何よりの感想なのかもしれない。

メロウ > 「理屈は、分かるんだけどね...」

言い訳でもなく、本当に分からないなりに見解を述べているのも、メロウは確かに把握している
それでも、そうだからこそ、『専門家』としては何度も逡巡した部分

味覚に関して素人でも、この方面で所有している知識の量は平時の学習も含めて相当な物
考えとして通り過ぎて尚、切り捨てなければいけなかった部分が数えきれないほどに存在した

ミルクも砂糖も、『飲みやすさ』だけを追求すれば準備をしていても不思議ではないのに
差し出す素振りすら見せなかったのも、理由としては貴方が推測したそれその通りなのだろう


故に、薫の手から受け取ったタンブラーを己の口に付けて、飲み残しは回収しようとの意図だった
『残される事』を前提としての行動、正しく試作品に対しての処理としての行動

中身がないと気付くのに、彼女らしかぬ間を要する

「...なくなってた、みたいだけど?」

首が傾いても、タンブラーから聞こえない水音が何よりの証拠

黛 薫 >  
「美味しくなかったら残してた」

正直な感想だが、同時に自分らしくない。
贅沢になってしまったものだと苦笑する。
生きるためなら泥水だって啜っていたのに。

そう、正しく『嗜好品』に対する扱い。
消費されたのは偏にお気に召したからだ。

「行く?」

空になったタンブラー以上の評価は不要だろう。
つられたように首を傾けて後回しにした本題、
ファッションエリアの方を軽く示した。

ご案内:「◆扶桑百貨店」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「◆扶桑百貨店」からメロウさんが去りました。