2020/07/12 のログ
雨見風菜 > ひたり、ひたりと裸足で歩き。
そうして、パーティ会場の熱気が散るのを感じる。

「あら、もう『お開き』なんですね。
 じゃあ、私も終わるとしましょうか……」

名残惜しく感じながら。
『物体収納』した衣服を着て、帰路につくのであった。

ご案内:「◆月下の痴女 (特殊Free 2)」から雨見風菜さんが去りました。
ご案内:「◆特殊領域第四円」にーーーさんが現れました。
ーーー >  
「……」

立坑の底、その中心でそれはゆっくりと身を起こした。
ぼう、とした表情で見上げた空は丸く切り取られ、その中に落ちてきそうな程大きな月が浮かんでいる。
やっと思い出した。あの夜初めて見た月の事を。

「……あんまり増えてはない、ね」

結界内に入り込んでくる者は少ない。
二級生徒も不用意に近づくことはないだろう。
風紀委員はうまくやっているようだ。
こちらとしても上々と言えるだろう。
視線を落とし、周りを見渡す。
それは夢に何度も見て、そして忘れてしまっていた景色。
……無数の死体の上に、それは座っていた。
溺死爆死焼死凍死轢死縊死圧死餓死墜死etcetc……
場面を、手段を幾万も変え、物言わぬ物体と化した同じ顔をしたそれを
興味なさげに眺めると再び空を見上げる。
この立坑はあの廃棄場の再現でもある。
あの場所にも無数の死が積み重なっていた。

「……きれー」

この結界は演算装置のようなもの。
想像、知識、経験を取り込み解析し、この場所に入り込んだ対象に置き換え再現する。
それらの結果は”川”を伝い、この場所に集まる。
時折降ってくる死体はその結果だ。初期こそ絶え間なく降り積もっていたが
ひと段落したのか降ってくる頻度もまばらになった。

「……あは。新しいモノはやっぱりなかったなぁ」

この場所は不死を殺すための模索そのものだった。
そしてその演算に坐したそれは、その全てを既に経験し終わっている。
普通であれば一瞬で死に至る程の濃密な死も思い返してみればそれにとっては日常だった。
だからこれはただの後日談に過ぎず、ただ情報の蓄積に過ぎない。
乾いた声に宿るのは苦痛でも恐怖でもなく、純粋な疲労だけだった。

ーーー >  
なぜ自分が死ねないのか。
それには多くの仮説があった。
連続性を失わない不死は物理法則を無視している。
それらを無視する外法は数あれど、”ヒトそれ自体”は物理法則に縛られた存在だ。
そうなるにはその枠からはみ出る理由がいる。

「今のところ60点ってとこかなぁ」

しかしその検証には多大なコストが必要だった。それも他者のコストが。
何度もこの規模の演算が可能なわけではない。前提条件を整えるだけでも少なくとも関係者御記憶は消去しなければならない。失敗すればやり直しだ。繰り返せばそれは歪みを産み、それが違和感となり想起するきっかけになりうる。
だから仮説のままであるうちはそれらを実行できなかった。
しかし、重要な破片は集まった。それならば”対処”するのは容易い。
事前に準備し、計画した通りに自体は動いている。

「……案外持ちそうだなぁ。ふふ、予想よりはちょっと長くなりそうだね」

消費されるリソースを確認しながら微笑む。
この調子でいけば数日でこの領域は役目を終える。
それと同時に”私”は消え去るだろう。
そして残るのは”調子に乗った悪党が、愚かにも門を開こうとし失敗した結果固有領域が再現された”という物語。
それが終わるまでの間、昼も夜もないこの場所でただじっと時を待つ。
起承転結の無い、無味乾燥なストーリー。
ただ消えるだけでも駄目だった。英雄は羨望を呼び、魔王は畏怖を呼ぶ。
そうならないためには記憶を抹消し、カバーストーリーを上書きする必要があった。
これはそのための”演目”に過ぎない。

「……そう、演劇だよこれは」

真相などに何の価値があるだろう。
愚かに、無様に死んでいった者など侮蔑と共に忘れ去られるだけ。
そしてそれこそがこの”演劇”の目的。
失敗と無様を騙るはずの演繹であったとしても、それの人生とは元々それそのものであったはずだ。
だからこれは演劇でもあり、そして一方向から見た事実でもある。
人々はわかりやすいその結末に納得し、すぐに忘れ去っていくだろう。
嘘をつくのであれば真実を混ぜよとはよく言ったものだ。

ーーー >  
この結界は外部へと作用はしない。
あくまで入り込んできたものしか対象にしない。
悪だの正義だの遊んでいた有象無象は巻き込んだがそれ自体も要素のうちだ。
”外の正義の味方”がうまくやってくれればこれ以上”被害者”も増えないだろう。
目的は速やかに、静かに達成される。

「我ながらうまくやったよね。うん」

この領域を展開した時点で既に”勝利と敗北”は決定しているといってもいい。
誰も気が付かないまま既に王手はかけられた。
真相にたどり着くにはこの場所の構造と発生、そして背景を知る必要がある。
そしてその情報は今や、自分の中にしかない。
よほどの想像力の持ち主であっても仮説を構築するだけでそれ以上は展開しえない。

「ちょっと時間はかかるけど」

これでよかった。
この程度の規模で、この内容で、この方法で。
結実の日はそう遠くない。だから

「……これで、良い。」

あとはそう、騙すだけなのだから。

ご案内:「◆特殊領域第四円」からーーーさんが去りました。