2020/07/22 のログ
羽月 柊 >  
「いい歳した人間を、走らせる…!」

零しながら走る、走る。
もう魔力も何もかもがすっからかんだ。
手の装飾品には魔力が残っていない。後は本当に英治に頼るしかない。

光の渦の前で敵をなぎ倒し、道を切り開いてくれた青年の元へ駆けよれば、
男はすっかりと息を切らしていた。

先程出た"暴力"など、欠片もこの男には見えない。

逡巡している暇も無く、光の渦へと飛び込むしかない。


――この特殊領域は、本来侵入したモノ同士が出逢うことは、無い。

だが"共通の認識"、"共通の記憶"を持つモノが居る時、
同じ場所に現れることがあるという。

英治はそれを風紀委員の調査報告で知っているかものしれない。はたまた?
だが柊はそれについては何も知り得ない。


そして彼らが、ここで出逢ったのは。

そしてそれが、何を意味するのか。

山本 英治 >  
「なんとも不健全なランニングになりましたね」

最後にそう言って二人で光の渦に飛び込んだ。
謎は謎のまま。

俺たちは白の極光に包まれた。

ご案内:「特殊領域 第三円」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「特殊領域 第三円」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「黄泉の穴 周辺」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >   
――、――。

何かが、聞こえる。

なんだ。騒がしい。

もう少し、眠っていたい…。

酷く、酷く……疲れ……。

羽月 柊 >  
『起キなさいシュウ!!!』

キュァァァと耳につんざく鳴声に、意識を無理矢理明確にさせられた。
上半身を勢いよく起こすと、余韻か眩暈を覚えて頭を振る。

「あぁ、フェリア……か……。」

手に触れる瓦礫の一片にびくと肩を揺らすが、
ここはもう過去の光景ではなかった。

近くには光の柱が、未だ神々しくその存在を主張していた。


「……あぁ、そう鳴くな……問題ない…。
 魔石分の魔力が切れたぐらいだ……怪我しちゃいない…。」

黄泉の穴の付近。

小竜たちの言い分を聞く限り、
どうやら少し前に自分は光の柱から吐き出されたらしい。
返り血に塗れていたので、それはもう大層心配したらしく、
好奇心に負けたことを怒られた。

羽月 柊 >   
周囲にかけておいた目くらましの魔術もほぼ時間が切れる。
一体どれだけ自分はあの場所に囚われて居たのか。

「お前たちは行かなかったんだな…。」

心配げに血まみれの自分に声をかける小竜たちに触れようとしたが、
英治の前で振るって見せた力を思い出し、手近な小石を指で弾いてみる。

……何も起きない。

ただ普通に小石が転がっただけだ。
疲弊で飛距離もほとんどない。ただの人間の力だった。

「――、……あぁ、いや、気にするな。」

何をしているのかと小竜に問われ、
漸く乾いた血で僅かに張る皮膚のまま、小竜を撫でやった。


 
「……しかし、このままでは帰れんな……。」

黒スーツだから大部分は目立たないとはいえ、いろんな箇所に返り血がついている。
大半は英治が倒していたとはいえ、
あの継ぎ接ぎのナニカ達をどれだけ殺したのか見当もつかない。

羽月 柊 >  
 
『楽シかったダロウ? 羽月。』

ぼやいていた柊の死角から、ぎゃっぎゃという笑い声が聞こえて来た。


ああ、ああ、今から文句を言いに行こうと思ったが、
向こうからやって来てくれるとは。

「……"ロア"、君…分かっていて話したな?」

柊の背後に立つ、ナニカ。
男とも女とも知れないしわがれた声が響く。
目深に被っている帽子の影で、ギラギラと目だけが光っている。

男の言葉を聞くと、笑い声は更に大きくなった。

『ぎゃっギャッぎゃ……"理想が見レる"。"地獄ガ見れル"。
 羽月ガ見るのハどっちカト思っテなァ。
 ソノ様子だト、どうヤら地獄だッタみたいダナ?』

ああ本当に分かっていて紹介したな、これを。
それの言葉に長い長い溜息を吐き出せば、光の柱を見上げる。

「………あぁ、地獄と言えばそうかもしれん。
 …まだ、俺たちが普通だった頃の光景が見えた。」

羽月 柊 >  
「君もちらっとだが居たよ、ロア。
 "まだ君が人間をしていた頃"だったとも。」

どうにか仕返しがしたくてそんなことを呟くが、
背後のナニカにはどうやら効果が無いらしい。『そうカ。』とだけ返って来た。


「……とりあえず、この服を弁償ぐらいはしてくれるんだろうな?」

瓦礫の一つを支えにゆっくり立ち上がる。
張り付いた血が気持ちが悪い……。

ようやく後ろを振り向き、見慣れた何かを桃眼で睨む。


『羽月の面白イ姿が見れたからナ。服もシャワーも貸しテやるヨ。
 ちゃんトついて来れるなラ、委員のヤツらにモ見つからナイダロウ。』

僅かに瓦礫の隙間から外の光が部屋に入る。

それはにぃこりと笑みを作った。
帽子から覗く口が、口裂け女かと言うぐらいに口角を上げていた。

「……君の無茶苦茶な道選びについて行かなければならんのか…。」

疲れた顔でそう言うも、相手は加減なんてしてくれない。


そうして2匹と1人とナニカは、落第街の闇へ消えていった。

ご案内:「黄泉の穴 周辺」から羽月 柊さんが去りました。