2020/08/07 のログ
ご案内:「****は彼岸まで」にキッドさんが現れました。
ご案内:「****は彼岸まで」に修世 光奈さんが現れました。
■キッド >
常世渋谷、某所。
丁度夕暮れ時の時刻、眠らない夜の街はこれからも
ネオンライトで照らされ、騒がしい響奏夜を奏でるのだろう。
そんな大通りの一角、人込みに紛れるクソガキが一人。
歩きたばこに、銀色の拳銃。白い煙を吐きだしながら
少年は一人、大通りから外れた裏路地へと入っていく────。
■修世 光奈 > 今日も今日とて。
頼られることの多い光奈は、探し物をする。
やってきたのは、まだ『浅い』時間の常世渋谷、その大通りだ。
今回受けた依頼は、派手派手な女子からの依頼。
なんでも、何人目かのカレシから貰ったキーホルダーを落としたとのこと。
そんなに何人もとっかえひっかえ…かどうかはわからないが、付き合えるのは素直にすごいと思いながらも。
(…うーん、でも、この人ごみの中じゃ…やっぱり難しいかなあ)
いくら異能に近い能力があったとしても。
可能性が0に近ければ、それは見つけ難くなる。
また後日にするべきか、と悩み始めた時。
ふと、視線の端に映る、白い煙、長身、黒い帽子。
(あ、丁度良かった。暇そうだったら手伝ってもらおっかな)
「キッド―…!、………あれ?」
風紀委員をなんだと思っているのか、と言われそうな思考だが。
前よりは気軽に声をかけられるようになった相手を見つけ。
声を出すが、その姿は裏路地に消えていく。
「―――――――……」
そう、裏路地。
常世渋谷では、一本通りを入ってしまえば…どこに繋がるかもわからない、そこ。
そんな場所に友人が向かっていくのを見てしまえば。
「――――――――……!」
怖いのは、もちろんある。
しかし、追いかけずには居られなかった。
聞きたいことがあったのもその気持ちに拍車をかける。
いくら"クソガキ"が路地を曲がっても。
心配を原動力とした光奈の足は…ゆっくりと、時折迷うように足を止めながらではあるが、少年に向かっていく。
■キッド >
光奈がキッドを追いかけて入っていった裏路地
夕暮れ時も相まってそこは薄暗く、何処からともなく漂う悪臭と湿気が強い場所。
誰も寄り付かない、と言う意味ではこれ程までに適した場所はないだろう。
だからこそ、"日の目を浴びる事のない連中がいる"。
迷いながらもしっかりと、光奈の目にはキッドの背中が見えていた。
黒いジャケットの長身、相変わらず白い煙を漂わせながら
奥へ奥へ。それこそ黒街エリアへと差し掛かった辺り
キッドの姿が曲がり角に曲がった。
■キッド >
──────程なくして、強烈な破裂音が空気を振動させる。
■修世 光奈 > 「……………」
声を、出すことができなかった
その背中が見えていても、遠い。
声を出しても、届かないのでは…そう思えるほど。
けれど、足は止まらない。
本能は警鐘を鳴らしているのに。
ここまで進んではいけないと、わかっているのに
噂で聞いたことしかない場所へと…そのまま、進んでいく。
「―――――――――――――っっ」
もう何度目かもわからない曲がり角を曲がる、その瞬間
遅れていたからこそ、『丁度』その音が響く。
咄嗟に、驚いてしまいその場にしゃがみこむ。
しかし、その先は…友人が向かった先だ。
そろりと…角から頭を出して
「き、キッド……?」
そこを、見る
■小太りの男 > 「ひ、ヒィッ!?」
■キッド >
顔を出した途端、出てきたのは小太りの男。
恐怖に表情をひきつらせた向こう側には……。
──────壁一面を染める赤。
血液だ。波紋のように広がる血液の中央には
貼り付けにされたように頭部が"欠損"した人"だったもの"。
体つきからして男のようだが
壁一面、床一面に飛び散った脳漿の鮮血が凄惨さを際立てている。
45口径の威力。まさに、小太りの男は"ソレ"から逃げていた。
「───────……。」
黒いキャップの奥、鷹のように細めた碧眼と
鈍く光り銀色の銃口が、小太りの男の背中を狙っている。
走馬灯めいて、スローに見えるかもしれない光景。
キッドに一切の躊躇はない、その眼中に光奈は見えない。
止めなければ、光奈の目の前で─────。
■修世 光奈 > 視界には、慣れというものがある。
光奈の眼は…裏路地の汚らしい壁や床の色に慣れていた。
そこに鮮烈に飛び込んでくる、赤、アカ、朱……
何なのか、全く理解できなかった。
良く見れば、それは見慣れたものだ。
女性として生まれたなら、自分のそれを見ることは…体質にもよるが、多々あるだろう
しかし、目の前に広がるのは、全くの別物。
更に…赤に混じって、何か、『見てはいけないモノ』が飛び散っている
本来、一般人が目に触れるはずもないモノが。
「―――――――――は、……っ、ぁ………?」
理解、できない。
どうして、人が
どうして、死んで
どうして、キッドが―――
そんな思いだけがぐるぐると回る。
それもそうだろう。光奈の認識では…風紀委員とは、警察に近い。
"正義"と呼べるであろうことを行う、島の治安維持を担う組織。
更に、目の前に居るのは海で…まがりなりにも遊んだ友人なのだ。
先程の音が銃声だと気づくのも、今更。
光奈の肩を掠めるように逃げる小太りの男の感覚もどこか遠い。
ここで立ち上がり、キッドの前に立ちはだかれるのは、英雄か女傑だろう。
「―――や、……やめ、て……」
――走馬灯のような光景の中。
口からでたのは、そんな、蚊の鳴く様な拒絶の声だけ
■キッド >
もう引き金は指に掛けている。
キッドの引き金は悪人に関しては非常に軽い。
まさに躊躇なく引かれるその寸前────。
「────……!?」
小太りの男が逃げる脇に見えた、少女の姿。
キッドは"目の良さ"に自信があった。
異能の関係もそうだが、銃撃戦を制するためにそういう訓練もしてきた。
だから、その目が捉えたのは……
<────……め、て……>
再び、空気が爆ぜる。
その動く口元。全てを理解した訳では無い。
ただ、キッドにとって"彼女がいること"のイレギュラーが最も銃口をブレさせた。
放たれた凶弾は狙いを逸れ、どこぞの壁へと突き刺さる。
小太りの男は振り返りもせず、逃げてしまった。
今のキッドも、追いかけるつもりは無い。
「…………。」
目深にかぶるキャップは、ねっとりと鮮血に塗れている。
キャップだけではない。余程至近距離で撃ったのか
その全身、血と肉に塗れている。
煙草を咥える口元は、引きつっていた。
同じように思考がぐるぐると頭を巡る。
「……なんで、こんな所にいやがる?」
だから、真っ先にそれを問いかけた。
■修世 光奈 > 「――――――――――――………は、ぁ…、………」
息ができない。
目の前の光景が全く理解できない。
小太りの男が居たことすら、記憶に留めているかどうか。
再びの発砲音と共に、どこかに突き刺さった弾丸もまた、意識できない。
一瞬で手足から力が抜け…友人に話しかけられても。
何とか、四つん這いの体勢から…後ろに少し倒れ、座ることができるくらい。
そして…ただでさえ大きな身長差…光奈が座っていることによって更に広がったそれのまま、見上げる。
潤んだ光奈の目に映る姿形は、見知ったモノだ。
けれど、その全身を染める赤と肉は…見た瞬間に、吐き気がこみ上げてくる。
「――――――――――――――――――――――っっっ!!!!!!」
飛び散った"新鮮な"肉の臭い。
それを嗅いでしまった瞬間、その場で、光奈は嘔吐してしまう。
げほ、ごほ、と咳き込み…胃の内容物が空になるまで。
「…………、き、きっど、…き、っど、を、おいかけ、……て……、そ、したら……、」
その後に。
ようやく、問われたことが頭に回り…か細い答えが返ってくる。
もう、何もわからない。
疑問と、異常な状況に対する反応が光奈を埋め尽くし…酷く、憔悴させていて。
■キッド >
「…………。」
流石に此ればかりは、キッドも笑ってはいられなかった。
彼女は、"普通の女の子"だ。
こんな日常の裏側、それも奥の奥を本来見るべきものじゃない。
此れは多分、つけられたか。いや、ついてきてしまったのか。
後ろにも気を配っていた。だからこそ、誰かの足音には気付いていたが
彼女が、もの探しが得意なばかりか、ついてこれてしまったのか。
……途中で振り返るべきだったか……。
酷く心に後悔が積もっていく。
無残な少女の姿を、何とも言えない表情のまま見届ければ、静かに首を横に振った。
「……アイツ等、ヤクの売人でな。コンビなんだよ。
作り手と売り手。売り手の方は先に始末したが
ありゃもう、追いかけても逃げられちまってるさ。」
よりにもよって逃がしたのが作り手だ。
だが、それ以上に様々な感情が酷く、重くのしかかる。
白い煙を、静かに吐き出した。
「……俺なんかに構わず、何時もみたいに嫌味一つで一瞥すりゃよかったのによ。」
「なんで、きちまったんだ……?」
「……なんで、よりにもよってアンタが"見ちまうかね"……。」
こんな汚い姿を、よりにもよってみられてしまった。
嫌われ役のアウトロー。
だが、少年は節度を弁えている。
この様な"側面"は決して、彼女たちに見せないようにした。
いや、どうせ此処が学園でも既に引き金は引けるんだ。
遅かれ早かれ、多分見られていた。
だから、口から出した抑揚のない声は、個人的な我儘に過ぎない。
■修世 光奈 > プリンセス、なんて。
いつもの軽口も、降ってこなかった。
白い煙は、変わらないのに。
いつもはむず痒かったそれが、酷く恋しかった。
ヤクの売人
売り手、作り手、逃げた
そんな、光奈にとっては遠すぎる情報が通り過ぎていく。
無意識に涙さえ流しながら…嘔吐していた体勢から、また何とか、顔を上げる。
見せたくなかった。
そう伝えてくる相手の言葉は、届いたから。
「で、……け、ほ、………でき、ない、よ。
だって、ここ、…危ないって。…ふうきいいん、でも、あぶない、のは…、――――――っ!」
一緒でしょ、とは言えなかった。
まだ酷く、咳き込む。
全く、慣れない。
息を吸う度に、酷い匂いが光奈の体内に入ってくるから。
ここに居る限り、その匂いが思考を乱していく。
何とか…ふらふらする体をゴミに凭れさせ、支えて。
これもまた酷い匂いだが…肉の匂いよりはマシに感じられる。
「は、は……、っ、ふ……、ど、して…?」
そんな中…何とか、絞り出せたのはそんな声。
主語も何もない、ただの問いかけ。
どう応えるかは、少年次第となる。
■キッド >
「……そうだな……。」
丁度渋谷の黒街に差し掛かった辺りだ。
ああいう連中が屯っている位、一般人には危険な場所だ。
危険なのは間違いないが、こんな彼女を放っておけない。
……かといって、"こんな姿"で何が出来ると言うのか。
自己満足と言われてしまえば、それまでだ。
この姿で、表通りに出る訳にもいかない。
自身の耳を二回叩けば、小型イヤホンタイプの通信機が起動する。
「……風紀委員会常世渋谷分署へ、キッドだ。
例の連中の一人は『止む無く銃殺』したが
一人逃げられちまった。ああ、作り手の方だ。
……悪かったって、民間人の保護を優先したからな。優しいだろ?
まぁ、そんなわけで迎えを何人かよこしてくれ。服も汚れてるからな。オーバー。」
やや一方的気味に通信を切った。
『止む無く銃殺』した。弾丸は一発、至近距離。
素人目で見ても、『殺す気で撃った』のは間違いない。
しれっと混ぜた此の"嘘"こそ、過激派風紀委員キッドの一端であり
光奈に見せたくない姿でもあった。
だから……
「…………。」
どうして、と言われると煙草を咥える口元がニヤリと笑った。
「"どうして"?決まってんだろ。相手が『犯罪者』だからだ。
人様に迷惑をかける奴は、"死んだ方がマシ"だからな。
だから、脳天に一発、ゴミ掃除さ。」
何時もの軽口、何も変わらない悪意を吐き出し
何時も通り"憎まれ役"を演じていく。
■修世 光奈 > ここがどこかも、意識から飛んでしまっている。
精々光を生み出すくらいしか能の無い一般人には、深すぎる場所だ。
ぼんやりとする頭で、相手の…風紀委員への報告を聞く
"止む無く"殺す
保護を、優先。迎え…
通信機の相手の言葉は聞こえない。
だからこそ。こんな状況でも、淡々とそれを誰かに告げる"クソガキ"に。
これが、この相手の…風紀委員の、今まで知らなかった日常なのだろうかと。
"止む無ければ"人をああも簡単に殺すのか
そして、今まで会った…気の良い風紀委員達もこうなのかと。
知らないところで、こんな世界に居ながら笑って自分の手助けをしてくれていたのか、と。
恐怖、困惑、また恐怖。
あの笑顔も、あの笑顔も、あの笑顔も。
全てが黒く塗りつぶされていくような、感覚。
――――――――全部、隠してたんだ
――――――――×××も、×××××も、みんな、みんな。
そんな、黒い思いが光を染めていく
■修世 光奈 > ―――ふと、閉じかけ、涙で歪む視界に映る、白い煙の元。
歪む口元に咥えられている、タバコ。
それが、目もくらむような思い出を、一瞬奮い立たせる。
(……違う―――…、………)
アレが無かった時。逆に、あった時。
彼は、どうだった?
『探す』
彼にかける言葉を、探す
まだ、迎えが来るには、時間はあるだろうか。
相手が憎まれ役を演じる台詞の後。長い…沈黙の後。
「……タバコ、吸わずに、…………同じこと、言って、よ。
……それなら―――――――――」
何の迷いもなく、軽蔑できる。
ただ、もし。それができないなら。
そんな希望とも言えない。
あの時見た光景に、言葉に縋った何かを、"悪意"にぶつける
■キッド >
「───────……。」
口元の煙草を咥えたまま、白い煙を静かに吐き出す。
相当なショックなのは間違いない。
暫くは口も利けるかどうか……と、思った矢先に飛んできた質問。
黙った。キッドは、何も言わずに、黙った。
"そして、目を逸らした"。
何も言わない、"何も言えない"。
彼女を、直視出来ない。
『その言葉の意味を、理解しているから』
このまま早く、時間がたつのを待つ気だ。
つまりそれは、"逃げている"。
彼女の"悪意"に返す言葉が無いから、逃げている。
■修世 光奈 > まだショックが抜けていないし、涙も勝手に出てくる。そのせいでずっと涙声だ
お気に入りの私服は吐しゃ物で汚れてるし、見るも無残な有様。
立ち上がる気力もまだ当然、湧かない。
だから、相手が…別の場所で別の風紀委員に拾ってもらう――などの手段を取ってしまえば。
光奈には、どうすることもできない
「―――――――――!!」
そんな状態ならば…相手は、煙に撒いて時間を稼げばまだ良かったのだろう。
光奈には確信など、どこにもなかったのだから。
ただ、眼を逸らした。
何も言わない。
それは…今の光奈の心境から考えれば――
できない、と取っても仕方がない。
「……こっち、向いて、よ…っ、っ、!、は、…っ!」
言葉の合間に、空えずきが続く。
もう吐き出すものも残っていない。
唾液が少し飛び散るだけだ。
相変わらず、一瞬冴えた思考は回り続けてくれない。
「や、だよ。……ずるい、よ……き、っど…」
肺が腐りそうだ。
こんな空気を、吸ってきたの。
もし、何か理由があるなら。
どんな理由でも、人殺しは…あくまで一般人な私には、受け入れられないかもしれない。
でも、このまま有耶無耶にされるのは、耐えられない。
「なにか、いってよ、―――――――――――――…バカ、バカ、キッド…!、せんぱいに、はなしてよぉ…」
だから、少しでも。
後輩と話したくて。
またばらけてしまって、纏まらない思考のまま、言葉を出し続ける。
どれだけ辛くても、黙ってしまったら、終わる予感がしたから。
■キッド >
「…………ッ。」
悲痛な声だった。
……キッド"は"初めて、そんな声を聞いた気がする。
縋るような声。誰かに疎まれたり、憎まれたり、後ろ指をさされたりするような"悪意"じゃない。
ろくでなしを気取る"少年の心"にストレートに突き刺さる"感情"。
何て言えばいいんだ、此の感情は。わからない、"わかりたくない"。
視線は未だに、合わせない。
"合わせる顔もない"。
男として情けない姿だと思う。
だが、こんな血塗れの姿なまま、何を彼女に言えばいい。
……煙草を咥えているはずなのに、指先が震える。
表情が、酷く苦痛で歪んだ。
「……俺に……。」
白い煙を、吐き出した。
「……俺に"今更"、何を話させってんだい?アンタは……。
こんな格好じゃ、アンタを慰めることだって出来やしないのに……。」
「こんな有様見ても、アンタ……俺に、何を求めるんだ……ッ?」
必死に声を絞り出し、"抵抗"する。
何に対しての"抵抗"かも、わからない。
ただ、此れ以上踏み込まれてしまっては、役割<ロール>が崩れる危機感を持っている。
少年の、なけなしの抵抗だ。
■修世 光奈 > 「――――――――……」
やっと答えてくれた。
それだけで、ほんの僅かに楽になる。
こんなのは自己満足に過ぎない。
どんな理由でも受け入れられない可能性があるのなら
その先を聞くのはただのエゴだ。それでも…
「なん、でも。……だって、先輩、なんでしょ、わたし…、っ」
言葉を続ける。
喉がからからだ。
カラオケで何時間も歌った後より酷い。
逆流した胃液に焼かれ、今にも血がでてきても不思議ではなさそうなほど。
「なんで、こんなこと、してるの、とか。…は、…っ、どうして、たばこをいっつも吸ってるの、とか…、すきなものとか…よく考えたら、何にもしらない…
ひとごろし…は、……よく、わかんない、けど、っ、…ヤ、だけど……、そういうこと知らずに…きっどのこと、嫌いに、なるのは…はやいって、思ったから…」
これが見ず知らずの相手なら。
ただ単に叫び声をあげて…その後はなるようになれ、だったのだろう。
けれど、海で、街中で。
不器用な優しさと言葉に触れたから。
「なぐさめ、は、―――、あとで、いい。また、はいちゃいそう、だし…、だけど……、にげ、ないで。わたしを、…先輩を、信じて。…ね?」
震える袖で自分の口元を拭ってから…届かないまでも、相手に手を伸ばそう。
嫌われる可能性もある、という。
少年にとっては…悪意に変じる可能性も感じられる言葉は、どう受け取られるか。
■キッド >
「…………。」
先輩、何でしょ?
その言葉に、僅かに目を合わせた。
揺れる碧眼。憐れみとも、悲しみとも違う。
何と言うべきか、悩みに悩んで泳ぐ視線。
此処で突き放すは、きっと簡単だ。
だけど、キッドは知っている。
こんな暗闇で一人取り残される恐怖を、怖さを、心細さを。
……かつて自分が、"子ども"だからって、親に取り付く島も無かったあの寂しさ。
「…………ハァ。」
溜息が、白い煙と共に漏れた。
口元から零れるように、煙草が零れる。
小さな小さな灯が、路地裏の床を僅かに照らす。
そして、首を振って、今度こそ光奈の方を見た。
「……敵わないな……。」
憎まれ役らしく、放っておくべきなんだろう。
そもそも、初めから無理矢理表に引っ張っていくべきだったかもしれない。
けど、そんな事は出来なかった。
力なくはにかむ"少年"は、膝をついて視線を合わせて、伸ばす手をとった。
ごつごつと、歪に歪んだ、少年のものとは言い難い手だ。
未だ、キッドの全身からは血の臭いがこびり付いて取れない。
「……最初から逃げればよかったのに。
なんでそんな心配事なんかして、"人殺し"なんですよ?
彼等だけじゃない、僕は、もっといっぱい殺してる。」
「……いっそ、嫌ってくれた方が楽だった。
そう言うのは、"逃げ"ですかね……?」
それでも、あの海で見えた一時と変わらない雰囲気の少年が、そこにいた。
「"人殺し"のことなんて、詳しく知らない方が良いに決まってる。
憎まれ役の正義のアウトローの事をずっと、適当に扱ってくれればよかったのに……。」