2020/10/04 のログ
神代理央 >  
「…冗談を言っている場合か!再生はどうした、お前の、異能は……!」

へらへら、と笑う彼女の下に跪く。
流れ出る血と、瓦礫の粉塵が己の小綺麗な制服を赤と黒で汚す。

「それとも、回復魔術の方が良いのか。いや、再生を阻害しているものがあるのか。何か、何か出来る事はないのか…!」

己の制服のポケットを震える手で、焦った様に弄る。
出て来るのは、裏常世渋谷探索用のアイテムが少数。
チョコレートや飴玉等、糖分を補給する菓子が少々。

――それだけ。それだけである。
どうすれば良いのか、分からない。
何故彼女の異能が発動していないのか。
何故彼女は、再生していないのか。

冷静に考えれば、彼女が本来の危機に陥った時、肉体の一部を転移させて死を回避する事は情報として知り得ている事。
にも拘らず、こうまで焦ってしまうのは。その情報が、頭を過らないのは。
"仲間"を撃ってしまったという、激しい罪悪感だけが思考を支配しているが故か。

「死ぬな…頼むから、死んでくれるな。どうすればいい。どうすればいい!」

怪我人にするには些か乱暴であるかもしれないが、彼女の肩を掴み、揺さ振ってしまうだろうか。
それくらい、今の己は冷静さを欠いている。

日下 葵 > 「落ち着いてくださいよ。
 鉄火の支配者ともあろう人がなんて顔してんですか」

死んでくれるな、なんて言って肩をゆする様子に、思わず笑ってしまった。
なんでこんなに取り乱しているのだろう。
そんな疑問が頭に浮かぶ。

「鉄骨……鉄骨のせいです。
 鉄骨が邪魔で」

そういって、己の腹の上に敷かれている車両の残骸を見る。
人が一人で持ち上げるにはいささか重量の過ぎるそれ。

徐々にしゃべる力を失って、一言一言が短くなる。
唇が紫色へと変色し始めると、いよいよ転移魔法が働く頃合いだ。

ニコニコと笑みを浮かべていると、すっと流れ出る血液の拍動が止まった。
血液を送り出すための器官が、止まった>

神代理央 >  
「てっこつ…鉄骨、これか。これ、か」

視線の先に映る、彼女の躰を押し潰す鉄骨。
ふらふらとソレに手を伸ばすと――何の躊躇いもなく、肉体強化の魔術を最大出力で発動させた。

強化といっても、本来は防御面に特化した魔術である。
部分的な肉体能力の強化に用いる事はあっても、基本的には"打たれ強く"なる為の魔術。
それを、全て筋力に回す。何時ぞや吸収した、精神に干渉する魔力の残照すら、注ぎ込む。

結果として、華奢な少年の見栄えからは想像も出来ぬ程容易く、あっさりと。
彼女を押し潰していた鉄骨は持ち上げられ、車外へ放り投げられるだろう。
だが、それで彼女の回復が間に合うのか。再生は、間に合うのか。

どんどんと顔色は青白く。唇は、生者のものではない色に染まっていく。
その様を、半ば茫然とした表情で、唯、見下ろしていた。

日下 葵 > 拍動が止まって数秒。
血液の生成も止まり、あとは体内にある血液が重力にしたがって自然に流れ出るだけの状態。
後は残った酸素を消費して、本当に死を迎えるだけの状態。
もうとっくに転送魔法が発動して、身体の一部を飛ばしているはずの状態。
しかし、首のチョーカーも、腕に巻いたリボンも、一向に仕事をする様子はない。
それどころか、チョーカーの示す模様は”転送済み”を示している。


「――ッはぁ――ッ!」

そんな中、彼が魔術を使って鉄骨をどかした。
そこからさらに数秒の沈黙。
全く動く様子のない身体が突然、水面から顔を出したときの様に大きく息を吸い込んだ>

神代理央 >  
彼女が死にゆく様を、唯眺める事しか出来なかった。
もう、血液が川の様に流れる事も無い。
惰性と慣性の儘に、彼女の躰から失われていくばかり。

間に合わなかったのか。
再生の異能は、発動しなかったのか。

――そこで、ふと彼女の首元のチョーカーに視線が彷徨った瞬間。

「……う、わ、っ…!ま、まにあった……のか…?」

突然、陸に上がった魚の様に息を吹き返した彼女に、驚いた様な声と共に態勢を崩して尻餅をつく。
制服のあちらこちらが彼女の流した血で染まっていく中で、それでも。
ぽかんとした様な声と表情を、彼女に晒すことになるだろうか。

日下 葵 > 「うえ、寒い。すっげえ痛えし。
 あーあ、お気に入りの服だったのに」

息を吹き返すとその直後、
鉄骨につぶされて回復が阻まれていた下半身が急速に回復していく。
まるでプラナリアが断面から回復するかのようなその様子は、
傷口を見るよりもグロテスクだ。

そして意識を取り戻した瞬間に発した言葉は、
普段家にいるときのような砕けた口調。

本人はまだ混乱しているのか
本能的に”自宅に飛ばされた”と認識していているようで、
すぐそばで呆気にとられている彼に気付いていない。

「服着よ、寒いわ。
 って、はぁ?転送されたんじゃないのか?
 てか、何、どこ、ここ」

混乱していて、言っていることに一貫性がない。
混乱というよりも、
生きた細胞の体積が3%を下回ったことによる記憶障害のようだった>

神代理央 >  
「くさか……?日下せん、ぱい?私が分かりますか。此処が何処だか、分かりますか」

急速にその形を取り戻す彼女の躰。
どうやら、異能による再生は間に合ったらしい。
良かった、とほっと息をつきかけたのもつかの間。
今度は、彼女の発言が微妙におかしい。
意識混濁という訳では無いが――どうにも、混乱している様に見える。
今何処にいるのかも、判断しかねている様な。

「…と、取り敢えず…服が必要であれば、私の制服で良ければ。
寧ろ、それくらいしかないが…」

とはいえ、混乱しているのは此方も似た様なもの。
彼女を気遣う様な言葉を投げかけながら、先ずは血と埃塗れの制服の上着を脱ぎ去って、彼女に羽織らせようとして――

――取り敢えずは、衣服を纏わぬ下半身へ、毛布の様に被せるに留める。
その間にも、気遣いと焦りが半々と言った様な視線で彼女を見つめているだろうか。

日下 葵 > 「いやいや、おかしいだろ。 どうなってんだって……」

回復したときの感覚的に、転移魔法が作動するほどの損傷だったと察した。
となると、ここは風紀委員会の本庁か自宅のはずである。
しかし、転移魔法は作動してくれなかった。
てっきり自宅、あるいは本庁のつもりでいたものの、
そこに広がる光景は上下に両断された車両と埃っぽい空気。
そしてどうしてこんな状況になったのかを、未だに把握できないでいる。

そんな時、声をかけられた。

「えっと、神代――君じゃあないですか?」

さっきまでの粗雑なしゃべり方が、ぎこちなく普段の口調に戻っていく。
なんでお前がここにいる?と言わんばかりの視線。
そして差し出される彼の上着。

だんだん状況を理解してきた。
というよりも、身体が回復するにしたがって、記憶が戻ってきた。

「あーっと、確か”街に呑まれて”朧車のなかに転送されて、
 脱出しようとしたら神代君のビームを喰らって――」

――死んだ?


上着を受け取りながら、一つ一つ確認するように思い出していく>

神代理央 >  
普段の彼女とは異なる、少々乱雑な言葉遣い。
所謂『素』の彼女はこんな感じなのか――と感慨に耽る余裕はない。
何せ、再生の異能を持つ不死に近い彼女が己の眼前で死にかけた――或いは、実際に死んだのかもしれないが――挙句、再生した後の記憶が混濁している様に見える始末。
何か再生に不具合があったのか。何か問題が発生したのか。
不安は募る。気は焦る。
だが、そんな中。彼女から投げかけられる、己の名前。

「……ええ、そうです。神代です。取り敢えず、私の名前は覚えていてもらえた様で、何よりです」

深く、深く、安堵の溜息を吐き出した。
此れで此方の名前まで覚えていないとなれば、流石に焦ってしまう。
上着を受け取った彼女の様子と、投げかけられた言葉の口調に、取り敢えずは危機的な状況は回避したのかと、再び安堵の溜息を吐き出した。

「――先輩がどうやって此処に迷い込んだのかは、私の知る所ではありませんが…。少なくとも、その記憶に間違いはないと思いますよ」

図らずも、己の方も彼女が何故此処に居たのかという答え合わせになっている。
街に飲み込まれた挙句、朧車の客車内とは。今迄に無いパターンであり、全く想定していなかった事態。
それが、己に彼女を――仲間を撃たせる結果となった挙句。

「………そうです。その通りです。私が、先輩を。先輩を。
撃ちました。殺しました。朧車ごと、薙ぎ払いました。
全部その通りです。先輩の、言う通りです」

彼女の言葉を肯定し、力無く地面に座り込んだ。

神代理央 > 【セーブ!後日継続にて中断!】
ご案内:「裏常世渋谷」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」から神代理央さんが去りました。