2020/10/06 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に日下 葵さんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」に神代理央さんが現れました。
■日下 葵 > 「あーっと……なるほど。
つまり随分といろいろ不運が重なったわけですね?」
一つ一つ記憶を整理していく。
断片的な記憶しかないが、
なんとなく時系列に沿って出来事を整理することはできた。
受け取った上着を着て、
彼が目のやりどころに困らないように隠すべき場所を隠せば、
改めて状況を振り返った。
「それにしても、よりにもよって朧車の車内ですか。
殺しただなんて、考えすぎですよ考えすぎ。
とはいえ、転移魔法は働かなかったんですかねえ?
――あー、なるほど。道理で記憶が断片的なわけです」
首に巻いてあったチョーカーを外して書き込んである魔法陣を見ると、
そこには”転送済み”を意味する印。
「空間の位相が歪んでいたせいでうまく転送されなかったんですねえ。
それで回復限界点を下回ったせいで記憶が断片的にしか残っていないと」
そうしてあたりを見ると、薙ぎ払われたことで分断されたスキニーが、
ボロボロの状態で落ちていたのを見つける。
よく見ればパーカーの裾なんかもすり切れていた。
「いつまで座り込んでるんですか。
結果オーライですよ。生きてるんだからいいじゃあないですか」
へたりと座り込んでいる彼を見て、ヘラヘラと笑って見せる。
まるで気にしていないと言わんばかりの、
拍動が止まる前と同じ笑顔>
■神代理央 >
「…そういう事になる、のでしょう。不運というには、私の責が些か重いと思われますが」
座り込んだ儘、こくりと彼女の言葉に頷く。
此方も漸く落ち着きを取り戻してはいるが、寧ろそれ故に押し寄せる罪悪感に視線は下を向き続けるばかり。
「――私も、朧車の車内に誰かが取り込まれている可能性を考慮せず、戦闘行動に入りました。
…まして、転移魔法が働かなかったなど。私は、本当に先輩を、殺してしまう、ところでした…」
考え過ぎだ、と言われても。
転移魔法の不発やその原因を語る彼女の言葉は、己に重く響く。
超常的な再生能力を持ち、不死に近い異能を持つ彼女。
死から遠い存在とも言えた彼女を、己は、殺してしまうところだったのだ。
「………死んでしまうかもしれなかったんですよ。
先輩は、私に殺されてしまうかも知れなかったんですよ」
「私が!先輩を殺してしまうところだったんですよ!
なのに何で、そんな笑っていられるんですか!」
「詰れば良いでしょう。責め立てれば良いでしょう。
碌な確認もせず、戦闘行動に移り、先輩を焼き払おうとした私を!
罵倒すれば良いでしょう!」
キッ、と視線を上げて彼女を睨めば。
吐き出す様に、叫び声を上げる。
仲間を撃った事実への自責に耐えかねると言わんばかりに、吐瀉物の様な叫びを、彼女にぶつける。
■日下 葵 > 「責ですか、責ねえ……」
座り込んだまま、まるで子供が癇癪でも起こしたかのように叫ぶ彼。
ヘラヘラと笑った表情が次第に真剣なものに変わって、
彼の言葉を、叫びを黙って聞いている。
ひとしきり彼の声が静まって、その反響が消えると口をゆっくりと開いた。
「まぁ、業務的なことで責を詰めるなら、それは後々の話でしょうねえ。
過失が全くないといえばそんなわけはありませんし?
神代君、君は私をどういう存在だと思っています?
私がどういう気持ちでこの組織にいると思います?」
まるで諭すように話し始めるその口調は、
いつものふざけた口調とは全く違っていた。
しかし、怒気を含んでいるわけでもない。
「私はね、いつでも死ねる様にここにいるんですよ。
死んでなんぼです。
もしここで死んだのなら、今がその時だったんでしょう」
その口調はあくまでも淡々としていて、不気味なほど冷静だった。
「それで神代君が気を落として、責任感に苛まれてしまうのなら、
それは少し残念ではありますが――」
――君は仕事をしただけじゃあないですか。
「むしろここに飛ばされたのが私で幸運でしたよ。
私じゃなければ間違いなく即死だったわけですから?
『そこにいたのが葵先輩でラッキー☆』
くらいの気持ちでいればいいじゃないですか」
「それとも貴方の気持ちを楽にするために、
責め立てたほうが良いですか?」
――それは甘えですよ、甘え。
最後の一言だけ、妙な冷たさをはらんでいた>
■神代理央 >
彼女が告げる言葉を、力の宿らぬ瞳で聞き入れる。
彼女の血を吸って重たくなった制服が、妙に煩わしい。
「……それは、死にたがりとか。自死願望とか、そういう事…ではないのでしょうね。
死にたい、のではなく、死ねる様に、ですか。
厭世観と言うべきなんでしょうか。先輩のその思考は」
ひとしきり叫んだ後、という事もあって唯でさえ気力の抜けた己の言葉には、何時もの傲慢さも、覇気も何も無い。
感情の籠らない言葉が、彼女に返される。
「日下先輩だったから、ラッキー、だったと?
仲間を吹き飛ばして、殺しかけて、それが死に至る様な対象では無かったから、幸運だったと思え、と。
――…ええ、そうですね。その通りかもしれません。
現に私は、仲間を殺す事は無かった。こうして、無事に会話をする事が出来ている」
そして、冷たく投げかけられた言葉に。
責める事すらしない彼女に。
一瞬、びくりと僅かに肩を震わせて――
「…………そうですか。ええ、そうですね。
甘え、甘えでした。軟弱な思考だ。他者からの責めによって、自己保身を図ろうとする唾棄すべき思考だ」
「結果論から言えば、朧車は無事に討伐され、犠牲となったものは…先輩の衣服くらいで済んだ。
怪異の内部へ引き込まれた人間がいた事を考えれば、奇跡的な犠牲の少なさです」
「お見苦しいところを、お見せしました。
先輩の仰る通り、自分を甘やかそうとしている面が、確かにありました。
深く謝罪し、今回の件についても私からきちんと報告書を提出させて頂きます」
紡がれ始めた言葉に、もう気弱な色は無い。
かといって、意気軒昂という訳でも無い。
機械音声を神代理央の声質で喋ればこんなものだろうか、と言う様な、そんな言葉と声色で。
にこり、と彼女に笑みを浮かべて立ち上がるのだろう。
■日下 葵 > 「以前、神代君が入院したときにお見舞いに行ったの、覚えてます?
あの時に私は君に午時葵をおくったと思います。
別にあれ、嫌味とかではないんですよ」
――いや、半分くらい嫌味でしたけど。
「午時葵の花言葉、『私は明日死ぬだろう』。
別にこんな状況になったからこんな話をしているとか、
そういうわけではありません。
”間違いなく私はそういうつもりで普段から生きています”
厭世観なんでしょうか?
私は結構楽しく今を生きていますよ?
希死観念もありませんし、後ろ暗いこともありません」
――ただ、それが私の使命だと思いますし、
私にとっての適所だと思っています。――
もう私は、誰かに優しくされるには傷を負いすぎた。
今更身体が二つに分断されようが、運悪くそれで死んでしまおうが、
そこに大した差なんてないのだ。
「もし私を死の淵に立たせてしまったことに自責の念を抱くなら、
その気持ちはもっと死にやすい人に向けてください?
――責任感を感じるくらいには、神代君も優しいんですから」
立ち上がった彼の方を叩くと、ニッコリと笑った。
(いいですねえ、いい顔をしますねえ)
その腹の内は、打ちひしがれた彼を楽しんでいた。
この顔を見れるなら――
" 死 に か け る な ん て 安 い も の だ ">
■神代理央 >
「そうですか。楽しまれている様なら何より。
何時死ぬとも分からない。死ぬかもしれない。先輩の異能を持ってしても、それは不意に訪れるかもしれない。
そういう心構えで、先輩は過ごされているのでしょう?
良いではありませんか。普通のヒトらしくて」
"何時死ぬか分からないから、そういうつもりで普段から生きている"
それは、彼女の様に超常の再生能力を持たずとも。不死の異能を持たずとも。
万人が持つ共通の概念だ。己とて、自己の異能や魔術に矜持を持つ故に早々簡単に死にはしないと自負しているが――それくらいの心構えは、持っている。
というより。己に敗北して死した者が。奪ったものが。余りに多過ぎた。
彼女の言葉は、それを再確認させてくれたようなもの。
「死に易いとか、死に難いとか。そういう事ではありませんよ、先輩。
組織の仲間に。戦線を共にする者に砲火を向けた。その事実に責を抱いているんです。
謂わば"業務上の過失"への責です。死のうが生きようが、関係ありませんよ」
「故に、先輩には謝罪しなければなりません。
故に、私は責を感じなければなりません。
それが義務であり、規則であり――風紀委員として、あるべき姿でしょう?」
笑みを浮かべる彼女に、穏やかに笑い返す。
彼女の言葉は、己の精神を傷付けたとか、抉り抜いたとか、そういう事では無い。
唯――認識を、思い出させた。そういう姿であるべきだと、再び理解させられた。
彼女は言ったではないか。『甘え』だと。
未だ未成熟な精神の己には、それが一番明確に、理解と納得のいく言葉であった。
「立てますか、先輩。流石に女性をこんな場所に何時までもへたり込ませているのは、本意では無いのですが」
穏やかな笑みの儘、手を差し出した。
血と埃に汚れた儘の、男子にしては薄汚れた小さな手。
■日下 葵 > 「ええ、そういうことです。
並大抵のことでは死にませんが、不死が約束されているわけじゃない。
存外、死のうと思えば死ねるものですよ。人間って。
だから私は死を恐れない。
私が本当に死ぬときは、最善を尽くした末に死ぬんです」
かつて、私にあらゆることを教えてくれた師も、
不死に慢心して死んだ。
死んだ挙句、報告書で『対策を怠った結果』と評された。
そして死んだ後に教え子である私に好き勝手言われている有様だ。
――私は彼とは違う。私は己の力に慢心してしくじったりしない。
死ぬときは最善を尽くした結果の死だ。
死んでなんぼとは思っても、死にたがっているわけじゃない。
「そうですね。業務上の過失はあるでしょう。
そこはしっかりと反省してもらいましょう。
だから、私が今神代君にどうこう言ったりはしません」
「とはいえ、位相のズレた空間で転移が上手くいかないというのは問題ですねえ。
これは純粋に対策が必要でしょう。
今後、裏常世渋谷や位相のズレた空間で任務することもあるでしょうし」
最善の末に死ぬといった手前、
今日明らかになった問題は改善しなければならない。
不死に慢心して死ぬものかと誓ったのだから。
「ん?ああ、確かにどうにかしないといけませんねえ?
――男の子には少々刺激が強すぎますか?」
異能柄、回復した後に全裸、何てのは慣れっこだったが、
慣れているから許されるというわけではない。
差し出されるその少し小さい手を取れば立ち上がろうか>
■神代理央 >
「…私は、此の世界に『不死』などあり得ない、と信じています。
どの様な者にも、どのような存在にも、神様にだって。
何れ必ず、終わりは訪れる。
だって、此の星ですら、太陽ですら、何十億年という時間の果てに死を迎えるというのに。
タンパク質の塊に過ぎない私たちが『不死』だなんて、烏滸がましいと思いませんか?
だから、先輩の考え方には賛同しますよ。
私だって『選択と行動』の結果、私自身が死に至るのなら、それは仕方のない事だと受け入れますから。
そうならない為の正しい選択を、私達は常に強いられている」
『最善を尽くす』事と『選択を誤らない』事。
似て非なる信条ではあるが、全く違うという訳でも無い。
例え、死にやすさだのなんだのといった所が彼女と違えども、死生観は案外似ているのかもしれない。
そんな事を考えながら、懐から取り出した煙草に火を付ける。
「…そうですか。であれば、苦情諸々は書面にて受け入れます。
ああ、私が提出する報告書にはちゃんと目を通してくださいね。
事実と異なる部分があれば修正しますから」
「異界、異空間での転移魔法の不発は憂慮すべき問題ですね。
私からも、先輩を朧車戦へなるべく宛がわない事。
帰還用のアイテムを融通する様に上申しておきましょう。
通るかどうかは、分かりませんが」
彼女が朧車戦だの異界探索を望むなら話は別だが。
彼女の希望を考慮する、と。淡々と告げるだろうか。
「さっきまで肉塊になっていた人に言われても、残念ながら刺激も何もありませんね。
冗談を言う余裕があるなら、帰還した際の身だしなみに気を遣うくらいの事はして頂きたいものですが」
小さく溜息を吐き出し、彼女の手を引いて立ち上がらせる。
此方も制服の埃を叩こうとして――其処で漸く、己の制服が血と埃に塗れている事に気が付いた。
僅かに表情を顰めた後、諦めた様に朧車の残骸を乗り越えて。
先ずは車外へ出ようと、足を進めるだろうか。