2020/11/21 のログ
ご案内:「離断之章」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
ご案内:「離断之章」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
今宵のスラムも、砲火と悲鳴。そして、銃声。
漆黒の装甲服とガスマスクに身を包んだ男達が、摘発の名の元に住民を狩り続けている。
――しかし、その数は数日前に比べると少ないもの。
大所帯、という程のものではない。精々、十数人程度のものになっているだろう。
その代わり目立つのは――様々な砲身を背中から生やした異形達の姿。
多い、等というレベルではない。
下手をすれば隊員よりも多いのではないか、という数の多脚の異形達が、巨大な質量を感じさせる足音と共に、スラムを闊歩している。
「……抵抗は無意味だ。逃走も無意味だ。
速やかに身分証を提示し、此方の指示に従う事」
スラムに響く涼やかな少年の声。
しかして、その内容は穏やかではない。
「とはいえ、無抵抗の儘で居る事が我慢出来ぬ、という者もいるだろう。それは理解出来る。例えば、其処の連中の様に――」
まるで此の街の――彼等の支配者の如く傲慢に振る舞う少年に、怒鳴り声と共に駆けよる男達。
身に纏うのは襤褸切れ。手に持つは棒切れ。少年どころか、隊員にすら敵わない様な、貧相な身形の男達。
「……抵抗は無意味ではあるが、行う事を禁止はせぬよ。
唯その場合は……」
異形の一体が、砲身を軋ませる。
その異形が掲げるのは、航空機や駆逐艦に搭載される様な大口径の機関砲。
直撃すれば装甲戦力ですら破壊し、その連射力は光線の如し。
本来、ヒトに向けるべきではない、ソレを――
「……ああいう風に、なる」
鉄火の暴風が、迫りくる暴徒に振るわれた。
当たれば、身を引き裂く…等というものではない。
正しく、粉微塵。数秒と経たぬうちに、其処に出来上がるのは人間だったものの残骸。
湯気を立てて、右足だか左足だかの欠片だけが、ふらふらと大地に佇んでいた。
「ハンバーグの具材になりたいものは、何時でも来ると良い。
さて…それでは。状況を、開始せよ」
住民達の悲鳴と同時に――装甲服達が、動き出した。
■紫陽花 剱菊 >
───────夜の帳を、一条空先、音響く。
曇天の夜、月明りさえ届かぬ根の底にて、燃え広がる焦熱。
さながらここぞ地獄の窯か。阿鼻叫喚、弱き民の嘆きは泡沫の如き儚さ。
怒りとは届かぬものか。猟犬が動き出した時、其れを制止させる一矢が刺さる。
猟犬たちの足元に突き刺さる幾本の矢。
一歩、歩み早ければ貫かれていたは猟犬の足。
「……其処迄だ。」
猟犬の足止め、焦熱の対岸より、民の嘆きより出る。
男は、其の手に漆の弓を握り、腰に携えしは打刀と小太刀。
今や時と曇天、夜風に攫われれば、差し込む月輪の光を受け、紫紺の鞘が映し光る。
紫陽花 剱菊。此処に推参。刃の如く、鋭い眼光は猟犬と、其の飼い主へと向けられた。
「かつて、最初に相反した時と変わらぬな。
否、互いの状況が少しばかり違うか……。」
互いに刃を交えたあの一夜。
あの日の記憶と、相違無く。
然れど、此の焦熱地獄より呼び出されたるは、確固足る理由が其処に在り。
矢筒より一矢用いては、弦に添えて弓引いた。
矢先、向けられるは其の金糸揺らぐ飼い主の額。
「……今更とは言わん。過ぎたるは及ばざるが如し。
随分と見ぬまに、其方の目も曇ったようだな。」
変化の兆しも、今や悪しき方向へと傾いたとみる。
険しい表情を崩さぬまま、声音は冷淡に、そして失意に満ちていた。
「公安より、既に事情は凡そ把握している。……故に、其方の行いを理解出来ん。
……今すぐ、手を引くが良い。以降、二度と猟犬が放たれる事は無くなる。……既に一手、動いている。」
事の終息は始まっている。
然るに、此処で刃交えるなれば、其の血は慰めにもならぬと説く。
乱世に生まれ、戦場で生きようが、争いを好むに非ず。
無血で終わるのであれば、其れに越した事は無い。
「……"終わり"だ、理央。せめて潔く、舞台から降りるが良い。」
■神代理央 >
男の獲物を照らす月光は――再び曇天に覆われる。
厚く、昏く、重い雲が、二人の姿を陰らせる。
やがて放火と硝煙と、瓦礫の山と。居並ぶ全ての者に――冷たい雨が、降り出した。
降りしきる雨の中。
隊員達の足を止めた男の姿を見つめる少年。
その瞳に浮かぶのは、如何なる感情か。
驚愕の色は薄い。男が其処に立っている事を。"此処"に在る事を。
全て分かっている。理解している。してしまった。
そう言いたげな、穏やかな視線。
「……私を止めに来るのは、きっとお前だと思っていたよ。
私を斬りに来るのは、きっとお前だと思っていたよ。
私の前に立ちはだかるのは、きっとお前になるだろうと、分かってはいたよ」
突然現れた闖入者に、威嚇よりも先に怯えと驚愕を見せる隊員達。
それは、現れた公安の男を知る者が複数居た事も、理由の一つなのだろう。公安の侍。剣客。『トゥルーバイツ』の長を、捕らえた男。
猟犬達の主たる少年の声色により驚愕の色を深くするだろう。
此れ迄少年が、現れた敵対者に対して穏やかに語り掛ける事など無かった。
尊大と傲慢さを過剰に盛り付けた敵意を、必ず見せていたから。
その敵意と、尊大さに怯えながら、住民達を狩るのが狗達の仕事だったのだから。
しかし、少年が紡いだ声は、何処か諦観すら感じさせるもの。
或いは、僅かながら悲哀の色すら滲ませているだろうか。
弱気、と言い換える事すら出来るかの様な主の姿に、隊員達の間に動揺が走る。
「……まあ、此処で血を流すかどうかはさておき。幾つか質問しておきたい。
風紀委員としての、質問だ。
別に答えずとも良いが……まあ、聞くだけ聞いてくれても良いだろう?」
まるで、街中で再会した友人に世間話をするかの様に。
穏やかな声色で、言葉を続ける。
「まず一つ。現役の風紀委員に刃を向ける、という事は相当な事だ。
公安が動いているというから、大した心配はしていないが…"終わった後"に、違反部活や犯罪者共が跳梁跋扈する様な隙を、与えないで欲しいものだな」
懐から取り出した煙草に火を付け乍ら、首を傾げる。
二人の間に漂うのは、甘ったるい高級煙草の紫煙。
質問、というよりまるで事後の引継ぎの様な確認事項。
「二つ目。私の行いは非道ではあるが、決して誤っているとは思わない。
人道と良識だけが、正しき王の姿で無い事は、きっとお前にも理解を得られる筈だ。
それでも、それでもお前は。私が引かなかった時は、刃を向けるというのだな?」
二つ目は、それぞれの立ち位置と思想について尋ねる様なもの。
己は、謂わば必要悪である事を認識している。
それを、悪と断罪する覚悟と正義があるのか、と。
「………そして、最後の質問だ。
なあ、剱菊。俺は、お前と戦いたくはない。
けれど、此処で引く事も出来ない。
どうか、どうか。退いてはくれないか。
俺が正道を、王道を進んでいない事は理解している。
それでも、それを妨げる理由が。此処に住む連中の為に、お前が血を流す必要が。刀を振るう必要が。
果たして、あるのか?」
親衛隊の様に傍に控える二体の大楯の異形が、降りしきる雨から庇う様に盾を掲げる。
雨音に遮られながら、彼に向けられる言葉は―-余りに小さく、そして、力無いものだっただろうか。
■紫陽花 剱菊 >
月の蒼光差し込むたるや、夜風が運ぶは時雨時。
焦土への慰めか、或いは死者への手向けか。
全身を濡らす小夜時雨さえ、今や気にはならぬほどだ。
其れほどに今、此の身は熱く、心はさめざめと冷え切り、刃の如く研ぎ澄まされる。
「…………」
乱世を生き抜く成ればこそ、猟犬の態度一つで実力の程は計り知れる。
酔った狸だ。駄馬にも劣る。斯様な輩迄雇わねならぬ程だったか。
弓柄を握る手に入る万力は、其の"汚名"を知ればこそ、理央の事を思えばの無念。
元より、"鉄火の支配者"の名は畏怖で在れど、志は認めていた。
然れど……。
「……正しきを成すと申すか。其方のやり方を理解せぬ訳では無い。
其方の今迄の行いも知っている。……故に、"是以上"は見過ごせん。」
過激派と称される成れど、何れ穏やかに形を変える。
変化の兆しは、人との拘い在ればこそ、理央の変化に期待をしていた。
其れは恐らく、其のやり方を黙認していた輩も相違無い。
同じ貉と誹られても、返す言葉は剱菊には無い。
「……すまなかった。」
故に、謝罪が自然とまろび出た。
こうなるまでに、何も出来なかった己の不甲斐なさを。
──────然れど。
「其方の行いを、理解している。不毛で在る。
此の戦に、意味は無い。……私も同じだ。」
──────然れど。
「……故に、"退けん"。」
──────然れど、其れは聞けぬ甘言也。
眼力、衰える事は無く時雨を縫って理央を射抜かざれば、瞳孔見開き見据えた。
「道を違えたと理解しているからこそ、私が此処にいる意味を理解しているはずだ。
……後の事は気に掛ける必要は無い。既に、公安も動き始めている……。」
力無き理央の声音を打ち砕くが如く、淡々と述べる。述べざるを得ぬからこそ。
「……"成すべきを成す"。外道と知りつつ歩むので在れば、必定也。」
道を違えた時に、刃は振るわれる。
交わされた契りを無碍には出来ぬ。
例え、同じ気持ちを抱えようとも、剱菊は"出来る"。
故に、異邦人。生命の比重、重さを理解出来ようと、心の枷、余りにも今世生きる者よりも緩い。
■神代理央 >
二人を、漆黒の装甲服を、怯える住民達を。
全ての者に平等に降り注ぐ雨は、まるで死者の体温の様に仄かに冷たい。
しかして、向かい合う男はその冷たさを弾き返すかの様な熱さを持つ男。
対面する己は、雨を拒絶するかの様な大楯の影で、雨と同化した様な冷たい体温。
二人の差は、明確な熱量によっても露わになっているだろうか。
「…成程。理解した上で。此れもまた、正しき行いだと知った上で。
それを過剰な暴力だと言う訳か。
過剰な暴力は、決して正しき行いではないと、その刃を向けるわけか」
彼の返答も、分かっていたと言わんばかりに。
それは、智者や賢者を気取る様なものではない。
彼ならきっとそう答える――そう分かっていて、そういう質問を投げかけたのだ。
だから、此れは。此の質問そのものが茶番であり……儀式の様なもの。
「……どうして謝る?私は、お前がきっと、私に刃を向けると分かっていたよ。
だから、部下を集め。だから、強者を集めようとした。
お前と戦いたくない。或いは、お前に怯えていたからだ。
笑うと良い。私は、お前が怖かった」
明確に己の弱さを露呈する主の姿に、漣の様な驚きを見せる隊員達。
しかし、彼等に視線を向ける事は無い。
今は唯、彼と己と。二人の決着を付ける為の、最後の儀式が行われているだけなのだから。
「……そして、お前が退けぬというのなら。
私にも退けぬ道理と理由がある。
私にも、成すべき事と、理想がある。
例えそれが、多くの屍と、多くの想いを踏み躙るものであったとしても――」
「――私は、決して立ち止まりは、しない!」
男の言葉に応える様に、脆弱な雰囲気は掻き消えた。
其処にあるのは、風紀委員でも、特務広報部の部長としてでも無く。
「……私は、鉄火の支配者。――俺は、神代理央。
俺が是迄積み上げた屍を無にせぬ為に、俺は退かない!」
「もう、事後の事など知った事では無い。
後顧の憂いなど、気に掛ける事も無い。
俺は、俺が成すべき事の為に。
俺の障害を。俺の理想を阻む者を。俺を、止める者を――」
「――紫陽花剱菊。お前を……撃つ!」
吠える少年。
その言葉と同時に、全ての異形の砲身が――轟音と共に、震えた。
大砲。機関砲。火炎放射器から榴弾徹甲弾等々。
多種多様な"鉄火"が、今、放たれた――
■紫陽花 剱菊 >
「────────……」
何とも下らぬ問答であろうか。
其れが如何なる意味をしているのかと、互いに理解を得ている。
互いに其の行いに、蛮行に理無きと理解している。
狼狽える猟犬でさえ、鉄火の支配者が傅ける犬でもあるまい。
如何ばかり戦人と成ろうと、憂いを帯びた表情、哀れみばかりは隠せぬ故に。
是が──────……。
「是が、斯様な在り様が鉄火の支配者……ましてや、神代 理央で在るものか……。」
名乗りを敢えて、否定せしめた。
否定せねば、成らなかった。
幾たび汚名を被り、何れ濯がれようとも、いわんや"此の茶番"だけは認める訳にはいかぬ。
睨み合う両者。弦が撓る程に、懇親を込めて引き絞り────。
「────────!」
同時に一矢、放たれた。
鉄火の怒号とは違い、一矢は夜空目掛けて天高く、闇夜に消ゆ。
一矢放ち、止まるはずも無し。流れるように素早く抜かれた打刀。
抜刀一つ、虚を裂く乾いた音と共に砲弾を一つ、二つ。
甲高い鉄の音を虚空に響かせ、次々と鉄の雨を薙ぎ払う神速の刃。
戦人として、乱世を生き抜いてきた其の目は、初見と違い無造作に放たれる鉄火に"慣れている"。
斯様、銃弾は剱菊に触れる事無く悉くを舞う銀刃が斬り落した。
地に、空に、瓦礫に、機関砲の弾は弾ける。
「……私に恐怖しているので在れば……。」
空気が僅かに、破裂する。
鉄火に紛れ、闇夜に輝く紫紺の瞬き。
刹那、振り下ろされしは雷轟の一刀。
劈く雷が地を砕き、榴弾を、炎を迎え撃ち、轟音に次ぐ轟音にて剱菊の姿は炎に呑まれ……────。
空を、裂く音。
間髪入れず、辺りを包む炎から飛び出したるは矢。
一矢一矢、猟犬へと向けて放たれている。
避けれぬので在れば、装備の隙間より肉を食い破るのみ。
其の命中の是非を問わず、再び紫紺が爆ぜる。
小夜時雨に瞬く紫電の光。雷、一薙ぎにて周囲の炎を振り払った。
雨濡れる剱菊に迸る、紫電の光。銀の切っ先が、理央へと向けられた。
「──────因果応報。今こそ報いを受ける時だ。」
────雷霆囂々。一切合切を斬り捨てた"雷神"として、此処に立つ。
弱き民に強いた恐怖を、今こそ其の身で味わう時也。