2020/11/22 のログ
■神代理央 >
そう、実に下らない問答だ。
刃を向ける男も。向けられる少年も。
その理由も行いも全てが茶番である事を理解している。
理解した上での、問答。理解した上での、蛮行。
其処に何の意味があろうか。
……いや、己には、此の問い掛けだけは必要だったのかもしれない。
友と語らう時間。最後にそんな時間を取ったのは、何時の事だったか。
--そんな想いも。交わすべき言葉も。紫電と雷光。そして、人理の鉄火によって、呑み込まれていく――
「いいや、此れが俺だ。此れが、鉄火の支配者だ!
戦場に何を求める!其処に綺麗事などあるものか!
此の世の戦など、所詮は全て茶番であれば!
人が、武器を手に取って争う理由等、生きる為に不必要な事ばかりだ!
であれば、此の世の闘争は全て茶番であり、同時に、全てが正しいものだ!
如何なる闘争も、如何なる争いも……其れを焼き尽くす!
理不尽な暴力と、傲慢な鉄火で全ての闘争を終わらせてみせる!
ならば、此の有様も。此の愚行も!否定させぬ、否定など、させない!」
砲火と砲声に紛れて、男にぶつけられる感情と言葉。
流れ弾に当たらぬ様に、必死に逃げ惑う隊員と住民達。
振るわれる鉄火が、雨の降りしきるスラムに、火の手を広げていく。
とはいえ、激昂しながらも戦況を見据える思考は悲しいまでに合理的なモノ。
男に、通常の砲撃が通用しない。人理の質量は、届かない。
それは、或る程度覚悟の上。まあ、精々足止めになれば良い、くらいのものでしかない。
それで、男を止められるとは微塵も思っていない。
必要なのは、次の手を打つ為の、間。
「……全員、下がれ!貴様達でどうにかなる相手ではない!
撤収しろ!生きて帰れ!猟犬なら、勝てぬ相手に挑む愚行を犯すな!」
無事に逃げられるかなど、知った事では無い。
それでも、この戦いに"弱者"を巻き込む訳にはいかなかった。
まして、不揃いとは言え己の部下。無為な死は、与える訳にはいかない。
「……相変わらず、化け物染みた身体能力よな。
しかして、それは此方とて把握している。
異邦の剣客。公安の剣士。お前に、並大抵の砲火が通用しない事は、良く理解しているよ」
切り裂かれる砲弾。
弾かれる弾丸。
ソレらを眺めながら、吠えたてて僅かに乱れた吐息の儘――小さく、笑った。
「だから、此方も最初から手札を温存はしない。
出し惜しみはしない。それが、礼儀というものだろう?」
此方に剣先を向ける男。
その男に向けて、ぱちり、と渇いた音を立てて指を鳴らす。
その瞬間、上空に顕現するのは――眩く煌めく、銀色の巨大な球体。
小雨降りしきる廃屋の街を照らす、人工の満月。
無数の小さな従僕を、まるで鰯の群れの様に周囲に引き連れた真円の異形が――上空から、場を見下ろす。
「…言っておくが、今回は周囲の事など考慮しない。
さあ、俺を止めてみせろ。悪逆を、虐殺を、暴虐を!
俺を止めて"英雄"になってみせろ。剱菊!」
再び吠える少年。
その感情の発露に促されるかの様に――光が、奔る。
真円と、その周囲の群れる球体から。
音も無く放たれた、無数の光線。
男を、住民を、街を。全てを焼き払うかの様に放たれる光。
未だ続く砲撃に混じった破壊の光が、男に迫る。
■紫陽花 剱菊 >
怒号と叫び。
吹きすさぶ焦熱が、雨の冷えさえ忘れさせる。
夜風は熱風成りえて、小夜時雨は鬼雨の如く、勢いを増すばかり。
雑言が如く、音が混沌とする最中でさえ、其の叫びは確かに聞こゆる。
「…………」
────私には、其ればかりも嘆きに聞こえるとも。
戦人が戦場で無用な言葉を交わさず。
元より、寡黙な男で在るが故の気質で在る。
一言の至らず、と愛しき夕暮れに窘められた事在れど、此の鉄火には届くまい。
見開き瞳孔、其の一挙一動見逃さず。
是にて、対峙せしめるは雷神と鉄の百鬼夜行也。
獲物を狩れぬ猟犬に価値は無く、背を向けた兵を討つ真似はせぬ。
情けで在る。故に、向かってくる悉くを迎え撃つのみ。
「──────……。」
宵闇に、月輪が上がる。
蒼月ではない。銀月、無数の銀星を従える鉄の異形。
初めて見る異形成れど、一切の油断はせず、力を以て、押しつぶす。
打刀の背を肩で担ぎ、両手でしかと柄を握る。
銀月が宵闇に輝いた刹那、雷が疾る─────!
振り下ろされた銀の刃と共に放たれる紫紺の刃。
紫電、刃を駆けて己自身を刃と化し、一薙ぎ以て無数の光雨と相打たざり。
まさに、夜に瞬く恒星。ぶつかり合う紫電と光が交錯し、轟音なりて落第街を眩く照らさん。
町を、民を焼くはずの光は、闇夜の奇蹟と相成りて……。
「……!」
然れど雷神、手を緩めず。
即座に瓦礫に切っ先を突き刺し、手早く構えた漆の大弓。
矢筒より取り出し矢を引き絞り、其の全身駆け巡る紫電は矢先へと集まった。
「────……一矢一殺……!」
怒号と共に、放たれた。
鉄火の如き雷鳴轟き、一矢は雷となりて夜を駆ける。
最早、矢ではなく、大地を穿つ稲妻なれば、如何なる護りだろうと打ち崩す。
星ごと貫し、紫電の一撃。夜を駆け、星を焼き、月に開けたる穴は砕くには十分也。
一矢一殺の謳い文句に偽り無し。是ぞ、雷神の一矢なれば……。
「英雄、か……私には程遠き御言葉……。」
果たして、人に持て囃される姿如何か、其の身を以て知るが良い。
稲妻は一度では終わらぬ。時雨の隙間を稲光。刹那、理央の頭上より一閃、紫電は降り注ぐ。
鉄火を打ち払う直前に、天へと穿った一矢也。
刻を置き、虚を衝く狙いの一撃だが、果たして。
■神代理央 >
運良く。或いは、運悪く。
逃げに転じた隊員達は、追われる事は無かった。
負傷した者を抱え、足を引き摺りながら――此方を気遣う事無く、漆黒の装甲服は退いていく。
それで良い。そうある為に、憎まれ役を買っていたのだ。
生きて彼等の元に帰れれば、説教くらいはしてやろう。
そんな少年の想いと裏腹に、戦場の轟音は鳴り止む事は無く。
破壊の津波は、未だ轟くばかり。
放たれた光。人理の叡智が生み出した、何物をも滅する光。
誰も救わず、誰も照らさぬ、破滅の光線の群。
しかしてそれは――
「……アレを防ぐか…!しかし――!」
そう何時までも躱し切れるものかと。
此方の異能の強みは、何よりその手数と質量物量。
休息を与えず、平穏を与えず。
輝く人工の満月は、必殺の光を絶え間なく吐き出し続けていた――のだが。
男が放った、一本の矢。
システマチックに自動防御を行う、真円。
無数の従僕が、拒絶の光を。膨大なエネルギーを収束したバリアを展開。
万が一、此のバリアが破られたところで、真円の異形には自己再生の能力がついている。
故に、是迄この異形は無敗。破壊される事の無かった、己の切り札。
『鉄火の支配者』が、その砲火で天空をも支配する象徴。
しかし、それは――
「………っち、出鱈目か!」
星穿ちの一矢。雷光の極致。
人類は、雷に神の姿を見た。旧世紀において、米国は自国が開発した強力な兵器に『神の雷』と名付けた様に。
それが、従僕の護りを貫き、真円を貫き。
一瞬の静寂の後……月は、地に堕ちた。
爆音と轟音を上げ、再生する事も叶わず。その巨体を軋ませ、火焔の衣を纏いながら。
悲鳴の様な音を立てて、廃屋の集う区域に文字通り――墜落し、大爆発を起こした。
それと同時に、天空から迫る一矢。
最初に放たれた一撃。己を貫かんとする狂矢。
それに、少年が反応する事は能わず。其処までの武人の様な術も技術も、持ち合わせていないが故に。
されど――少年を護る"親衛隊"は、容易にソレに反応する。出来てしまう。少年に、未だ終わりを許さない。
機械の複眼は天空の一矢を捕え、二体の大楯の異形は、その歪なまでに発達した金属の健脚で飛び上がる。
人間でも、此れほどまでに連携出来るものかと言う様に、華麗に二対の大楯を交互に構え、矢を受け止めて。
其の侭、盾を振るい、矢を弾き飛ばした。
「……バベルの守護者を破壊するか。成程、侮っていた訳では無いが…!
だが、しかし。強大な一体を屠ったところで!我が軍勢が、我が従僕の群れが留まるものか!」
「此の世界は、未だ争い絶えず争う為の術も手段も知恵も、不必要なまでに発達した!此の世界の"戦争"には、最早英雄は存在しない!
勝者足り得るのは、物量と火力を効率良く投射する"軍"。それを――教えてやろう、剱菊!」
だから、男に英雄になって欲しいのだ、と。
その言葉は、己の内奥に留め置いた儘。
星穿ちの一矢を放った男に、変わらず降り注ぐ砲火の雨。
しかして、その射線とタイミングが変化している事など、男には容易に気付ける事だろう。
全ての砲が一斉に火を噴くのではなく、グループに分かれ、砲種に分かれ、間断なく、絶え間なく。
射線も、バラバラと放たれていた無作法なものから、火線が十字に重なり合い、先ず"点"の密度を上げていく。
それでいて、タイミングをずらし始めた砲撃は、十字を形成するもの以外は、回避の及ばぬ様に"面"を砲弾で埋め尽くしていく。
争い続けた人類が、砲兵の戦闘教義として成立させた『ドクトリン』
戦禍の知恵こそが力なのだと、叫ぶ少年に応える様な鉄火の暴風が吹き荒れる。
されど――其処に一つの隙。正しく、戦線の穴。
男に対応する為に、その攻撃力と質量の全てを注ぐ多脚。
そして、親衛隊は『矢』に対抗する為に上空。
つまり、大楯の異形が天空から舞い戻る迄の一瞬。刹那。
少年を護るモノは、無い――
■紫陽花 剱菊 > 【幕間、一刻お開き】
ご案内:「離断之章」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「離断之章」から神代理央さんが去りました。