2020/12/26 のログ
ご案内:「違反部活群」に日下 葵さんが現れました。
ご案内:「違反部活群」にジーンさんが現れました。
日下 葵 > 12月24日。聖なる夜、なんて呼ばれる日の前日。
太平洋の海に浮かぶこの島にも、今日は深々と雪が降っていた。
雪のせいか、雪が降るほどの気温のせいか、あるいは聖夜の前日だからか、
歓楽街から程遠くないこの場所は、いつも以上に静かだった。

――この場所を除いては。



「さて、今日のうちに吐いてもらうと助かりますねえ?
 一応こんな仕事をしていても明日は予定があるので。
 あまり遅くなると明日の予定に響きます」

ガスマスクを被り、ペンチとアルミホイルを持った女が椅子に括り付けられた男に近づいていく。
金具で無理やり口を開けられた男は、涎と血液の混じった体液をダラダラと滴らせて叫んでいた。

ここが違反部活群にある廃ビルの一つではなくて、
ここにある赤が血液ではなくて、
楽し気に笑う女が持つのが拷問に使う器具ではなくて、
椅子に座らせられているのが犯罪者の男でなければ、
きっとここに広がる風景は微笑ましかっただろう。

――でも、ここに救いはない。>

ジーン > クリスマス・イブ、なぜかは知らないが恋人たちにとっては前夜祭のほうが重要である。
それをすっかり失念していたジーンは出来たばかりの恋人との予定をクリスマス当日に取ってしまっていた。

そして、しょうがなくここしばらく出来ていなかった落第街での情報収集をそんな浮かれた日に行うことになってしまった。
しかし雪が降る廃ビルの立ち並ぶ区画では情報どころか人通りすら無い。今日は空振りかと諦めかけた時、風にのって血の味が鼻腔を通じて舌に届く。
その血は苦痛と悲しみ、そして幾分かの諦観に満ちていて、ある特定の状況下にある人間が流す血の味だとすぐわかった。
拷問を受けている人間特有の味だ。

"獣"が関わらない事なら、人間同士が何をしようと勝手だ、普段のジーンなら、狩人としてのジーンなら無視していただろう。
だが、明日会う予定の恋人をふと思い出してしまった。違法部活同士の構想ならどうでもいい、だがもし彼女の同僚である風紀委員が拷問を受けているとしたら。
そう考えると、足は血の臭いが濃くなる方へ向かっていた。

廃ビルの一つ、その一室。酔いそうなほどの血の臭いがそこで行われている凄惨な行為を扉越しにでも物語っている。
ピッキングツールを作り出して、慎重に鍵を解除する。古い物理鍵はほとんど音を立てることなく見知らぬ相手を主人と勘違いしてその役割を放棄した。
古びたドアが耳障りな音を立てながら開かれる。



目に入るのは赤い服を着た男と、パーカーを着た小柄な人物。男の服が赤いのは血染めなせいだ。
知っている体格、知っている匂い、ボディラインを隠すパーカーがなくて、部屋を満ちた血の臭いがなければジーンはそれが誰か気付けたかもしれない。
「メリークリスマス、最近のサンタは悪い子に拷問をするのかい?それともそっちは新米で、サンタの服は血で染めるのがルールとか?
 何にせよ、神の御子が誕生した聖なる夜の前夜にやるべきことじゃないと思うけど。」
軽口を叩きながら、ずかずかと部屋に入っていく。

「もしかしてサタニストかい?まぁ信仰は自由だけど、そっちの彼が風紀委員だったら私は止める、そうじゃないなら見なかったことにしてさようならと行きたいんだけど、どうかな。」
ジーンは気付けなかった、先入観があったのかもしれない。人間として生きはじめた彼女がこんな事をするわけがない、と。

日下 葵 > 「さて、今の貴方の状況を説明してあげましょうか?
 貴方は既に下の奥歯を2本失っています。
 この時点で相当な痛みでしょうけど、
 ここで情報を吐かなかった貴方にはまだ続きがある訳です」

そう言って男の前に立つと、アルミホイルの切れ端をペンチで奥歯に被せた。
途端に男が悲痛な声を上げると、じたばたと暴れ始める。

「ええ、アルミニウムはアマルガムと反応して酸化します。
 つまり電流が流れて神経を刺激するんですねえ。
 これは覚えておくといいですよ」

なんて話をしていると、背後から声をかけられた。
全く気配を感じさせない侵入者に、振り向きざまとっさにナイフを抜く。

”なんで、何でジーンが?”

ガスマスクのレンズ越しに、目が開く。
口ぶりからしてまだ私を私であると認識していないようだった。

「――……」

どうしようか。ここで声を出せばきっと私だとわかってしまう。
でもこの状況は不味い。
少なくとも、この男が風紀委員ではないことを示さなければ。
でも声は出せない。

そんな思案をして、沈黙が続く。
正確には、男の嗚咽だけが響く。
しかし彼女は、ジーンはここで気付くかもしれない。

――抜かれたナイフが、過去に手合わせをしたときに己を切り裂いた、
  特性のナイフであると。>

ジーン > いつもの薄ら笑い、いつもの黒い服と白い肌、包帯、床を濡らす血より赤い口紅とハイヒール。
他の誰とも間違えることのないスタイルでジーンはそこにいる。
激痛に呻きながら男がジーンを見る。
「そこの君、助けてくれるのか?って目だけどまだわからない。そこの拷問吏の答え如何だからね。」
それで、と言いかけて、抜かれたナイフにこちらもナイフを抜く。
「おっと、まだ始めるつもりはないよ、私が聞きたいのは……」

そこで気付く、ナイフを構えるフォームが、抜かれたナイフが、あの夜の決闘と同じことに。
浮かべていた笑みが消える。
「………質問が変わった。君はそのナイフをどこで手に入れた?それと構えについても、もし君の答えが『ナイフはさっき拾ったもので、この構えはこの島なら誰でも知ってるメジャーな流派だ。』だったら私は君のことをハグして帰るよ。」
そう言ってから、深いため息。そんなわけはない、そんな都合のいい現実があるはずないのだ。
例え同じナイフを使い、同じ流派を学んでいるとしても、他の人間と間違えるわけがない。

それでも一縷の望みとともに、相手の答えを待つ。

日下 葵 > 「……少し、事情が変わりました。今ここに貴方が居ると邪魔です。
 貴方から情報を聞きだすのはまぁ、別にいつでもできますから」

そう言って男の拘束を解くと、男に麻酔の錠剤と袋に入ったガーゼを渡す。
追い出すように男を蹴りだせば、男は化け物から逃げるように走って行ってしまった。

「質問に答えましょうか。
 このナイフは私が特注で作ったものです。
 この構えは私の師が、私のような”存在”の特性を”活かせる”ように編み出した構えです。

 そして――」

ガスマスクのベルトを緩めて、その下に隠していた素顔を見せる。

「私は風紀委員会刑事部所属、日下葵です」


申し訳なさそうに、しかし落ち着いた雰囲気で、恋人と対峙した。

ジーン > 唯一の出口である玄関へ向かって走る男のために一歩横へずれる。
転びそうになりながら、這い出すように男が出ていけば。ナイフを袖に仕舞って軽く宙で指を振る。
ドアがひとりでに、乱暴な音を立てながら閉まり、鍵がかかる。

ジャケットの内ポケットから煙草を取り出して咥える。指を弾くと青い電流が走り、火を灯した。
「ガスマスク女、という噂を聞いている。そいつに目をつけられたら最後、拷問を受けて洗いざらい喋らされるそうだ。
 楽しそうに、嬉しそうに、あらゆる手段で人を痛めつける悪魔だとか、そんな話さ。」
一度言葉を切って、紫煙を吐き出す。血の臭いに薔薇の香りが混じり、異様な匂いが部屋を漂う。

「風紀委員だとはわかっていたが、君だとは思わなかったよ。これは風紀委員からの命令でやっていることかい?それとも、君の趣味かい?」
感情を抑えた、ゆっくりとした口調。冷え切った視線が包帯越しに葵にも伝わるだろう。
ジーンは怒っている、だがそれは、他に生き方を知らない恋人に向けたものではない、そう仕込んだ彼女の師とやらや、それを止めもしない風紀委員という組織に向けられている。

日下 葵 > 「おや、噂になっていましたか。
 一応表沙汰にはならないようにしていたんですが、
 生きた人間の口をふさぐのは難しいですねえ?」

煙草を吹かし始めたジーンにあわせるように、
こちらもナイフをケースに納めて煙草を咥える。
血の匂いが立ち込める空間に、2本の煙草の匂い。

「……私が化け物と呼ばれる所以がわかったでしょう。
 これは私の趣味と、私が所属する組織の意向、両方です。
 おおむね、ジーンがこの街で聞いた話は本当でしょうね。
 多少の尾ひれはついていても、もとの話は真実ですから」

紫煙が、ため息の様に吐き出される。

「利害の一致ってやつですよ。
 私は誰かに痛みを与えたい。組織は汚れ仕事をやってほしい。
 誰も損をしない。どれだけ倫理的にアウトなことをしていても、
 治安維持のために犯罪者を痛めつけたって誰も文句を言わない。
 そしてその事実は表沙汰にならないよう私も組織も”うまく”やって来た。
 犯罪者だって拷問されて情報を抜かれるようなことをやって来たから表立って抗議できない」

そんなことを淡々と述べていく。
ジーンから送られてくる視線は、12月の夜の空気よりも冷たい。
それでも、お構いなしだった。
だって、事実だから。


「これが日下葵という存在です。
 これが私の在り方です。
 不死身なだけじゃない。

 ――失望しました?」>

ジーン > 淡々とした告白を、煙草を咥えながらじっと聞いている。
そして、紫煙とともに口を開く。
「失望?確かに私は怒っている、失望もした、今すぐぶん殴ってやりたい。
 でも、君に対してじゃない。君にそんな汚れ仕事を押し付けながら、化け物呼ばわりしている風紀の連中に対してだ。」

怒りの強さを示すように、一本目の煙草はすぐにフィルター近くまえ燃え尽きた。二本目を銃を突きつけるように空気を切り裂くような勢いで取り出す。
火を点ける雷光も明らかに過剰な出力で。視線に熱が籠もる。
「嗜虐趣味?他に発散する方法を探せばいいだろう。それが在り方だって?冗談じゃない。」

フィルターを噛み潰しながら、顔を近づける。
「決めたよ、葵。君のその趣味は私が封じる。少なくとも、合意のない相手には振るわせない。
 それが日下葵という存在なら、日下葵の在り方なら、私が変えてやる、変えてみせる。」
唇を吊り上げ、犬歯を見せつける獰猛な、いつか見せた笑み。

「悪いが君の意志は無視する。これは私のわがままだ、エゴだ。愛する人に後ろ暗い道を歩いて欲しくない、そう私が思ったから、君の人生を曲げさせてもらう。」

日下 葵 > 「他に探す?合意のある相手?
 そんな相手、どこで見つけるんです。
 『ちょっと憂さ晴らししたいから、痛めつけてもいい?』って聞くんですか
?」

そんな相手、ペットくらいなものだ。
他に探したってどこにもいない。

「他の方法で発散できるなら、とっくにやってますよ。
 わかりませんか?うまくいかなかった成れの果てが私です」

目の前に迫る獰猛な笑みを目の前に、こちらはピクリとだって笑わない。
まるで映画の結末を知っているかのような表情。

「エゴでも何でもいいですけど、私は辛うじて人間に戻った存在です。
 今更この生き方を変えるつもりはないですし、変えようとした先の私です」

――どうやって変えるんですか。

まるで鼻っから期待などしていないような、そんな顔。
いや、期待していないというよりも、諦めたかのような顔。
既に曲がり切ってしまったこの生き様を、今更どう曲げて矯正するというのか。>