2021/11/30 のログ
■黛 薫 >
自分で分からない感情を相手が理解出来るか否か。
混乱の中にいる自分よりは冷静な判断が下せるの
ではないかという気持ち、ヒトならざるモノ故か
絶妙に機敏に疎い彼女では難しいだろうという
気持ち、両方が浮かんで、混ざって、薄らいで。
温もりが離れていく。
「ぁ」
それはもう香りに頼らずとも安らげる空間の
準備が出来たという宣言。それなのにむしろ
不安が膨らんで、怯えるような寂しげな声が
微かに零れ落ちた。
咄嗟に伸ばした手は上手く動かずに空をかいて、
行き先も定まらないまま温もりを求めて動く。
■『調香師』 > 実際の所、分かる筈もない
結論が出せるまで、その動きが止まっていては相手を満足させることも出来なかろう
「ん」
そうして目を開こうとした直前に
足掻く指先が、自身の胸元に重なる
とくん、と。何かが重なった音がした
「あなたは。私を求めてるの?」
問いかけ。これが3回目の問いかけ
薄く開いた眼が、柔らかい笑みを形作る
■黛 薫 >
指先が胸元に突き当たる。安堵というより不安の
低減に近い、ざわつきが溶けていくような感覚。
自覚してしまったのは離れたときの不安と寂しさ。
それは何も今だけ降って湧いた気持ちではなくて、
ずっと心の中に押し込めたまま直視しないように
暴れないように飼い慣らし続けていた感情。
「……怖ぃ、んだと思ぅ」
「色んな気持ちが、あって。もし溢れてきたら
ココロが傷付く予感だけがあって……あーし、
きっと、そんなキモチに、蓋をしてんのかな」
「あーたに限った話じゃ、ないのかもだけぉ。
心を許すと……その蓋が緩んで、溢れそうで。
なのに、離れんのはもっとイヤで、怖くて。
離れるくらぃなら溢れた方がマシって思って、
だからって溢れる怖さが無くなりはしなくて」
未整理の感情の中、分からないなりに繋がった
部分を慎重につまみ上げて舌の上に乗せてみる。
力の抜けた手が貴女の胸を撫で下ろすかのように
するりと落ちていった。
「……求めてる、って。離さなぃで欲しぃって。
そぅ、言ったら……受け入れて、くれる?」
力なく怯え、震えるような声。
嘘と虚勢で自分をも騙して、自分の気持ちさえ
分からなくなった黛薫が漏らした一欠片の本心。
■『調香師』 > 「私は、お客様の前ではその人の為の『調香師』になる
今のままじゃ、本当の意味で貴女だけを受け入れる事は出来ない、かな?」
黙っていても良い筈なのに。そんなことを口からするすると
貴女の言葉に呼応する。取り繕っても良い筈の言葉が暴れ出す
「前も言っていた、一番のお話
あなたは一番を決められない。もっと、全部捨てても良い物を知っていたから
私も同じだよ。私も、今までの約束、やり取りを全部失える
あなたの『お願い』も効かない。だって、私が望んでる事だもの
私は、私を受け止めてくれる人が欲しい
私は、誰かのものになりたいんだ
私は、求められたとしても...聞き返す事しか出来ない」
『お願い』で起こり得るだろう、強制的な行為・服従
それらには肯定的。何故なら、主を得る満足感が得られるから
それが恒久的な物であっても、あったならば
太古に置いてきた自身の最大の喪失を埋め合わせる事になるから
問わなければいけない。彼女は、貴女の機微が読み取れない
一度鳴った胸の奥は、新たなオーダーを求めてから回っている
次に作る香りは、どのような物?私の身体は『主』を求めている
先走った揮発の香りは、甘ったるく濡れている。理性が、揺らぐ
「それがあなたの為ならば
あなたも私を、受け入れてくれる?」
求めているのだろうか。曖昧な疑問には、私も疑問から探る
『貴女にその気はあるのだろうか』、と
■黛 薫 >
それが『人の為』ならば、心が拒否するような
内容でも首を縦に振った『人形』。そんな彼女が
『相手の言葉』をそのまま受け止めず自己意思で
言葉を紡いでいる。
『自分の望み』を口にしている。
裏を返せば、それは一言『是』と答えれば
互いの望みを埋め合うことが出来るとの言。
甘い香りに理性が蕩けていく。
ごくり、と喉の音で音が鳴った。
けれど。
「……じゃあ、今は……ダメ」
振り絞るように、泣きながら呟いた。
後ろ髪を引かれるほどに名残惜しそうで、
だけど首を縦に振るのを我慢した。
「もぅ、誤魔化しようは……無くなってるんだ。
あーしは、あーたを求めたぃ。離したくなぃ。
同じように求めてって言われたら応えたぃよ。
望んでるよ。欲しぃんだもん」
「だけど、ダメなんだ。それじゃ、不誠実なんだ」
「同じように……あーしを、求めてるヒトがいる。
今の感情を優先して、それを見なかったコトに
しちまぅのは……最悪だもん」
「どっちにも、失礼だよ、そんなの」
大粒の涙が溢れる。今の身体では自分の流した
涙を拭うことすら叶わなくて。泣くほど求めて
いるのに/求めているから、心疾しいところの
一切を許せない。
「なんで、どうして」
「あーしみたぃなのが、裏切りたくなぃ人たちに、
出会っちまってんだ。どっちかなら良かったとか、
そんな自分本意すら、言ぃたく、なぃのに……」
■『調香師』 > 「いひ、そう」
貴女の返答で、浮ついていた部品・定義は固定された
ぎり、回りそうになっても噛み合ってしまっては動かない
「ずるいけど。私、今はそんなあなたの方が好きかも?」
立ち上がり、彼女はシャワーの栓を締める
蒸気が包むこの部屋も、次第に薄れ冷えていくだけ
彼女が立ち上がった箇所の水溜まりは、濃厚に甘ったるい
「私はあなたの一番に並んでる。なんだかやっぱり、聞くと嬉しいんだね
誠実とかは、あんまり参考にならなくてごめんね。欲しがってもらいたいのが私だから
それくらい。今日のマッサージはおススメしない
欲しいならまた後日。今日のシャワーのお代は要らないから」
私は何を伝えたいのか。自分でも、計りかねる
きっとあなたの抱いていた混沌と似たような気持ち
「立てる?」
■黛 薫 >
口を開き、零れそうになった言葉を飲み込む。
感情に任せたら、きっと求めてしまうから。
甘ったるい香りに思考がぐらぐらと揺れて、
求めたら駄目なのに求めたい感情が膨れ上がる。
「……ズルく、なりたくなかったよ」
懇願するような声音。ギリギリ最後の一歩を
踏み出さないように理性で自分の首を絞める。
切なげな声音、熱を帯びた視線、蕩け綻んだ
身体、その全てが貴女を求めて、欲しがって。
それでも言葉には出来ないのだと。
「オススメ、とか。言われなくても……分かる。
だって、されたら……絶対、欲しくなる」
「……ごめん、立てなぃ」
魔力に依存する身体操作は扱うための精神が
乱れると最も容易く使えなくなってしまう。
きっと今扱おうとしても、出来るのは貴女に
手を伸ばすことだけ。
結局のところ、自分は未だに逃げ続けている。
求めて、求められたい相手。何方かを諦めるか、
折り合いの付け方を探すか、それとも他の道が
あるのか分からないけれど。もうその気持ちを
押し込めてはおけないのだと分かってしまった。
(……話さなきゃ、ダメ……なんだろ、な)
整理が付かないなりに貴女には吐き出したから、
次は……『もう1人』と、腹を割って話さなければ
進めないのかもしれない。
■『調香師』 > 「悪い事、下手なんだから
...んっと」
手を掴む、そうして引く
あとは貴女が踏ん張ってくれる事を待ちながら
ロッカールームに戻れば、貴女の服が畳んである
彼女はまた、タオルを持ってきて『拭く?』なんて尋ねてくる
普段通りの振る舞いに思わせて。その手つきは、シャワーを浴びる前の怪我に躊躇う物よりも、加減を探っていた事だろう
(欲しいのに、欲しくない)
『友達』だから。欲しい欲しくないで話す方が間違いだったのかな
店頭に戻る為の車椅子には手を掛けるか判断しかねていた
あなたが望むなら、お店を出て表に出る事も選べたのだろうか
■黛 薫 >
「悪ぃコト下手でも、悪ぃ人みたぃなコトを
してっから悩んでんだわ。浮気者みたぃな」
シャワールームに入るときは1度で辿り着けた距離。
帰りは貴女に手を引かれてなお集中力が保たずに
途中で2度ほどへたり込んでしまった。
当然自力で身体を拭くことも、服を着ることも
出来なくて。両方貴女の力を借りる必要があった。
幸いにして貴女は加減を探ってくれていたけれど、
触れられれば触れられるほど求める気持ちは強く
溢れてしまいそうで。
(……『友達』だから……『友達』なのに……?)
熱を帯びた思考は未だ覚めやらずぐるぐる回る。
友達の望みを叶えたいと思うのは当然のことで、
しかし欲しがってしまったらその関係は友達の
ままでいられるのか、別の名前を付けなければ
いけなくなってしまうのか。
「……帰り、またお願ぃしても……イィですかね。
電動でも、自力で段差超ぇられねーので……」
■『調香師』 > 「いいよ」
求められれば、いつでも笑える
自分が機械だからなのか。それとも、本心からなのか
未だ定まらぬ中、それでもきちんと腕に力が入るならば
留まる理由もないだろうと、店内を素通りして
「...っと」
たっぷり時間を使って扉を開き、お店の前へ
「一緒にお買い物、したいね」
見送る時に彼女はそう告げる
■黛 薫 >
「……ん。それは、あーしもおんなじキモチ」
車椅子に座って前を向いたままでは顔も見えず、
声の調子も熱が抜け切らなくて読み難いけれど。
楽しみにしているのは、間違いなく黛薫も同じ。
「……じゃあ、また来るから。お店として来るか、
外出の誘ぃに来るか、それとも……別の用事で
来るかは、まだ分かんなぃけぉ」
電動の車輪は硬い道路の上では殆ど音を立てず。
普段とは異なり、去り際の足音は聞こえなくて。
後姿が見えなくなるより早く路地裏に静寂が戻る。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/ロッカールーム」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/ロッカールーム」から『調香師』さんが去りました。