2022/04/01 のログ
セレネ > YESともNOとも答えてくれなかった。
彼から魔力を得る為にはやはり≪魅了≫するのが手っ取り早いのだろうか。
とはいえ今の炎の身体ではどうしようもないけれど。

「……っ!?」

響く轟音に蒼を瞬かせる。
何が起こった?いや、何が来るのだ?
そうして、現れた巨大な影と悪臭に思わず鼻と口元を覆う。

『これは想定外…!』

巨大な根…というより最早樹と言える身体に所々見える肉片。
元は何だったかもわからないそれが、こうも大きく育つのか。
思わず呟いた言語は異国の言葉。

「こんな所で死ぬのは流石に御免ですから。」

彼が右腕を振るえば正面に炎の壁が立ちはだかった。
成程、使い勝手のいい炎だ。
蒼を素早く動かして目に見える情報を拾う。

「…貴方に効くかは分かりませんが、あのブレスは物を腐敗させるようですね。
元が植物なら炎も有効なのでしょうけど。」

ふむ、と考え込む。こういう時こそ冷静さは失うべきではない。
少なくともあの一画では見た事の無かった新種だ。
そわり、刺激されるのは好奇心と知識欲。

クロロ >  
「見りゃわかるッつーの!言ッとくけど、ケガさせても後で怒ンなよ!?」

生憎自分の魔術も力もなりふり構わない大技が多い。
彼女一人を庇いながら戦うとしても、怪我をさせない自信はない。

「つーか観察してる場合かよ!こンなろ……ッ!!」

気持ちはわからなくはないが元が何であれ、まずは駆除を優先だ。
彼女の戦力がどれほどかは知らない以上自分でやるしかない。
魔術は一旦"ナシ"だ。見た目通りの穢れた樹木。
小奇麗な魔術とは違い、"不浄"を此方も扱う以上はまずは様子見。
岩盤を抜くような右足の踏み抜きと共に、地を波打つ炎の津波。
技というよりは実に乱暴すぎる攻撃だ。

狂い火の如く烈火がうねり、暗闇を照らす明かりとと共に
爛れた樹々の全身を包み焼き尽くす。
木が焦げるよりも、肉が焼ける獣臭さが充満し
霊樹は全身をは四方八方悶え叩きつけている。
その余波と振動が、辺りを包む。

「効いて…るけど思ッたよりタフだ、な……!?おい、くるぞ!」

巨躯の足掻き、蟻同然の此方が巻き込まれるのは当然だ。
同じように攻撃というには、あまりにも乱暴に
爛れた全身が迫りくる。

セレネ > 「えぇ、そこも含め”自己責任”なのは百も承知です。」

元より彼に守られようとは思っていない。
庇う事もしなくて良い。庇う必要などない。
それは”人間”相手にするものだ。
死を恐れる者にするべきものだ。

「何を言います、適材適所ですよ。
私今、魔力があまりないんです。
だからやたらと魔術も使えなくって。」

口内の飴ももう溶けて消えてしまった。
彼の言葉に答えながら、放った炎の波に蒼を細める。
そういう使い方も出来るのか。
思えばこうして戦闘面での彼を見るのは初めて。

襲い来る炎は樹の身体を焼き、独特な異臭を撒き散らす。
燃やされて苦しいのか巨大な身体をうねらせている。
その振動で周囲が壊れてしまうかと思うくらい。

『”――我が名を以って命ず。我を守護せよ”』

異国の言葉で呟いた、神気を帯びた呪文。
瞬間青白い巨大な盾が己と彼の前に現れ、来るはずだった攻撃を弾く事だろう。

クロロ >  
「要するにオレ様コキ使われてるッつーことか???」

むしろよくその状態で今までここにいたのか。
最早ここまでくると蛮勇だ。
目の前で揺らぐ巨体なのにちょっと呆れ顔だ。
だが、彼女の盾に弾かれた"スキ"を逃さない。

「──────じゃーな」

紅蓮の炎が巻き上がる。
拳一閃。打ちあがった爛れた樹肉にぶつける拳の一撃。
一瞬の静寂を爆発音が打ち破り、轟音と共に爛れた忌樹は燃え盛る。
不浄を清める紅蓮のトーチ。拳いっぱい、ありったけに"内側"に送ってやった。
これにはひとたまりもないだろう。耳をつんざく断末魔。
穢れの呪怨か。聞くに堪えないな、とため息一つ。

「……おい、余裕ねーンだろ?
 お前マジでほッといたら何処へなりともいきそーだな」

とりあえずの一息だ。
まだ周囲には炎がくすぶり、熱と明かりが二人を照らす。
此方はまだ余力はあるが、彼女のほうはどうだろうか。
やれやれ、と首元を撫でながらジロリと相手を見下ろした。

「お前なァ、オレ様がいたから良かッたモンだぜ?
 魔力がねェッてな。あンなデカブツにあッたらどーする気だッたンだよ?」

セレネ > 「人聞きの悪い事を。
炎が有効な事は分かっているので、炎そのものである貴方が適切だと考えただけです。」

そもそも此処に来たのはついさっき。
とはいえ、危険な状態には変わりなかったが。
己の盾は無事機能したようだ。攻撃を防いだ盾は役割を終えると光の粒となって消えていく。
けほ、と小さく咳をする。口内から血の味がする。

『……凄いわね。』

彼が打ち込んだ炎の拳。爆発音と上がる炎熱に少し顔を逸らして。
断末魔を上げ燃えていく巨影を蒼が眺めては、
彼の魔術は残念ながら今回見られなかったのが少しばかり残念。

「…少なくとも、もう少し先へ進むつもりではありますが。」

彼とは違い、己は余裕はあまりない。
けれどここで戻るのは何だか不服。
どうせなら、これら実験体がなんであるかの情報は掴みたい。

「…もし私一人でああいう類に会ったなら、即刻逃げるつもりでしたよ。
勝てない勝負はしない主義なので。」

言いつつ蒼はさらに奥へと続く場所へ。
もし逃げられず死ぬようなら、それはそういう運命だったと受け入れるだけだ。

クロロ >  
クロロに臭いはわからない。
だがこの炎は今は不浄を燃やし聖火の如し。
これはある意味葬送ではあるのだろう。
尤もこの悪臭の焦げ付く臭いはとてもではないが、不釣り合いだ。

「ソレをコキ使うッつッてンだろォ?つか、まだ進むのかよ」

こんな状況になっても進むことをやめないらしい。
ある意味らしいといえばらしいが、死ねば黙阿弥。
状況はわかっていても前に進むことをやめない足取りの事を知っている。

探求心。要するに意地だ、よく知ってるとも。

魔術師という性は業が深く、故に業を成す。
知識の力強さを知っているからこそ深淵歩きさえ厭わない。
クロロが魔術師でなければ首根っこでもひっ捕まえていたところだが
此処で連れ出すという選択肢がないクロロもまた、魔術師であったのだ。

「ッたく……」

付き合いきれんぜ、と後頭部を撫でた。

「仕方ねェから付き合ッてやるよ。お前が何を言うのもいいがな……」

「別にもう、お前一人のモンじゃねェだろ」

だがそれだけは諫めた。
仮にも互いに男女の仲。
まだ全部わかったわけじゃないが
この感情が愛情だというなら、それは聞き捨てならない。
愛を知らないからと言って、愛情が生まれない訳でもない。
ましてや探求とは成長と同じ階段だ。
篝火が傍にいるということは、そういうことである。

「……で、どこまで行くンだよ?」

セレネ > こんなに強い異臭を受ければ、衣服にもついてしまいそう。
まだ買って日が経ってない服もあるのに…と内心しょんぼりしつつ。

「悪い言い方ではないでしょう?…えぇ、まだもう少し。」

彼の魔力量の多さも買っているからこその言葉だ。
まだ進むのかと呆れながらに言われるなら、苦笑しながら頷く。
互いに魔術師同士。だからこそ良かった点もある。

「……!」

彼の言葉を受け、蒼を瞬かせた。
己の命は、己だけのものではないのだと言う。
ふ、と笑みを浮かべて

「貴方のそういう所、好きですよ。
有難う御座います。」

相手からもそんな事を言われてしまえば、己の命は大事にしなければならなくなった。
口調はぶっきらぼうだが、傍に居てくれる優しさは。
とても嬉しいと感じる。

「せめて今跋扈している実験体についての情報がある場所…ですかね。
とはいえ、この奥にそれがあるかも分からない状態ですけど。」

どこまでついてきてくれるのだろうか。分からないが。
貴方も無理しないで下さいねとそれだけ告げておく。

「……あ。そうだ。
貴方とちょっとお話してもらいたい子が居るのですが、
お時間取れそうな日ってあります?」

今聞く話題ではないかもしれないが、ふと思い出したのでそんな事を口に出してみる。

クロロ >  
「そーかよ」


二度は言わない。
気恥ずかしさを感じないわけじゃないのだ。
それこそ彼女を先導するように先に歩く松明のように、背を向けたまま。
今の自分に薔薇の魅了こそ利かないが、今は目を合わせたくない。
遥か昔に月明かりは人を惑わし、狂気に陥る王もいた。
即ちかどわかされたようなものだ。今は目を合わせたくない。

つまり、照れ隠しだ。

「たいてい奥にあるのが相場ッつーが、まず残ッてるかどーかだな」

望むようなお宝があれば万々歳だ。
宝の価値は生憎箱を開けるまで分からない。
例え見つけても見つからなくても、観測できなければ探求は終わらない。
しかし、これだけの施設にちゃんと残っているものなのか。
爆発とは、炎とは文字通りすべてを飲み込んでしまう。
そこには何も残らない。きっとそういうことなんだろう。

さざれる炎は宵闇を照らし、時に進路を阻む花を焼いていく。
爆発させるよりは有情だろう。消えるよりも弔いとしての意味もあるのだから。

「アァー?」

思わず素っ頓狂な声が漏れた。

「オレ様に話ッてなァ……今言うかソレ???
 つーか誰だよ、ソイツ。つか、結構奥まで来てるけどどーすンだ?」

セレネ > 「…?」

彼の歩く歩幅が大きくなった。歩いていた隣から、前に。
身長差もあるから己は自然と早足になる。
照れ隠ししている彼は己に背を向けたまま歩き続ける。
何とか隣に追いつこうとしつつ、その顔を、金色を蒼に収めようと覗き込もうとしながら。

「そうですね。
…死体の中には白衣を着ているものもありましたから、
どこかに研究区画があっても良さそうなものですけれど。」

なかったら諦めて地上に帰る。あれば調べて、どうするかを考える。
元々は一人でどうにかするつもりだったが、思わぬ助っ人が来てくれて有難いと本当に思うのだ。

それにしても、今は炎の身体だからだろうか。
よくここまで自在に炎を操れるものだと感心する。
良いなぁなんて、羨ましく思うくらい。

「相手は後輩の女性です。
彼女も魔術師なので、お互いお話出来れば何か刺激になったりするかな、なんて。
そうでなくとも何か縁になれればと。」

誰だと聞かれれば説明をする。
最近友人になった、夜色の後輩。

「ん、ならこのまま進みましょうか。
休憩するには…流石に実験体もそこそこおりますからね。」

クロロ >  
「…………」

転がる死体は何も化け物ばかりじゃない。
中には明らかに"殺害"されたような跡がある。
やはり隠ぺいのつもりなんだろうか。
真相は未だに闇の中だ。ともすれば、深淵歩きの出番だろう。
秘密の意味は暴かれた時にしかわからないものだ。

「案外奥にあるかもな。この辺は……なンつーか、なンだ。
 多少は住みやすそうだしな」

安直ではあるがこの化け物の発生源があるとすれば遠くはないはずだ。
ましてや研究と彼女が言うからには、やはり人為的なモルモット。
観測するのであれば、離れてしまっては意味がない。
金色の瞳を細めては、時折ちらりと隣を見る。
なんだかちょっと見られているが敢えて視線は外しておいた。
男女の仲は視線一つで射殺されるのだと無意識に知ってしまったのだ。

「なンだそりゃ。相手見て紹介してンのか?お前」

それこそミステイクというものだ。
ともかくとして、まずは彼女が満足するまで付き合うとしよう。
拳を握れば迸る紅蓮の炎。宵闇を照らす篝火の軌跡。

「よし、行くか」

深淵歩きは何処まで行くか。
それはあくなき探求心の思うままに、だ。
少なくとも人付き合いは良い方だ。
その気なれば、夜が明けても付き合っていることだろう。

ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 居住区画」からクロロさんが去りました。
セレネ > 「えぇ、そうですね。荒らされてたりしますが生活感は見えますし。」

此処で生活して居ただろう事は想像に難くない。
情報の隠蔽にせよ、別の何かにせよ、それを突き止めるのは己達ではないだろう。
己が知りたいのは実験体の情報だけ。興味は一貫してそれしかない。

ちらりと時折見て来る金色。
己が何か言ってはいけない事でも行ってしまったのだろうか。
まさか照れ隠しとは思っていない己は不安そうに眉をハの字に。
目が合ったなら多分彼が照れている、というのが分かっただろう。

「貴方も彼女も魔術の腕は良いと思ったのですもの。
友人は多いに越した事はありませんし。」

本当に合わなさそうだと思うなら、そもそも話を持ち掛けてはいない。
…まぁ、不安要素はいくつかあるが。主に彼のデリカシーの無さについて。
だがそこは、己が何とかしよう。縁を繋いで欲しいから。

彼の拳が赤く染まった。同時に熱も発生するので、隣が暖かい。

「お付き合い、お願いしますね。」

そうして彼と二人、研究区画へと足を踏み入れる事となる――。

ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 居住区画」からセレネさんが去りました。
ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 研究区画(過激描写注意)」にノアさんが現れました。
ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 研究区画(過激描写注意)」にセレネさんが現れました。
初老の研究者 > 爆破された反動で設備が狂ったのか意図的に破壊されたのか、
電源が落ち非常灯の細い明かりだけが灯る研究区画の一角。

「……完成させていながら、出し渋っていたか。
 実験動物のくせに生意気な真似をする」

"寄生体に対する抗体"
バイオハザードを引き起こしうる物を作るにあたって先んじて用意させていた物だ。
毒と薬は揃って初めて実用性を持つ。
その片方が手元に無いまま起こったあの"閉鎖区画"騒動は想定外の事態だったのだ。

花を組織に齎した"来源"。
その本体こそ奪われわしたがデータとサンプル、そして抗体の三点が揃っていれば、
本国からの協力者の元で如何様にも研究は再建できる。

小型の端末にデータを落とし込み、アタッシュケースに手早くしまい込んだ物を抱えて走り出す。
あとはこれを持ってダクトから離脱するだけだ。

死にほど近い場所にありながら、恐怖とは異なる高揚感を携えて。
老体に鞭を打ち走る――

その刹那だった。気が付けば視界の上下が入れ替わっていた。

ノア >  
「どうも」

駆けだしてきた老人の足を払う。
相手の勢いをそのままに弾いたせいで浮いた身体を、掴んだ腕を支点にして床に叩きつける。
投げっぱなしにしないだけ、まだいくらか恩情があるといえるだろうか。
いずれにせよ、まだ死なせるつもりが無いのは確かだった。

「――いくつか聴きたい事あんだけど。
 いいかな?」

批難の声か、それとも悲鳴か。いずれにせよ開かれた口にタオルを詰め込んで黙らせる。
答えはYesかNo。そのどちらかだけでいい。

響かないように水に浸してからがベストだったが、そう都合よく水など無い物で。
手近にあった白衣の男の同僚の血潮で染めたタオルがネチャリと嫌気の差す匂いと共に粘着質な音を立てた。
研究室の奥まった位置、静かに取り押さえられた初老の男の短い悲鳴は誰かの耳に入っただろうか。

セレネ > 研究区画。足を踏み入れて暫くしてから、
思った以上に此処が破壊されている事に気付き
同行者である黄緑髪の彼に頼んで一旦別行動を取らせてもらった。
何かあった場合、もしくは何か得られた情報があればすぐ連絡すると伝えて。
こういった場所で情報を得るなら一時的にも分かれた方が良いと思ったが故の言葉だったが、
彼の表情はあまり芳しくなかった。
無理はしないと約束して、分かれた後もなるべく戦闘は避けつつ進んでいた所。
ふと聞こえた何かを叩きつける音と共、短い悲鳴を耳が拾う。
…生存者が殺された音ではなさそうだ。
少し気になり其方へ音を殺して移動する。

物陰に隠れ、息を潜めて覗き込んだ先には人影が二つ。
色素の薄い蒼には、暗闇の方が見えやすい。

『……。』

話しかける事は無く、今はまだ気配を殺して様子を見る事に専念しよう。

ノア >  
「あの中にいた女はどうした。殺したのか?」

小さい声で問い掛けるが、反応が無い。
目は開かれているし、鼻で必死に呼吸をしている辺り意識が無いという事も無い。
ただ必死に、吹き飛ばされたままのアタッシュケースを血走った眼で睨んでいた。

(あぁ、コイツらにとって自分の生き死によりそのケースの中身の方がよっぽど大事なわけだ)

自分の命よりもそんなもん優先するなんて気味悪いこって。
まぁ、人の事をいえたタチでも無いが。

「――そんじゃ何聞いても無駄か」

黒い手袋をした手で白髪交じりの頭を掴み、そのまま勢いよく捩じり頸椎を折る。
もう少し時間をかけても良かったが、血の匂いに混じって甘い花の香りを鼻が捉えていた。

「誰かいるんだろう? 襲ってくるならアグレッシブに頼むぞ」

あの区画で嗅いだ事のある匂いとは毛色がまるで違う。
変異種って奴の情報がろくに揃ってないからこそ、その可能性を潰すために声を出す。
どこぞの少女と同様に、こんな所に興味本位で潜り込んでいる物好きの可能性があるなら手は出せない。
理性的な返答が聴こえてくる事を祈りながら、静かに銃に手をかける。

セレネ > 五感は普通の人間と変わらない。
だから、一人が何か聞いて居るのは分かるが詳しい内容までは分からない。
だが少なくとも、研究員を抑えつけている人物は何か目的があって此処に来ていそうだ。
己や同伴者である青年とは違い、何かの理由があって。

『…。』

暫くするとバキリ、と首の骨を折る音が響いた。
己はそれを見ても何とも思わず、それよりも己に気付いた事に警戒した。
纏っているローズの香りが仇となってしまったか。

…声を聞く限り相手は男。
腕章はない。風紀や公安等の学園側の人間ではなさそうだ。
裏社会の人間だった場合、素直に姿を晒して無事である保証もない。
問いかけには沈黙で答え、姿を現す事もせず。
ただ静かに相手の出方を伺った。変わらず、血の臭いに混じりローズの香りを漂わせながら。

ノア >  
……反応は無し、か。
まぁ、"反応しない"って選択肢を取れる辺り実験体や花の被害者って線は薄いか。
状況が状況だった。大量の爆薬で抉じ開けられた施設がいつまで無事かどうかも分かった物では無い。
強硬手段を取って行くとしよう。

「――俺はノア。歓楽街のしがない探偵だ。
 訳あってンな所まで来ちゃいるが、ここのクソッタレ以外をどうこうするつもりはねぇ」

相手の位置は未だ知れず。響かない程度に声量を抑えて告げる。
深く被ったフードを外して顔を晒し、手に握った物を含めて
三挺の銃火器をコートをから取り出し床に置く。

「俺としてはこのケースの中身が世に出回らなきゃそんで良い。
 知ってるかどうかはさておき、閉鎖区画騒ぎの二の舞はお断りなんでな」

次いで見せるのは――プラスチック爆弾。
形状でそれと分かるかは相手次第だが。

「ケースと一緒に吹き飛ぶってのが俺の最終手段なんだが、
 そうすっと実験体も来るし施設も崩れるしで困るのはアンタらもだろう?」

人数は不明だが、そう語りかける。

「命がけで来てるもんでね。敵なら敵でさっさと一緒に死んでもらうだけなんだが、
 そうじゃなかった時に寝覚めが悪くてね」

敵意が無いなら出てきてくれやと言い放ち、カウントを始める。
5、4、3――手に安全装置を外したスイッチを握りながら小さく呟く。
顔を晒した今なら嫌でも分かるだろう、脅しやはったりの類では無い事が。
暗闇に光る金の瞳は冷たくも鋭く、狂気の色を見せていた。

セレネ > 男が自分の情報を語り始めた。
曰く、歓楽街で活動している探偵らしい。
目的は此処の研究結果か、それとも別の何かか、情報漏洩を止める事。
しかも例の”暴動”騒ぎの事も知っているようだ。
物陰から伺う蒼が外されたフードの男の顔を見る。…随分と若い。少なくとも見た目は。
敵意はないと示す為か、外套から持っていた武器を取り出し置いていく。
そうして、見せてきた何か。いやあれは…爆弾か。

『……。』

情報と共に自死を選ぶと。この男、正気か?
訝し気にキャスケットの下の眉を顰める。
凡そまともな考えを持っているとは思えない。
自爆を選ぼうとしているのに、無駄な命は散らしたくないと言う。
…こういった自棄な人間は他者共々死んでやるというのが大体よく聞く話だというのに。
不思議な男だ、そう思った。

敵意がないなら、と告げた後カウントを始めた。
……まさか、本当に。

「…それを仕舞ってくれませんか。」

目を見て直感した。本当にやるつもりであると。
分かった瞬間、月色が物陰から姿を出した。
両手を上げ、武器は持っていないと示しながら。
尤も、使おうと思えば魔術は使えるのだけど。

ノア >  
聴こえて来たのは透き通った声だった。
若干の苛立ちか呆れの色が滲んでいるように思えるのは己のせいであろう。
薄暗い地下の中、キャスケットから漏れ零れた月の色が眩しかった。
――裏に常駐してる類の奴の身なりじゃないな。
身に付けている物から凡その購入店舗は推測できる。

「――1っと、なんとか出てきてくれたか」

猫の目のように暗がりの中で光を吸い込む二つの蒼を向けられて、
スイッチから手こそ離さないが、安堵に多少は張り詰めた気が緩む。
先刻のセーラー服の少女と言い、この地下にはどうにも不似合いな客ばっかりが集まるらしい。
ドレスコードはタクティカルスーツか白衣、それか風紀の腕章だとばかり思い込んでいたが、
眼前の女性の腕に腕章らしき物も見当たらない。

「風紀や公安って柄じゃなさそうだな。
 目的が決まってるなら教えてくれると助かるんだが。
 敵か味方かくらいは知っておきたいだろう? 信用するかどうかはともかくとして」

好奇心だけでこんなアナグラの中に突っ込んでくるとも思い難い。
もしもそうなら随分なお転婆ぶりだ。

「まぁ、ぶっちゃけちまうと俺もこのケースを軽率には吹き飛ばせない理由があるから、
 できれば敵であっては欲しくないんだわ」

死ぬ必要が無いなら死ぬ気も無いというもの。

セレネ > 多少なり動きやすい服装で来たとはいえ、裏側で生きている人間と比べると身なりはかなり良い。
黄緑髪の彼の方が恐らく”其方側”としては適しているのだろう。
…分かれたのは失敗だったか。まぁ、仕方ない。

「別に貴方が自爆を選ぼうと私には何の関係もありませんが、
欲しいものが手に入らないのは困りますからね。」

死ぬなら勝手にどうぞと言いたい所だが、残念ながらこんな所で死ぬのは御免だ。
それにさっき、”死ねない理由”も出来てしまったし。

「…此処で好き勝手に暴れている実験体の情報が欲しいだけです。
それ以外は手を出すつもりはありません。」

相手の考えている通り、己は命知らずのお転婆娘…になるのだろう。
好奇心や知識欲には従順である。

「…そうなると、貴方はその中身が何なのか知っていると。」

ゆっくりと両手を下げ、蒼が転がっているケースを見る。

ノア >  
「ここで暴れてる実験体の情報ね。
 っつーとアンタも前の"暴動"騒ぎは知ってるってクチか?」

言いつつ、小型の機器を二つ取り出す。
1つは保存媒体、もう1つはいうなればペン型の小型パソコンのような物。
引き出したシート状のスクリーンに読み込ませたデータを表示させて、少女の方へと滑らせる。

「殆どは前の騒動の連中と変わりねぇけど、幾らかリスト化された"実験結果"はそこにある。
 まぁ載ってねぇ奴もいたり現在進行形で増えてたりするみてぇだけどな」

実際、少女が先刻黄緑色の男と葬った爛れた存在などもそうだ。

「中身は、まぁこの騒動を再現できるだけの実験データとそのサンプルだな。
 こいつを外に出すわけにはいかねぇ……ってだけの話だったんだが」

一足遅れで研究者の後にこの部屋に辿り着いたからこそ知っている。
ケースの中身がそれだけでない事を。

ゆっくりとした動作で爆弾のスイッチと床に置いた銃火器をコートに仕舞いながら、
最後の1つは手の中に収めたままに。

「――抗体がある。毒に対してのクスリ。
 どう作用するかなんてのは知らねぇけどな」

言いつつ、小さな植木鉢を引っ張りだしてうねうねと揺れるその花を小指で小突く。

『――你好!
 人家、性、紅。名字、叫、李華!――――』

沈黙の多い地下室の中、短い中国語での名乗りの後、たどたどしい日本語の音声を白い花が発していた。