2022/04/02 のログ
セレネ > 「……。」

暴動の件について知っているかと問われれば口を噤む。
今回は肯定の沈黙だ。

それにしても色々と物が入っている外套だ。
単身此処まで乗り込んできたというのか。勇ましいものである。
己へと滑らせたリストを足で止めると蒼を落として。

「…随分と数が多いのですね。
それに変異種も。」

スマホで写真を撮って、彼に送った方が良いだろうか。
少し考えた後、スマホを取り出してカシャカシャとリストの写真を撮る。

「外に持ち出されたらバイオハザード間違いなしですからね。」

成程、ならば確かにその情報は消さねばならないだろうな。
相手の言葉にふぅんと声を洩らしつつ。

「…抗体。」

その言葉に蒼を細めた。嫌な事を思い出す。
まだ幼い頃に巻き込まれてしまった、戦時中での記憶。

「……!」

小さな植木鉢、その花から流れるのは中国語とつたない日本語。
だが、その名に聞き覚えがあった。
――紅李華。公園で話した、紅龍と名乗る男性の妹さん。
彼女が此処に?いや、伝言を残すのならもういないという事か。
それならそれで良い。彼女とはいずれ色々と話したいと思っているから。

ノア >  
肯定も否定もない。
しかしながら覚えが無いという素振りでも無いという事はそう言う事。

「実際、リスト通りに奥に行くと前の騒動の奴らよりもよっぽど厄介なのがうじゃうじゃいるらしい。
 バイオハザードなんざそう何度も起こって欲しくないんだが」

だからこそ、この組織の関係者――特に実験のデータとその成果物を駆除しに来た。
というのも、李華が後に自由に動けるようになった時に付いて回る厄介ごとを可能な限り無くす為だ。

「まぁ、そっちは俺もここに来て知ったんで扱いに悩んじゃいるが
 ――奥に連れ込まれた一般人に使ってやれたらとは思っちゃいるさ。
 俺だって人の子なもんでな、救える真っ当な命があるならその為に働くってもんさ」

悩んでいる、それ自体は本音だがその先は最早嘯いているだけだ。
最奥の収容区画に居る人間を実際に救えるかは五分五分にすら持ち込めない分の悪い賭け。
ただ、口にしてみると心にも思っていなかった事であっても多少は気が向いたのは確かだった。

「……?」

中国語を知っている、という顔では無い。
明らかに、一説の音だけを拾った瞬間に顔が変わった。

「李華……龍のおっさんの妹の事知ってんのか」

言いつつ、タバコを取り出す。若葉のマークの自前の物では無い。
あの男のために李華が手ずから作った物を一本預かったままにしていた物だ。

「コイツに見覚えは?」

敵対している連中なら、これが何かを知る術はない。
が、真っ当にあの男と話をした連中ならどういう物かを知っている事はあるだろう。

セレネ > 不幸中の幸いというものか、本当に厄介な実験体はもっと奥にいるらしい。
これ以上奥に行くなら本当に気をつけねばいけないようだ。
色々と考えていたせいか、相手の言葉はガン無視状態。

「……そう。なら少しでも救ってあげた方が良いでしょうね。」

己は少なくとも、誰かを救って地上に無事に送り届けられる程の余裕はない。
同行者なら、恐らくそれくらいはやってのけそうではあるだろうけど。
奥に連れ込まれた一般人、との言葉にこの区画の奥に”モルモット”達の収容区画でもあるのだろう。

「……。」

己の表情の変化に気付いた相手が問いを投げかけた。
どうやら彼も知っている様子。
偶然か必然かは分からないが。

「…えぇ、ありますよ。
妹さんがお兄さんの為に作った薬なのだと。」

お手製の煙草を一本、視界に入れれば小さく頷く。
定期的に吸っていないと虚弱体質なあの人は簡単に死に至るのだと、紅龍本人から。

ノア >  
「まぁ、やる事やって余力があればだけどな」

己のやるべきことは別にある。
第一に、紅龍が命を賭して成し遂げたかった李華の解放。
これは恐らく既に紅龍の配下により達成されているのであろう。
そして第二、李華の為にデータとサンプルを徹底的に持ち出させない事。
これも幸い、手元に転がっているケースの中身を処分すれば良い。
そして第三――連絡の途絶えた紅龍の捜索だ。
その他の命は、二の次。

「そのお兄さんにちょいと縁があってね。
 兄ってのは妹の為なら命もかけられるらしい。
 それは俺も妹がいたから分かるんだが……妹だけ無事でも後で悲しむんじゃねぇかと思ってね」

いつか死にかけているおっさんに返すために、試しに吸う事もせずに懐にしまい続けている。
怪我を治す『イドゥンの憐れみ』と呼ばれる薬、そしてあの男の生命線でもある『タバコ』。
この二つをあの男に使ってやる日など来ない方が良いに違いないのだが。

セレネ > 「それはそうですね。」

救えるかもしれないモルモット達を救うのはそれこそ風紀の類だろう。
それか、何かの使命に燃えて意地でも助け出そうとするお人好しか、
助け出せる余力を持っている人物か。
いずれにしても、己はそのどれでもない。

「…まぁ、大切に想っている相手なら命でも何でも賭けられるでしょうね。」

己には血を分けた兄弟なんてものは居ないが、気持ちは分からない訳ではない。
親ならば子の為に命だって賭けられる。例え血が繋がって居なくとも、愛情があるならば。
とはいえ、己はお兄さんの居場所も安否も知り得ない。
写真に撮った画像を黄緑髪の彼へと送りながら、言葉を返す。

ノア >  
「ま、抗体に関しちゃ全部持って行ったり砕いたりするつもりは無いから、いるなら数本持って行ってくれ。
 あの情報だけで満足できるような奴ならこんな所まで来ねぇだろうし、要り用になるかも知れないからな」

数本、と言ったのはそれこそ人助けを目的に来た連中こそが持っていくべき代物だからこそ。
言いつつケースから2本、抗体の入ったシリンジを取り出して自分の懐に仕舞う。
後は元々あった場所に植木鉢ごと返すとしよう。
サンプルなんかに関しちゃ置いていく理由も無いからここで燃やしていくが。

「……アンタにもそういう相手はいるのかい?
 まぁ、こいつは只の興味本位だ。無視してくれて良い」

命を賭してでも守りたい相手。
自分はそんな者亡くして久しいが、ふと興味がわいた。

端末を操作する姿を見る限り、同業者か協力者でも近くに居るのかもしれない。
今でこそ落ち着いているが、じきに厄介な連中が押し寄せてきてもおかしくはない。
こんな場所にお互い長居するという事も無いだろう。

セレネ > 「……どうも。」

行くにしても、同行者とは話し合わねばなるまい。
己一人なら行けるところまで行くつもりだったが、そうもいかなくなったので。
うーん、と悩んだ後、とりあえず己も二本持って行く事にした。
己と同行者とで一本ずつ。とはいえ彼は今は炎の身体なので持てないが。

「……そういえば、その鉢植えはどこで見つけたのです?」

正しく言うなら”居た”というのが正解。
恐らくもう、会えない娘。
成長する姿も、幸せになる姿も、もしくは新しい母親と出会えたのかも、もう分からない。
だがそこまで言う事もあるまい。話題を逸らすかのよう、鉢植えがあった場所の話を持ち掛けた。

画像を送り終えるとスマホを仕舞い、さてどうするかと考える。
…彼と合流した方が良いか。己としては此処での目的は達成したのだし。

ノア >  
「――非常灯に沿ってこの通路まっすぐ進むと、カードキーとパスロック式の錠が付けられた檻みてぇな所がある。
 李華の居住スペース兼研究室みたいな所らしかったがもぬけの殻だ。
 行けば生きてる端末がロック外した状態で置かれてるから、アンタの目的はそこで解決するかもな」

無視してくれて良い、その言葉通りに語らず話を逸らす辺り何かしらはあるのだろう。
不謹慎極まりないがその事実に、多少心が救われた。
己ばかりが不幸では無い。喪った者とて、そこで終わりでは無いのだと。

「さて……俺はそろそろお暇するかね。
 拾うモン拾って李華が此処に居ないってのが分かった以上ここに用も無いし――」

不意に、獣のような息遣いが聴こえて振り向きざまに銃を二発抜き撃つ。
銃口の先には資料に会ったη型変異体と呼称される変異体。
眉間と顎に対害獣用の大口径弾を受けて動きを停めたそれに続いて、α型が少しずつ区画の中に流れ込んで来ていた。

「――今ので呼び寄せちまったか。
 っつー訳で、世間話はここいらでお開きだ」

言いつつ、空いた手にももう1つ同型の拳銃を取り出しながら。

「そういや名前、聞いてなかったな。
 このバカ騒ぎが終わって生きてりゃ、探し物くらいは安く受けるぞ」

口調は軽いが後ろ手に手を振る余裕も無い。
隠密行動等かなぐり捨てて、最小限の行動で迫りくる群れに向かって、歩きながら言葉を投げつける。
その先にあるのは収容区画くらいだというのは知っているが、進む方向は間違っちゃいない。
答えは無いかも知れないしあったとしても銃声にかき消されて聴こえないかも知れない。が、それでも構わない。
生きてりゃ、おっさんかその李華から名前くらいは聞けるだろう。
花の香りのお嬢さんのお話を――

セレネ > 「…ふむ。分かりました。有難う御座います。」

なら、同行者とはそこで合流する形で良いか。
彼なら己の気配を探れるだろうし、何処に居るかも分かると思うし。
神族故、どうやら随分と分かりやすいみたいだから。
己の問いに答えてくれた相手には礼を述べて。

「…!」

不意に捉えた息遣いと気配。素早く気付いた相手は即座に振り向き銃弾を放った。
銃の扱いには長けているらしい。ブレることもなく正確に撃ち抜いている。
ほぉ、と感心する声を洩らしたり。

「彼らの相手はお願いしますね、探偵さん。」

逃げる事無くむしろ向かっていくように歩く背中を眺めつつ、己は逆方向へと歩き出す。
そうして名を聞かれれば、告げるかどうしようか悩んだ後。

「――セレネ。」

聞こえたかは分からない。だが短くそれだけ答えておこう。
さて、己は目的の部屋へと向かいつつ、黄緑髪の彼に連絡を入れて。
二人でこの部屋にある情報を探るとしよう――。

ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 研究区画(過激描写注意)」からノアさんが去りました。
ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 研究区画(過激描写注意)」からセレネさんが去りました。