2019/02/14 のログ
ご案内:「◆違反部活群・スラムの一角(過激描写注意)3」にツクヨミさんが現れました。
■ツクヨミ > 落第街は日中でも薄暗い場所が多い。
二級学生達がひしめき合って暮らすバラックやコンクリート打ちっぱなしの空き部屋などが
そこかしこに存在して、まともな学生ならこんなところに訪れることはない。
ベニヤ板やちぎれたカーテンで遮光したそんな空き家の一角で
その一団は怪しげな儀式をしていた。
部屋中に怪しい香が焚きしめられ、無数に立てられたろうそくがちらちらと火を揺らす。
床にはペンキか何かで描かれた怪しげな魔法陣、部屋の前方、ひときわ高く段を設けられた場所に
みすぼらしいパイプベッドが置かれ、そこに中性的な人物が一人、薄絹をまとい鎮座していた。
ツクヨミ、と呼ばれる少年(便宜上、少年とする)は、ただぼんやりと部屋を見渡し
自分を崇め奉る多くの二級学生たちを見下ろしていた。
その中から一人、違反学生に付き添われて選ばれた二級学生が進み出る。
ツクヨミの力を信じ、信仰する青年だった。
違反部活内でも特に熱心に活動し、金や情報、権限などを多くもたらして強い立場を作っていた。
その彼が、―――無能力者ということを引け目に感じているのは当然だった。
能力さえあれば、自分が二級学生に甘んじているはずがないと、強く思っていた。
ツクヨミの前に現れた彼は、ツクヨミへ一礼すると崇めるようにうめいた。
『どうぞ、お授けください……』
ツクヨミはふらりとかしいで、そっと二級学生の唇に唇で触れる。
■ツクヨミ > 時間にしてほんの一瞬の出来事だった。
唇同士の隙間から粘ついた水音がかすかに響き、舌を差し入れていることが容易に知れる。
つ、と唾液の橋を引いてツクヨミと二級学生の顔が離れると、それで儀式は仕舞いである。
二級学生は立ち上がり、じっと自分の両手を確かめるように見ていたが
突如、両腕を差し伸べるように宙に掲げると、そこにぱっと散るような炎が灯る。
『……はは、ははっ―――やったぞ! 俺にも異能が……っ!』
歓喜と狂気にまみれた笑顔で異能の炎を出し続ける青年。
しかし、すぐにその炎は全身に燃え広がり、あっという間に彼を火だるまにしてなめつくしてしまった。
ぎゃあああああ、と獣のような叫び声を上げて床を転げ落ちる青年と、信者たちは慌てて彼から離れ逃げ惑う。
そばにかしずいていた違反学生がそのさまを見て、
『やはり、与えられた異能では制御できまいか……』
そう冷静に呟いた。
ツクヨミは、燃え盛り、消し炭になっていく人体をぼんやりと見下ろしていた。
物心ついた頃から異能を与えるだけの道具として、教主のように祀り上げられて
好きでもない接触を強いられ続けている。
彼はもうズタズタで、諦めていた。
やがて信者たちの消化器で火が消し止められれば、ツクヨミはベッドにうずくまった。
また次の信者が異能を授かりに来る、どうせ逃げられないのだ。
無感動なふうを装って、自分は傷ついていないとうそぶいて、その実ツクヨミは深く傷ついていた。
ああ、次が来る。終わらない地獄だ。
ツクヨミは、瞼を閉じた。
ご案内:「◆違反部活群・スラムの一角(過激描写注意)3」からツクヨミさんが去りました。