2019/07/02 のログ
ご案内:「◆旧ビル街」にツェツィーリアさんが現れました。
■ツェツィーリア >
「はー、いってぇ……」
ビル街をコンクリートの森と表現したのはどの作家だったかねと
灯の無いビル街の一室に溜息のような言葉が零れた。
暗闇の中、横に漆黒の棺を壁に立てかけ、その真横に足を投げ出す様に壁に凭れかかっている女は
震える手で懐から小箱を取り出し、その中に詰まった一本を咥え火をつけると一息吸いこみ
「ぇほっ!ゴホッ……あっは、しんでぇなぁ
ったく、服だってただじゃねぇんだぞ
派手にやりやがって」
吸い込んだ煙に咳き込みながら空を仰ぐ。
装備はかなり乱れており、特に腹部当たりの損傷が激しい。
太ももには薄く血がにじんでおり、それをシャツを破って作った即席の包帯で抑えている。
当然ストッキングなんてボロボロだ。まぁそもそも戦場に来るような恰好ではないが。
狙撃位置から脱出する際に多少無茶をしたせいで前髪の一部は赤く汚れ今は固まっている。
正直こんな状況で煙草というのは傍目から見れば自殺行為以外の何物でもないのだが
こればっかりはどうしようもない。
こっちだって好きで吸っている訳ではないのだ。
「あのやろー。帰ったら〆る。
なーにが複数勢力が争ってる。だぁ?
全員グルじゃねーか」
こちらも相手の位置や人数、出入り口は把握していた。
もしもに警戒はしていたつもりだったが相手の機動力が予想以上だったのが厳しかった。
というか獣人勢は勢力的には味方と聞いていた為対処が遅れたのが一番の問題だろう。
此方に来てからどうもああいう存在に対しての勘が鈍っていたらしい。
魔装コートで飛び道具には対処できているが獣人相手に肉弾戦はノープランではきつすぎる。
「ったく、乙女に対する礼節ってものがなってねぇよなぁ」
既に手痛い一撃を2~3発貰っている。内出血で済んでいるのは不幸中の幸いと言えるだろう。
正直あそこまで接近された時点で数本骨は持って行かれる覚悟をしていたのだから。
「構成的にもこっちが中遠距離って情報に関しては割れてるな。
まぁ妥当だな。スナイパーで通してるしなぁ」
恐らく弾丸耐性持ちの獣人が襲撃してきたところから見ても売られたとみるのが妥当だ。
自分で言うのもなんだが黙ってれば上物。
オタノシミ目的の連中からすればそれはそれは美味しい獲物だと判断されたのだろう。
今頃あの情報屋は両方からせしめた大金を持ってほくそ笑んでいるはず。
打撃によるダウンを狙ってきたところを見ても恐らく間違ってはないはずだ。
交戦時容赦なく狙撃されたところから見てもこちらの標的は割れていると見た方が良い。
「ま、あっちだったら今頃死んでるか。
高い復習料だったと思うしかないわな。
いやぁ……油断かましたなマジで」
手に持ったものを床に押し付け火を消すともう一本取り出し再び火をつける。
正直言ってあのマークを見せてこの対応とは予想外だった。
それ程この島が魔窟なのか、もしかするとマークの意味を知らなかったのか。
……今思い返すと恐らく両方だろう。
全く、平和慣れとはこういう事かねとぼやきつつも状況を整理する。
観測できる範囲に近距離アタッカーが5、中距離対応可能な能力者と遠距離型が共に3人いる。
そして超遠距離型が最低でも一人いるはずだ。
質が悪い事に恐らく全員が情報を共有している。
「んー……若干賭けだな。
戦場で賭けって言葉は笑えねぇんだが……
相手のおつむ次第だな」
地の利は完全に彼方にある。というか此処は基本奴らの庭だ。
幸いにも”鼻は利かない”ようだが地の利に加え数的不利ともなれば
こうしてゆっくりできる時間もそう長くはないだろう。
加えてこちらは目立つお荷物付きの手負い、逃げようにも狙撃手がいる。
傍目からすれば笑えるほど不利な状況と言える。
「……まぁ、生きては返さんよなぁ」
■ツェツィーリア >
「さてと、そろそろかね」
定石から考えれば相手は余り焦る必要はない。
基本的に敵陣でのスナイパーは位置が割れれば終わりだ。
自由に移動できるならまだしも、地の利が無ければそれは難しい。
苦し紛れに一発でも撃てば頭数に物を言わせて即座に襲撃すればいい。
基本的に生き残ろうとすればただひたすらに潜み、逃げ延びるしかない。
それが分かっていれば弾丸耐性を持つ面子が虱潰しに周囲を索敵し、
中、遠距離勢はその報告を受け取りながら包囲網を形成すればいい。
実際そろそろこの辺りにも一人二人やってきている。
ツーマンセルで動いている所は実に統制が取れている。
連中既に気分は狐狩りといったところか。
「よし……行くか。ロゼ」
そろそろ頃合いだというように立ち上がると棺を担ぎ直し
足元に放り投げてあった銃を拾い上げると
胸元からペンダントを取り出し口づけ小さく呟く。
「主よ。我らにヤドリギの矢の祝福を。
そして哀れなる我らの愚かな過ちを許したまえ」
――彼らは一つ誤算をしている。
「……さぁて仕切り直しだ。遊んでやるよ蜥蜴野郎共」
時間が自分達だけの味方だと思ったら大間違いだ。
不利な状況にもかかわらず喜悦に満ちた獰猛な笑みがその顔には浮かんでいた。
■ツェツィーリア >
ゆっくりと歩き出し、次第に加速する。
老朽化してがたついた窓に担いだ棺の重さを感じない速度で飛びこむと
「ypaaaaaaaaaaaaa!」
舞い散る硝子と共に空中へ体を躍らせた。
此処はおおよそ14階層程度の高さ。
まさか飛び出してくるとは思わなかったのだろう。
驚いた顔で此方を見上げる蜥蜴型の獣人二人組の片方の頭に
体を捩じりながら封呪円筒の封を切りながら左手のリボルバーを向ける。
「あっはぁ」
驚愕の中に浮かぶ嘲るような視線。
先の交戦で手にしていた銃が獣人の表皮を突破できなかったことを
こいつは報告を聞いて知っていたのだろう。
だが甘い。
「一人」
伸ばされた手を払いのけながら空中ですれ違いざまに躊躇なく引き金を引く。
普通の拳銃に比べ大きな反動と共に
放たれた弾丸は閃光を伴いながら駆け抜け、
壁面に粘着質な赤い花が一つ咲いた。
間髪入れず力を失うその体の向こうに封呪円筒を投げ込み
「っ!」
迫るもう一人の獣人の拳を棺で受け、続く衝撃に備える。
■ツェツィーリア >
封を切られた封呪円筒は忌憚なくその性能を発揮し、周囲に爆裂式の風魔法をまき散らした。
手榴弾の様な使われ方をするこれを至近距離で浴びたもう一人も容赦なく切り裂かれ
壁面から引き剥がされるように地面へと落下していく。
その爆発は投げた本人も巻き込むが切断効果に関してはあらかじめ対処済み。
爆風を棺で受けその反作用で向かいのビルへと吹き飛ばされ飛び込んだ。
「がっ……」
そのまま部屋の中に残っていた机やなぎ倒しながら幾度か地面を跳ね、奥の棚に突っ込んで止まる。
数階分の落下距離を殺しきれず、更には吹き飛ばし特化の調整をしたとはいえ無傷ではいられない。
とは言えひとまず最重要であった動ける場所へと移動はできた。
「っつ」
即座に起き上がる。
こういう時には耐衝撃の術式は実に役に立つ。
打撃メインの相手には非常に役に立つ上にこういう手が使えると選択肢が大きく広がる。
全身に細かい傷はあるが問題ない。
■ツェツィーリア >
「二人。まぁ順調」
口の中に広がる錆の味を吐き出し、口元を拭う。
開幕に二人予定通りに潰せたのは大きい。
5人の中でも比較的鈍い相手であったことは確かだが
立体的に動いてくる獣人を5人相手に捌き切る自身は流石にない。
実際近接相手が比較的苦手なのは間違いないのだから。
「ほーら獲物が現れたぞ?
速く駒を動かせよ」
不意を突いたとはいえ、此処まで派手に動けばすぐに相手も駆けつける。
接敵まで凡そあと2秒だが……
「ほい」
窓に向かって今度は雷撃式の封呪円筒を投げ、もう一つの自動式拳銃を向ける。
周囲のビルの状況は既に把握している。
時間をかけて観測域を広げたのは相手だけではないのだ。
しかも相手とは違いこちらには基本タイムラグが無い。
それを活かさない手はない。
大事な事は常に攻め手に回り、対処させ続ける事。
「……」
部屋に踊り込む影が見えると同時に発砲。
弾丸を打ち込まれ放たれた雷撃は部屋を明るく照らしながら
至近の物体、人体に飛び掛かり全身の筋肉を焼きながら駆け抜ける。
強い衝撃に貫かれた山羊型の獣人は全身から僅かな煙を漂わせながら硬直した。
部屋に僅かなオゾン臭と、毛が焼ける匂いが広がる。
そのまま懐から黒いナイフを一本取り出すと緩く放り投げ駆け出して
「セイッ」
その鳩尾にドロップキックを叩きこむ。
それ単体では大したダメージにはならないが
その足先には先に投げたナイフが落下してきていた。
こいつは防護魔術で弾丸を逸らしてくるタイプだった。
普通に突き刺せば恐らく表皮を突破できなかったはずだが……
動けない相手かつ全身+棺の質量が乗っていれば別だ。
蹴りこまれたナイフは固い表皮に阻まれながらもずぶりと標的の体に潜り込んだ。
衝撃で目を見開き、よろよろと後ろによろめく獣人に笑顔で手を振る。
「Покá!осёл(じゃあなロバ野郎)」
胸板に軽く拳を入れる。
それだけでふら付いた体が窓際を超えるには十分だった。
■ツェツィーリア >
「さーぁんにん」
狂気の混じる笑みを浮かべながらも冷静に刈り取る算段を考える。
一先ず最優先事項としては最低限あと一人は近接アタッカーを潰さなくてはならない。
彼らは狩人兼監視者として機能している。
「……しかしどうすっかね」
残ってるやつらが厄介なんだよなと内心呟きながら部屋を出てビル内の廊下へと走り出ると上階へと走る。
残る二人の片方はおそらくリーダー格のトカゲ型獣人で、
どちらかというとイグアナとかコモドドラゴンとかそっち系だろと言いたくなるほどの肉体派。
もう一人は獣人型ではなく反応速度や腕力に強化を乗せてくる異能者だった。
前者は縦の機動力があまりないため時間はあるが後者に関しては機動力がある上に追撃を貰った時点で詰む。
初手の交戦時に奴がいなかったのは運が良かった。
何方も正面切っての撃ち合いでは勝ち目がない。
「あんまり時間はかけたくねぇなぁ」
加えてそろそろ中衛の6人の索敵範囲が限定的になる。
いくら場を把握しているとはいえ障害物や死角になっている場所も多い。
機動力に富む前衛が跳梁跋扈している中で射撃戦に持ち込むのは
此方だけ場所が割れて圧倒的に不利と言わざるを得ない。
つまり必然的に……
「速攻で片付けるしかないよなぁ?」
多少のリスクは覚悟してでも勝負を決めに行く必要がある。