2019/07/03 のログ
■ツェツィーリア >
階段は足音が響く。
上階に向かっている事は恐らく筒抜け。
今までの戦闘結果から見て……
「上にいるな」
屋上に一人確認。
やはり異能者は上から攻めてきた。
機動力に絶対の自信を持っているのだろう。
うっすら笑みを浮かべているのがよく”視える。”
「くふ」
それを見て同じような笑みを浮かべた。
徐に階段の途中で立ち止まると眼帯を外し
棺に手を突っ込み少し変わった形の銃を階段の鉄骨へと向ける。
常闇にいくつもの瞳が浮かぶ異形の瞳は
世界の中に赤い線を無数に視ていた。
凡そ3階分。この距離なら”射貫ける。”
ドアを開けたことを確認すると同時に複数発砲。
吐息のような僅かな発砲音と共に
刻印を刻んだ弾丸が音もなく跳弾しながら駆け上がっていく。
普通の弾丸なら跳弾による運動エネルギーの損失と重力加速度でとても人を撃ち抜ける威力ではないが……
「……命中確認」
それは狙い違わず頭、両胸を貫く。
上階から重い物が落ちるような鈍い音が響く。
恐らく認識する暇もなかった事だろう。
■ツェツィーリア >
「……クハ」
そのまま階段を駆け上がると屋上の扉の前で倒れ伏す人影を認める。
その横を通り過ぎながら無造作に数発発砲。
確実に仕留めたことを確認しながらインカムを引き剥がし、
マイクをミュートモードにしながら耳元に当てる
「儚いもんだよなぁ」
飛び交う混乱と指示に耳を傾けながら
零れ出る笑みを抑えきる事が出来ず悪魔のような笑みを口元に宿した。
正面からの弾丸を弾けるというなら認識外から撃ち抜けばいいだけのこと。
勝利を確信して油断しているような相手なら猶更だ。
大体勝負というのは最初の数手で片が付くもの。
出来るだけ相手に情報を与えず、速やかに刈り取る。
それがこの狩りにおいて最重要事項。
……そのために切り札は温存してある。
「増援は……今の所無いか。
これで風紀委員でも来てくれりゃ助かるんだが」
意識を集中して階下と周囲を探る。
階下にいたはずの最後の一人の姿が見えない。
刹那、眩暈に襲われた。
二本吸ったというのにあれでも足りないらしい。
「くっそ、やっぱ体力落ちてるのかよ」
これが平和ボケというやつかとぼやきつつふら付く頭を抑え、屋上から引き返す。
多重認識どころか思考が纏まらない。
血なまぐさい物体となったものの横にずるずると座り込むと
何度か大きく呼吸をし、僅かに気分を落ち着かせる。
『なぁロゼ、今良い所なんだ。
もうちょっと待ってくれよ。なぁ』
流石にこの場で煙を立てるほどの余裕はない。
■ツェツィーリア >
「……まだイキ足りないんだよ」
昔に比べ格段に継続時間が短くなっているなと自嘲する。
監視し続けているためとはいえ、数分でこの様だ。
生き残るために半分狂気に浸されながら数日間起動し続けたあのころと比べ、
なんと軟弱な事だろう。
人とはかくも脆弱で無様な物か。
「……?違う、飲まれるな……」
思考が人から離れていく。
同時に湧き上がる渇きに視界がゆがむ。
目の前に流れる新鮮な血液に視線が吸い寄せられ、
抗いがたい欲求が沸き上がる。
「ああああ、足りない。足りないわ」
そう、もっと命を刈り取らなければ。
■ツェツィーリア >
「……煩い寝てろ」
思考をのまれそうになっている事に気が付き
震える手で苛立つように棺を殴りつける。
「落ち着け、これは追体験。
今の欲求じゃない……!」
この思考の主はもう死んでいる。
今この瞬間、棺の中で眠り続けている人物を核として
自分はこの能力を得ているのだから。
「ハー……ハー…」
何処かの少年少女向けの幻想物語で聞いたような内容だなと自嘲する。
もっとも、自分は眠れる魔王に対する封印でも、
潜む神の化身でもないが。
「ふざけんじゃねぇぞロゼ……」
これは只の記憶。
過去にとある人物が辿った歴史をただ体感しただけのこと。
そう自身に言い聞かせつつゆっくりと立ち上がり、
懐から取り出した錠剤を口に含むとかみ砕く。
幾分か気分が晴れると共に少しの後悔が頭をよぎった。
「これ飲むと当分キッツいんだからなくそが」
依存性がある上に副作用もきついこれは出来るだけ使いたくなかった。
多分薬が抜けるのにまた数日かかるだろう。
■ツェツィーリア >
「再起動……あいつは何処行った?
近接型を見失うとか冗談キッツいが……」
再び視覚の統制を取り戻し、鈍く痛む頭を押さえながら周囲を探る。
不幸中の幸いか、先ほどの薬のおかげで多少は制御がしやすくなっているが……
「……仕方がない」
いくら階下を探してもいたはずの姿が見当たらない。
今は時間が惜しい。先に中衛を片付けるしか方法はなさそうだ。
棺から魔導式狙撃銃を取り出し組み上げると目を瞑り、術式を組み上げる。
本来ならば観測手の誘導が必要な武器だが自分には必要ない。
「さぁ、パーティーの始まりだ」
勝負は一瞬。未だ相手の狙撃手の位置は掴めていない。
ならばと見開いた瞳に魔力性の光が宿る。
数秒遅れて周囲に魔力反応が沸き上がった。
唐突な誘導術式に気が付き、慌てて対応策を取ったといったところだろうが……
「遅い」
引き金を引く。放たれた弾丸は幾条もの閃光となり、
それぞれが独特な軌道を描きながら建物を縫い標的の元へと飛び込んでいく。
其れの着弾を待たずにレバーを引き、薬莢を排出すると同時に再装填。
狙撃が来るまでにもう一射撃てる。
再び銃を構え、撃ち次第位置を変えようと構えた瞬間
「っ……!?」
階下に反応を感じ咄嗟に回避行動をとる。
刹那床が割れ、そこから飛び出た灰色の物体が風切り音と共に元居た場所ごと砕いた。
避けはしたものの、足場をなくした体は浮遊感に包まれ、
宙に浮いた体を第二撃が襲う。
「くっ……」
真横に殴りつける様なそれは狙い違わず体をとらえる。
右手で咄嗟に自分を庇いさらには耐衝撃術式をフルで作動させるもその体は吹き飛ばされ
階下の瓦礫の山に轟音を立てながら突っ込んだ。
■ツェツィーリア >
「……――!」
衝撃をいくら殺しても、咄嗟の対応では
急激な加速と叩き付けられる時に生じるGまでは殺しきれない。
肺からたたき出される空気と全身の血がかき回されるような感覚に
地面に横たわったまま意識を失わないよう必死につなぎとめる。
『よくもまぁ散々暴れやがって』
その姿に向かって声が投げかけられた。
砂埃に紛れる様に揺らいでいた姿がゆっくりと姿を現す。
完全に周囲に溶け込んでいたそれは次第に巨大な尾を有する人影に変わった。
全長2mを優に超す体は巨大化させた尾を元の大きさに戻しながらも
歪な笑みを浮かべて倒れ伏す女を睨め付ける。
『大人しくつかまっときゃ痛い目見ずに済んだのになぁ。
女(玩具)風情がよ、調子乗ってんじゃねぇぞ
正義の味方のつもりか?あ?』
形態変化の影響か、人の声というには雑音が混じるそれは
不快感を隠そうともせずに瓦礫に半分埋まった女に向かって歩き出す。
■ツェツィーリア >
「……ゲホッ、か…えほっ……」
叩き付けられた衝撃で歪む視界に巨躯が映る。
どうやら見た目に反してカメレオン……ステルスに特化した能力の持ち主だったようだ。
視覚情報には反応が全くなかったところから最早異能というより認識阻害魔法の領域まで足を踏み込んでいる。
全く、狙撃手としては羨ましい限りの能力だと思う。
「……!」
声は全く出てこない。肺が潰れていないのは割と真面目に幸運だった。
横たわったまま辛うじて左手に握った銃を上げ、震える腕で銃口を向ける。
あれだけ大きければそこまで狙わなくても当てられるが……
軽い発砲音と共に発射された弾は体の表面の鱗を僅かに削るだけだった。
此方を見る目に嘲笑が浮かぶ。
ゆっくりと歩み寄るのは余裕の表れか。
「(嗚呼畜生、マジでしんどいなぁ)」
内心呟くと同時に掲げた左腕を蹴られる。
バシッという乾いた音と共に拳銃が吹き飛ばされ、鋭い痛みと共に指先に力が入らなくなった。
何処か他人事のようにああこれ折れたなと認識する。
やはり補助が掛かっていなければこの躰は酷く脆い。
『おかげで大損害じゃねぇか。
このツケはどう払ってくれるんだ?』
瓦礫に半分埋まった体を引きずり出され
襟元を掴んで宙へと吊り上げられる。
丸太のような腕の持ち主の雑音が混ざる声に滲む苛立ちと優越感。
……今までがそうであったように、勝負は基本一瞬。
初手を防ぎきれなかった時点で生きているのが不思議なくらいだ。
『輪姦すだけ輪姦して娼館にでもぶち込んでやろうと思ってたがよ。気が変わったわ。
てめえはぶっ壊れるまで遊んでやるよ。楽に死ねると思うなよ』
ぶらんと力なく吊り下げられたまま、僅かに笑う。
中々良い能力をもってそれを活かす体を与えられても
おつむの方は余り育っていないようだ。
自分が相手ならこの時点で即殺しただろうに。
■ツェツィーリア >
「は……は、ゲホッ、それはすまない、ねぇ」
咳き込みながらも口の端を吊り上げ滲む視界で眼下の男を見下ろす。
やはり目的が分かりやすいというのは此処までくれば美徳かもしれない。
「とはいえ、アンタの部下もオトコノコにしちゃ
ちょっと、イくのが早いんじゃないか。
女一人に手玉に取られたなんて泣言言ってるから
童貞のままあの世行きなんて目にあうんだぜ?」
下半身脳にしちゃ耐久力が足りないんじゃないかい?と嘲るような口調で吐き出す。
何せこちとら謀られた側なのだから皮肉の一つも言いたくなるものだ。
女を釣り上げている男はそれを聞くと笑い声らしき声を上げ
瓦礫の山の間に乾いた笑いが響く。
『ぬかせ。死にぞこないが』
数秒後唐突に笑い声が止むと同時に男は吊り上げていた体を再び地面へと叩き付けた。
床に放射状にひびが入り、砂埃が舞う。
その真中から再びゆっくりと持ち上げられた女の体からは力が抜け、
その手に持っていた自動拳銃が地面へと転がりおちる。
男はそれを一瞥し足先で遠くへと蹴り飛ばすと掴んでいた手を離した。
ドサリという音と共に真下に横たわった姿に多少は胸がすいたのか
再び軽い笑い声をあげると投げ出された四肢を舐めるように見渡し舌なめずりをする。
ご案内:「◆旧ビル街」からツェツィーリアさんが去りました。