2019/08/17 のログ
深雪 > 深雪はもう一度、海面下に潜っていった。
南国の海というほど透明度が高いわけでもなく、流れてしまった水着はそう簡単には見つからない。
布の面積やデザインはともかく、配色自体はシックなものだったのも発見を困難にしていた。

「………………。」

焦った表情は見せないが、深雪は珍しく困惑していた。
屋外、それも海という開放的な場所で、不意にこんな状況になってしまったからだろう。
実はそれ以上に、七生に買ってもらった水着が見つからないことがショックだったのだが、それはまだ、深雪自身明確に意識はしていなかった。

「………どうしようかしら…。」

やっと口に出した言葉は、そんな一言。

東雲 七生 > 「セパレートだったんだね、ああ見えて……。」

てっきりボトムと一体化してるのかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
そんなことをぼんやりと口走ってから、事態を急速に理解していく。
つまり、今、深雪さんは水面下でトップレス状態だという事。

「………。」

そして柄にもなく水着を流されて困惑しているということ。
一向に首だけしか水面から出さない深雪を見て、少しばかり普段の、というかさっきまでの仕返しをしたいと思う心が芽生える七生であった。

「どうしよう、って……ははーん、もしかして深雪さん恥ずかしいんですかー?」

ニヤニヤ。
自分の財布にダメージを与えた水着が流されたというのに大した奴である。

深雪 > 「馬鹿、違うわよ……。」

七生の言葉に深雪は怒ったように返した。
首の後ろと腰にあった結び目が解けてしまった深雪の水着は、完全に流されてしまっていた。
無論、上半身だけでもこの状況なら…恥ずかしくないと言えば嘘になるが…。

「七生、私のこと怒らせたいのかしら……?」

…ニヤニヤ笑う七生を見上げて、深雪は口先でだけは抵抗しつつも、明らかに恥ずかしがっていた。

東雲 七生 > 「うっ……」

深雪の気迫に一瞬たじろぐ。
しかし付き合いの長い七生だからこそ、それが虚勢であることに気付く。
たかだか水着を流されたくらいでここまでか弱くなるとは、と内心ニヤニヤを続けたいのをぐっと堪えて。

「とんでもない!
 ……ええと、取り敢えず俺も探してみるよ。
 上、しっかり隠しといてね。」

そう告げて大きく息を吸い込むと、とぽんと水の中へと消える。
よもや深雪が全部流されてるとは思いもしてない鈍感っぷりだ。

深雪 > 「………あ、駄目っ!!」

それは、深雪にしては、可愛らしい言い方だったかもしれない。
それだけ余裕も無かったし、止める術もなかった。
七生が水中に沈めば、どうしたって深雪の身体が目に入るだろう。
右腕で胸を隠して……左腕は、下半身へと伸ばされていた。
七生が水に沈むと同時に、深雪の身体はきゅっと縮こまる。

「……………。」

つまり七生と同じように水の中に顔を沈めて……見ないでほしいと、首を横に振っていた。
七生になら自分の身体を見てもらいたい、という気持ちもあるのだが、今は、このハプニングへの困惑、心の準備不足が上回っているのだろう。

東雲 七生 > 「………。」

マサカ全部持ッテ行カレテルナンテナー。
水中に潜った七生は深雪の拒絶を受けてすぐさま海面に浮上した。
大きく深呼吸して、少々ふらつきながら立ち上がると顔を手で拭って水気を払う。

「……えっと、じゃあ、どうしようか。」

先程からの自身が置かれた状況に困惑しっ放しの深雪の様子が非常に可愛らしく見えて来ている七生である。
七生が探せないのなら深雪に自力で頑張って貰う他無いのだけれど。

深雪 > 「…………ごめんね…。」

深雪が七生に謝る場面というのは、かなり珍しいかもしれない。
けれどそれは、水着を流されてしまったことや、楽しい時間を止めてしまった事への謝罪ではなかった。

見られることを、拒絶した。
七生のことを拒絶してしまった。

自分でも驚いた事だが、深雪はそれを一番に気にしていたのだ。
どうしようか、と言われても、深雪は黙っている。
数秒の沈黙の後に…

「……ちょっと、後ろ向いてくれる?」

東雲 七生 > 「あ、謝るような事じゃないって!!」

誰だって急に体を見られるのは嫌だろう。
だから深雪の拒絶は当然の事だ、と七生は思う。
むしろ普段の見られても大丈夫ですむしろ見ろ、って態度の方がおかしいのだ。

気にしてないよ、と微笑みながら首を振るが、現状打つ手なしには変わりなく。

「うん?……後ろ?こう?」

深雪に促されれば、素直に背を向ける。
一体何をさせようと言うのだろう、と内心首を傾げつつも。

深雪 > 七生が背を向けて…深雪は小さく息を吐いた。
この愛おしい男の子は、何の疑問ももたずに、素直に言葉に従ってくれる。ずっと傍に居てくれる。

七生の語った理由は…私が、美人だから。
それじゃ、怪物になった私の傍には、居てくれないかも知れない。
どうでもいい。次の玩具を探せば良い。
……そう思えないのは、私が力を失っているからだろうか。

「…………。」

愛おしい七生を、手放したくない。
もっと、近くに居て欲しい。
逃がさない。

「……。」

深雪は何も言わず、七生に近付いた。
そして、両腕を広げて…その小さいけれど逞しい身体を、後ろから抱き締める。
七生にとってはあまりにも唐突な行動に感じられるだろうけれど、深雪は……一度拒んでしまった七生を、しっかり、受け入れたかっただけだった。

東雲 七生 > よもや深雪がそこまで拒絶したことを重く捉えてるとは夢にも思わず。
無防備に背中を晒しながら、七生はついでにと周囲に人の気配が無いか確認する。
もし万が一このまま水着が見つからなければ、深雪は一糸まとわぬ姿で一度浜に上がらなければならず、
その時に人が居れば、どんな惨事を引き起こすか分かったものじゃない、と。

「なあ深雪ー、そろそろ何するのか言ってくれてもー……」

そのまま浜へ戻れ、くらいしか予想が付くものはないけれど。
深雪がそう言うのであれば一目散に浜へと戻る用意もしておく七生である。
しかし、そんな予想は容易く裏切られ、
七生は背後から深雪に簡単に抱き締められてしまった。

「みっ!?……深雪っ!?い、一体何を……!」

深雪 > 深雪は何も言わないまま、七生をさらに強く抱きしめた。
2人の身体が密着し、深雪の柔らかい身体の形が背中越しに伝わってくるだろう。
普段は冷たい深雪の体温も、今は七生とそう変わらないくらいにまで上がっている。

「……何でもないの、ただ、こうしたかったから。」

すべてを説明するのは、流石に気恥ずかしかったのだろう。
普段は敢えて七生を玩具扱いし、対等に見ないことにしているからこそ、強気に出られる部分も大いにあった。
玩具に、小虫に裸体を見られたところで何も感じない…可愛いペットに裸体を見せつけても、恥ずかしいとは思わない。

拒絶の理由は羞恥心だったが、それは七生を対等な相手として見ていたということの証拠でもあった。

「……ねぇ、七生……私が美人じゃなかったら、一緒に居てくれないの?」

こんな状況で聞くことではない。
それにこんな質問に、答えられるわけがない。
自分はなんて卑怯なんだろうと、そう思いながらも、深雪は問いかける。

身体はしっかりと抱きしめられているが、今の七生の腕力なら引き剥がすことも、体勢を変えることも可能だろう。

東雲 七生 > ひぁ、と抱き締められた七生の方が声を上げる。
普段如何なる深雪のからかいや悪戯に慣れてる身といえど、流石に一糸まとわぬ状態で抱き着かれることは無い。
背中へと押し付けられる柔らかさに否応でも意識が向いて。

「こ、こうしたかったのは良いけど……あの、せめて水着見つけてからとか……」

だってダイレクトですよ。深雪さんのお山さんがダイレクトですよ。
などと、普段の七生では早々出てこないようなボキャブラリーを披露しつつ、わたわたと取り乱す。
しかし、続く問いには流石に何か感じたのか、一度黙り込んで

「……ううん、たとえ美人じゃなくても、深雪は深雪だよ。
 俺は、深雪と一緒にいる。居たいんだって、前にも言ったはずだよ?」

負ぶった幼子をあやす様に、優しく答える。
美人じゃないとしても、怪物だとしても、それでも、深雪は深雪。
普段、日常を共に過ごしているのが嘘偽りしかない虚構の深雪でもない限り、
七生にとっては、そこに何の違いも存在していないのだ。

深雪 > 「……こうしちゃえば、もう、少しくらい見えても気にならないでしょう?」

いやその考え方はどうでしょうね深雪さん。
水着を見つけてから抱きつくのもそれはそれで危険なのだけれども、今は置いておいて…

「……ふふふ、似合うって言葉と同じで、何度だって聞きたいのよ。」

七生の言葉が、深雪を安心させ…その体温をまた僅かに上げる。
それでも不安は拭いきれないのだが、今だけは、その言葉に身を委ねていいと思える。
今は文字通りに身を委ねているわけで、深雪はまだ、七生を解放しようとしない。

東雲 七生 > 「確かに見える見えないが些末事になるけども!」

何を妙案閃いたかのように言ってんだ、と半べそかきながら怒る七生である。
どうしよう、本当にどうしよう。水着が自分から流れて来て深雪に巻き付いたりしないかな。
そんな事を考えるくらいにはいっぱいいっぱいなのである。

「……そ、そう。
 なら、また聞かれてもまた答えてあげるからね。」

んもう、と苦笑しつつ自分の身体に回された深雪の腕をそっと撫でる。
傍若無人なくせに変な所で繊細なんだから、とそんな深雪を愛おしく思うのもまた事実で。
そう意識すれば何だか急に背後に深雪が居る事が、じれったく思える七生だった。
だから、

「あの、深雪………前、が良い。
 顔見えないの……なんか、いやだ。」

深雪 > 「……良いアイディアでしょう?」

少しだけ普段の調子を取り戻してきた深雪。
それでも、七生をしっかりと抱いたまま離さない。

「ありがと。…面倒くさいって思わないでよね。」

柔らかく微笑んで、それから自分の腕を撫でる七生の手を見た。
決して大きな手ではない、愛おしい七生の、可愛らしい手。
そして七生が可愛らしい要求を伝えてくれば…

「……大胆ね。」

なんて言いつつ、腕の力を緩めた。
……抱き方を変えるのではないく、七生を解放しただけだ。
つまり、向きを変えるも、何をするも、七生に委ねられたということ。

東雲 七生 > 「……ノーコメント。」

良いアイディアかどうかは答えない。
男子としては良いと思うが、七生としては最悪だ。
だからノーコメントである。……最悪でも、嫌ではない。

「何を今更。」

普段の方が何倍も面倒くさい。そんな事はぐっと飲み込んで。
それから少しだけ表情を強張らせ、緩まった腕の中、意を決してくるりと振り返る。
そしてそのまま、ぐっと深雪を抱きしめるのだった。

「な、夏だから。うん、夏だから……!」

大胆なのも夏だからしょうがない、と。自分に言い聞かせて。

深雪 > 七生が振り返れば、右腕で胸を隠した深雪と目が合うだろう。
見られたい、という気持ちと、恥ずかしい、という気持ち。

「夏って、そういうものなのかしら…。」

七生が近付いてくれば、腕をどけて…その身を委ねた。
七生はいままで背中に感じていた感触を、今度は胸で感じることになるだろう。
それもこれも、夏の太陽の所為。
この後、2人がどうなるのかは、まだ誰にも分からない。

ご案内:「異邦人街:海水浴場」から深雪さんが去りました。
ご案内:「異邦人街:海水浴場」から東雲 七生さんが去りました。