2020/07/26 のログ
ご案内:「◆月下の奈落」に-----さんが現れました。
----- >  
奈落の底に雪が降る。
しんしん、しんしんと。
降るはずの無い雪が降る。
ただ静かに、終わりを告げる鐘の代わりに。

ご案内:「◆月下の奈落」にヨキさんが現れました。
----- >  
「もう頃合い。」

その真ん中でそれは呟く。
ぼうと霞始めた空を見上げて軋むようにゆっくりと、腕を掲げ雪を掴む。

「永かったなぁ」

思わず零れ出た言葉が雪のように自分にも染みこんでいく。
嗚呼、本当に終わりなんだなと。
既に領域は綻びを迎えていて……おそらく今日が限界だと思う。
この夢は、今日、やっと終わる。

ヨキ > あれから、何度あの光の中へ立ち入ったろう。
幾度も絡め取られ、挫かれ、跳ね除けられて。

それでも何故か、足はただ奥へ奥へ、光の中央を指向した。

第一層。

第二層。

第三層。

そして――

「…………、」

立ち尽くす。

「ここは?」

行き止まりのような暗闇の中で、呟く。
心のどこかで求めてやまない、“なにものか”の姿を捜しながら。

----- >  
「じゃあ最後にちゃあんと役を果たしに……い、こ……」

声が詰まった。
いま一番見たくないものを見つけて。
すっと見つけたかったものを見つけてしまって。

「……せん、せ?」

思わず声が震えた。
一瞬の同様の後、直ぐに立て直し、笑顔の面を冠る。

「……くふ」

領域内に何度も来ている。わかっていたはず。
仮にここまでたどり着いたとしても、……忘れているはず。だから大丈夫。
……だから大丈夫。
そう自分に言い聞かせて。

ヨキ > 見覚えのない白髪。
見覚えのないワンピース。
見覚えのない少女。

それでも。

男はつかつかと足を踏み出した。

一歩。また一歩。

距離を縮める。

第一層。

第二層。

第三層。

そして。

ここまで来たのは、あなたこそが目的なのだというように。

「――君に、会いに来た」

その声には、普段と同じ確信と力強さとがあった。
その眼差しは、少女の顔を射抜くように真っ直ぐだった。

----- >  
「そうだよね、貴方はこの島の正義の味方だものね
 この島で起きている異変である以上、そうあってもおかしくはないね」

そう、彼はこの島の秩序を守るもの。
この領域は明確に秩序を乱している。
……だから彼はそれを見極めに来た。
そう、”そういう筋書き”。
だから此処に居るのは、”誅されるべき悪役”。

「会いに来てどうするんだい?
 こんな場所に苦労してまで来なくとも、
 風紀委員の連中がそのうち大挙して制圧しに来るだろうに」

宙に浮かび、掌で雪を躍らせながら”救いようのない者”を演じる。
嗚呼、まるで夢のよう。
まさかこの願いが叶うなんて。

ヨキ > 雪を踏む微かな音を立てて、少女へと歩み寄る。
宙に浮かんだ彼女を見上げて――立ち止まる。

遠巻きにするには近すぎて。
腕を伸ばして掻き抱くには遠すぎる。
そんな距離。

「どうするかって? ……」

そう問われて、男は。

「君を連れ帰るためだ」

はっきりと、宣言した。

----- >  
そう、これはありふれた物語。
力に驕った悪役はその愚かさゆえに報いを受ける。
どうしようもなく有り触れて、そして誰もが安心する物語。
それは英雄を待たずして幕を下ろす筈だった。
けれど、”彼”はここに来た。
この涙も凍り付く凍てついた地に。
ああ、そして連れ帰るなどという。

「”とても先生らしい回答だね。”
 ”私はこの島の生徒ですらないのに”」

それは願っていた結末の形。
それは焦がれていた願いの形。

「あは、帰ると思う?
 この世界なら、私は神にだってなれる。
 全部手に入れられる。
 なのに帰るわけないでしょう?」

嗚呼、本当にこの人は綺麗な瞳で私を見つめる。
その瞳をずっと見つめていられたら……それは何度も願った細やかな願い。
そしてそれは今夜叶った。
”怪物”と”英雄”として対峙する形で。

ヨキ > 「君は……たとえ、学園の生徒ではなくとも、ヨキの心が求めている。
君は間違いなく、“ヨキの教え子”だ」

何も覚えてなどいやしないのに、言動にはひとかけらの迷いもない。

「全部手に入れられるなど、嘘だ」

深呼吸。

「――この世界では。

君は唯一のものかもしれない。
だが、全能ではない。

何故なら、ヨキがここに居る。
このヨキは、誰のものにもならない」

紺碧の瞳の奥に、金色の星々。
それはまるで、焔のように煌々と光る。

「ヨキが君にくれてやるものこそ、唯一無二だ。
君がこの世界で何を創り出し、手に入れようとも――このヨキに、敵いはしない」

----- >  
「勘違いしないでほしいな。
 それに……ここなら何もかも、手に入るよ。
 欲しいものは何だって手に入れてあげる。
 見たでしょ?感じたでしょ?私は力を手に入れた。
 この島においても私を止める事が出来たものは一人たりともいなかった。
 世界に名だたる場所といえど所詮学園、力があると言っても物の数ではないよね。」

せせら笑う。
空を見上げ全てを下に見ているような笑みを浮かべて。
いかにも悪役が言いそうな言葉だ。陳腐で、そして現実を見ていない。
……大丈夫。何処も痛くない。

「模倣できないものなんかないよ。全部簡単。
 捕まえて、夢を見させ続ければ愛情だって簡単に創り出せる。
 崇拝もそう。心なんて不定形で不安定なもの。
 干渉する事なんて簡単だよ。事実、この場所に入り込んだ子は皆上手に踊ってくれた。
 貴方だってそう。揺さぶって、調整して、私が思うとおりに作り替えてしまえる。
 もしそれで壊れてしまったら作り直せばいい。」

集め続けてきた。皆が思う悪役を。
私にはその善悪が分からないから、
奪ってはいけない理由もわからなかったから
……だから模倣する。完璧に、完全に愚かなものであり続ける。
簡単でしょう?最初から私は愚かだった。

「抗ってみる?
 抵抗出来ると思ってる?」

だから、嗚呼せめてこの人には、他の誰がそうでなくともこの人には
……”忘れていて(覚えていて)欲しかった。”

ヨキ > 「そうだ。君は確かに――」

言葉が勝手に、喉から溢れ出す。

「――『借り物』なら得意だと言った」

「君は綺麗なものが好きだと言った」

「ヨキは『借り物から始めてみろ』と言った……」

「君は『何処まで行っても、そのままにしか写せない』と言った」

覚えていないはずなのに。
すらすらと、“いつものように”、言葉が流れて。

「ヨキは紛い物になど、揺さぶられはしない」

「『“本当に美しいもの”は――誰に触れられようとも、手垢ひとつ付きはしない』!」

ああ。
それは。

一字一句違わず、あの日に告げた言葉。

誰に?

「――『カナタ君』!」

その名を叫んだことさえ、無意識の中。

----- >  
「嗚呼」

懐かしい言葉と叫びにそれは静かに空を仰ぐ。
編纂者の存在をこれほど恨んだことはないかもしれない。
どうして、どうして……

「どうして貴方達は忘れていてくれないの?」

一筋頬に雫が伝う。
忘れてくれていたなら、これ以上傷つけずにいられた。
忘れてくれていたなら、これ以上傷つかずにいられた。

「どうして傷つくとわかっていて、こんな場所までやってくるの?」

ああ、けれどこの運命とやらを用意した誰かはそれではだめだというのだろう。
自ら手を振り払えというのだろう。そしてさぞかし愉悦に満ちている事だろう。

「……本当に馬鹿だなぁ。」

見下ろした顔には呆れたような笑み。
……ええ、お望み通り踊って見せる。
それしか私の願いはかなわないから。

ヨキ > 「どうしてこの場所までやって来たかって? ――そんなこと、わからない。
馬鹿でもいいさ。言われ慣れてる」

でも。

「一切合切傷付かずに手に入る幸福など、それこそ紛い物だ。

ヨキはもっと、“君”と話がしたかった。
“君”に話をして欲しかった。

“君”と一緒に居たかった。

それだけだ。
高尚な理由など、ない」



“世の中には、明瞭に理解出来る事柄の方がずっと少ないものさ。
 よく分からなくたっていいんだ。何せ――”

“ヨキの方が、君を巻き込みにゆくから”



理由など。
たったそれだけ。

----- >  
「”それは先生が私がそうしたいと思っていただけでしょ。
 勘違いしないで。私が先生に近づいたのは私の目的に近しいものを持っていると推察したから。
 興味を持ったのはあくまで先生の魔力と力に過ぎない。
 ……私にとって貴方は只の手段であり、餌。
 それ以上でも以下でもない。
 私は貴方の生徒ではなく、貴方は私の教師ではない。”」

はっきりと覚えている。
美術室近くの階段の踊り場にかけられていた一枚の絵を。
それは校内の風景を切り取った簡素な風景画。筆を使う練習の一環の様な、
技巧を凝らしたわけでもなく、ただ見た儘を描いた風景画。

「”手を出さなかったのはそのタイミングがなかったから。
 壊さなかったのは他に手段が見つかったから。
 運が良かったね。せんせ。他の方法で私が解決法を見出して。”」

多くのヒトが気にも留めなかったであろう平凡に見えるそれ。けれどそれはとても綺麗だった。
切り取られたその光景を見る目が、その色遣いが作者が世界を愛していることを叫んでいた。
後から聞いた話だと、あれは彼が人になって間もないころの作品だったそう。
ああ、この作者には世界はこう見えているのだと思った。

「”だからあなたの利用価値なんかもうない。
 貴方に依存する真似なんてもう私には必要ない。
 もう、私に貴方は必要ないの”」

所有欲でも採点でもなく、ただ其処にあるものへの賛歌として溢れ出るような情念はあまりにも綺麗で……

----- > ……私はきっとあの瞬間にこの人に恋をしたんだ。
ヨキ > 「……ヨキの魔力が欲しいというなら、くれてやる。
どうせ、どうせ垂れ流すばかりで、使い道のないものだ。

君の糧になるなら、その方がずっとずっと有意義だ」

ぱち。

ヨキの激情に応えるかのよう、小さな紫電がヨキの頬を這う。
恵みをもたらすもの――いなづま。

雷光の化身。黄金色の焔。

ぱちん。

紫電が跳ねて、髪を揺らす。

その微かな魔力の鳴動は、他にいかなる現象をも起こさない。

「ヨキに利用する価値がないなら、それで結構だ。
……だがそれでも、ヨキは続けていく。

ヨキは真っ当な人でない。
君も真っ当な人ではないのなら。
歪でも、不格好でも、不器用でも構わない。

君にヨキが必要なくとも、ヨキには君が必要だ。

君との平凡な交わり、ただそれだけでさえ――
ヨキにとっては、君のかけがえのない価値なのだ」

----- >  
ただ何も知らない夢想論者なら、一蹴しただろう。
他の何よりも殺意と軽蔑を持ったかもしれない。

「”私には必要ない。
 もうせんせとの対話も、時間も。
 必要なものは全部揃ったから”」

けれど私はこの人が只、綺麗なものだけを見ているわけでないことも知っている。
忘れたいような経験を、思い出すだけで今も身を裂くような思い出を持っていることも知っている。
……それでもなお、この人は世界が美しいといった。
灰色も、目を背ける他無いような醜い色も全部あって、それがあるからこそ、世界は美しいのだと。
灰と汚泥に塗れた世界を愛おしいと叫び続けていた。
そしてその中で選び続けた。

「”世界は残酷。わかるでしょ”」

……だから私もそうしようと思う。

「”だからもう、全部終わらせる。
 この島も、世界も。”」

”私という雑音を、それでも許せないものを、消し去って見せる”

ヨキ > 「ヨキは君のことを何も知らない。
君はいつも言葉少なで、ヨキは何も知らなくて――

だから、君のことを知りたいと思う。

これはヨキの欲望だ。
これはヨキの我侭だ。
これはヨキの渇望だ。

ヨキはまだ、何も揃えられていない」

サンダルを脱ぐ。
紫電がぱちん、と足を這い上る。

「終わらせるなんて認めない。
ここにはヨキの人生がある。
……ここには君と過ごした時間がある!」

助走をつけて、跳ぶ。

魔力によって脚力を増した両足が、常人を超えた跳躍を見せる。

――それでも。
あなたにはとても届きはしない。

着地を考えずに飛んだ足が縺れて、地面に勢いよく落ちる。
雪の欠片を舞い上げて、派手に転がった。

----- >  
「”大丈夫。全部消えるから”」

足元で這いつくばる教師から視線を引き剥がし、ゆっくりと左手を掲げる。
その手の上には青く、丸い光の球体が浮かんでいる。
積もるような闇の中浮かぶその青い星をながめ、
それは酷く歪な笑みを浮かべた。

「”全部私が支配する。
 幸せも生き甲斐も全部私が与えてあげる。
 意志なんかいらない。作り物の世界で皆眠ればいい。
 誰も苦しまず、誰も争わない。
 そんな世界にしてあげる。”」

嗚呼、それはなんてつまらない世界だろう。
なんて彩の無い世界だろう。
そうやって愛を騙るものを、世界を汚すものを
そんなつまらないものに世界を染め上げる怪物なんて

「全部消え去ればいい。」

私ごと、全部。
手の中の光を握り砕く。


---刹那、モノクロの世界は砕け、世界は元の姿を映した。
周囲は元の廃墟群。中心となったビルだけは跡形もなく姿を消し、
鏡面の様に平になった地面に無数の人々が倒れ伏している。
千々に砕けた破片は砕けた鏡のように虚構を映したまま周囲に飛び散り、
夏の空気に舞いながら光の粒子になって消えていく。

「”あ、れ?”」

その真ん中で宙に浮かんでいたソレは血を吐き出すと同時に支えを失い地面へと落ちていった。

そう、世界を支配するなどという幻想が成立するわけがない。
計画通り領域は砕け、そこに宿る力は拠り所を失い、術者へと牙をむく。
支えを失い、落ちていく中見上げた月はとても綺麗で……

ヨキ > 顔を上げる。

後先考えずに高く跳び、そして着地に失敗した。
魔力で強化しているとは言っても、所詮は人間の身体。痛めれば痛むのだ。

「……止せ。そんなこと、君のためにはならない。
一方的に与えられる幸福など、ヨキは要らない。

“世界”という言葉を、簡単には使いたくない。
世界はもっともっと、想像も及ばないほど広いものだ。

だからヨキは……ただ日常さえ続けばいい。
君と、君たちと、誰もに与え与えられ――ヨキが望むのは、そんな毎日だ」

超常の力に及ぶべくもないことは判っていた。
地面に伏したまま、覚悟したように目を閉じる――

が、“終わり”は来なかった。

見覚えのある廃墟。なだらかな地面。

そして――

「……カナタ君ッ!」

名前を叫ぶ。今度こそ。
あの光の中を彷徨う間、強く強く願い捜し求めたその名前を。

立ち上がる。裸足のまま、再び駆け出す。
落下する少女に向かって――腕を伸ばす。

その小さな身体を、滑り込んででも抱き留めんと。

----- >  
音もなく舞い散る破片のなか、体を撫でる風の感触が酷く遅く感じる。
重力が狂ったのだろうか。ああ違う。
ただ私がゆっくりと時間を観測しているだけだ。
人は死ぬときこうやって走馬灯を見るという。
”死ぬ体”になってみてもそれは訪れず……ただただ静かだった。
見たい思い出なんかなかったし、ああ、そういえばと嗤う。
私はずっと、その場を回り続ける走馬灯だった。

「ざまーみろ」

顔も思い出せない誰かに嘲るようにつぶやく。
お前達の存在ごと、全部、これで全部終わり。
下らない願いも、大層な夢も、全部ツマラナイ物語で上書きして持っていってやる。
緩やかな感触のまま、真っ逆さまに落ちていく体はまっすぐに地面に向かい

「……せんせーはばかだなぁ」

抱き留められ、うっすらと笑みを浮かべる。
ああ、まだちょとだけ、やり残したことがあった。

ヨキ > 「…………!」

抱き留めた少女を庇い、自分から地面へ転げる。
仰向けになって少女の小さな身体を抱き締め、ずれた眼鏡を直す。

「……ああ、馬鹿だとも。
教え子のためなら、ヨキは聡くも愚かにもなれる」

肩で息をするヨキの心臓が、早鐘を打っていることは容易に分かるはずだ。
それだけ、ヨキは少女を受け止めることに一心不乱だった。

「だが、君も馬鹿だ。
このヨキを我が物にしようだなんて、千年早い」

相手の顔を見る。
紫電が弾けるみたいに、思い出したその顔。

「……カナタ君」

服や手が少女の血で汚れるのも構わずに、手の甲で相手の口元の血を拭う。

「しっかりしろ。君はまだ生きてる。
今、救急を呼ぶから」

----- >  
領域内の極寒の空気が周囲を冷やしたのだろう。
真夏の空に、雪が降る。
はらはら、はらはらと、舞い散りながら世界に溶けていく。

「”あれ?どうしてうまくいかなかったのかな。
 おかしいな。うまくいくはずだったのに”」

ごぼり、と零れる血を吐き出しながら首をかしげる。
体内の魔力回路は殆どがズタズタになっている。
普通の人間なら即死している。けれど生きている。
抱き留め見下ろす顔の向こうに、あの日と同じような綺麗な月。
……嗚呼、本当に綺麗。袂に仕舞った小枝を緩く握る。
見てて。ちゃんと終わらせるから。

「”嗚呼そうか、足りなかったのかな。
 なら丁度いい。せんせ、魔力貸して?
 じゃないとこの世界、ちゃんと終わらないから”」

せき込みながら震える手で手を伸ばす。
血に濡れた指先は頬に触れ、赤い筋を残して……

「……----」

その一瞬後、魔力風を起こしながら貴方を強く突き飛ばした。
何処か得意げにすら見える笑みを浮かべたそれは突き飛ばした相手を愛おしげに眺め……
次の瞬間その体を銃声と共に閃光が貫いた。

学園で過ごすもの >  
そこには最新式の対異能者用の銃を構えた人の姿。
起き上がり、地面に倒れるそれに憎しみの目を向けるもの。 

「なんで引き戻した」
「返せ、あの世界を返せ。」
「あんな光景を見せやがって」
「……破壊因子を排除する」

夢から覚めた者達が起き上がり、口々に叫ぶ。
彼らは知っていた。いや、教えられていた。
甘い夢を、残酷な記憶を、幾度もの業苦を興したモノが誰なのか。
その怒りを、悲しみを、正義感を誰に向ければよいのかを。

ヨキ > 「……上手くなんて、行きはしないよ。
大抵のことはね」

眉を下げて笑う。

「だから皆、懸命にやっておるのではないか」

ヨキから漏出する魔力を受け取ることは、とても容易い。
豊穣を司る神性。蒼い魔力――

「……ッ、あ……!」

衝撃があって、少女を腕の中から取り零す。
風に煽られながらも、咄嗟に身を引き起こして。

「…………、!」

少女が射抜かれるのに、名前を呼ぶ間もなかった。

「――止せ!」

短く叫んで、屈することなく駆け出す。
何度引き剥がされようとも、諦めはしない。
再び取り戻すために。銃口から教え子を守るために。

決死の表情をしたヨキが、少女と目が合う。

----- >  

「あは」

嗚呼なんて上手くいったんだろう。
全部全部利用してやった。
あいつらが餌にした最新式の武器も、集めた人も、舞台も
私が私であると証明するとか言って集めたもので私は私を否定する。

「あはは、あは、あはははははははは……」

そう、これは”人類の夢”なんかじゃない。
”馬鹿な悪役が己が力を過信し、無様に失敗した後
 利用していた誰かに殺される”勧善懲悪の物語。
皆が安心する、平凡で有りふれた物語。
耳に残る喧騒が小さくなっていく。
嗚呼、もう音も聞こえなくなってきた。まぁいいか。
もうそれ(観客)は後に語るだけ。もう興味なんてない。
私にとっては”消す必要がない者。”

「……」

そう、まだ消すものが残っている。
この物語を終わらせるために、最後に残るのは彼の記憶だけ。

「……せん…せ」

私にとって貴方は大切な人でした。
この世界を美しく描く貴方がとても羨ましかった。
”宿題”には答えられなかったけれど、貴方の目を通してだけ、私は世界が美しいと信じていられた。

「……どこ?」

だからね、せんせ。
私の事なんか忘れてください。
もう十分、貴方から綺麗なものを貰ったから。
貴方の世界は焦がれるほど美しかった。
他の誰が否定しても、私は知っている。
貴方にとって世界が美しいと。貴方がこの世界を愛していると。

「寒い、よ」

だからお願い。
その世界を、私が唯一愛せた世界を

「寂しい……よ」

……私という存在で汚させ(愛させ)ないで。
濁った瞳のまま壊れた魔力回路を無理やり働かせ、たった一人だけを探して最期にそれは手を伸ばす。
そこに宿るのは忘却の術式。