2020/11/03 のログ
■神代理央 >
襲撃者は、どうやら神宮司だけではなく己の事も知っている様子。
まあ、神宮司に近い風紀委員である己の事ならば当然か、と思いつつ、彼女の言葉には小さく肩を竦めるのだろう。
「…確かに、神宮司先輩をターゲットにした判断は正しいと素直に言っておこうか。惜しむらくは、あの人はこういった場所にも、風紀指折りの護衛をきちんと連れ立っているという事かな」
後藤と園田は、風紀委員の中でも上位に位置する戦闘力の持ち主。
何でそんな二人が神宮司のプライベートな時間まで護衛をしているのかは知らないが――今回に関しては、結果オーライと言う所だろうか。
己の言葉を受けて、舌打ちしながら後藤は巨人形態の儘歩き去っていく。目立って欲しくないと言った己の言葉は、どうやら言語中枢で理解してもらえなかったらしい。
まあ、目立って欲しくないというのは、単に後藤の能力を知られたくないという思惑もあるし、此処迄派手な立ち回りになった以上は――もう、隠しようもないだろうが。
「さて。私の名を知っていて、神宮司の名を知っていて。
それで襲撃してきたのだから、相応の理由があるのだろう。
だが、それは私には関係の無いこと。ツケを払う?支払先が多過ぎて、何処に振り込めば良いのか分からぬな」
ガコン、と重々しい金属音と共に、砲身が傾く。
全ての砲身が、彼女に向けられている。
本来であれば、歓楽街である此の地区で大規模な砲撃はしたくはない――のだが。
「………避難誘導は、既に完了している。
風紀委員会の予算も無尽蔵では無いのだ。早めに終わらせようか、溝鼠」
轟音と共に、異形達の砲身が火を噴いた。
無数の砲弾が、吸い込まれる様に襲撃者へと放たれる――
■黒いフードの人物 >
「あなた、またそうやって『間違える』のね。」
くすりと笑う襲撃者は尚笑みを絶やす事は無く、目にもとまらぬはずの砲弾をまるであらかじめどこに飛ぶのかを理解しているように、その間をすり抜けて理央に接近して行く。
わずかに、風巻き上げられるフードの隙間からは黄金に輝く瞳が覗く。
魔力視によって視覚化された異形や、理央の魔力の流れから、その先読みをしている彼女にとってそれはたやすく。
しかし、人間の体がそれを行なえるほどに素早く動けるのかと問われれば、本来は不可能に近い荒業だ。
すり抜けるように近づいてくるはずの少女のそのローブは、ゆっくりと内側から赤黒く染まっている。
しかし、血液を吸い取る様に作られているのか、地面に其れが垂れる様な事は無く。
「避難が終わってなくても、貴方は撃つのでしょう?
瓦礫につぶされた少女の兄弟の様に、何人も何人も、殺すのでしょう?」
目の前に躍り出る襲撃者は、歪んだ声で少年に尋ね、嘲笑う。
「それが誰かの幸せになると信じて、誰かの幸せを踏み潰すのよね?」
■神代理央 >
砲弾の雨霰。それを襲撃者は、まるで着弾地点を知っていると言う様に回避していく。
避けられた砲弾は、瓦礫と化した店やその周囲に着弾し――歓楽街に、業火の柱が立ち上がる。
「…やはり、こういった場所での戦闘は出来れば避けたいところではあるな。欲を言えば、後藤先輩には残っていて欲しかったが」
護衛になる前衛が欲しい、とつくづく思う。
何より、落第街やスラムの様に『派手に壊して良い』場所では無い以上、むやみやたらに砲弾を放つ訳にもいかない。
不慣れなインファイトで時間を稼ぎつつ、応援を待つべきか、と思考を走らせかけたその時――
「――……何?」
投げかけられた言葉。
己が踏み潰した、無辜の命。
それを知っている――いや、それよりも。
「……知った様な口をきく。貴様の様な溝鼠に、私の何が分かるものか――!」
腰から引き抜いた拳銃を突きつけ、襲撃者を睨み付ける。
己の事を知った様な口振りで話す相手に、露骨な嫌悪感を滲ませながら。
■黒いフードの人物 >
「図星ね? わかりやすい男。
そんなちゃちな拳銃で私を殺せるとでも?
インファイトもろくに出来ない癖に。
ここまで近づけた時点で貴方の負けは必定、分かっているでしょう?
前衛のいない後衛なんて所詮そんなもの。
孤独で居る事を選んだ、貴方の弱点。」
銃口に指を押し当て、それを楽しむように顔を覗き込む。
少年の瞳を覗き込む。
ローブの下は、歪んでいて分からない。
しかし、襲撃者からは何処か、花の香りがする。
それは、何処かで嗅いだことのある、香り。
「知っているとも、えぇ、知っているとも。
貴方の傲慢さでつぶされた幸せを、私はよく知っている。」
歪められていても尚、少年に向けられた怒気がわかるほど、その声は低く響き渡った。
銃を掴み、腕ごと捻りあげようと襲撃者が動き出す。
■神代理央 >
確かに、拳銃如きで襲撃者を止められるとは思っていない。
向けた拳銃も、牽制になれば良いなくらいのものでしかない。
本命は、肉体強化の魔術。落第街や異能で、数多の敵と戦い、行使してきた魔術。
攻撃面に関しては、異形の砲撃の方がマシではあるが防御力に関しては、それなりの自負がある。
それ故に、時間稼ぎ程度ならと思っていた。
思って、いたのだが。
「………私が潰した幸せ、だと?
そんなもの、幾らでもある。数多ある。数え切れぬ程ある。
だから復讐に来たのか?その恨みを、私にぶつけようと息巻いているのか?」
襲撃者の、怒気を含んだ声に。
嘲笑う様な声色で、嗤ってみせた後。
「……それで、貴様の気が済むのかどうかは知らぬが。
果たしたい恨みがあるというのなら、それをぶつける事を、私は否定はせぬよ」
腕を捻り上げられ、銃を大地に落とす。
苦痛に一瞬顔を歪めながら、それでも。
傲慢な表情を崩そうとはしない。
――鼻孔を擽る花の香りに、その表情は一瞬、怪訝なものになるのだが。
■黒いフードの人物 >
「本当に、馬鹿な男。
罪滅ぼしのつもり?
気のすむまで自分を痛めつければいいと?
ふ、ふふ。」
襲撃者は笑う。
愚か者と蔑むように、少年を笑い。
「それが本当に罪の清算になるとでも?
それで誰かの気が晴れると?
だから貴方は、あの子を幸せにできないのよ!」
硬い筈の銃を踏みつけ、飴細工の様に捻じ曲げる。
入っていた弾丸の信管が爆ぜ、銃は大きく爆発を起こす。
それを踏みつけた襲撃者の素足は、それでも厳重に、鎧のような黒いシューズに守られている。
踏みつけられた地面には、小さなクレーターができていた。
少年の首を掴む。
わずかに気管を押しつぶす程度に、明らかに手加減されているその力のまま。
襲撃者はその顔を近づけた。
金色の瞳が、紅い瞳を覗き込む。
香りは一層強く、少年に伝わる。
それは、いつか嗅いだ椿の花のモノ。
■神代理央 >
「…罪滅ぼし?馬鹿な事を言うな。
恨みをぶつける事を受け入れる、とは言ったが、痛めつけられるつもりもない。
貴様の恨みつらみを、正面から踏み潰す。
それだけの事。それだけの事、だ」
恨みをより深く。より、大きく。
己の踏み付ける道は、他者の憎悪で舗装されていると言わんばかりに。
笑う襲撃者に、此方も笑い返した。
「知らぬさ。誰かの気が晴れるかなど。
知りたくもない。それで、誰かが救われるかなど。
あの子、が誰かは知らぬがな。其処まで私を憎く、憎悪しているなら。
同じ穴の貉となって、私に憎悪の矛先を向ければ良いだけ。
簡単だろう?貴様はその為に、此処を訪れたのではないのかね」
踏み潰された拳銃の破片が、己の頬を掠める。
頬を伝う血に、僅かに顔を顰めながら、笑う。嗤う。
そうして、首を掴まれれば、息苦しさに僅かに顔を顰めるだろう。
しかし、怒気を感じるものの――何故か、殺意を感じない。
その違和感が。その、疑問が。嘲笑う様な己の表情に、僅かな疑問符を浮かべさせる。
そして、己の瞳を覗き込む金色の瞳と。
何時の日か嗅いだ、椿の香りと。
"あの子"という言葉と。
その全てが、己の中で噛み合った時。噛み合ってしまった時。
茫然とした声が。唇から。
「――……さ、ら?いや、椿……とやら、か…?」
唇から、言葉が零れた。
■黒いフードの人物 >
「貴様はそうやって、自分のしていることから一生目を逸らす。
踏みつぶして生み出した憎しみも悲しみも、受け止めきれもせず。
己を傷つけることで、その身を機械のようにすることで許しを求めている。」
首を絞める力が、微かに強まる。
呼吸を奪い、酸素を奪い、意識を奪おうと。
「増悪? そんな生易しいものではない。
私は、私のするべき事をするだけ。
人の幸せを求める力は、それほど弱くはない。
貴方が諦めてしまったように、全ての人間が諦めてしまうと思ってくれるなっ!」
その叫びは、どこか悲し気に、しかし怒りに満ちて。
唇を噛みしめて、殺せないことを悔やむかのように。
高熱化していく体温は、怒りを表すように、己と理央の身を焼いてゆく。
「……あんたが、その名前を口にするな、あの子を捨てたあんたが……。
あの子の幸せを奪ったあんたが。
貴様は、あの子の言葉の何を聞いていた!!!」
吐き捨てながら、死なない程度に、しかし無傷では済まない力で、瓦礫と化した建物に少年を投げつける。
■神代理央 >
「……許しを求めている、だと?
ふざけるな。冗談を言うな。私は、許しなど請わぬ。
許しを請う等、弱者のする事だ。己の振るった力の結果を、認められぬ弱者の戯言だ。
そんなもの、私が欲するものか――!」
絞められる力が、強くなる。
それでも、己の傲慢さと矜持を折る事は無い。
それが己の全てであり、根源なのだから。
「……幸せを求める力?それこそ戯言よな。
個人個人の幸福の追求を、好き放題にさせる訳にもいかぬ。
折り合いをつけねばならぬ。
妥協をせねばならぬ。
諦めねばならぬ。
そうしなければ、社会は機能しない。一人の幸福のために、大勢が不幸になる事も、ある。
……現に、今の貴様がそうであろう!自らの幸福を阻害された恨みを、暴力という形で振るう貴様が、私に何を問うか、溝鼠!」
叫ぶ襲撃者に、同じ様に叫び返す。
尤も、此方は首を絞められているのでその声には力が微妙に籠らないが。
『体制』を『社会』を守り、維持してきた矜持が、叫び声となって吐き出されるのだろう。
だが、燃える様な高温の中で『彼女』が零した言葉には。
その矜持も、意地も。掻き消えてしまう。
抵抗する間もなく。或いは、抵抗の意思を見せず。
投げ飛ばされ、瓦礫に叩きつけられて。
吐き出した酸素の中に鮮血を交えさせながら、ゆっくりと彼女へ視線を向けた。
「…………なる、ほど。それで、神宮司を襲撃したわけ、か。
それで、私への憎悪を滾らせているという、わけか。
納得したよ。ああ、理解した」
よろよろ、と。ふらつく身体を叱咤して立ち上がって――
■神代理央 >
「――Brennen!」
■神代理央 >
叫んだ言葉と共に、異形達から砲弾が放たれる。
己が射程内にいようとお構いなしの、半ば自縛めいた――鉄火の奔流。
■黒いフードの人物 >
「自爆……!? あんたって人は……!!」
あの体制と社会を盾にする馬鹿は、気でも狂ったか。
少年ごと巻き込むようなその砲撃の嵐に、距離を取る。
大きく少年と距離を取る様に後ずさる。
いつもならば、避ける必要もないそれを受けるわけにはいかなかった。
このローブの、その奥をさらけ出すわけにはいかない。
たとえ、彼本人に其れが知られようとも、その姿を表には晒せない。
故に、少年が傷つくことになろうとも、彼女はその場から『独り』で離脱する。
砲撃による爆炎の中、少年がどうなるのかを、見守ろうと。
大きく跳躍して、ひときわ高い建物からその様子を見守った。
■神代理央 >
そう、砲撃で彼女を倒せるとは思っていない。
ただ、此れだけ距離が近ければ――少なくとも、回避に動いてくれるだろうとは、思っていた。
そして、己の異能と異形は己の完全な制御下にあった。
故に、発射のタイミングも威力も、己の思うが儘であれば。
落第街の怪異の攻撃すらも防ぎきる己の肉体強化で、砲撃を防ぐのは容易な事であった。
「……けほ、けほ。やれやれ、分かってはいても、自分ごと吹き飛ばすというのは度胸がいるものだな。
――まあ、取り敢えず。此の場から離脱してくれただけでも御の字というところではある、か」
気付けば、視界の先に彼女はいなかった。
小さな溜息と共に、痛む身体を引き摺る様に歩き出そうとして――
それは叶わず、疲れた様に瓦礫に身を預ける事になる。
「………そうか。沙羅が…いや、椿、か。そう、か」
ぼんやりと虚空を見上げながら、深く、深い溜息を吐き出した。
■黒いフードの人物 >
「こざかしいやつ……でも、目的は果たされた。
この後、体制が大きく動く。
きっと神宮司は落第街を目の敵にすることでしょう。
あの人もうごかざるを得ない。
それをこの街が許すかどうか。」
落第街には、落第街のルールがある。
裏には裏の、表には表のルールが。
彼らはきっと、その領域を軽く飛び越えてくれるだろう。
「神代理央、貴方は貴方の手で、その体制を壊すことになるでしょうね!
哀れな操り人形になって、多くの命を奪い、貴方の居場所すら消し炭にして!
……愚かな人。」
神宮司に逆らえない彼は、きっと、それすら受け入れるのだろう。
けれど。
「幸せになれ、そう言ったあなたの可愛いあの子は。
どこに幸せを求めるのかしら。
ねぇ、神代理央。
女の子ってのはね。
愛の為なら死ねるのよ?」
そういって、襲撃者は姿を消した。
建物から飛び降り、路地裏の奥へ、裏の世界へと。
彼女の残した声は、落第街に高く響いたことだろう。
■神代理央 >
それほど時を立たずして。
続々と駆け付ける応援の風紀委員と、火災消化に奔走する生活委員会の消火隊。
瓦礫に凭れ掛かっていた己も、救急隊と風紀委員達に担がれる様に運ばれていく。
「…いや、其処までせずとも良い。自分で歩け……聞いているのか、おい。担ぐな。大袈裟過ぎる――」
こうして、歓楽街にて起こった騒動は、幕を閉じる。
風紀委員会上層部の一員である神宮司蒼太朗の襲撃。
それは、少なからず影響を与える事になるのだろう。
しかし今は。今夜は。
歓楽街で燃え盛る焔が消えて、灰となって。
燃え尽きていく迄の時間は、平穏が戻ってくるのだろう。
その平穏が何時まで続くのか、誰にも分からぬ儘――
ご案内:「歓楽街 高級風俗店」から黒いフードの人物さんが去りました。
ご案内:「歓楽街 高級風俗店」から神代理央さんが去りました。