2021/04/03 のログ
ご案内:「◆遺体安置所(過激描写注意)3」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
静まり返った、夜の病院。
元より入院患者も少なく、賑わうはずもない、解呪や霊障を患う人を癒やすことを専門とした病院の、地下。
――その最奥。
霊安室の扉の前に、私は居ました。
私の体質は、祭祀局で高く評価されていて。
怪異を呼び寄せ、呪いを焚き付け、浄化を受け付けない。
それが、とても"便利"なのだと。
私は、喜びました。
自らが道具のように評価されたところで、気になど留めません。
私にそんなことを気にする余裕も資格もなく、それこそ私への正しい評価だと思っているから。
……それでも、コレは少し、辛かった。
曰く、貴重な魔を惹き付ける体質を維持するため。
曰く、呪いに呪いを重ねれば血質の改善につながる何かが起きるかも。
曰く、その中に祭祀局や島の治安を揺るがす秘密を持っている人間が居るから。
だから。
キミにはとあることを、してほしいのだと。
……辛いとは、思いました。
……でも。
頼まれるのならば、私はやるべきなのだ。
元より穢れた身に、汚れを厭う理由も、意義も、矜持も、私には持ち合わせなかったのです。
……だから。
廊下から物音は何一つ聞こえてこない。
今日だけは、私の貸し切り。
今だけは、禁じられた部屋。
意を決して、その扉を開く。
祭祀局から下された任務は、自らの呪詛の維持と、補充。及び残留思念の読み取り。
つまり。
先日……見た夢を、思い出していた。
霊安室には、当たり前ながら。
死体が並んでいた。
まるで、ショーケースの中に並ぶ肉のように。
■藤白 真夜 >
「……、……っ」
ただの死体だ。
けれど、直視できなかった。
死体など、なんとも思わない。
医療の勉強をする最中、死体も、解剖写真も、見たことがある。
もっとおぞましいものなど、祭祀局でも、その任務でも、幾度となく見てきた。
動く死体が。
泡立つ怨霊が。
蠢く腐肉の群れが。
そのどれも、なんとも思わなかった。
慣れているのだ。
……でも、これは。
検死台の上に並べられた、数人の遺体。
私が今から■■する■■だ。
「う、……――」
息が荒くなる。
落ち着こう。
私は、……私は、何も悪いことは、していない、……はずだもの。
これは、ちゃんとした祭祀局の、任務。
遺体も、落第街やスラムで亡くなられた方の、身元さえおぼつかない、それ。
生活委員会が回収、"掃除"する中で、どこにも行き着かなかったものを、祭祀局の暗部が"資源"として受け入れるだけ。
震えるからだで、遺体を見つめる。
やせ細った身体が。
怪しげな黒ずくめのスーツが。
肌も顕な扇情的なドレスが。
汚れた布地のごろつきめいた格好が。
……そう。
私は、悪くない。
きっと、"そういう"人たちなのだろう。
銃創が。刀傷が。何か異能でつけられたであろうえぐれた傷が。
"まっとうに"生きていれば、こう死ぬことはないだろう。
頭から血がひいていくのを感じながら、哀れな自己弁護を、己の醜い正当化を。
かろうじて。
為すべきことを為すために、検死台に震える手を、かける。
……大丈夫。私は、間違えてない。その気になれば、すぐ終わる。
■藤白 真夜 >
やることは、単純だった。
検死台は、死体が洗えるようになっている。
ごく浅いバスタブのようなもの。
――そこを、満たすだけだ。
検死台のふちを掴んだ手は、気づけば力が入って真っ白になっている。
……そこから、血が流れ出す。
小さく、音もなく。
けれど、夥しい量の。
死体が積まれた検死台に、血が満ちていく。
(……わたしは、わるくない……わたしは、まちがえてない……
……そうだもの。
きっと、だれかがころした。このひとたちが、ころされた。
このひとたちは、スラムのひとたちだ。
……ルール。
この島のルールは、この人たちを、居ないものとしてる
……だから、だいじょうぶ……)
手の震えは、止まらない。
でも、大丈夫だ。
心が弱いのなら、論理で武装するしかない。
そして、事実、何も法には触れていないはず。
……だって。
このひとたちは、"居ないモノ"として扱われているんだもの。
……この島という国から追い出された、哀れな子羊たちだ。
高く聳えるこの島の倫理という城壁から打ち捨てられる、死体だ。
――じゃあ、私はなに?
今やなみなみと水面を作るほどになった私の血液を、その鏡面を、覗き込む。
……決まっている。
――腐肉に湧く、死蠅だ。
■藤白 真夜 >
「い、やッ……!ちが、ちがう、……」
正視できず、崩折れた。
ああ、なぜ気づかなかったのだろう。
血液に触れていると、ずっと流れ込んでいた。
"味"が。
物言わぬ躰の、感触が。
冷えて饐えた匂いが。
「――、――お゛えッ……!」
胃液が逆流する。
びちゃびちゃと床に吐瀉物を溢しながら。
今日1日何も食べていない……何もない胃液を見つめて、薄れゆく意識の中思い出す。
だから、肉を食べるのが嫌になったのだった。
■藤白 真夜 >
「……けほ。……はぁ……」
口の中の胃液を吐き出しながら、思わず一人で悪態を付く。
「なんでよりにもよって毎回吐いてんのかしらね……。一応"食事"の前だっていうのに」
ゆらりと立ち上がれば、紅い瞳で目前の死体を見つめる。
「……はぁ~」
思わず、大きなため息を一つ。
自らの命がこんな何処の馬の骨とも知らない死体の山に支えられていると思えば、仕方のないことだ。
呪いがどうだの、祭祀局の任務だの、死体の残留思念を読み取るためだの……。
あれは、全部嘘だ。
目的は、"私"をこそ維持するためだった。
私に消えられては困る。
けれど、出しゃばられては邪魔。
だからこそ、こんな絞りカスのような、死体喰らいなどをやらさせる。
案外、表と裏の理由両方を兼ねているのかもしれなかったが。
「冷たい血って、不味いのよねぇ……。
はあ。最後に熱い血潮感じたの、いつだったかなー」
ぼやきながら、真夜の残した仕事の続きに手をかける。
とはいえ、それこそ"呑む"だけ、なのだけれど。
■藤白 真夜 >
気が進まないのは、私も同じだった。
私は、死にかけている。
私は本来上位人格のはずだけれど、身体の支配権は99%、真夜が持っている。
組織は気づかせてないつもりだけれど、真夜が本気になったら私など消し飛ぶだろう。
そんな、空前の灯火だ。
飢えに飢えて、砂漠の真っ只中で倒れているのが私だ。
そして、この"食事"が唯一の、癒やしだった。
砂漠の只中で乾きに乾いて、目の前に出されたのが下水の水だった。そんなところ。
飲みたくなんてないけれど、飲まないと死ぬ。
本来、死体なんて眼中にもないし。
存在を強めるための食事のような行為も、嫌だった。
「はぁ~あ。しかも、あんま増えてないじゃない……。
せめて数だけ持ってきてって言っておいたのに。
えーと、……七人ぅ~?
もぉー……。物資の締め付けとかでもっと死ぬと思ったのにぃー……」
検死台の前で腕を組み、血潮に肘を浸す。
……それだけでいい。ただ、触れているだけで。
少しずつ。
少しずつ、死体が血の海に沈み込む。
「まあ、いいわ。
殺しもすれば、助けもするでしょう。
……輝かしい未来を抱えた学生達の国。
それでいて、落ちぶれたモノたちを恥部のように切り捨てる
そして、這い上がろうと足掻く弱々しいモノたち
……結局私好みなのよね」
違反部活の抗争か、あるいは風紀の襲撃の結果か。
……ただ、そこに居るだけで死に絶えていったのか。
もしくは、もっとどうでもいい、結末。
それらを迎えた死者たちを、……嬉しそうに見つめる。
「……さあ。見せて。
あなたたちの、末路と……意味を」
■藤白 真夜 >
ぞぶり。
血液が音を立てて、死体を呑み込んでいく。
死体とはいえ、血液だ。
既に冷え切り、そこに命は無くとも。
私は、それを飲み下す。
血で、血を。
「……■■ ■■■。餓死ね」
人の名が口から出る。きっと、一番下のヤツの。
自分でもよく聞き取れないのは、死体じゃどうせ読みきれないことのほうが多いから。
文字通り、劣化している。
「◯◯◯◯◯=◯◯◯。ショック死。頭がすっとんでるわ」
血液だけで全部わかるわけじゃなかった。
元より、私が好きだったもの。
命を全て飲み込むくらい、血を浴びた時。
その人のことが解る。
霊能力とかじゃなくて、ただ、その人たりえる量の血液を感じているだけ。
「◇◇ ◇◇。薬物中毒と心臓疾患の併発。馬鹿ね~」
一番解るのは、末路。
死の瞬間。
死体だし、当然っちゃ当然よね。
それ以外のことは、靄がかってしかわからないし、追いかけない。
その気になれば、お上の言う通り残留思念くらい読めるかもだけれど。
「□□□□□□=□□□□。……うえー。全身に重度の火傷……異能ね」
ときたま、笑い飛ばしながら人々の最期を看取る。
当然、ロクなものではなかった。お互いに。
スラムで餓死。
風紀とやりあって死亡。
なんかもうよくわかんないまま大砲みたいなの打ち込まれて即死。
きっと、ろくでもない連中だ。
末路と共に流れ込むイメージも、
嫌だ嫌だ嫌だ、だの
ぶっ殺してやる、だの、
あの野郎許さねぇ、だの。
そんなのばっかりだ。
……そう。
"死んで当然"……そんなのばかりだ。
■藤白 真夜 >
――だからこそ、輝いていた。
あまりにも、小さく。
なんなら、滑稽なほど。
(●●●●●になりたかった)
(腹一杯●●●●を食いたかった)
(スラムの王様になりたかった)
死体の末路と記憶と残渣の、奥の奥。
その、願い。
私の目当ては、それだ。
あまりにも当然に死に、倒れ、朽ちていく。
見向きもされず、事実その価値は無かった人たちだろう。
殺されて当然、自業自得。
誰に悲しまれることもなかっただろう。
そんな人間達の中にも、夢や願いが遺っていた。
ちっぽけで、つまらなく、意味があったかすら怪しい。
でもそれは……私の中で、ゴミ溜めに落ちた宝石のように、輝いて見えていた。
「……。……ふふ、ふふふ……」
血液が快楽に悦ぶかのように波音を立てる。
その前で、私は腕を組みながら、満足気に瞳を閉じる。
■藤白 真夜 >
「少しの間だけ、覚えていてあげる」
私の記憶は、すぐに飛ぶ。
元からこんなもの覚えておく気も無いし、真夜と違って記憶力は良くない。
そもそも、消えかけの人格だ。
「……あなたたちが、
どうやって死に、
何を願い、
何を叶えられなかったのか、ね」
私そのものである血の海に沈みゆくモノを、静かに見つめる。
満たされる空腹のせいか、口元は淡く綻ぶだろう。
弔いというにはあまりにも浅ましく
食事というにはほんの少し感情的な
おぼろげな微笑を、浮かべながら。
ご案内:「◆遺体安置所(過激描写注意)3」から藤白 真夜さんが去りました。