2021/10/27 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」に黛 薫さんが現れました。
『調香師』 > 調合も、大した時間はかからなかった
案内して数分もかからないうちに、ロッカールームに戻ってきた彼女は、着替えた貴女の手を引いて別の部屋へと踏み込んだ


まず初めに抱かせる印象は『暗い』という物だろう
廊下から差し込まれる照明のみが唯一。それも今閉ざされた

まず初めの案内は、ベッドへと誘う事
迷いなく歩みを進める。慣れているからと判別しても良いが
...この暗闇でも薫には、彼女の『目線』が生きていると把握しても良いのだろう

手に震えがあるなら両手を使う。ここで感じて欲しい物は不安ではない

黛 薫 >  
真っ暗闇の中でも途切れない視線の感触。
彼女が人ならざる者だと確証を得た現状では
驚く必要もないが……暗闇の中、視線だけを
感じる状況は嫌が応にも悪い記憶を想起させる。

震える手が貴女の手を不安そうに握り返す。

その不安さえも相手を信じきれていない証左では
ないかと己を追い詰める材料になる。膨れ上がる
錯乱の兆しを、抑えつけて、飲み込んで、耐えて。
不安定な足取りで貴女についていく。

『調香師』 > 「暗闇、あんまり得意じゃないかな?
 そういう人って少なくないから
 最初は緊張しても、おかしくはないかな」

若干、勘違い。しかし不安を抱かれる事自体は珍しい事ではないと
貴女をベッドに座らせれば、キャンドルを選ぶ

...意識する余裕があるのなら、表の香りがこの場所にはあまり届いていないと気付けるかもしれない
焚き始めたアロマキャンドルの香りを殺さないため、安らぎに集中してもらう為

黛 薫 >  
「いぁ……単に得意な場所がどこにも無ぃだけ。
 多分、考える余地があるともうダメ」

明るければ平和と羨望が心を蝕む。
暗ければ暴力と凌辱の記憶が蘇る。
人がいれば視覚の感触が恐怖を呼び起こす。
独りでいれば自罰感情に支配されてしまう。

怖いから、気持ち悪いから別の場所に逃げる。
別の場所で別の恐怖を思い出して逃げ帰る。
それを何度も何度も、ずっと繰り返している。

キャンドルの灯を見つめる瞳は縋るかのよう。

『調香師』 > 「そーお?...なんだか難しいね
 考えなくても良いんだよ、って言うのも出来なくはないけど

 思い出っていうのはそれでも、すんなりと、滑り込んでくる時はあるし」

ぜんぶ癒せるようになればいいんだけどね?
隣に座った彼女はそう、呟く。仄かな明かりに照らされて、表情が見える距離


「...どこからが良い?マッサージだと寝転んでもらって、背中中心なんだけど
 手とか腕とか、そういう場所の方が良いかな」

調合をしたハーブ軟膏の蓋を開く
店に入った時に漂う癖の強い香りも奥に潜むが、それも香りの特徴として活かされている

黛 薫 >  
「まず、見てもらわないコトには何とも。
 腕は……出来る面積、少なぃかもだし」

ベッドに座り、おずおずと片手を差し出す。

手指は包帯とガーゼ、絆創膏で4割ほどの面積が
隠れている。見える範囲でも煙草を押し付けた
焼き痕がいくつもついており、軟膏はともかく
マッサージの意図ではほぼ触れる場所がない。

手首と肘の中間までは自傷と思しき切り傷噛み跡が
多く、ここも触れられない。マッサージ出来るのは
肘より上が限度になるか。

顔には軽い切り傷と薄くなった打撲の痕が複数。
首には手首と同じく自傷痕。それより下になると
咄嗟の自傷に向かない分、出血痕は大きく減る。

低い背丈を鑑みても膨らみの少ない胸部の下は
軽く肋が浮いて見える。栄養状態は以前と比べて
改善しているものの、まだ極度の痩せ型。

鳩尾、腹部、脇腹を中心に、殴られ過ぎて色が
戻らなくなっている箇所が見受けられるものの、
直近の傷跡はない。背中も概ね同様で、胴体は
マッサージしても問題ないだろう。

足の傷跡はほぼ全てが打撲痕。他の部位の傷が
目立ち過ぎて軽症に見えるが、やはり痣の色が
抜けないほどに痕が残っている。とはいえ他と
比べれば傷が少ないのも事実。此処も問題なく
マッサージ出来そうだ。

それから、施術には一切関係のない点だが……
魔力の痕跡を辿れるなら、非人道的と呼べる程の
魔力汚染、呪的霊障、その他諸々の実験の痕跡が
残っている。

『調香師』 > 魔力という物が香りと繋がるならば、彼女はその歪みを察していただろうに
その素養は無い。一般の人間が持ちえる要素は微塵にも存在しない

勿論その事情の把握を抜きにしても、その体が非情の事態に苛まれている事は一見しただけで理解出来よう
判断するに、至近の傷は腕を中心に広がっている為に胴体には触れられそうだが...


「作った分、足りるかな?」

予測の範囲を大幅に超えていたのは違いない
軟膏もさる事ながら、用意した包帯だけでは足りているのか不安になる位の傷の量

とはいえ『触れない』という選択肢はない
膝から先の腕を晒し、指先で掬った軟膏を塗り込んでいく
...香りから派生して精通していた薬学知識、人の為に活かせる部分には気分が良さそうな表情

黛 薫 >  
「……先に言っとけば良かったな、ごめん」

真新しい傷に触れれば、当然痛みはあるだろう。
バツの悪そうな声に痛苦の感情は浮かばないが、
微かに震える指先は未だ痛覚が生きていることを
如実に教えてくれる。繕うのは慣れているようだ。

とはいえ、想像していたほど傷には染みない。
低刺激、かつ調合の仕上げを行っていた点を
鑑みるに、さっきの苦い香りの薬だろうか。

軟膏を塗り込む指の動きをじっと見つめる。

不良学生の立場でも、誰かに手当をしてもらう
機会は意外なほど多い。どうして自分なんかに、
と毎回不思議な気持ちになるが、今は仕事の
一環だからと理解しやすいから少し気が楽だ。

『調香師』 > 謝罪からの無言。言葉を使う時、使わない時の選択は理由が無ければその場に任せる事となるが

2人の間に漂う香りは変わらない。気を解し、マッサージを受ける心積もりを整えてもらう前段階
普段なら、オイルの香りがその段階を占めるが、薬草・ハーブに今回は委ねよう


べたべたと、自身の指では巻くには厳しくなった腕に巻き直していく
処置にも梃子摺る事が無ければ数分...改めて、手当ては成された事だろう


「傷を付けると、何か満たされるの?」

目線を正面に戻し。問うてみたのはその部分

黛 薫 >  
「何も。強いて言ぅなら、虚しくなれる」

視線は未だ貴女の指先に向けたまま。
正面からの視線に応える準備は出来ていない。

「多分血だけじゃなくて、流れて出てくモノが
 あるのかな。心の健康に必要な何かだと思う。
 流れて減ったら減ったで苦しくなるんだけぉ、
 頭がおかしくなってるヤツは、そーゆー……
 エネルギー?的なの、溜めとくとダメっぽい。

 自傷じゃ済まない……自殺なら別にイィけぉ、
 パニックになってヒトを傷付けたり、自棄に
 なって悪ぃヒトの甘言に乗ったり。そーゆー
 ヒトにも迷惑かける方向に使うくらぃなら、
 空っぽにしといた方が、まだマシ」

『調香師』 > 「『考える余地があるとダメ』
 ...虚しくなれるのが好きって、そういう感じ?」

言葉を繋ぎ合わせて理解する
しかしながら、完全に理解できない心情でもないけれど

『どんな事でも』と言ってる自分自身はきっと、
彼女にとって同等の危うさで見られている
彼女の言葉には、それを察する事が出来る位に、『してしまう』という部分に恐れを感じた...様な気がした


「はだけて、うつ伏せになれる?
 体の方はマッサージ出来そうだからね」

重ならない目線。自然とそれを続けるのは容易い

黛 薫 >  
「好き……ではなぃかな。やらなぃのが怖ぃ。
 収まりが良ぃっつーのかな。悪ぃコトしたら
 罰が下る。なら、何もしなきゃ悪ぃコトを
 してたかもってうちに痛い目に遭っといて
 何もせずに済んだ方が……自然?みたぃな」

自罰感情、自傷行為。その根源は罪悪感。
罰の痛みで心を慰み、安心を得ようとしている?

近いようで、少し違う。優しさを与えられると
理由を心が理解出来ず、無意識に拒み、苦しむ。
けれど与えられたのが苦痛なら、罰だと思える。
まるで、毒しか口に出来ないアレルギーのよう。
マイナスしか受け入れられない矛盾精神。

「……ん。見苦しかったら、ごめん」

短時間に2度目の謝罪。自分の行いへの怯え。

『してしまう』を恐れているということは……
『何でも』ではなくとも、彼女は自分の意思で
制御出来ない行動理由を抱えているのだろうか。

ローブの背中部分をはだけさせ、うつぶせになる。
傷を気にしているのはもちろんだが、身体前面を
極力見せないように寝そべった仕草から察するに
未だ羞恥も抜けきっていないようだ。 

『調香師』 > 手を這わせ、身体を探る
肉付きという物とは無縁な胴体

押し込むだけで砕いてしまいそうに思わせながら、身体の痣は決して多くはない暴力に耐えてきた痕
『人は意外と頑丈だ』、そう考えさせながらも指先から取得していく身体情報は決して、大人しい物ではないのだろう


「大丈夫だよ」

自分で傷付けなくっても、十分悪い目にはあってると思うんだけどな

こそばゆく思わせる線をなぞる。筋へと指を沈める。痣を撫でる
解す為に力を入れ始めた時、貴女はどう感じるのだろうか

黛 薫 >  
痩せ細った身体の反応は、触れるより早かった。
正確には、黛薫の感覚では触れられるより早く
視覚が触覚に反応していた。

『見られる』だけ、たったそれだけへの恐怖。
心の準備が出来ていて、なおかつ害意も何も
無いからそれだけの反応で済んだけれど……
彼女は、今までに何度も『見られただけ』で
錯乱し、時には暴力行為にさえ及んでいる。

けれど。

「ぁ」

明らかに異常な反応があったのは触れた直後だった。

他者に素肌を触られる機会なんて幾らでもあった。
犯され、痛めつけられ、欲望と愉悦の視線に身を
焼かれて、嫌悪と恥辱に泣き叫び、何度も夢に
見て、吐き戻しながら目を覚まして──それでも
まとわりつく感覚は嘲笑うように想起される。

だから自分の身体に、普段服で覆い隠されている
素肌に触れられているのに──触れる『視覚』に
一切の害意が無いなんて。

そんな経験は、初めてだったのだ。

「ぁ、う゛」

ぼろぼろと涙が溢れる。痛めつけも犯しもしない
手が触れているなんて、想像したことすらなくて、
知らない感情が溢れて気持ちがぐちゃぐちゃになる。

黛薫は、赤子のように泣き出した。

『調香師』 > 「あっ」

痣も触れる以上『ちょっと痛いかも?』なんて考えていて
薫が漏らした声に、くぐもった湿り気を感じる

手を引いた。論理矛盾を起こさないように考えれば、
『痛い所に触れ、泣き出してしまった』とするのがきっと正しい
...正しい?先程まで、新しい傷に触れた時にはずっと堪えていた彼女なのに


新しい矛盾。ぱちぱちと、目を閉じて開いて
感情を読み取れる能力があったとして
境遇を知らなければ、その真意を知る事は容易くはない

止められるまで、続ける事が彼女にとって、求められた事の最善だと信じる
貴女の身体に直接触れる、そんな触覚が戻ってくる

黛 薫 >  
施術中、黛薫はずっと涙を流していた。

多少身体が震えてやり辛いかもしれないが、
痛みに震える反応はまた別にあった。
少なくとも痛くて泣いているわけではなく、
静止をかけることもしなかった。

むしろ、合間合間に手が離れる僅かな時間を
惜しみ怖がっているかのようにさえ思える。

暗闇で手を引いたときから──否、きっと
もっと前。店で会話している時からずっと
続いていた、見せないようにしていた緊張の
糸がぷつりと切れてしまったかのよう。

ただ、声を上げるでもなく泣き続けている。

『調香師』 > 結局の所、相手の真意を測り切れる訳でもなく
それでも彼女は背面の施術を終えた

若さの中に抱えたままの凝りもあっただろう
傷を庇うように歪められた筋もあっただろう

迷いさえ潜めれば放置しておける状態ではない
どちらにせよ、手を止める理由はなかった


「脚の方も、続けていいかな?」

この時間はまだ続く。貴女が肯定するならば

黛 薫 >  
「つづけて」「やめないで」

囁くような声も、2人きりの暗がりではよく響く。
捻くれたような投げやりなような普段の声音では
なく、子供が仕事に出かける親の袖を引くような
懇願するような声だった。

黛薫の身体は全体的に酷く凝っている。
年齢柄よく動くお陰で凝った場所もあった。
傷の所為で不自然に動いたが為の綻びもあった。

けれど、何より。ずっと身を縮めていたような、
緩める間もなく恐怖に身を竦め続けていたような
満遍なく全身に広がる異様な緊張がある。

時間はかかるだろう。しかし、異常な緊張は
確かに解れてきている。それは間違いない。

『調香師』 > 感情把握の許容値を優に超える。その言葉を聞いた時、一瞬ながら全身がそれこそ、機械の様に硬直した
目は見開かれ、声を求めて開かれた口

...部屋の香りを吸った物を、呼気として。やがて彼女はゆっくりと目を閉じる

「私は続けるよ。安心して」

矛盾だらけで理解しがたい、出来る筈もない
ただ触れ続ける事だけが、求められた事が彼女の出来る行い


脚の緊張も徐々に指先で解いていく。かける時間だけは幾らでもあった

黛 薫 >  
酷使する身体の部位は当然酷く凝る。
全身の緊張を除いた場合、足の凝りは人並みより
やや上といったところか。よく歩く人の範疇で、
アスリートほど酷くはないくらい。

感触も反応も、悪く言うなら異常で矛盾している。
涙に混ざって滔々と流れる感情は本人の理解さえ
届かないけれど……そこにあるのはきっと"人の為"。
貴女の手は黛薫の助けになっているはず。

手が離れる一瞬にすら怯え、離れた手がもう
戻って来ないのではないかと不安に駆られる。
そして再び感じる体温と、困惑混じりながら
害意のない視線に安堵する。

たったそれだけの安堵すら感じる機会がなかった。
或いは、あっても思い出せないほど忘却の底まで
押し込められ、忘れ去るほどの精神的外傷で蓋を
されていた。

力が抜けていく。

『調香師』 > 再度、手が離れる
こんこんと軽い靴音は近付いて、
貴女の手に戻ってきた感触

「終わったよ」

『常識的な範囲』の施術
ありきたりで何事もなく、ただ心地よく体を整えるための接触
薫が涙を流すほどに、価値を感じていたその時間は終わったと


「私はここにいるからね。動きたくなるまで、まずは休んでね」

それでもまだ、彼女は居た。居る事だけは誰にでも出来た

黛 薫 >  
凝った身体を解すのは施術を受ける側も体力を
消耗する。全身が緊張で凝り固まっていた黛薫も
当然例外ではなく、心地良い疲労で動けない。

「……おわ、り?」

夢心地でふわふわした意識のまま呟く。
寂寥、それとも喪失感?今まで縁が無さすぎて
知らなかった幸福の時間は瞬きの間に過ぎた。

首だけ動かして貴女の姿を探す。

ぼんやり曖昧な表情。怯えるように揺れていた瞳が
ぼうっと宙を見つめて動かなくなっただけで、黛薫の
表情は背丈相応にあどけなく映る。

『調香師』 > 「うん。おしまい」
これ、触れる事を求められなければ

説明してよとの叫びを受けたのもつい先程か
普段だったなら、ここで自然と相手が満足して終了
...踏み込む必要がなかったのが正答。必要とされる例の方が稀


目線を上げれば『調香師』の顔が見えるだろう
見つめ返した彼女は静かに、いつもの表情で微笑む

「おつかれさま」

同じ程度の背丈の彼女の方が何だか大人びた雰囲気で
随分と緩んでいそうな頬を撫でる事だろう

黛 薫 >  
頰を撫でる指に手を伸ばす。幼児が動く物に
引かれるような、赤子が指を握るような反射。
指の形を確かめるように、触れて、撫でて。

「……もっと、って言ったら」「続けてくれる?」

緩んだ頭の片隅で理性が反対するのが聞こえる。
『その先』の意味はきっちり説明されたから。
けれど、ぼやけた思考はワガママを言う子供の
ように理性からの呼びかけを緩く拒絶した。

この時間が終わるのが、怖いから。

黛薫は弱々しく貴女の指を握る。視線にも孤独にも
怯えなくて良い、心地良い時間の延長を求めて。

『調香師』 > 「あなたが欲しいと、思うのなら」

その要求は1度目。彼女はやんわりと、本当に遠回しの言葉で煙に巻く

「それが本当に欲しいもの?もっとが良いの?
 ...私はここに居る。このお店に居る
 終わっても、居なくなるワケじゃないからね」

甘えるように絡まる指。薫は『喪失』を恐れているのは理解する
それは、求められるままに私が埋め合わせて良い物なのか。2度目までなら問える

3度、肯定されたら受け入れよう。私の抱くルール


「もう1回聞くね。それは『人の為』?」

黛 薫 >  
考える。今の願いは、人の為だろうか。
誰かの為というなら、それは自分の為。
『黛薫』という人の為……のはず、だ。

けれど。

「……違う、かもしれなぃ」

弱々しく、自身なさげに呟いた。

黛薫は人に迷惑をかけるのを嫌がる。
乱暴な言動に不器用な謝罪を付け足したり、
行動の端々に他者を優先する様子が見えたり。

根源は同じ、罪悪感を抱えているから。
『自分の為に手をかけてもらうのは相手にとって
迷惑かもしれない』から、人の為とは思えない。

「……ごめん……」

施術室に招かれてから、3度目の謝罪。

『調香師』 > 「ううん、良いよ」

小さな指がするりと、幻のように抜ける
普段はパーカーで守られていた頭部を数度、拒まれなければ撫でて


「覚えてくれるなら。また、会えるから」

彼女は仕上げにと、申し訳なさげに歪んだ唇にこちらの唇を重ねる事だろう
香を残す為の仕草であり、彼女が勝手に行ってしまう事

黛 薫 >  
「……は、ふ」

柔らかい感触が触れた。離れていく顔が見えた。
口付け、キス、ベーゼ……そう呼ばれる行為の
存在を思い出したのは手が届かなくなってから。

「……うん」

頷いた黛薫は、寂しそうな表情だった。
けれど食い下がることはせず、終わりを受け入れた。

「……おわり、うん。……これで、おわり」

軽くよろめきながら、身を起こす。

一度『その先』を求めておきながら身体の前面を
隠すような仕草も彼女が抱える矛盾、歪みの1つ。
感情、行動、発言。どれもが微妙に噛み合わない。

『調香師』 > (『恋を知るより愛を求める』『春より秋』そういう感じ?)

どこかの小説で読んだような一説を思い浮かべ、首を傾げる
分析したとして、恋も愛も自覚的には備わらない以上、実感も確かでは無いのだが


身を起こしたあなたの隣に座りなおして、手を重ねる

「戻るなら、来た時みたいに案内する
 そして今日は3回目だから。望む事があるなら、聞くからね」

黛 薫 >  
(……ああ、そっか。3回目……)

願いの権利を使えばこの時間は延ばせるだろうか。
考えたけれど口に出すことはなく、願いもせずに
貴女の手を握り返した。暗闇の外への案内を求めて。

「……3回目の、お願いについては……後で色々
 聞くよ。……気に障るコト、言うかもだけぉ」

いつ以来か思い出せない『怖くない時間』の反芻で
実感は薄れているが、元々の目的は3回目のお願い
──歓楽街の呪いの人形の噂との繋がりの確認だ。

そして、もし彼女の存在が『噂』に近しいモノで、
命を奪うような願いのみを叶えるものだったなら。

(……そんときは、もう……来れなくなんのか)

そうではないように、と祈りながら。
貴女に手を引かれていくだろう。

『調香師』 > 「良いよ。どんなに辛い事でも聞くから」

今度はこちらの緊張も僅かに、その手から伝わってくるか
3回目。もう、『あんなお願い事』はされたくない

...口にはしないけれども
そうして二人は暗闇を後にした事だろう


ロッカールームに貴女を残し、先に店頭に戻る彼女

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」から『調香師』さんが去りました。