2022/01/14 のログ
ご案内:「落第街 閉鎖区画」にノアさんが現れました。
ノア > 閉鎖された区画の中、廃棄されて久しいと見えるビルの屋上に人影が1つ。
静穏性に優れたクロスボウを手に双眼鏡で距離を測り、対象を捉える。
今や動く事すら出来ぬ苗床と化した、元は人だったと思しき存在。

――距離70、風は東に向けて微弱。

ボルトの先に小型の焼夷榴弾を取り付けた間に合わせの武器。
取り付けたスコープの先の異形の花に向け、息を止める。

「……すまない」

許しを請う言葉と共に放たれた矢が夜を駆け、宿主を穿った数瞬の後に火を散らす。
命中した、狙い通りの結果を視界に捉えても達成感など得られるはずもなく。

「あぁ……クソッタレが」

大声を出せば奴らも寄ってくる、それが分かっていたとしても漏れ出す言葉は抑えらえれず、
ずるずると壁にもたれかかるように項垂れる。

ノア >  
群れらしい群れは風紀委員やそれ以外の義勇兵とも言える連中が
意図して否かはともかく、引き付けてくれている。

「ただの人探し……のはずだったんだが」

親友と飲み明かして、夜が明ければ状況は一変していた。
『蟠桃会』がやらかしたのか、あるいはその取引相手か。

「ったく、データどころか実物が流出してるってのは、マズイんじゃねぇの」

此処に居ない男に毒づいてみるが、マズイなんて状況では無い事は百も承知だった。

動く奴らは動いている連中にある程度引き寄せられて掃けていく。
そうなると厄介なのは植物に寄生した物や完全に苗床となって固着した物。
あれがある限り、進むも引くもままならないだろう。

「ボルトが無くなったら、仕切り直すか……」

最善手は燃やす事、と言えど火炎に類する魔術の類について素養も共用も持ち合わせていない。
嫌んなるね、と呟きワイヤ―を隣の建物の屋上に引っ掛けて移動を続ける。

ノア >  
種は植物に、動物に、人に根を張り数時間で花を付ける。
観察している限り、開花の後に実を付けるまではかなりの個体差があるらしいのは分かった。
刈り取るならば時間的な猶予は長くない。
同情も、感傷も、後の悲劇を大きくするだけだ。

「あぁ、胸糞悪ぃな――っと!」

ビル伝いに辿ってきた屋上が途絶え、走り幅跳びの要領で踏み切る高度3メートル。
まだ感染したてらしい孤立した一人の犠牲者に向けて、
フリーフォールの勢いをそのままに、抜き身のククリを振り下ろす。

ノア >  
凡そ刃物の立てて良い音では無かった。
メキリ、と何か硬い物を踏み砕いたような破砕音。
脳幹部への致命的な破損を与える一撃に舞う血と、肉と、脳漿と。
飛び散るソレに触れた瞬間に、流れ込んでくるのは手にかけた者の記憶。

表の世界に居場所を失い、非行を繰り返している内に学校にも通わなくなった元一般学生の刹那の記憶。
非行と言っても幼稚な子供の悪戯程度。
歓楽街で日銭稼ぎを繰り返し、その日を生きて、人並に笑う薄暗がりの溝鼠。
それでも――

「……すまない」

――こんな死に方をしなきゃいけないような奴じゃ、無かった。