2022/02/04 のログ
紅龍 >  
「いーんだよ、思春期なんだからしっかり興味持っとけ!
 少しくらいエロいくらいの方が健全ってなもんよ」

 おじさんって生き物は歯に衣を着せないのだ。
 でもまあ、奥ゆかしすぎるのも問題ってもんよな。

「暗い場所、ね。
 ちゃんと覚えときな、どんな暗い場所にも――光は差すもんだ」

 空になったコーヒーの缶を置いて、立ち上がる。
 さて――そろそろ休憩の時間も終わりか。

「おいおい、こんなおじさんに恩義を感じる必要ねえぞ。
 なにせ違反部活のわるーいおじさんだからな?」

 下がった頭を、こつんと突いて。
 閉めた扉に耳を当てに行く。
 ――いくつもうめき声が聞こえてきやがる。

「――ありがとな。
 応援してくれるだけでも、嬉しいよ。
 ああでも」

 振り返って、指を立てた。

「この話、絶対に内緒だからな?」

 と、また下手なウィンクを向ける。
 まあその辺りは――信用してる。
 八割くらい、情の入れ込みだけどな。

「焦るな焦るな。
 ゆっくりでいいさ。
 まずは、世話になってる人たちに、感謝の一つでも、行動に移してみな。
 多分お前さんにゃ、そんくらいからで丁度いいさ。
 ――まあ、もちろん?
 思春期らしく一足飛びに『お泊り』しちゃっても良いとおもうけどな!」

 へへへ、とおっさんらしい笑い方をしてやって。
 さて、そろそろお時間か。

「――よし、ちったぁ気負いはほぐれたな。
 出口まで送ってやるが――ちゃんとついてこれるよな?」

 ホルダーから短剣を引き抜いて、静かに扉のロックを開ける。
 扉の向こうには、集まりだした寄生体どもがうろうろしている事だろう。
 部屋を出ればその瞬間から、脚を止める暇はなくなる。
 

藤白 真夜 >  
「おとまり? 
 ……エ――、……~っ!」

 ……そう言われても、もはや反論も何もせず。
 恥ずかしそうに目を閉じるだけなのです。
 なんでしょう……言葉としては知っていても実際に音を通して聞くと妙に生々しく聞こえるというか……。

「……タバコを吸わされたり、お酒を飲まされたり、……変なことを言われたりで、確かにわるいおじさんかもしれませんね。
 でも、……ありがとうございます。
 貴方の“悪さ”に、救われる人は多いと思いますから。
 ……だから、貴方も――貴方たちも。救われるべきだと、思っていますから。必ず、内緒にしますね」

 立ち上がりながら、ちょっと微妙な具合のウィンクをする紅龍さんへ、……ここに来た時の憑き物が落ちたよう笑顔を浮かべる。そして、やっぱり頭を下げた。
 再び上げられた顔に、……もう甘えは無い。
 緊張するような心持ちは、“未練”を作る妄想で使い切っていた。

「はい。大丈夫です。
 ……足止めだけなら、私も出来ます」

 本当の意味で、私にこの場所に立つ資格は無かったかもしれない。
 でも、殺しの意味をちゃんと教わった。無理に自分がやる必要は無いのだとも。

 女の体から赤い霧が垂れ込める。
 その霧は、真似るかのように短い剣の形をとって追従するように浮き上がった。
 下手な援護はきっとこの人の邪魔になる。
 それでも、……“死んでもいい”なんて思うなと言われた――教えられた。
 だから、身を守るための覚悟は、きっとある。

「――行けます」

 意志を以って、男の問いに応えた。

紅龍 >  
 ――救われるべき、か。
 李華はともかく、オレは、どうなのかねえ。
 まあ、殺してきた奴らに顔向けできねえような死に方は、出来ねえけどよ。

「おう、脚止めだけで十分だからな。
 銃は危なくなるまで使わねえ。
 近接戦闘が続くから、絶対に離れるなよ」

 そして力強い『いけます』の声。
 ――まったく、子供ってのは成長が早くて良いもんだ。

「――よし、行くぞ」

 そして部屋を飛び出し、オレは『真夜』を連れて寄生体の中を切り抜けていく。
 そうして風紀が取り仕切る出入口まで送り届ければ――気づかれないうちに身を隠す。
 別れの言葉は必要ない。
 どうせまた――きっと出会うさ。
 

藤白 真夜 >  
「……はい!」

 本気でやれば、寄生体を槍で縫い止めて釘付けにできるかもしれない。
 それなら私でも――なんて覚悟はしていたけれど。
 ……結局のところ。私に出来ることはあまりなかった。
 それだけ、紅龍さんの“エスコート”が完璧だったのかもしれない。
 息が乱れることはなかったけど、気を引き締めてはいた。
 ……奇しくも、自分の身を守るためでなく……大切なことを教えてくれた、一人の兄を傷付けないためにも。

「……ふう……、ありがとうございました、紅龍さ――」

 風紀委員が見張るバリケード出入り口まで辿り着けば、ようやく息をつく。
 風紀委員に事情を説明してから、お礼をしようと振り返れば、……
 そこは、誰も居なかった。

 ……それは、どこかわかっていたような気がした。
 あのひとは、元凶――と言っていいのかわからないけれど、違反部活に所属しているのなら、不都合もあるのかもしれなかったから。
 それでも。

(ありがとうございました。……優しいおじさま。
 ……どうか、ご無事で)

 届かなくても、心の中でお礼を言いながら頭を下げた。……もはや“人間”の姿のない、無人の廃墟へ。
 ……もう一度会えるかは、わからない。
 私が、“裏”側へ足を踏み入れることは少なかったから。
 それは、未練がいつか出来た時か。

 ……また、あの“既視感”で出会う時まで。

ご案内:「◆落第街 閉鎖区画(過激描写注意)」から紅龍さんが去りました。
ご案内:「◆落第街 閉鎖区画(過激描写注意)」から藤白 真夜さんが去りました。