2022/03/31 のログ
ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 居住区画(過激描写注意)3」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
「……これ、ヤバくない?」
辺りを徘徊する……あの花の寄生体から隠れるように、物陰に潜みながら呟きが漏れた。
バレると流石に面倒だからきっちりと小声。割とギャルな響きになったのが面白いくらいには余裕はあるのだけれど。
幸い、そこら中に血は満ちている。いつでも頸をかき斬れるように異能の切っ先を意識しながら……でも、つい、なぜこうなったのか考えこんだ。
~遡ること、30分~
「おーっ?」
いつも通り、落第街を散歩していたら、爆音と地響きが轟いた。
これは絶対面白いコトがあるに違いない!と確信した私は一目散に現場に駆け付け──あの寄生体の姿を目にした。
(……なるほどね。
実験動物の暴走。
違法な施設の事故。
……内部からの反乱。あるいは内通者との抗争の余波……。
さて、どれが起きたのかしら)
違反部活の情報は真夜を通して私も知っている。
あのおじさんが何をやっているか、言われた通り詮索はしなかったけど、考えはする。
問題は、どれか。
あの不器用なウィンクを決めた男が、やり遂げられたのかどうか。その確認のつもりだった。
蟠桃会の拠点へ足を踏み入れてすぐ、それは確信に変わる。
倒れ伏す構成員の死体、どこからか届く実験体を外に出さないようにすぐ援護射撃。
詳細はわからない。
でも、心中で私は声を上げた。
(ふふ、派手にやったじゃんおじさん……!
中身からブッ飛ばしたってワケ? 延々つまんない仕事やらされてた借りだもん、思いっきりやんないとね……!)
きっと、あの人はうまくやったのだろう。組織の転覆、隷属への復讐、……奪われたものの奪還。
どこまでうまくいったか知らないけれど、以前に言った通り私には関係のないことだし、手を出すことではなかった。
……はずなんだけどな~……。
「……なんで突っ込んじゃったかなー」
物陰に独り。
偶然かこっちを覗き込んできた実験体の首が、即座に跳ねた。
宙に浮く紅い短剣が閃くと、ぼとぼとと実験体の体がバラけ、串刺しにするように赤い槍が飛んだ。
確実に死ぬまで殺してから、距離を取る。これを守れば割となんとかなるはず。
ようするに、私はなぜか単身でその拠点に乗り込んでいるのであった。
■藤白 真夜 >
「う~ん、結局あんまり相性良くないのは変わらないんだよね。
あの種がヤバいのは変わってないし……」
壁まで吹き飛んだバラバラ死体が、それでもまだ蠢きながら種を吐き出し“動かなく”なるのを眺めていた。
殺せる。
今まで自らの内から静止が掛かっていた実験体への攻撃に躊躇いがなくなっていた。
さて、なぜだろう。
私は真夜での経験もあるけれど、真夜の心の中まではわからない。
だから、おじさんの安否のためなら殺しを厭わないのか、自らの意味を大事にしろと教えられたからなのかもわからなかった。
あるいは──
この無意味な死を救い上げるモノが居ることを、あの灰色の跡地で見たからなのかも、しれなかった。
でも、殺せるからと言って、この状況はなかなかにまずい。
頭の中まで暴力で埋め尽くされてる寄生体は、簡単に殺せる。
人間の規格をしているモノは私はとにかく殺しやすい。
が──、
施設内にここまで実験体が溢れているのは想定外だった。
一度ミスすると取り返しのつかないことになるのは想像に容易い。
あの悪趣味な赤い花に、私の紅い血を吸い尽くせるとも思えなかったが……、
あの命を吸い上げる花と、無尽蔵に湧き出る私の赤い命。
重なったら嫌な想像しかできなかったから。
「……どーしよっかなー。
火、炎か……自害用のはあるんだけどなぁ。ダルいんだよねー、あれ」
あの隔離区画に行って以来、手放さなくなったものがある。
それは、特殊な聖水だった。
聖なる水だからといって、死体に咲く花に効いたりはしない。
むしろ、私に効くように特別に造られてある。
私の体に触れれば聖なる炎が燃え上がるようにできてある、これさえあれば最悪の事態は避けられるはずだった。
「……なんでこんなにダルいのに、やる気になってるんだろう、わたし」
口ではぐちぐちと文句を言いながら、体は動き出していた。
物陰から物陰へと進み、寄生体の死角から赤い短剣が閃く。
それは一度見た光景をなぞるように、的確に脳髄を断っていた。
そしてその隙に進む。
奥へ。
すでに前線は切り開かれ、終わった戦場を這う実験体を駆除していくかのように。
■藤白 真夜 > ……このモチベーションは、動機は、どこから出てくるのだろう。
ゆっくりと、しかし確実に寄生体を屠る異能とは裏腹に、頭の中は考え事に耽っていた。
真夜は死を畏れる。
けれど死を恐れぬ私にとって、最も恐れるモノは自己の喪失だった。
あの花は、それそのものだ。
あの花に巣食われることは、私にとって数少ない致命的な死に近しい。
だから、こんなところには来る必要が無い。
(仮に。おじさんのことを心配してるから?
……100%有り得ないなー)
それは文字通りに、いろんな意味で。
アレに助けは必要ないと思った。
仮に、……ここで死ぬのがあの男の運命だとしても。
■藤白 真夜 >
あの男を、どう評するべきだろう?
私が思いつくのは、『違反部活に隷属させられた凄腕の退役軍人』、だった。
ならば、ここで死ぬのはその男の運命として間違えているのだろうか?
過酷な運命を切り開いた男が、怨敵を打ち倒し、その代償として命を失う。
それは、──“正しい終わり”ではないだろうか?
私は、私たちは、正しい死に憧れている。
私たちの内にないソレに。
だから、あの男がここで死ぬというのならば、私たちに止める慈悲も、義務も、理由も無いはずだった。
むしろ、正しい終わりに関与するような出しゃばりはしたくないくらい。
……でも。
でも、もしも。
あの男を、『優秀な妹を持つ不器用で体の弱い兄』だと、したのならば?
彼はそうとは絶対に言わないだろう。
私もそうは思わない。
でも、そう評することが出来るのならば。
ここで死ぬのは、間違えている。
兄が妹を救って死ぬのは、美談かもしれない。
でも、それは“正しい死”じゃない。
ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 居住区画(過激描写注意)3」にノアさんが現れました。
■ノア >
「あぁ、補充はこんなもんでイイ。
本音を言えばもうちっと欲しいが――時間らしい」
ある程度距離があるにも関わらず鼓膜を揺らすほどの爆音が聴こえ、
馴染みの武器商人に別れを告げる。
おっさん――紅龍から紹介された男だが、あの男から譲り受けた装備のメンテナンスや
拡充などはここを通さないとままならない。
後ろ手に手を振って向かうのはクレーターのようになった爆発跡の地表部を抜けた先の居住区画。
トリガーに指をかけたまま暗がりに溶けるようにして奥へと進む。
少し開けた場所に出てようやく、想定していた以上にスムーズに進めた理由が見えて声をかける。
「――久しぶりだな、マヤ」
裏か表か、この際はどちらでも良かった。
この少女がここにいる事自体が想定外ではあったが、先の散らかされた実験体は彼女の手によるものだろう。
「随分な散歩道だと思うが……なんか気になる物でもあったかい?」
■藤白 真夜 >
「あー……めんどくさいなー……。
一気に突っ込んだほうが早いかな……。
種を受けても、燃えればいーしー……。
焼死は消費がキツいけど二回くらいなら──ひゃっ?」
私の異能は、こういう隠れたままでの戦いには実は向いている。全然やんないんだけど。
物陰に隠れながらゆっくりと寄生体を殺しながら、いよいよ面倒くさくなってきたころ。
こんな場所でマトモに話しかけられるとも思っていなかったのか、珍しく素直に驚いた声を上げた。
「うっわー……びっくりした。
えーと、誰だっけ。いや、覚えてるんだけど」
振り向けばそこにいたいつか出会った探偵の姿に、流石に驚いた表情を見せながら、……数秒、考え込む。
「……そうそう、危うく殺しかけた探偵サンでしょ?」
嫌な覚え方をしていた。
「散歩道としては落第街よりかは実りがあるね。結構死んでるヒトいるし。
……むしろ、気になるモノしかなくない、ココ? 動く死体とか」
ちょっと呆れたように苦笑した。私もなんでここにいるのかと問われると自分でも答えが出しづらく。
……それでも、聞かなければいけないことがあった。
「……ねえ。おじさんの知り合いなんでしょ?
──あのひと、生きてるか知ってる?」
それは珍しく。
笑みも浮かべずに、その安否をまっすぐに問うていた。
■ノア >
「ありがたい事に殺されなかったもんで、まだ生きてんだわ。
――そういえば、薬の礼を言ってなかったな。
俺もおっさんもアレのお陰で死に損ねてら」
本当に、ありがてぇことで。
この血の香の少女の気まぐれか、あるいはその身を共有する正しくあろうとする少女の想いか。
一線を踏み越えて尚、手にかけられずに見逃して貰ったからこそ今がある。
「いつか似たような所を散歩した事があるが……あん時より"マトモに"死んでる死体が多いこって。
見飽きる程潰してきた動く死体よりそこら中に転がってる白衣の連中の方が俺は気になるかな」
呆れるような笑み、あまりに不似合いな場所である事を除けば年頃の少女らしい振る舞いにこちらも小さく笑う。
紅龍が進んで彼女のような年頃の子供を巻き込むとは考え難い。
紅龍に対して勝手に覚えているシンパシーだが、おおきく的を外しているという事はあるまい。
「……さてね、連絡は繋がってないからなんとも。
ここ爆発させた張本人だから無傷ってこた無いだろうが――今回は頼まれてきた訳でも無くてね。
死んでたら死んでたでそん時はそん時さ。
俺が探してるのは"そっち"じゃないもんで」
一瞬、黙ってしまった。
表の少女ならいざ知らず、目の前の血の香りを隠さぬマヤが人の安否を気にする事が意外だったのだ。
「ただ、紅龍の持ってる連絡端末ってちっと特殊でさ。
そもそも死んでりゃ繋がりすらしないんだわ。
こっちの連絡を取れないってだけだから意識がトンでるか――
それか連絡すら取れない程の厄介の相手中かって所だろうな」
あの男の装備と頑強さを考えれば、後者の方が濃厚だろうか。
なにせ少女が捌いた後だからこそ分かりづらかったが、この内部には実験体が溢れかえっているのだから。
■藤白 真夜 >
「……そっか。そだね。死んでたら死んでたで──良いコトいうね、探偵サン」
あの男の安否を聞いても、表情は途絶えたまま。
けれど、探偵のある意味無関心なその言葉には、笑みで応えた。
「死はさだめ。
ここで死んでるなら、それがあのひとの運命ってことだもんね」
そう呟く口元には、何かに納得したような微笑みが浮かんでいた。
真面目に誰かを心配するような器量は元から私にはないのだ。
「探偵サンもこんなトコ来てどーなっても知らないよ?
“憐れみ”じゃあの花はどーにもなんないし。むしろ肥糧まであるよね……」
傷が治ったところであの花に巣食われてはたまらない。花に対しては逆効果まで想像できる。
……だからこそ、目前の男に目を向けた。
「ねえ、気づいてる?
ココ、結構ヤバいよ?」
広場に入ろうとした寄生体が、虚空から湧き出た赤い短剣で首を切り落とされた。念入りに、手足を杭で繋ぎとめるおまけ付き。
考えながら殺せるのだから話しながらでもあんまり変わらなかった。
「……あなたは、ここへ踏み込む理由があるの?」
白衣の死体。研究者が何をしていたか、想像はつく。
その気になって調査すればいろんな情報が出てくるだろう。
探偵ならそういう仕事も、あるのかもしれない。
でも。
「あなたは、……この死地で、やることがあるの?」
……私には、その理由があるのかわからなかった。
目前の探偵は、それでも此処にいる。
……私は正直言って、この花が嫌いだった。
“死に損ねた”。
そういう男に、この花の苗床を末路にするのは、些か気に入らない程度には。
■ノア >
「これだけ大掛かりな事やってんだ。リスクなんて本人が一番分かってるだろうしな」
自分の死を賭してでもあの男が叶えたい目的。
いつか寿司屋でパフェ食いながら話した内緒話の延長線。
「死はさだめ、ね」
納得気に笑う少女を他所に、その言葉に小さく目を伏せる。
墓地でも、似たような事を言われた気がする。
自分の動かした運命に巻き込まれて妹が死んだ、あれはさだめだったのか、あるいは俺が定めてしまった物だったのか。
「まぁ、閉鎖区画も散歩した手前ここのヤバさは全身で感じてるさ。
"憐れみ"とあの花が掛け合わされたらどうなるかなんて考えたくもねぇ」
再生する端から、体の隅々まで蝕まれて死ぬこともできずに延々偽りの闘争の意思に駆られるのだろう。
そんな物はごめんだ。
「自分の願いが絶対に叶わないって分かってるせいかね。おっさんの妹に勝手に情が湧いちまってね。
おっさんが命かけて妹助けてぇってんなら、ついでで俺も命かけてやるくらいにはね。
――他人だろうにって、呆れるかい?」
結果として、紅龍の命が尽きたとしていても。その目的だけは果たさせてやりたい。
彼の願いは、自分にも理解できる所であったから。
「他人の為にって理由が気に食わないなら、そうさな――」
首を切り落とされた寄生体の奥、二体続けて走り出してきた影の頭蓋を消音機を付けた銃で撃ち抜く。
只の弾丸では無い。着弾点を中心に小規模な爆発を引き起こす特殊弾薬だ。
「妹と大差ねぇ年の子をオモチャにしてる奴らへの、ただの八つ当たりだよ。命がけのな」
これは紅龍から妹の話を聞かされた時から内に会った感情だ。
純粋な怒り。目の前の少女について調べていた際にも感じていた感情の高ぶり。
「死んでも良いだなんて思いはねぇけど、腹立つ連中にひと蹴り入れたくて来ただけさ」
本当は“知”のゆびさきの連中に向けていた感情だというのは、この少女には黙っておくほうが良いかもしれない。
他人の為にしか最早全力を尽くそうと思えぬ男の感情など分からない方が健全だろうから。