2022/04/02 のログ
ご案内:「◆『蟠桃会』拠点 収容区画(過激描写注意)」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
隠密行動を面倒くさがって駆けだしてからどれ程経っただろう。
斬る。突く。刺す。穿つ。断つ。
数多ある異能の切っ先を襲い掛かる総てに向け、仕留め、返り血を飲み下す。
刀、槍、棘、鋏、鎌──。
あらゆる武器のカタチを取る血液は、それらを繰り返す最中もはや紅い直線の集合と化していた。
(コレが一番効率が良い。あんまり楽しくないけど。
……ああ、私、思ったより楽しんでないのね)
走りだした脚はじきに緩み、今はゆっくりと歩くほどの速度だった。
しかし、その足元には赤い血だまりが。その周囲には濃い赤い霧が。
返り血を浴びたはずの、しかし普段と変わらぬ姿で寄生体のうろつく深部を歩いていた。
自らを燃やす聖火はもう灯っていない。
あれは結局、自分を蝋燭にするようなもので、治癒にも燃やす血液の維持にも“コスト”が大きすぎる。
何より──
(……近づいてこない……?)
ただ襲い掛かってくるだけだった実験体の動きが、明らかに変わっていた。
明確に、私に接近せずに襲い掛かる隙を見計らっている。
そしてそれは正鵠を射ていた。
足元に溜まる血だまりを避ける動き。
突っ込んでくる相手だから、私はあれだけ殺せたのだから。
……つまり無闇な接近戦を仕掛けなければ、種への対策は後回しにしていいと判断した。
私は実のところ、イカれた時のほうが頭がよく回っている。──“私”とは逆で。
■藤白 真夜 >
「──そこ」
空間に漂う霧が一瞬で凝固し、天井の暗がりを縫うように赤い線が迸る。
一瞬を置いて、どちゃり、と床に異形の寄生体が落ちた。
……腕が太くて猿みたいで全身ドロドロ。
断末魔のためか開かれた口の中には花まで見える。
「……はあ。
貴方たち、ちょっと趣味ワルいんじゃない?」
直後、異形の口中の花ごと頭を串刺しにするかのように、地面から赤いトゲが生えた。
周りを取り囲む屈強な寄生体の群れは、それを見てもやはり私に近づこうとはしない。
……まるで、指揮官が居るかのように。
「まあ、いいけどね。
不死を追い求めると醜くなるのは、どこも一緒ってことだし。
貴方たちの花を見たときは、悪くないって思ったんだけどなー」
言葉を投げかける。
それが通じるはずもない。寄生体は暴力の意思すらコントロールして、私を観察していた。
……でも、通じなくともそれは、私の思った言葉でもあった。
「……たとえ醜くとも。
繁茂するため、広がるため、満ちるため……根を伸ばす。
その有り様、私は嫌いじゃなかったもの。
でもね──」
寄生体が、何を待っていたのかを、察した。
あの寄生体は、ただの“輪”だ。私を、外に出さないための。
現れた新しい寄生体は、根に体を覆われ、もはや根そのものが蠢くかろうじて人型の巨躯だった。
「だからって、ソレは頂けないかな。
ただのキモい化け物にはキョーミ無いのよ……ねッ!」
吐き捨てるような言葉とともに、虚空を掻き切るような紅の閃きが迸った。
■藤白 真夜 >
「──!」
私の異能は、挙動がとにかく速い。
延々訓練を繰り返した成果もあるけど、それより血液散布による事前準備によるものだった。
空間に漂う微小の血液粒子を、そのまま増幅凝固し、刃にして顕す無拍の剣戟。
寄生体として強化された肉体は、とはいえその分質量も膨れ上がり、素早さでは私に届かない。
──しかし、人間程度の強度ならいくらでも食いやぶれる私の赤い刃は、強化寄生体の物理強度に届かなかった。
「か、ふッ──」
身の丈3メートル近い、巨木めいたごつごつした根に覆われた巨体。
それに殴られて紙きれのように吹き飛ばされる。
ぐしゃり。
骨か、肉か、内臓か、その全てのはじけた音をさせて、壁に赤い飛沫を散らせる。
……間違いなく、即死だった。
合図をようやく得たかのように、待てを解かれた犬めいて通常の寄生体がその死体に殺到し──
その全てが、死体から捩じれ出た曲がった赤い槍に貫かれる。
「……こほ、……なるほど、……ね。
脳が潰れちゃいけないなら、……硬くすればいいやってコト?
……単純ねぇ~?」
未だカラダが潰れたまま、その身に何かを吸い込むかのように赤い霧を纏わせながら、立ち上がる姿があった。
物理的に頑丈なのは、こちらも同じ。
口元に似て非なる赤を浮かべながら、その巨躯を見て──楽しそうに嗤った。
■藤白 真夜 >
自らの異能は、肉体は、強く歓喜していた。
痛みに、死に、……命を削るべく強敵との逢瀬に。
しかし反対に、頭の中身は冷たく研ぎ澄まされていく。……案外、頭から血が無くなっているからかもしれなかったケド。
崩れ落ちる寄生体の“死体”の向こう側に、切り傷は出来たもののすぐさま元通りになる巨躯の寄生体の治癒を見ていた。
……こんなとこまで似てるんだから、殺さずにはいられないんだけど。
(アレは、切れはしても、殺しきれない。
炎も……私を燃やすだけでアレは燃やしきれない。
……今の私じゃ無理かな?)
理性は、冷静に分析する。あれがどこまで再生できるかにもよるけど、……普通の寄生体の異常な再生力を見るに厳しい。
周りには手を出してこないけど寄生体が多数、巨躯も他にまだ居る可能性すらある。
一方、私ときたらかなり怠い。
延々燃えてたせいで血は減ったし、久しぶりにここまで異能を使ったせいか息も上がってきた気がする。
あげくの果てに一回死んだ。
しかし。
本能は、殺そうと叫んでいた。
殺すべきだ。今にして考えれば花が赤いところまで苛ついてきた。赤は私のでしょ。
「──おっけー!
殺すわ!」
鋭さだけを求めた紅い切先が、無数に湧き上がる。それらを全て、あの巨躯へ向ける。
……結局のところ。
頭の中が冷静なところで関係は無いのであった。
私は考えるのが苦手で、それは真夜の担当なのだ。
私の赤い閃きが殺到し、巨躯を切り刻む。
そして、その巨躯が切られながらも私を壁に殴りつけるところまで。
一度目の衝突と全く同じソレを、もう一度繰り返した。
──それが、尽き果てるまで。
■藤白 真夜 >
「──ごぼ、……っ」
口元から血が溢れる。
何も血反吐を吐いたわけじゃない。湧き上がる血が、漏れ出ただけのこと。
今やそこは血の海のような有り様だった。
赤い血の海に、傷だらけの巨躯だけが立ちすくむ。
巨躯はその“赤い物体”をついに殴りつけることをあきらめたのか、両手で掴み上げる。
その腕力で無理矢理圧し潰そうとしたのか、それを──
「……おろかもの。
自分から死に近づいて、どうするつもり?」
再び。
その死体めいた赤いカラダから、無数の紅い閃光が走った。
今度こそ、水音を立てて巨躯がバラバラに切り刻まれる。
……まるで、刀を以て鋸の真似事をするかのような、醜い切り傷。
刃は通りがたく、なおも再生する。
しかし、延々と続く斬撃と無数の質量が、それを可能にした。
ぼちゃぼちゃと音を立てて巨躯の残骸が血の海に沈む中、入れ替わるように、赤い煙が血の海から湧き上がった。
もはや血に沈んだセーラー服しか原型の無かったそれが、赤い霧に包まれて人のカタチを取り戻す。
「……きっつーい……。
花てゆーか樹じゃんもう……」
しかし、額には汗が浮かんでいた。珍しく、疲弊した顔に疲れを滲ませながら。
だが、そのカラダには、傷一つ無かった。
■藤白 真夜 >
「あー……殴り合いなんてやるもんじゃないな~。たまには面白いかなーって思ったんだけどな~。
どっかに死体転がってないかな……。
今ならなんでもイケそう──」
壁にもたれかかりながら立ち上がるも、やっぱり力が入らない。……血が足りない。
“私”の優先順位は、体よりも先に異能がある。
異能が働くなら、体はどうでも良いのだけど。
しかし。
そのふざけた呟きは、途絶える。
新たに現れた根に包まれた寄生体と、輪から離れその奥で私をじっと観察する寄生体に。
「──なるほど。
それが、貴方たちの選んだ強さなのね。
……いくら刈り取られても、増えればいい。
繁茂し、溢れ、地に満ちる。
……趣味が悪いって言ったのは撤回するわ」
……それを、私は見つめ返した。
赤く揺蕩う血を映した瞳で。
ただ一つの目的のために、形振りを構わない必死さと、醜さ。
その美しさを、私は知っている。
零れ落ちていた聖水の蓋を開ける。
もはや空間に引火するほど、私の満ちた空間に、炎が閃く。
揺らめくように広がり、しかしすぐに消える炎は、私に落ちた種を燃やした。
「……良いわ。
私たちの果たしてどちらが……、
命として上なのか。
種として強いのか。
……不死の化け物たるのか」
炎に染まり、なお紅く爛々と輝く瞳が無数の寄生体を見つめる。
まるで、恋人へ向けるような熱い眼差しで。
「──殺し合おうじゃない!」
歓喜に満ちた声で、火蓋を落とした。
誰かを助けるために此処に来た気がしていた。
せめて誘導になるため前線へ立つためだった気がしていた。
違う。
元より、私はあの地獄で見えた花と、命としてどちらが上か決めに来ただけなのだ。
死に耽り、生に倦み、命を験す。
それが私の側の魂に刻まれた、血で染めあげられた存在証明なのだから。
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