2025/04/23 のログ
ご案内:「【常世島の現在】」にコラム:《異能喪失者》さんが現れました。
コラム:《異能喪失者》 >  
 ――《異能喪失者》とは。
 文字通り一度は《異能》が発現しながら、後にそれを失った者を指す。しばしば悪意のある者より侮蔑の言葉として使われ、差別的な表現として批判される場合もある。とはいえ、本来的には差別的な意味合いは持たない語である。
 《異能喪失者》の問題が、現在の「地球」において注目されているとは言い難い。《異能》を持つ者達の保護や統制、すなわち《異能》の「発現」や「制御」に社会の意識が強く向けられているため、《異能》を喪失した者にまで十分に目が向けられていないというのが現状といえるだろう。
 敢えて露悪的な見方をすれば、《異能》を失った者を「特別」と見なさず、危険的要素を見出さなかったという側面もあると言える。

 《異能》の発現者数は、《大変容》以降増加し続ける傾向にある。そして、多くの場合《異能》は長く保持される。若年層に発現者が多いという事実はあるものの、老齢にあったとしても《異能》が発現するケースはある。
 様々な理由により《異能》の使用が不可になる、喪失するというような事態は《大変容》以後常に発生しているが、上述の通り注目度が高いというわけではない。故に、《異能喪失者》の実情に関するデータは不十分であると言わざるを得ず、《異能》を再び使用可能とするための研究も発展途上である。
 《異能》の発現そのものは、先述した通り年齢や性別は無関係であり個人差が大きい。発現は決して若年層に限定された現象ではないものの、《異能喪失者》としての問題が顕在化するのは、後述するように若年者に特に多い。

 先天的/遺伝的あるいは人為的なものを除けば、多くの場合《異能》は後天的に突如発現するものである。強い精神的・肉体的危機に陥った際に発現するもの、精神・肉体的修養によって発現するもの、神的存在の加護・祝福あるいは呪いによって発現するものなど、発現時の状況は非常に多様である。
 良きにしろ悪しきにしろ、《異能》は個人のパーソナリティ・アイデンティティと深く結びつく傾向があり、特に若年者の場合はそれが顕著である。自己の《異能》と自分自身の価値・存在を直結させる傾向があるのである。
 《異能》と個々人の性質・性格・資質などとの相関は必ずしも明らかになっているとは言えず、明確に相関を持つ場合もあれば、そうでない場合もある。厳密な相関の関係になかったとしても、自らに発現した《異能》を、自身の秘められた力の現れと捉えることは珍しいことではない。

 突如発現した能力が突如失われることにより、深刻なトラウマを抱え込むことになる事例も多く報告されている。無論、《異能》を持たない者の場合も、所持していた身体能力などが失われることで自らのアイデンティティが揺らぐことはあるものの、《異能》の場合はそれが特に大きいということが言える。
 なぜならば、身体能力の向上などとは違い、《大変容》以後は誰しもが《異能》に目覚める可能性が高く、《異能》の多くは本人の努力などとは別に突如発現することが非常に多いためであり(当然例外もある。努力のために《異能》が目覚めることもあるだろう)、その点においてアスリートなどの身体能力の喪失とは性格を異にすると言えるものだ。
 《異能》の有無が個人の価値を左右するわけではない。これは《大変容》後の世界において前提とならねばならないものだ。しかし、《異能》を喪失した者がそのように思うことが出来るとは限らないということを、我々は知らなければならない。

 《異能》の喪失の原因は《異能》の発現の理由が多種多様であることと同様に、一定した原因や理由を述べることはできない。肉体的な要因、精神的な要因、その他の要因など考えられる理由は非常に多く、一概に言えることでない以上、事前の予防は困難である(これについても例外は存在するだろう)。
 《異能》そのものが現時点でもなお全てが明らかになってはいない概念であり、発現/喪失のメカニズムもケース・バイ・ケースである。つまるところ研究途上であり、《異能》についても今後新たな事実が明らかになることであろう。
 《異能》の喪失についても、必ずしも劇的なイベントがなくともある日突然起こる可能性も存在する。これは突如目覚めた力は、突如失われる可能性もあるということを示唆するものである。一生涯《異能》を保持した者も存在するため、全ての《異能》者がこの恐怖に襲われるというわけではないが、不安に思うものは存在するだろう。

 《異能》を持つ者は《異能喪失者》に侮蔑的な態度を取る者もおり、《異能喪失者》自身も《異能》を保持し続ける者たちに複雑な感情を抱く例が少なくない。そして、《異能》を持たない者にとっては、《異能喪失者》の心情を共有することは困難である。自称・他称問わず、《異能喪失者》を指すスラングの類も存在する。
 データが十分収集されているとは言えないものの、《異能喪失者》の方が《異能》を持たない者よりも強く《異能》獲得に執着する傾向があり、《異能》を取り戻そうと薬物や魔術のほか、効果の実証されていない方法を取ろうとするケースが増加している。
 失われた《異能》が復活する可能性は存在する。《異能》の発動が精神的な側面に依存している場合、一時的な精神の不調により《異能》が発動できなくなっていた場合、正常な精神状態に戻ることによって《異能》が復活した例もある。神的存在や魔術・呪術などによる「呪い」によって《異能》を封じられたが、呪いをかけたものを無力化することで《異能》が復活した例もある。故に、《異能》の復活は実証済みの事情である。
 ただし、《異能》喪失の原因が必ずしも精神状態という内的要因、その他外的要因に依るものとは限らない以上、これはあくまで一例に過ぎない。外科的な措置が必要な場合も存在するが、《異能》と大きく括られていても個人差が非常に大きいものであるため、《異能喪失者》個々人のケースに応じて対応する必要があり、このことが包括的な《異能》喪失問題への対応の難しさの一つの理由となっている。
  画一的な方法が確立されていない以上、一度失った《異能》を取り戻すということは容易なことではない。異能喪失者の多くが悩む点である。既存の疾病とは異なり、《異能》喪失のケースごとに原因を突き止め、対策を練る必要がある。そして、それらの対策を全ての異能喪失者が取れるわけではないのである。

 そして、《異能》の喪失は個々人の問題にとどまらない。《異能喪失者》のアイデンティティの喪失だけでなく、《異能》によって得ていた職や立場を失うという可能性も存在しているのだ。そういった《異能》者への救済措置は諸国家においても十分であるとは言えない。
 失った異能を取り戻させるべきなのか。それによってもたらされる心身の影響に懸念すべき点はないのか。倫理的な問題も含め、現代においてなおこの点については議論され続けている。《異能》喪失に関する研究は途上であり、《異能》喪失者に対する社会の支援や対策についてもまだまだ不十分であり、これからといった状態であるといえるだろう。
 《異能喪失者》の問題が「地球」において最も先鋭化している場所は常世学園である。これは当然のことであり、常世島は《異能》を持つ者たちが多く集まる場所である。その密集度は地球のどこよりも高い。《異能》を失うことで自らのアイデンティティが揺らぎ、心身の不調に陥る者は常に存在する。そして、委員会の業務を《異能》によって行っていた者が、《異能》を失うことで自らに絶望するケースも存在する。これらの問題への解決作が、モデル都市たる常世学園に求められている。これは、今後常世島の外で顕在化してくる問題に違いないのだから。

 《保健委員会》や《生活委員会》は、《異能喪失者》に対するヒアリングなどを常に行ってきた。《異能》の復活を試みることが心身に著しく悪影響を与えることが明確な場合は別だが、《異能》の復活の措置を試みるかどうかは当人次第であり、復活を望むのであれば《保健委員会》や学内の異能研究施設がその助けとなることだろう。
 近年、学内における《異能喪失者》の問題がより大きく顕在化しつつある。《異能》を持つ者の数と《異能喪失者》の割合が反転する可能性は今のところ考えられていない。常世島内では《異能喪失者》はマイノリティに近い存在(《異能》未発現の者は異能喪失者として区分されない)といえるが、決して軽く見てはいけない問題であることは各委員会にも周知されており、委員会内で《異能喪失者》が出現した場合のケアについて、常に検討と実施がなされている。
 《異能》の喪失がアイデンティティの喪失とも同義となる場合が存在する以上、《異能喪失者》の情報の取り扱いには注意を要する。この点にも注意しておく必要があるだろう。委員会の特殊な地位にあるもが《異能》を喪失した場合、その情報が外部に漏れることはその人物の身の危険を招く可能性がある。故に、そういった立場の人物ついての情報工作が行われることもある。
 極端な《異能喪失者》が危険な道に走ることもあり、これは島内の安全保障にも関わる問題である。だが、《異能喪失者》の全てはそういった道を選ぶわけでは当然なく、当然ながら《異能喪失者》というだけで危険視されることはない。

 ここまで《異能喪失者》の悲観的な部分を書き連ねてきた。しかし、全ての《異能喪失者》が己に絶望するわけではないということも付記しておかねばならない。
 《異能》を失ったことを認め、受け入れ、自らの心の中で消化し、新たな道を探す者もいる。《異能》のみが人間の持つ能力でもなければ、アイデンティティの根幹を成すものでもない。《異能》以外にも自らを自らとなさしめる能力は誰しもが持っている。それに気づくことができれば、《異能》を喪失したとしても希望を持って生きることができるだろう。

【PL向け】
 《異能喪失者》について設定追加です。後日、世界観にも追加予定です。
 色々と書いておりますが、「例外」ということもいくつか書かせていただいております通り、上の設定に当てはまらない場合の例も当然許容しております。利用者の自由度を下げることは考えておりません。
 ここで言及している《異能》の発現要因や喪失要因はあくまで《異能》全体としての話になります。「特定」の《異能》について発生原因が特定されていたり、喪失への治療法が確立されているというような設定を妨げるものではありません。


ご案内:「【常世島の現在】」からコラム:《異能喪失者》さんが去りました。