2024/05/29 のログ
ご案内:「第一教室棟 屋上」にポーラ・スーさんが現れました。
ポーラ・スー >  
「あらまあ、軍隊なんて穏やかじゃないわね」

 ふわ、と。
 ベンチに座る少年の後ろから、爽やかな甘さのある天竺葵(ゼラニウム)の香りが漂うだろう。
 同時に少年の頬に触れそうな距離に、柔らかな黒髪が落ちてくる。

「こんなところに一人だなんて、どんな悪だくみをしてるのかしら。
 先生にも教えてほしいわ」

 なんて言いながら、少年の後ろから手元のタブレットをのぞき込む『ふり』をしてみせた。
 教員はなにが面白いのか、楽しそうに頬を緩めている。
 

橘壱 >  
ふわりと鼻腔を擽るのはフローラルな香り。
多分ナニカの植物の香りだ。誰だ、と顔を上げると頬に振れる柔らかな髪。
綺麗な女性ではあるが、少年はそういうのには興味がない。
鬱陶しそうに髪を軽く払い、少しばかりベンチに距離を離す。
女性は自分を"先生"と言った。どうやら教師らしいが、当然見覚えはない。
興味がないことは覚えない。

「……アンタ誰です?」

訝しげに、不躾に問いかけた。

ポーラ・スー >  
「あらごめんなさい、近すぎたかしら」

 離れられてしまうと、少しだけ残念そうに目を細める。
 髪を揺らしながら、鬱陶しそうに自分を避けた少年の顔を覗き込むように、ベンチの後ろから上半身を乗り出した。

「まあ、寂しいわ、先生の事覚えてないのね」

 などと、おどけて見せながら和装の袖で口元を隠した。

「ポーラ・スー。
 初等教育の担当をしているから、あなたが知らなくても仕方ないわね。
 先生の事は、ぜひとも『あーちゃん』って呼んで」

 ポーラのどこに『あーちゃん』要素があるのか。
 ポーラは目元だけで微笑みながらそう自己紹介した。
 

橘壱 >  
「そりゃもう、大分。座るなら一言掛けるべきでは?」

一応教師、目上の人間と言うことで自分なりに丁寧な言葉で話す。
それでも無礼な態度を改める気はない。
別にパーソナルエリア、なんて細かいことは言わないが一声は掛けるべきだ。

「一々先生の顔まで覚えていないので。」

それこそ巨大な学園都市。教師も生徒も膨大だ。
有象無象の連中の顔を覚えるだけ無駄というもの。
戯ける相手とは対象的に、少年は鬱陶しそうに眉をひそめる。

「初等教育なら、僕と会うことはまず無いでしょうね。スー先生。
 ……ところで、何故あーちゃん?あーちゃんのあの字もないっすけど。」

もしかして、スペルの綴にAがあるからか。
それにしたって無理矢理だ。なんとも妙な自己紹介には、きっちり不思議そうに疑問をぶつけた。

ポーラ・スー >  
「あら。
 ちゃんと声をかけたじゃない」

 心外だわ、と言わんばかりに目を丸くする。
 声をかけてから近づけ、という意味だと分かっていてこれなのだ。

「そうねえ、あなたに初等教育なんて必要ないものね、『いーちゃん』」

 と、勝手な愛称で呼びながら、あら、ととぼけるように頬に指先を当てる。

「うーん、どうしてかしら?
 昔からの幼馴染の子たちから、ずっとそう呼ばれてたのよ。
 最近は、すっかり呼んでくれなくなっちゃったけど」

 なんて自分でもわからないと、不思議そうな顔をするのだ。
 

橘壱 >  
「……まぁ、そういう事でもいいです。」

わかってていってるな、コイツ。
面倒くさそうにため息を吐いて、タブレット端末を白衣裏に仕舞った。

「……、……今この場には僕とアンタしかいない。
 だからその『いーちゃん』ってのは僕ですよね?多分。」

「初等科でもない人間の名前も覚えてるなんて、暇なんすね。教師って。」

露骨に顔を歪めて嫌悪感を露わにしている。
マイペースな雰囲気というか、のらりくらりとする態度が妙に癇に障る。
人に勝手に愛称なんてつけるんだ。嫌味の一つ位を返してやる。
関わることの少ない担当なんだ、事実だろう。
そう考えるくらいに少年は跳ね返っていた。

「……ふぅん。改名とか……してるわけでもないか。
 雰囲気は確かに『あーちゃん』っぽいけど、名前にはあの字もないのに。」

「雰囲気だけであだ名付けられるタイプです?」

飽くまで響き、五感で言うならだ。
あだ名なんて、掠ってなくてもそんなものだろう。
そうでなければ、その幼馴染とやらの頭が可笑しい。
ふぅん、と適当に相槌を打ちながらレンズの奥から教師を見やる。

「それで、何か用ですか?それとも、暇なんですか?」

ポーラ・スー >  
「そうねえ、ほどほどに暇よ?
 ちゃんとお仕事してれば、だけど」

 ちゃんと、には働きすぎと働かなすぎは含まれない。
 くすくす、と笑いながらそう答えるだろう。

「どうなのかしら。
 でも、『あーちゃんっぽい』なら嬉しいわ。
 わたしも、そう見えるように頑張ってるんだもの」

 などと、どことなくチグハグな受け答えをしつつ、目を細めて楽しそうに笑っている。

「別に用事なんてないわ。
 ただ、放課後にお友達と遊んでるわけでもない男の子を見つけたから、かわいいな、って思っただけなのよ」

 無邪気な童女のように、頬を緩めて笑う。
 薄っすらと開いた瞳は、光を吸い込むような深い蒼に澄んで見えるだろう。

「それにしても、改名――そうねえ、改名するのもいいかしら。
 ねえいーちゃん、『あーちゃん』っぽい名前ってなにかあるかしら」

 などと気軽に言い出した。
 

橘壱 >  
サボりではないらしい。
一々相手の働きになんて興味はない。
膝に肘を置き、退屈そうに頬杖をついた。

「そうっすか。ヘンな教師ですね。
 一々それっぽく振る舞っているなんて、余程の変人だ。」

それほどまでにして嬉しいのだろうか、そんな的はずれなあだ名が。
理解に苦しむ。そもそも、全く以て別人のようなあだ名。
本当にこれは、その知り合いとやらの勘違いじゃないのだろうか。
或いは、この教師がそう思い込んでいる狂人なのか。
どっちにしろ、馬鹿みたいな狂い方だ。

「……ふ。」

それなら少し、面白い。口元も少しは緩む。

「一人でいるのに何か問題でも?部活動、授業中でなければ自由なはずです。
 人と遊ぶよりも面白いことがあるので、それまで待機していただけですよ。」

「それが可愛く見えるなら、相当ですよ。アンタ。……ハァ?」

友人と遊ぶのなんて興味はない。
友人と呼べる人間もこの島にはいない。
全て、あのバーチャル空間においてきた。もう必要ないものだ。
無邪気に笑う教師とは裏腹に、少年はまた眉間にシワを寄せた。

「何を言ってるんすか?改名予定があるとでも?
 あだ名から名前を合わせるなんて、余りにもあべこべすぎる。」

ポーラ・スー >  
「まぁ――不思議ねえ。
 なぜだか、ヘンってよく言われるのよ。
 先生は気の向くままにしてるだけなのに」

 変人と言われても、なにが嬉しいのか、にこにこと笑っている。
 少年の表情が崩れると、なおさら嬉しそうにするのだった。

「そんなに面白い事があるの?
 ああ、それはよかったわ。
 てっきり、可愛い寂しがりやさんかと思ったのよ?」

 蒼い瞳を少年に向けて、どことなく安心したように微笑むだろう。
 そしてまた、少年から塩気のある返答をされると、それが楽しいかのように血色の良い唇が緩んだ。

「あべこべ、それって面白くないかしら?
 だってほんとの名前より、あだ名の方が大事なんて、とっても可笑しくて、笑えてしまいそうでしょう」

 そんな事を心底たのしそうに言うのだから、少年の変人という評はまったく間違っていないだろう。

「それより、お友達と遊ぶよりおもしろい事ってなにかしら?
 ねえねえ、先生にも教えて欲しいわ」

 と、両手を合わせながら小首を傾げ。
 するすると、少年に身を寄せようとする。
 

橘壱 >  
「…………。」

コイツ、イカれてるのか?
相手が教師だと言うのに随分な感想を抱いてしまった。
変人と言われて喜ぶし、あべこべが面白いとかヘンテコな事を言うし、なんなんだ。
確かにのらりくらりと掴みどころはない不思議な人だが、ただネジが緩んでいるだけなんじゃないか。
確かに子ども受けは良さそうだが、此れが教師とは。
学園の懐の深さには恐れ入る。ふん、と素っ気なく鼻で笑い飛ばした。

「……一人でいることは寂しいとは思わない。
 だけど、世の中は孤独よりも寂しい事もある。」

きっと彼女にはわからないだろう。
この学園の教師になれるような人間に、凡人の苦悩は。
何を言っているのやらと肩を竦めれば、ピピピッと自身の端末が鳴った。
待ってました、と言わんばかりに少年は口元をニヤリと歪ませ、ベンチから立ち上がる。

「先生。名前は少しは大事にした方が良いです。
 まぁ、その名前が本当ならの話ですが……自分自身を何よりも端的に表現している。」

「それをおいそれと変えるのは、自分がないと言っているのと同義だ。
 自分自身の確固たるものを持たない人間が人の上に立つなんて、僕ならごめんだね。」

名は体を表すと言うように、それは人にとって最も大事なものだ。
親からもらったから大事にしろ、とかそんな話ではない。
言い換えれば"信念"、体の中の"芯"だ。そんなものがない人間に、教わることはない。
そのまま教師を一瞥すれば、携えていたトランクを軽く揺らした。

「さぁ、僕と関わることがあればわかるんじゃないですか?
 少なくとも、僕の前に立ちふさがるような相手なら……。」

「では、呼び出されたので失礼します。」

そうして振り返ることなく、屋上から去っていくだろう。

ご案内:「第一教室棟 屋上」から橘壱さんが去りました。
ポーラ・スー >  
「あらあら。
 そうね、その通りかもしれないわ。
 ふふ――大事な名前だもの、簡単に改めるものじゃないわね」

 少年の言葉に、またも楽しそうに笑って返し。
 侮蔑とも言えるような言葉にも、痒くも思っていないようだ。

「教えてくれないのね、ざぁんねん。
 ええ、いってらっしゃい。
 お仕事、気を付けてちょうだいね」

 そう言いながら少年の背中を見送るだろう。
 そして。

「――ふふ」

 誰もいなくなった屋上に笑い声が小さく響く。

「ふふふ――あはははっ」

 ひとしきり笑うと、両手の袖で口元を隠して、目を細めた。

「はぁ――面白い子。
 名前、名前ねぇ。
 ええまったく、だいじにしなくちゃいけないわよねえ」

 喜色満面、そう言って差し支えないほどに目元を緩めて、立ち去った少年の後ろ姿を思い浮かべている。

「ねえ『いーちゃん』
 ならあなたは、そのなまえにどんないみをもたせてるのかしら。
 いち、いち、いちばん、いちばん――ああ――いちばんなのね」

 堪えきれないとばかりに笑い声を端々から零しながら、深い蒼色が暗い光を灯した。

「ふふ――ああ『いーちゃん』
 あなたのしんねんがくだかれたら、あなたはどんなかおをするのかしら。
 そのとき、わたしがあなたをだきしめたら、どうなるのかしら。
 がんばってね『いーちゃん』――ああほんとうに」

 たのしみ
 

ご案内:「第一教室棟 屋上」からポーラ・スーさんが去りました。