2024/08/17 のログ
ご案内:「教室棟/進路指導室」に龍宮 鋼さんが現れました。
ご案内:「教室棟/進路指導室」にDr.イーリスさんが現れました。
龍宮 鋼 >  
進路指導室の窓際。
窓から外を見ながら人を待っている。
外はまだ暑いが、窓は全開。
煙草の一本でも吸いたいところではあるが、今日は我慢。
つま先で床をゆったりしたリズムで叩きながら。
トントン、トントンと。

Dr.イーリス > 進路相談を鋼先生にお願いした。
鋼先生はスラムの不良が相手でも真正面から向き合ってくださる方。
悪い方向へと変わりゆく《常世フェイルド・スチューデント》を止めたい……。
だから、鋼先生に進路相談を申し込んだ。
鋼先生は快く承諾してくださり、幾分かイーリスの心が楽になれた。

「失礼します」

こんこんと扉を叩き、開ける。

「鋼先生、こんにちは。今日はお時間をつくってくださりありがとうございます」

そう挨拶をして、イーリスは微笑んでみせた。

龍宮 鋼 >  
ノックの音、次いで扉が開く音。
振り向けば、約束の相手の小さな姿があった。

「おう。
 まぁ座れや」

窓を閉め、自身も椅子に座る。
やや乱暴にドカッと腰を下ろし、足を組む。

「んで?
 アイツらがヤクザ連中にいいように使われてるって?」

言い方。
とは言えメールで聞いている限りはそういうことの様に思えた。

Dr.イーリス > こくん、と頷いてイーリスは進路指導室に入り、椅子に腰掛ける。

「……はい。少し長くなりますが、経緯や詳細をご説明しますね」

経緯を説明すべく、イーリスは口を開く。

「《紅き屍骸》はご存知でしょうか? 今は鳴りを潜めて被害もなくなってきておりますが、つい最近まで落第街やスラムで出没してゾンビ感染を拡大させようとしていたアンデッドです」

多くの屍骸達を家臣とするアンデッドの“王”が倒された事もあるだろう。
屍骸の被害はあまり聞かなくなった。

「フェイルド・スチューデントは《紅き屍骸》を対処したいと集う違法部活の同盟に加盟しておりました。鋼先生をアジトに招いてからしばらくの事です。同盟の組織から援助していただき、フェイルド・スチューデントは私指揮の元、《紅き屍骸》を殲滅する作戦を実行しました。その作戦は、《紅き屍骸》の“王”が現れて私の仲間達を殲滅した事で大敗を喫して失敗……。私はその“王”に、感染をばら撒く時限爆弾と私に苦痛を与える呪縛を刻みました」

視線を落とす。

「感染をばら撒く時限爆弾を埋め込まれた私は、フェイルド・スチューデントに戻れなくなりました……。感染の拡大を防ぐに、私は落第街の外や人が多くいる場所に行く事を控える事になりましたからね。それでも、色んな人に助けられながら呪いが弱まっていきました。納涼氷柱割りの時には、ほぼほぼ呪いの影響がなくなっていて、落第街の大勢人がいる場所に行っても問題にならない程に呪いの影響が軽減されましたね」

あの時の鋼先生はとても素敵だった、と思い返して微笑んでいる。

「“王”の呪いが弱まった事もあり、感染爆発のリスクも収まりましたので、私はフェイルド・スチューデントの方々と再会しにアジトへと戻りました。仲間達を再開を喜び合いましたが、私がいない間に皆さんはエメラルド田村さんの意向でマフィアの仕事を請け負っていたのです……」

再び視線を落としてしまう。

「《常世フェイルド・スチューデント》はストリートチルドレンの不良集団……生き抜くために盗み……はやむを得ずやっておりましたが、義理と人情を尊ぶ事を心掛け、無暗に悪事を拡大する事は避けていました。しかし……今彼等は、マフィアにいいように使われ、他者の迷惑もあまり顧みず悪事を働くようになってしまいました……。スラム街のストリートチルドレンがマフィアの手先になっていく……それは、この島の闇をそのまま突き進む行為です……。闇に堕ちていく行為です……」

マフィアの仕事は金が入る、義理人情では飯が食えない、などとも言われた。

「……このままでは、みんなが……だんだん悪に染まっていきます……。どうにか……手遅れになる前に……更生を促せればと……」

イーリスの瞳は僅かに潤む。

龍宮 鋼 >  
彼女の話を黙って聞く。
要は彼女が一時的に組織を離れている間に、ヤクザの手下みたいなことを始めた、と言うことらしい。
彼女にとっては許しがたいことなのだろう。
家族のようなものだろうし、家族がそういうことをしているのは確かに嫌だ。

「――まァ、無理だろ」

だが、その枠の外から見た意見としては、そう言う意見にはなってしまう。

「今聞いた話だと、別に騙されたとか誰かを人質に取られたとかってことじゃあねェみてェだしな。
 そう言う話ならまた別だが、自分から始めたっつーことなら止まんねーよ」

それを生業にすると決めてから結構経っているように思える。
時間的なことだけではなく、慣れと言う意味でも。

「自分らでやってんならともかく、誰かの駒んなっちまったらもうどうにもならねェよ。
 ましてマフィアやらヤクザやらに使われてんなら尚更な。
 出来ることっつったら、風紀に片っ端からとっ捕まえて貰うことぐらいだ。
 ――そうなる前にこっち来いっつったのによ」

いつもの狂暴だが楽しそうな笑顔ではなく。
眉間に深く皺を刻んだ、眼光だけで人を射殺せそうな顔。
彼女に向けたものではなく、その顔で窓の外を睨みつけている。

Dr.イーリス > 簡単にまとめると『イーリスが一時的に組織を離れている間に、ヤクザの手下みたいなことを始めた』という事で相違ない。
鋼先生の言葉はかなりバッサリめで、イーリスは顔を上げて目を見開く。

その答えは現実的で、しかしイーリスが避けていた答え。
どうにかしたい、というのはどうにかできるという事を諦めていない裏返し。自分が夢想を抱いている事を知ったような気がする。

「……そう……ですね。マフィアの誘いがあったとは言え、決断したのは彼等です」

イーリスがいない間に、不良達はマフィアの手先として随分と動いている様子でもあった。

「マフィアやヤクザから逃げ出すというのは……やはりそう簡単な事ではございませんよね……。もう……風紀委員の方々に逮捕していただくしか……」

そうなる前にこっち来い、という言葉はイーリスに重く突き刺さる。

「……もう本当に……ひくっ…………どうにもならないのでしょうか……。私は……変われたのに…………。エルピスさんやナナさんと一緒に暮らして……お仕事もなんとか取れるようになって……自立できるようになったのに……。もう盗みを働かず他人の迷惑をかけずに生きていけるようになったのに…………。フェイルド・スチューデントはもう…………闇に堕ちていくしかないのでしょうか……」

イーリスとは真逆の方向に進むフェイルド・スチューデント。
イーリスは嗚咽を上げながら、涙の雫をテーブルに落としていく。
鋼先生の言葉はどこまでも正しい。正しい故の現実が、イーリスに突き刺さっていく。

龍宮 鋼 >  
「正規学生じゃねェ、身寄りもいねェ。
 こう言っちゃなんだが、連中が死んで気にするヤツァ、身内以外にゃいねェだろう。
 その身内は大抵こっちのコマってんだから、ヤクザにとっちゃ便利な兵隊だ。
 返してくれっつったところでハイどうぞとはならんだろうな」

行ってしまえばストリートチルドレンと変わらない。
どこに行ったってそういう連中がそう言うやつらの食い物にされることは変わらないのだ。

「連中自身、少なくとも今は前よりァいい暮らし出来てんだろうしな。
 ヤクザにケツ持ってもらってある程度自由にさせてもらってんだ。
 ヤクザやらの目気にして細々と暮らしてた頃に比べりゃ天国だろうよ」

いつ使い捨てにされるかわからない、と言うのは少し考えればわかるだろうに。
それほどまでにアホだったのか、それにすら飛びつくほど追い詰められていたのか。

「闇っつー程のこったねェがな。
 考えようによっちゃ、上手く立ち回れば裏でのし上がって、落第街の一角を支配する一端のヤクザになれるチャンスでもある。
 任侠に生きるっつってた連中にゃ、夢があっていいんじゃねェの」

限りなく細い綱渡りだろうが、数は多いのだ。
格ゲーを少し齧ったプレイヤーが全国大会で優勝できるくらいにはワンチャンあるかもしれない。
パイプ椅子に座ったままふんぞり返り、スマホを取り出し弄り回して。

「――で。
 そのヤクザ連中ってなァどこの馬の骨だ?」

Dr.イーリス > 「うっ……。その通りです……。スラムの人達が悪しき研究所の実験体にされたり、ヤクザに利用されるのは珍しくもない事ですね……」

これまでは、エメラルド田村の統率力やイーリスの発明や知恵でヤクザやマフィア達とまるで対等のようなバランスを取れていた。
実際は、たった一つの歯車が狂ってしまうだけで、ストリートチルドレンの不良なんて、ヤクザに利用される立場であると再認識してしまう。

「生き抜くためにマフィアに加担した彼等ですが、そうですね……。アジトにもそれなりに家具は増えていました。そうですね……以前より、貧乏ではなくなっています……」

再び視線を落とした。

「あの日、《紅き屍骸》の“王”に敗れて、フェイルド・スチューデントはその勢力を大きく落としました……。敵対するマフィアに、スラムのシマを奪われたり、アジトをいくつか潰され……死傷者も何人もでました……。そんな中で、フェイルド・スチューデントを利用しようとするマフィアに縋ってしまい……今に至っています……。追い詰められたが故の……決断ではありますね……」

イーリスがいない間に、不良集団は随分と追い詰められたと聞いた。
追い詰められて、死亡した仲間がいると聞いた時はイーリスも悲しくなった。

「……常世島の闇を本当に理解していなかったのは私であると、今は思います。私、随分と未熟でした……。申し訳ございません……。闇に突き進んで夢があるというのは、危険な事ですよ。追い詰められた末……最終的に、彼等はマフィアにしか縋れなかったのです……。私は、どうにか……彼等が闇から這い上がる事を望んでしまいます」

鋼先生に頭を下げて謝罪した。
以前は鋼先生に、この島を知らないみたいな生意気な事を言っていたけど、本当に闇を知らなかったのはきっとイーリスだ。
何もかも未熟だったから……結局、フェイルド・スチューデントの仲間達も危険な目に遭わせて……。

「対《紅き屍骸》同盟に属していた複数の組織です。同盟は、私達の敗北がきっかけに二つの勢力で対立し、空中分解して消滅しました。勢力というのは、支援したのに敗北した私達を責める勢力、負けはしたものの一定の成果を評価し擁護する勢力ですね。私達を責めた勢力はそのままフェイルド・スチューデントする事となり、そして擁護した組織がフェイルド・スチューデントを利用しています。フェイルド・スチューデントが仕事をもらっているのはいくつかのマフィア組織ですが、その筆頭が落第街においても名が知られる巨悪《常世島サクセス・アンダービジネス》です。様々な闇の仕事を手広く行っているマフィア組織……。鋼先生なら聞いた事があるかもしれません」

《常世島サクセス・アンダービジネス》、それは落第街で裏の仕事、犯罪を手広く行っている犯罪シンジケート。
落第街での影響力は強く、落第街の事情に詳しいならその名を聞いた事があるかもしれない。

龍宮 鋼 >  
「裏の連中がそう簡単にまとまるわけねェだろうがよ……」

同盟、と言えば聞こえはいいだろうが、どうせ彼らを矢面に立たせてうまい事使ってやろう、と言ったところだろう。
それで問題が解決出来れば良し、出来なければ出来なかったで「材料」が手に入る。
あの街はそう言うところだ。

「あァ、別に構いやしねェよ。
 結局こうやって今痛い目見てわかったんだろ」

身も蓋もない言い方をしてしまえば、それで痛い目を見るのは自分ではない。
彼らが「裏」を甘く見て怪我をしたと言うそれだけの話だ。
自分に謝ったところでそれが解決するわけでもないのだ。

「知らねェなァ。
 俺らのシマにケンカ売って来なかったヘタレ連中の名前なんざいちいち覚えてねェよ」

は、と笑い飛ばす。
実際自分たちがナワバリにしていたのは狭い範囲だったし、立地的に旨味があったわけでもない。
だから正確には「わざわざ潰すまでもなく見過ごされていただけ」と言う面は大きかった。

「とは言えデカい組織だってんなら殴りこんでぶっ潰すって訳にもいかねェやな。
 逆にガキ共の方を片っ端からしばき倒して無理矢理風紀の詰め所にぶち込む方が効果的じゃねーの」

Dr.イーリス > 「共通の敵がおりましたので、それをどうにか出来るまでの同盟……という事でした。途中まではそれなりに纏まっていたのですが、結局ばらばらに分解してしまいましたからね……。鋼先生の仰る通りですね……」

資金援助、というのも聞こえを良くしたもので、結局は利用されてしまっているというのが現在の状態で実感できる。

「……私が居た頃の、同盟の意向から、道を誤っていたのかもしれませんね」

資金援助でイーリスはメカを開発して、対《紅き屍骸》の準備を整えられたのは確かだ。
だがその準備を整えて戦った結果は悲惨なもので……。あの戦いが失敗となれば、元を正せばイーリス達が同盟に属していたところから誤った道だったのかもしれない。

「う……ぐ……。今最も適切な言葉で心に刺さります……」

闇を理解せずに痛い目を見たのは、鋼先生の言う通りイーリスとフェイルド・スチューデントに他ならない。

「とてもシビれるお言葉ですね。凄く素敵です。さすがは“伝説の不良”」

沈んでいたイーリスだったが、その威風堂々とした鋼先生の言葉には幾分か元気づけられたような気がした。

「……それしか……ありませんか……。もう……風紀委員に捕まえてもらうしか……ないのですね」

イーリスは俯いてから、緩慢に頷いた。

「もう……彼等に悪い事をしてほしくありませんから……」

余計に、イーリスは彼等から裏切り者と罵倒される事になるだろうか……。
それでも、彼等がこれ以上悪に染まらないためには……。

龍宮 鋼 >  
「法も治安もない世界で組織デカくしてきた連中だ、街の危機程度で素直に手ェ組む連中じゃねェよ」

それが出来るような連中なら、そもそも裏でコソコソやっていないだろう。
表で素直に仕事をしてないと言うのはそう言うことだ。

「いい勉強になっただろ。
 失敗から学ぶのが成長の近道だ」

確かに彼女は失敗したのかもしれない。
だったらその失敗から何を学ぶか、だ。
何も学ばないのならば、それこそただの失敗なのだから。

「――つーか別に風紀に突き出す必要もねーな。
 人様に迷惑かけて、それで貰ったオコヅカイでいい目見てるクソガキ共相手に、わざわざ忙しい風紀の連中の手ェ煩わせることもねェだろ」

弄っていたスマホの画面を消し、ポケットに突っ込む。
跳ね起きる様に椅子から立ち上がり、

「そんなクソガキの相手すんのはセンセーのオシゴトだ。
 イーリス、連中のアジトの場所、全部教えろ。
 一人残らずまとめてお説教だ」

バン、と机にノートとペンを叩き付け、凶悪な笑みを浮かべる。

Dr.イーリス > 「……言われてみれば、そう……ですよね……」

《紅き屍骸》が裏組織の面々に迷惑をかけていたというのは事実なのだろうけど、お互い利用し合う算段なのが前提ではあるのだろう。
結果として、フェイルド・スチューデントが利用された側になってしまった。

「そう……ですね。私はとても学べたと思います。今はもう、落第街に住んでこそいますが、あまり闇に触れずに暮らしています」

イーリスは学んだ。
もう同じ失敗はしないよう気を付けたいと思う。
そして、学べなかった者が暗にいる事をイーリスは思い知る。
まだ手遅れではないと思っていたのはイーリスが希望を見すぎていたからだろう。

鋼先生が凶悪な笑みを浮かべる姿に、イーリスは表情が明るくなる。
鋼先生の鉄拳制裁、それは彼等に必要なものであるとイーリスも思えたからだ。

「お願いします、鋼先生! アジトと仲間の事、全部教えます! 道案内などもさせてください」

イーリスはスマホの地図アプリで落第街の地図を開いた。

「アジトはこことここ、それとここですね」

画面に映る地図に、イーリスはタップして次々とマークをつけていく。

龍宮 鋼 >  
「ちゃんとお勉強もしろよ。
 正規学生の手続きも出来るならしとけ。
 身元引受人だか保証人だかぐらいはなってやっから」

ちゃんと学生としての立場を得られれば出来ることも増えるし、学べることも増える。
ここでの生活が全てではないと、自分もかつて教わった。

「言っとくが、多少の怪我ぐらいは我慢してもらうからな。
 ヤクザとズブズブってなら、むしろ安いもんだろ。
 なに、命まで取ろうっつーんじゃねェんだ」

地図アプリでマークされた地点。
それらの場所をノートにガリガリと書き記していく。
建物や交差点の名前だとかビルの屋上の看板だとか、地図アプリの詳細を開くまでもなく、迷わずよどみなくすらすらと。

「――オイオイオイオイ、こいつァ俺がセーフハウスに使ってたとこじゃねーか。
 確かにガッコ出てから放置してたけどよ……」

家主に断りもなく使いやがって、なんてぼやきながら。

Dr.イーリス > 「ありがとうございます、鋼先生! 鋼先生が身元引受人としてくださるなら、私と一緒に住んでいる方にお願いすれば正規学生の手続きを行えるかもしれません!」

イーリスは嬉し気ににこっと笑った。
鋼先生が身元引受人になってくださり、そしてご一緒に暮らしているエルピスさんは異邦人さんを正規入学させた実績のある方。
学生証を偽造して二級学生だったイーリスも、正規学生になれるだろうか。

「死んでいなければ、もうなんたって構いません! 私の言葉も聞いてくれない方々です。もう懲らしめてあげてください!」

鋼先生の鉄拳ならば、もう多少の怪我どころか大怪我も承認した。
悪の道に走ろうとする不良達には、痛い目に遭っていただいて、更生してもらいたい。

「放置されていたので、勝手に使わせてもらっていたのですが、鋼先生の隠れ家だったのですか!? このアジト、色々改造しちゃってるところですよ……!」

とてもびっくりである。まさか、このアジトがかつて“伝説の不良”が隠れ家にしていたところとは……!

「つ、つまり……“伝説の不良”の聖地を、私は改造しちゃっていたという事ですか……!? な、なんて事を……私!」

改造した結果、随分と機械染みたアジトになっている、そんなアジト。